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第三章 【王国史】
3-15 コリエンナル家の最後
しおりを挟むジェフリーはベスの家の借金の立て替えから、現在の状況に至るまでを話した。
「要は、いじめられた時の恨みを晴らしたかったのと、自分の権力を誇示したい欲が入り混じっていたのだな」
その問いに対しては、ジェフリーは反論しない。これは、誰もが認めていることだろうと判断した。
「……それで、この施設の入札の際に担当者を買収し、あの”エフェドーラ家”を妨害したのか?」
その質問に対しては、ジェフリーは何か言いたそうに顔を上げて前を向く。
「エフェドーラ家のマーホンは、いつも王国の悪口ばかりを言っておりました。それは、王国に対しての侮辱ではありませんか!?私はこの国を愛しております!この国の支えになるのは、我がコリエンナル家でございます!」
ジェフリーはここぞとばかりに、ステイビルにアピールをした。
「ほぅ、それが不正を働いた理由か?お前は、マーホンが言う”悪口”を検証したことはあるか?」
「……?他人の悪口など、検証する必要はないでしょう?そういうものは、聞き流しておけばよいのではないですか?」
ステイビルはその言葉を聞き、ヤレヤレといった表情で頭の後ろを掻く。
「お前は知らないのだな……」
「な、何をでしょうか?」
「マーホンからの指摘で国の業務や法律が改善される確率は、九割に近い」
「……!?」
「そして、改善されなかった案件については、予算上の問題や現段階での法律や法律管轄外の問題によって改善されていないが、全てにおいて審議され数年以内には形になっている」
「……」
ジェフリーはその事実を聞き、言葉を失ってしまった。
「どうだ。お前が悪口だと思っていたことが、国や人々を救うものだったと知った気分は」
「お、王子様……。それは、マーホンが自分が有利になるために法律を変えているものもあるのでは?」
「お前は、王国を見くびってはいないか?そんなことにも気付かない、我らだと思っていたのか!?」
「ひぃっ!?」
声を荒げるステイビルの態度に怯え、ジェフリーは泣きそうな顔になってしまった。
勿論、ステイビルも本気で腹を立てているわけではなく、ここで甘く見られないためにわざとこの場の空気に緊張感を持たせたのだった。
「どうやら、全てマイヤからの報告書の通りだな」
ステイビル席から立ち上がりは、怯えきったジェフリーを上から見下ろした。
「ジェフリーよ。お前は、王国内における商業の権利をはく奪する。これ以降、王国内での商売の一切を禁止する。ただ、財産だけは残して置いてやろう。この国を出るか、残りの人生をどのように生きるかはお前次第だ。この約束が守られなかった場合は、お前の持ち物を全て没収して、国から追い出すことになるからそのつもりで今後のことを考えるがよい……以上だ」
そう言って、ステイビルは食堂から退室した。
ハルナたちも、その後に続き食堂を出ていく。
「っていうか、何なんですか?あの男のこと調べていたなんて知りませんでした……」
「うむ、黙っていてすまない。その調査のことで少しこちらに来ることが遅れてしまったのだ。そのことについては、素直に詫びよう」
「これで、ハルナもよかったんじゃないの?……それよりステイビル様、この施設はどうなるのですか?」
エレーナは、これからのことについて心配をした。
せっかく引っ越してきたのにまたどこかに移動する必要があるとなると、疲れるし面倒なのだ。
「うむ。それについてはだな、この屋敷自体については利用することになっている」
「でも、従者は雇われて働いていたのでは?」
アルベルトが、重要なことについて質問をした。
「それについては、当面王国側で雇うことに決まっている……そういった調整もあって遅くなってしまったのだ」
ステイビルはハルナの方を向いたが、既にハルナは違うことを気にしていた。
その様子を見ていた、エレーナとソフィーネは顔を見合わせてがっくりした表情を作った。
「ジェフリー……様。これからどうなさるおつもりですか?」
「フン、ベスか。お金は十分にあるのだ、私一人ならなんとでもなる。それより、もうこれで契約は終了だ。どこへでも好きなところへ行くがいい……それとも、今までの恨みを晴らすために俺に暴力を振るうのか?昔みたいに、あぁ!?」
「ジェフリー、俺はお前を恨んでいないさ。昔だってお前にその性格を直して欲しかっただけなんだ……だが、烏滸がましかったな。それでお前がそんなに傷付いているとは知らなかった……すまなかった」
「俺に謝るんじゃない!!お前は俺の中では、いつまでも悪人なんだ!そうでなければ、これから誰を恨んで生きていいか……これから……どうやって」
「悪いが、ステイビル王子から今後お前との接触は禁止されている。すまない、お前は家を助けてくれたのに手を貸せない」
ベスは掌に爪が食い込み、血が滲むくらいに力を込めて握っていた。
「馬鹿な、アレは俺が優位に立つためにやったことだ。お前が恩を感じる必要はない!」
その言葉にベスは、静かに首を横に振る。
「……いや。それによって、ユウナが助けられたのも事実だ。今はどこにいるか分からないが、あのまま借金取りに連れて行かれるよりマシだったよ」
「ユウナ……そうだな、ユウナがいたな」
ジェフリーは、力なく立ち上がり部屋の外に向かおうとする。
「なぁ、ジェフリー!最後にユウナがいまどこにいるか教えてくれないか、……頼む!?」
そのベスの悲痛な叫びを背中で聞くが、それに対しては何も答えずジェフリーは食堂を出ていった。
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