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第三章 【王国史】
3-55 回復
しおりを挟む『……身体の中の水の流れをみよ』
「え?何??」
「ヴィーネちゃん、どうしたの?」
独り言をつぶやくヴィーネに対して、ハルナが声をかけた。
「ハルナさん、いま聞こえなかったですか?」
「何が?」
「”身体の中の水の流れをみろ”って声がしたんです」
「え、聞こえなかったよ?もしかして、それって……」
「あの妖精が、教えてくれたのかもしれませんね」
アルベルトが、ハルナの言葉に繋げてくれた。
「で、それってできるの?」
「やってみます」
そういうと、ヴィーネは再びエレーナのことを見つめる。
「あれ?何だコレ?」
「どうしたの?何かあったの?」
「エレーナの中に、黒い粒がいっぱいあってそれが全身をグルグルと回ってます!?」
初めて見た黒いものに、ヴィーネは驚いて後ずさりする。
しかし、気を取り直して再びそれらに向かい合った。
「それは……なんとかできるのか?」
ステイビルも心配して、ヴィーネに声をかけた。
「何故だか、どうすればいいか分かる気がします!」
そういってビーネは身体の中を流れる水を操作し、黒い粒を順に消していく。
―― 一時間が経過した。
「……これで……消えた……はず」
ふらふらになったヴィーネを、ハルナが両手の中で受け止める。
「お疲れ様……これで良くなるといいね」
「それでは、少し自分が様子を見ておきます。皆様お疲れでしょうから、少し休まれてはいかがでしょうか。お食事も馬車の中にご用意しましたので」
アルベルトがそう告げて、ハルナたちは素直にその言葉に従うことにした。
実はみんなは、気を使って二人きりにさせてあげようとの心遣いも含まれていた。
そこから少し経った頃、ようやくエレーナは苦しみから解放された。
「う、うーん……」
「……エレン、大丈夫か?」
「あ、アル。どうしてここに?ハルナたちは?それに、ココはどこ?」
「覚えてないのか?急に熱が出て、倒れてたことを……」
「え?そうだっけ?あー、確か気持ち悪くなって……そこから記憶が」
「今はどうだ?大丈夫か?」
「うん、平気よ。……わっ!?」
上半身を起こそうとしたエレーナは、自分の身体に力が入らず傍にいたアルベルトの胸の中に倒れ込んだ。
するとアルベルトは、倒れ込んだエレーナの身体を抱きしめる。
「よか……った……」
そういうとアルベルトは体重を、反対にエレーナの身体に預けるように倒れかかった。
「ちょっ……!アル、大丈夫!?」
その言葉に対し、アルベルトからの返事はない。
エレーナの無事を確認し、今までの疲労が一気に噴き出して気が抜けてしまった。
だが、エレーナも病み上がりのためアルベルトの身体を支える力が入らずそのままエレーナの寝ていた場所に覆いかぶさるように倒れてしまった。
「アルベルトさん……エレーナさんの具合はいかがですか?」
ハルナとマーホンがテントの中の様子を見に、そっと入り口を開いた。
そこに飛び込んできた風景は、エレーナに覆いかぶさるアルベルトの姿だった。
エレーナは驚く二人の顔を見て助けてもらおうと声を出そうとしたが、アルベルトが重くて声が出せなかった。
「え……っと……ごゆっくり」
マーホンはにこやかな造り笑顔で、静かにテントの入り口を閉めた。
へんな勘違いをされたことに気付いて、エレーナは今出せる力を振り絞って声にした。
「た……たすけてーー!!」
倒れたアルベルトはそのまま、エレーナが寝ていた場所にそのまま横にした。
いつも警戒心の強いアルベルトがいくら身体を動かしても目が覚めないくらい、疲労が蓄積していたことを表していた。
マーホンが、エレーナの食事を用意してくれた。
ハルナは、その横でエレーナが倒れてから記憶がない間に起きた出来事について伝えた。
最初は聞きながら食事のために動かしていた手も、次第に話の内容にのめり込んで動かなくなっていった。
「そんな……ことが起きていたなんて……」
エレーナはないと思っていた精霊の寿命があるということと、ヴィーネの変化について驚いていた。
ヴィーネは、隠れていたハルナの背中から姿を見せた。
無事を確認し、エレーナの周りをクルクルと回って喜んだ。
「だから、今回アルベルトさんも結構大変だったのよ。もう少し休ませてあげてね」
「食事はいつでもご用意できますので、お目覚めになられたらおっしゃってくださいね……もっとも、ご自身でご用意してしまうかもしれませんが」
「そうね、アルならやりそうね!」
三人は、お互いの顔を見合わせ笑いあった。
「それじゃ、エレーナもゆっくり休んでね。病み上がりなんだから!」
「それでは私とハルナ様は、向こうに戻りますね。……ごゆっくり」
「もう、マーホンさん!?」
そして、二人がテントを出ようとした時エレーナが呼び止めた。
「……ハルナ」
「ん、なーに?エレーナ」
「……ありがとう。あなたは、やっぱり私の大親友だわ」
「んもう、なにいってるの?私もね、エレーナがいて良かったと思ってる……この世界で初めて会ったのがあなたで良かった」
エレーナの目は真っ赤になって、必死に涙が落ちるのを堪えていた。
「さぁさぁ、もうゆっくり休みなさい。また、明日から忙しくなるかもね」
エレーナは言葉にできず、ウンウンと頷いてハルナに応えた。
「それじゃあね、お休み。エレーナ」
ハルナはそういって、笑顔でテントの入り口を閉じた。
すると、そこに腕組したマーホンが立っていた。
「――ど、どうしたんですか?」
「あまりにもお二人の仲が良くって、焼けてるんですよ。それと……」
「そ、それと?」
「すっごく、”羨ましい”な……って」
「え……あ……その」
「でも、いいんです。私、ハルナ様のお傍に居られるだけで幸せですから!……さ、日も落ちましたし冷えますから、早く馬車に戻りましょう!」
ハルナはマーホンに手を引かれ、皆がいる馬車の中に戻っていった。
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