223 / 1,278
第三章 【王国史】
3-54 ヴィーネの進化
しおりを挟む「入らないんです……結晶が……入っていかないんです!?どうしよう……」
その事実に驚愕し、ガタガタと震えるハルナ。
マーホンが後ろから、ハルナの肩を抱いて落ち着くように言い聞かせた。
「あ。もしかして……ねぇ、ハル姉ちゃん。ちょっと、それ貸してみて!」
フウカはハルナの手から結晶を取り上げ、その結晶を両手で抱え見回している。
「ふんふん……え?……すごいねー!こんなことできるんだぁ……」
その様子を眺めるハルナたちは、何をしているのか理解できなかった。
しかし、何もできない他の者たちは、ただフウカのことを見守るしかなかった。
「ふむふむ……なるほど……あ、これ?」
「「あぁっ!?」」
一同は思わず声を挙げてしまった。
フウカは何か見つけたところを触ると、その結晶は元素の光となり散らばっていった。
そして周囲をゆっくりと回転した後、ヴィーネの身体をめがけて光が降り注いでいった。
光はヴィーネの身体に付着し、浸透するように染み込んでいく
そして完全に光はヴィーネの薄く透けた体の中に溶け切った。
一同は息を殺して、変化が起きるのを待つ。
しかし何の変化も見られず、エレーナもヴィーネも目覚める様子はなかった。
「ねぇ、フーちゃん……どうなったの?ヴィーネちゃんは大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫なんだけど、今まで見たことのない速さで、ヴィーネの中で元素がぐるぐる回ってる……」
フウカはそう言うが、ハルナたちの目には何の変化もないように映っていた。
「あ。止まった」
フウカのその一言から、ヴィーネの身体は徐々に薄くなっていく。
「フーちゃん……大丈夫、これ?」
「うーん……わかんない。でも、ここにはいるんだよ?」
「え?どういうこと?……あぁ、消えちゃう!」
ヴィーネの身体は、うっすらとしか見えない状況になっていた。
「あぁ、消えてしまうぞ!……エレーナは無事か!?」
ステイビルは、この状況に焦りを感じて思わず感情を口にしてしまった。
しかしフウカが言うには、まだそこに存在していると言っている。
エレーナの方を見ても、変化は感じられない。
すると、ヴィーネのいた場所に変化が生じた。
水の元素が集まり出して、元のヴィーネの形を作っていく。
その形ができあがった後に、眩しく光を発し始めた。
「眩しいっ……!?」
ステイビルは凝視できず、手で光を遮った。
光は徐々に収まり、その場所にはヴィーネが消える前と同じように眠っていた。
今では身体は透けることなく、しっかりとこの世界にその存在を示していた。
「ヴィーネ……ヴィーネ、起きてー!」
「ちょっと、フーちゃん!?」
フウカは無造作にヴィーネの身体を揺さぶり、深い眠りから目覚めさせようとしていた。
「う……うーん」
一晩中動きを見せなかった精霊が、フウカの呼びかけで寝返りをうった。
「お・き・てー!ねぇ、起きてよー!!」
「んー、うるさいなぁ。起きるから、静かにしてよぉ。……あれ、皆さんどうしたんですか?」
ヴィーネの視界には、ハルナたちが心配そうに自分のことを見つめていることに驚いた。
気が付いたヴィーネに対し、ステイビルが質問をする。
「ヴィーネ殿よ、お主は昨夜急に倒れて眠っておったのだ。いつのことまで覚えているのだ?」
「え、はい。確か……エレーナの具合が悪くなって、変な気が流れ込んできてエレーナが皆さんに馬車から運び出されたところまで……そうだ、エレーナ。エレーナは、大丈夫なのですか?」
「エレーナはね、今も目を覚ましていないのよ……。そういえば、今は平気なの?」
ハルナが今のエレーナの状況を説明し、エレーナとつながりを持つヴィーネに今の状態を確認する。
「はい、何故かいまは、あの”気持ち悪さ”が消えています。何かあったのですか?」
「詳しいことは後でまたせつめいするから、まず先にエレーナのことを診てくれない?」
「は、はい」
ヴィーネは、何を言われているのかわからなかった。
ハルナたちはエレーナの傍に移動し、ヴィーネもその後ろを訳も分からずについて行った。
ハルナたちがテントの中に入ってきたため、一緒にいたアルベルトは場所を譲った。
そして、ハルナたちはエレーナの姿を上から見守る。
「ねぇ、ヴィーネちゃん。あなたの中には、ある精霊……いえ、妖精のスキルを入れさせてもらったの。それはいま唯一エレーナのことを助けられる力かもしれないの」
「え?」
「勝手にそんなことをして、ごめんなさい。悪いと思っているわ……だけど、エレーナとヴィーネちゃんが助かるにはこれしか思いつかなかったの」
「新しい技を覚えたヴィーネも、かっこいいじゃないの!」
「え!?そ、そう?」
明らかにヴィーネの表情が変わったことをハルナは見逃さなかったあ。
「そうよ!」ヴィーネちゃんは、一つも二つも進化したかもよ!」
「進化……」
褒められたことに対し、まんざらでもない顔つきになる。
「だから、ちょっと新しく覚えたこと試してみて?」
「わかった、やってみる!」
ヴィーネはその気になって、エレーナの近くに寄っていった。
そして、ヴィーネはエレーナの顔をじっと見つめる。
(ゴクリ……)
一同は、その様子を息を殺して見守る。
しかし――
「分かんないよー……何もみえないけど?」
「え!?」
ハルナは再び愕然とする。
薬草も効かず、あの妖精の言っていた闇の感染でないものが理由なのか。
(これじゃエレーナは助からない……!?)
そんな思いが頭の中を埋め尽くしていった。
『……身体の中の水の流れをみよ』
「え?何??」
ヴィーネはどこからか声がして驚きの声をあげた。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる