問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
218 / 1,278
第三章  【王国史】

3-49 二人の生活

しおりを挟む






「お前、名前は?」


「す、スズナと申します」





二人は、洞窟の中で一緒に暮らすようになった。
スズナは、目は見えないが次第に慣れてきて洞窟の中や近くの森で草木や木の実を採ってこれるようにまでなっていた。
料理は、当初道具もなく今ある技術と素材だけで調理していた。

時が経つにつれ、妖精はスズナの要望に応えるべく道具やその手助けを行うようになった。






「スズナ、お前の家族は今どこに?」


「小さなころから売られてしまったため、家族の記憶があまりないのです……ですが、兄上がいたことはうっすらと覚えております。あの……」


「ん?どうした?」





「精霊様のことを、”兄上”とお呼びしてもよろしいでしょうか?……ずっとそう呼べるお方に出会えることに憧れておりまして。もしくはお名前がありましたら、そちらでお呼びさせて頂ければ」



妖精はその言葉に動揺した。
名前は、一度も付けられたことはない。
この少女は自分に呼び名を点けてくれるというのだ。




「う、うむ。名は無いが、スズナの好きなように呼ぶといい」



「え!?ほ、本当ですか!」



スズナは喜びのあまり飛び跳ねて、洞窟の天井で頭を打ち抱え込んだ。




「おい……相当すごい音がしたが、大丈夫か?」


「えへへ……大丈夫です、”お兄様”」




スズナは、妖精の言葉に恥ずかしそうに応えた。




そこから数年、二人に穏やかな日々が流れていく。
生活も落ち着き、こんな日々が最後まで続いて行くと信じていた。




「こほっこほっ……」



「どうした?体調が悪いのか?」


「ちょっと頭が重くて寒いです……」


妖精は、身体の状況を確認すると軽い病原菌に感染しているのが確認できた。
この症状は、水の力では対応ができない症状だった。

だが、これくらいなら通常は休んでいれば回復するだろうとスズナをゆっくりと休ませることにした。



「スズナは、今日はこのまま休め。今日の仕事は、私が代わりにやろう」



「すみません、お兄様。有難うございます」



そう言われた妖精は、横になったスズナに毛布を掛けスズナの頭を優しく撫でた。
次第にスズナは、その心地よさに眠りについた。






「そういえば、この症状にはあの薬草が効いたな……」



妖精はスズナが眠ったことを確認し、立ち上がって薬草を入れる袋を持って洞窟の外へ出かけた。












「おい……この辺りだ。見つからないよう、注意しろよ」




「「へい!」」



見知らぬ男たちが、川の上流を目指し上ってくる。


そして滝までたどり着き、その後ろ側にある洞窟に気が付いた。





「あ。お兄様、戻られたので……きゃ!?」






「チッ、じたばたするな!……おい、さっさと袋に詰めて運び出せ!」




スズナはその男たちに口をふさがれ、手足をロープで縛られた状態で乱暴に袋に入れられた。



「やっと……やっとこの時がきたぜ?スズナ、待たされた間の分まで、十分に楽しませてもらうからなぁ!」












「おい、戻ったぞ。この時期には生えてない薬草だったからな、少し時間がかかって申し訳なかったな。……スズナ、具合はどうだ?」





妖精の呼びかけに、返ってくるいつもの言葉はなかった。





「――?おい、スズナ!?」




妖精は、出かける前まで寝ていた場所にスズナがいないことに気付いた。




妖精は薬草の入った袋を投げ捨て、急いで洞窟から飛び出し空からスズナに対して呼びかけた。




「スズナ!スズナ!!返事をしろ!!」





必死の呼びかけにも、その返事は返ってこない。






そして随分と時間が経ち、川の下流に近い場所で人が裸で倒れているのを見つけた。

その場に近寄ると、それはまさしくスズナの特徴と重なる部位が多かった。





精霊は、力が抜けた傷付いた身体の少女の身体を起こし名前を呼び掛けた。





「す……スズナ」





「お、お兄様……わ、私……怖かった……殴られるよりも……足蹴にされるよりも……お兄様、怖かった……」




妖精は、スズナの身体を自分のローブで包み優しく抱きしめた。





「いい……今は何も言わなくていい。スズナが無事で……よかった」




スズナの顔に、妖精の目から伝う水滴が落ちていった。
















スズナの症状は、日に日に悪化していく。
薬草も聞かず、水の力で身体の巡りを良くしても何の効果も見られなかった。

不運なことに、あの日の暴行によって堕胎し身体も心も損傷が激しかった。





朦朧とした意識の中で、スズナは最も近い家族を呼んだ。



「お……お兄……様」




「どうした?私はここにいるぞ」



「今まで……有難う……ござい……ました。本当の……家族のようで……スズナは……幸せ……でした」



「何を言う。お前こそ、私の契約者……いや、私の家族になってくれた。こちらが、礼を言うところだ」



「わたし、もう……疲れました……眠い……です」




妖精は、スズナの手をとり見えない目を見つめた。





「あぁ、少し寝るといい。私はずっと、ここにいる」






スズナはその言葉に安心し、少し口元が微笑んだ。



「お兄様の……手……温かい……気持ちい……い」






そういうと、スズナの身体から力が抜けていく。




「……スズナ?」



妖精の呼びかけた声に、反応は無い。

身体の血液の流れを見ると、動いていないことが見えた。





「スズナ……」





妖精はもう一度その名前を呼び、スズナの両手を胸の前で合わせた。

スズナの亡骸の周りに、水の元素が集まっていく。
そして妖精はスズナの身体を、氷漬けにした。

妖精が愛した、少女のままでいられる様に。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

AstiMaitrise(アスティメトライズ)

椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______ ”学校の西門を通った者は祟りに遭う” 20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。 そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。 祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】

タカハシU太
エッセイ・ノンフィクション
書けえっ!! 書けっ!! 書けーっ!! 書けーっ!!  * エッセイ? 日記? ただのボヤキかもしれません。 『【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】』 カクヨムの週間ランキング1位(エッセイ・ノンフィクション部門)獲得経験あり。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

処理中です...