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第三章  【王国史】

3-50 目標物

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妖精は、スズナの仇を取るべく情報を集めた。


探していた情報は、すぐに見つけることができた。
川が流れる山の麓の町に目的の家はあった。





この町は、この周辺の小さな集落の面倒を見ている一家が住んでいた。
勝手に武力で従わせ、集落の警備と治安を守るという名目で金品を集めたりなど好き勝手行なっていた。

その家の主は、気に入った娘たちを勝手に押し付けた借金を理由にスズナのように金で買っていた。



妖精は、この町の中に入りその様子を眺める。
そこに売っているものは、やせ細った野菜、ボロボロの布切れ、欠けているが辛うじて使えそうな壺などが並んでいた。

そんな通りの奥に、そんな町の風景に似つかわしくない屋敷が建っていた。






「あそこ……だな」







妖精は探す手間が省けたと言わんばかりに、ゆっくりと目標の場所に向かって歩いて行った。





門の前で、男が門番と何やら言い争いをしていた。





「頼む、娘を返してくれ!……金はこの通り、全て返す。なんて、バカなことをしてしまったんだ……今まで娘と二人きりで生活していたんだ。頼む……唯一のあいつの形見、娘を返してくれ!」




「うるさい!一度、売ったものを、そのままの値段で返せとは無礼にもほどがあるぞ!その倍は持ってこないと、話にはならん。わかったら大人しく帰るんだな。それに、今頃はもう、新しい世界を楽しんでいると思うぜ?」



「そ……そんな」





男は絶望に襲われ、掴んでいた門番の着物を力なく離した。





「すまないが、そこをどいてくれないか?用事があって、この中に入りたいのだが」






妖精は、後悔する選択をした絶望に溺れる男の後ろから平然と声を掛ける。




声を掛けられた男は、呆けた顔で人型の妖精の姿をただ見つめていた。
これから起こることに、何の期待も抱かずに。






「なんだ、お前ぇは?」


「何の用事があるのか知らねぇが、痛い目を見る前に帰んな……色男さんよぉ」







二人の門番は、妖精を目の前にして小馬鹿にしたように笑った。


次の瞬間、二人の男は寒さを感じ身体の異変に気付く。







「おっ!?な……何だ、コレ!?」


「く……苦しい……お前、何かしやがったの……か!?」




その場に座り込んでいた男は、自分や目の前の華奢な男ではかないはずもない門番がもがき苦しんでいる姿を見て、何が起きたのか判らなかった。



「て、てめぇ……ぐっ!?」


「た……たすけ……てく……れ!!!」




妖精は、二人の男の血中に流れる水を凍らせていた。
それにより、各臓器に酸素が行きわたらなくなり赤黒い顔で絶命した。






「――へ?」





男は妖精に手を掛けられ、門の前から移動するように指示された。
そして、門の前に”障害物”がなくなると妖精は、両手で門を開き敷地内へ入っていく。


地面に座り込んだ男は門が閉まりきって見えなくなるまで、平然と歩みを進めるその男の後ろ姿を見つめていた。








「さて……目標”物”はどこだ?」




妖精は、鍵のかかった大きな玄関の扉をすり抜け家の中を見回した。
そのまま目を閉じて、屋敷内の空気に含まれる水の元素の流れを感知し人のいる部屋の気配を探る。




「そこか……」




部屋の中に複数人の気配を見つけ、妖精はその方向へ向かって歩いて行く。









屋敷の中でも一番奥にある部屋で、助けと許しを懇願する声が部屋の中に響き渡る。

頑丈に造られている部屋には、その声が外には漏れ出ることはなかった。
しかも鍵は外からかけられ、中からは逃げ出すことは絶対に不可能となっていた。


その部屋の中には男が二人、目の前の行為を黙って見届けていた。
彼らは主人の命令が無いうちは、勝手に動いてはいけないことになっていた。






「や、やめてください!!ご主人様、どうか、お止めください!……きゃぁ!!」



逃げ惑う女性は、ご主人と呼んだ男性から顔を平手で張られ倒れ込んだ。





「おまえはな、父親に売られたんだよ。この私にな。そういえば、さっきお前の父親が迎えに来ていたようだが、今頃は門番に追い返されているだろうよ……これからのお前の人生は全て私にかかっているんだ!なんだ、その目は?おとなしくしてろ!すぐに良くなるんだ……おい、お前たちこの女の手足を抑えろ」




「「へい!」」








今まで横で黙って見ていた二人は、命令通りなんとか抵抗しようとする女性の手足を押さえつけ、身動きを取れなくした。

女性はそれでも許しを請おうと、泣き叫びながら動かせる身体を捩らせて抵抗した。




「ふん。このうるさい口を黙らせるか……これでな」









男は、布を丸めた物を女性の口の中に詰め込んで舌を噛まないことと、言葉を出させないように塞いだ。





「んー!!んー!!!」







男は、女性の腰ひもに手を掛け、プレゼントを開くようにゆっくりと時間をかけて解いた。
女性は必死に抵抗しようとしたが、手足を押さえつけられていて何もできない。



さらに男は、女性の折り重なっている衣服に手を掛けその胸部をさらけ出した。






「あの日以来のエモノだよな。そういえば、前回はずっと”お兄様”のことを呼んでいやがったな。……やっぱりあれだな。嫌がる女を無理やりするのは興奮するぜぇ!?」


男は血走った眼で自分の服を脱ぎ捨て、これから起こる出来事の準備を始めた。







「その前回の話とやらを……もう少し詳しく聞かせてもらおうか」


「な、なに!?」


突然現れた全く知らない声に、男は驚いて動きを止めた。





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