問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
上 下
251 / 1,278
第三章  【王国史】

3-82 一本目

しおりを挟む








「それでは準備はよろしいですか……はじめ!!」




長老の合図で、大きな砂時計が返され砂がゆっくりと時を刻み始めた。



対峙したままわずか数十秒経過したが、それでもこの緊張感から数分にも感じられた。


そんな状況の中、ワイトは素早い打ち合いには不利と思われるロングアックスを構えたまま、アルベルトに言葉をかける。




「……このまま様子を見ているだけでも、俺は全く構わんのだぞ?ただ時間は過ぎていくばかりだがな」




そんなことは忠告されなくとも、アルベルトは状況を理解していた。
その言葉の意味は、忠告と相手を焦らせることや挑発する意味もあることもわかっていた。



アルベルトは軽く空気を吸い、落ち着かせるように口から吐き出す。




「そうだな、あなたの言う通りだ。この勝負、待っていても意味が……ない」


「ほぅ……ではどうする?」




ワイトは、感心する。
アルベルトには全く、動揺するそぶりが見られない。
この男、かなり鍛えられている――と、その言葉から感じ取った。


それは果たして無力を痛感しているのか、何かここ乗り切る策や実力があるのか、それとも何も考えていない痴れ者か。
その答えは、もうすぐ出てきそうだった。

ワイトは、武器の柄を握り直してアルベルトの一挙一動を見逃さない様にした。



アルベルトの構えた刀の切っ先が、ワイトの首元をにらみ冷たい光を放っている。

時間制限がある分、ドワーフ側に優位性がある。



だが、張り詰めた嫌な空気がワイトの周りに漂い始める。
表情こそ崩しはしないが、背中に汗が伝っていくのを感じる。





――カチャ



アルベルトの柄を握ぎり直した音がした。



そろそろ、この静寂が破られそうな雰囲気を感じたその時――





タッ






アルベルトが床を蹴り、間合いを詰めてくる。
依然、切っ先は首を一直線に狙ったままだ。


しかも、幅が細いため距離感と認識が非常にしづらい。




「むぅっ!!」



ワイトは刀の軌道上に斧の刃を持っていき、その攻撃を防ごうとした。





キン!



斧の端に当たり、剣の軌道が上に上がる。
ワイトの耳の横をかすめ、切られた髪が埃のように舞った。




この一撃で、ワイトの目の色が変わる。



(――やはりただ者ではなかったか!?)



防御に徹していた構えが、アルベルトを舐めていた証拠だった。
だが、それが過ちだと気付いた。


部位期の扱い、速さ、威力、そして胆力。
どれをとっても、ドワーフ兵の中でアルベルト戦えるものは少ないだろう。

ワイトは、本気でアルベルトを戦士として認識した。




その雰囲気を感じ取ってか、アルベルトも本来の剣の使い方をする。




「次はこちらの番だ!」




ワイトは、ロングアックスを軽々と振り回す。
しかもその攻撃は早くて、重い。


三回に一度は、よけきれずに刀でその軌道を弾く。

だが、角度や速度を誤ってしまうとこの剣自体が折れる可能性が十分にある。
そこはアルベルトの今までの経験と技術によって、ワイトの攻撃を無効化させていた。




「どうした?さっきの一発だけか?逃げ回っているだけでは、この勝負勝てぬぞ!」




そう口では告げるが、ワイトはアルベルトを恐ろしく感じている。
振り回した斧が弾かれる中で、アルベルトはワイトの”指”を狙ってきていた。

切断などはないだろうが、ズキズキと痛みを感じる。




(この攻撃をかわしつつ、こんな繊細な場所を狙えるとは……)





確かに防具があればここまでのダメージはなかっただろうが、戦い中にそうそう狙えるものでもない。
砂時計に目をやると、まだアルベルトの初弾から数分しか経過していない。


アルベルトは徐々に刀の扱い方がうまくなってきている。
今まで使っていた剣と日本刀の違いが判ってきたようだった。


さらに、ワイトとの間合い見切られ始めている。
最初は三回に一回で刀で攻撃を弾いていたが、今となってはその斧でアルベルトをとらえることが難しくなっていた。





(くそっ、くそっ!……当たれ、当たれ、この!?)




中距離短距離と軌道を変え、間合いに入らせないようにするワイト。
だが、アルベルトは既にその軌道を見切っており徐々に間合いを詰めていく。


その距離に嫌気がさしたワイトは、横一線に目の前を本気で薙ぎ払った。
が、しかし斧には何の当たった感触はない。


(――マズい!?)




そう感じたワイトは、バックステップで距離をとった。



――ドン


何もないはずの空間で、背中に当たる者があった。
それは壁のような冷たくて硬いものではなく、人の身体にぶつかったような感触だった。


そして、視界の左端からスラっとした刀の刃が視界に入る。
その刃は、喉元に向いていた。




「……終わりだ」





ワイトの後ろから、先ほどまで目の前にいた男の声が聞こえてきた。

その声を聞いて、ワイトは観念して構えていた斧を降ろした。




「俺の……負けだ」




その声を聞き、アルベルトは刀を下げた。






「一本目、勝者アルベルト!」




長老の一人が、声を張り上げて商社の名前を呼んだ。




もう一人の男が、その場に座り込んだワイトを起こし慰めた。




「次は任せておけ、お前の戦い方を参考にさせてもらう。決して無駄ではなかった」




そう言って、グレイは懐からもう一つ砂時計を取り出した。












しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...