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第三章 【王国史】
3-9 興味の理由
しおりを挟むその日の夜、ハルナたちは食堂に呼ばれ盛大な歓迎会が催された。
壁いっぱいに大勢の従者が並び、テーブルを囲うように見届けている。
テーブルの上には、様々な色とりどりの料理が所狭しと並べられていた。
確かに一つ一つは美味しそうに見えるし、香りもいい。
だが、様々な料理が一斉に並べられていると匂いがぶつかり合い、順次出された温かい料理も手を付ける頃にはすっかり冷めてしまっていた。
そんな様子にただひとり満足しているのは、ジェフリーただ一人だけだった。
「どうされましたか、皆さん?食が進んでいないようですが……」
エレーナはそんな気遣いをするくらいなら、テーブルに着いてから延々と語る面白くもない自分史の物語を辞めてくれた方がまだよかった。
(あー、ここにアーリスがいてくれたら、この料理も安心して食べられるのに……)
ハルナは心の中で、何度も現実逃避を繰り返していた。
せめてもの救いは、ソフィーナがうまく取り分けてくれて、上手く味の順番がバラバラにならない様美味しく食べれるように用意してくれたことだった。
上手く食べれば決して悪い味ではない、要は出し方の問題だった。
その原因を作ったのも、目の間に座っている悪趣味な男のせいであると誰もが思っていた。
そして、長くて退屈過ぎた時間もようやく終わりを迎えた。
「さぁ、部屋に戻ってこれからのことを少し相談しましょ」
エレーナが全員に声を掛け、部屋に戻ろうとした。
ジェフリーが、じっとハルナの方を見つめている。
必死にその視線に気付かない様にしているのを、ソフィーネが察してくれてその視線の間に割り込んで姿を隠してくれた。
「んもぉぉぉ!!何なんですかねーあの人は!気持ち悪い!」
部屋に入って扉を閉めた途端に、ハルナがお腹の中で我慢していたものを吐き出した。
ハルナがこれだけ他人に対し、毛嫌いするのはとても珍しかった。
元の世界でも、どんな人物でもここまで毛嫌いすることは一度もなかった。
それは例え、バイト中に変な人が言い寄ってきたとしてもだ。
『肌に合わない』とは、まさにこのことだろう。
「あら、珍しいわねー大声出しちゃって」
「お邪魔します」
エレーナとアルベルトが入ってきた。
「私ね、ああいう人ダメなのよ。っていうか生まれて初めてよ、あそこまで合わない人と出会ったのは……」
「大抵そういう人に好かれたり、付きまとわれたりするものなのよねー」
エレーナの言葉を聞き、ハルナの顔が一瞬にして青ざめた。
「やめろ、エレン。そういうのは、良くないぞ。本当に……」
「ごめんね、ハルナ……ちょっとふざけ過ぎちゃったみたいね。で、何か言われたりしたの?帰り際に熱い視線を送られてたみたいだけど」
「もうやめてよー、そういう言い方も。何も言われていないし、話しも一言もしていないわよ!?」
「となると、容姿がすごく気に入っちゃったとか? わー!ハルナ、ゴメンゴメンってば!」
ハルナは座っていたソファーの上にぐったりし、天井を仰いでいる。
「エレーナ様は、何も話しかけれられておりませんの?」
ソフィーネがこの部屋にメンバーがそろったことを確認し、人数分のお茶と”アルコール”を持ってきていた。
「流石ソフィーネさん!!……っと、それは後にして。何も言われていませんね、あの”部屋割り”の時も呼び止められてたのはソフィーネさんだけでしたよね?」
ソフィーネは自分を含めた全員分のお茶を淹れ、蒸気が立ち上るカップを乗せた皿を全員の前に置いて行った。
「あの時、何を話していたんですか?」
ハルナが、直接的に質問する。
その答えと言わんばかりに、ソフィーネは腰に付けていた袋から小さな袋を取り出しテーブルの上に置いた。
「えっと……これは?」
「お金……ですよね?」
困惑するハルナとエレーナを余所に、アルベルトが答えに辿りついた。
「……賄賂ですか?」
「その可能性がとっても高いと思いますね」
「え?賄賂って、もっと偉い人とかそういう人に贈る者じゃないんですか?」
ハルナが、驚いて自分の基準と実際に起きたことのギャップに戸惑いを見せる。
「……何を言ってるの、ハルナ。私たちがあなたの言う、その”偉い人”なのよ」
ハルナは、エレーナに説明してもらったがまだ納得していなかった。
「ハルナ様。あなた自身には何も権限や決定権が、今の時点ではありませんね。ですが、あなたの傍で近い人物にそういった権限を持つ者がいたとしたら?」
「――あ」
アルベルトの説明で、ようやく気が付いたハルナだった。
「お気づきになられたようですね。権限はなくとも、王選という国の大きな催しに参加することに選ばれていますからね、ハルナ様は。しかも、王選は次期王を決定する者です。ステイビル王子がもし王になられたら、王の近いお知り合いになられるのですよ?」
ソフィーネの言葉でハルナの脳裏には、ハイレインやアーテリアの顔が思い浮かんだ。
「でも、どうしてソフィーネさんはあの人が用意した私の部屋を拒んだんですか?あれが本当の理由ではないんでしょ?」
ソフィーネは口に紅茶を含み終えたカップを皿と一緒に膝の上に置いて、ハルナの質問に答える。
「その通りです。ハルナ様のあの人物への印象は聞くまでもないですが、あの男があの地位まで行ける器だと思いますか?」
ハルナにつられて、エレーナも首をブンブンと横に振る。
「ということは、コレとか情報を使って弱みを握ってきたように思えるんです」
「ま、まさか盗聴!?」
ハルナがきょろきょろ周りを見回し、自分の身体を両腕で抱きしめて気味の悪さから生じる身体の震えを止めようとする。
「ここは大丈夫です。”お付きの人”にはそこまでの情報は持っていないと踏んでいるのでしょう。だから、あれだけ焦っていたのだと思います」
なるほどと、納得する二人はまた同じ動きで頭を縦に振る。
「それで、次の手段で賄賂ですか?」
「それがあの男の手段なのでしょうね……」
そのことから、全員であの男に注意を払うことで確認し合った。
エレーナが、アルコールの蓋を開けてその話題についての話し合いは終わりを告げた。
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