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山口 犬

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第三章  【王国史】

3-8 小柄な男

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「私はジェフリー・コリエンナルと申します。お気軽に"ジェフ"とお呼びください、これからあなた様方の手となり足となってみせましょう」




ハルナもエレーナもポカーンとした表情で、目の前の小柄な男を見る。




「……どうかされましたかな?わたくしの顔に何か変なものでも付いておりますか?」





そう言いながらジェフリーは自分の顔を触り、確認してみせる。




(いや、変なものがついているのは顔ではなくて、全体が変というか……)





ハルナは心の中で、密かに呟いた。
不思議なことにエレーナも同時に同じことを心の中で呟いていたことを知ったのは、この場を離れてからのことだった。




「そうでしょう、そうでしょう。驚きのあまりに声も失ってしまうほどですよね……この建物に使われている装飾やデザインは、私の"ほんの一部"のポケットマネーから出して世界中の高価な石や装飾をかき集めて造らせ
た建造物なのです。いわば、世界の芸術や贅沢がこの場所に集結しているといっても過言ではないでしょう!」





また両手を広げて自慢げに説明をしている。
その後ろの二人の女性は、満面の笑みで大きな拍手をジェフリーに送っている。


ハルナは先程の施設での別れの悲しみがどこかに消えてしまったと同時に、この施設を離れる時には絶対にさっき感じた悲しい気持ちにはならないと確信した。




「あの、そろそろお部屋へご案内して頂けませんか?ここは少し風が冷たくて、ハルナ様の体調が崩れてしまいます」




ソフィーネはハルナをダシにして、ジェフリーのくだらない自慢話を終わらせようとした。




「おぉ、これは大変失礼致しました。皆様がこの建造物に大変ご興味をお持ちになっていたようでしたので、そのご説明を先にさせて頂きました。どうか、私の気持ちを汲んで頂きお許し願いたい」




ここにいる四人は、"お前が言う台詞ではないでしょ(だろ)!?"と心の中で強く叫んだ。




「それでは、お部屋までご案内いたしますので……おい、お前たち」




ジェフリーは指をパチンと鳴らすと、左右に並んでいた列の中から四人の男がハルナたちの前に現れた。
男たちは馬車から降ろされていた荷物を手に持ち運ぼうとする。

それをソフィーネは、阻止をした。




「お運び頂かなくて大丈夫です。荷物はそんなに多くありませんので、私たちで運びます」




ハルナは前の施設では従者に預けていた荷物を、今回は拒否をするソフィーネを見て何かを感じ取り自分で荷物を運ぶことにした

アルベルトも荷物を持ち、部屋に移動する準備をした。


その時、ジェフリーの眉毛が少しだけ、不快感を示す動きを見せた。





「……それでは、お部屋までご案内いたしましょう!」




ジェフリーの作り笑いがさらに酷くなり、ハルナたちにその表情を向けた。


四人の男たちが二つに分かれハルナとエレーナの前後に付き、後をついてくるように促した。
ジェフリーも当たり前のように、列の一番後ろについて来ていた。




「それでは、こちらの部屋がハルナ様のお部屋になります。その前がお付きの方のお部屋です」




先頭を歩いていた男が、ハルナたちに部屋を紹介する。




「そして、そちらの突き当たりにある大きな扉がステイビル王子がご宿泊されるお部屋でございます」





男はドアを開け、ハルナに部屋に入るように促した。




「大変申し訳ございませんが、ハルナ様は私と同室にさせて頂きます」




ソフィーネのその言葉を聞き、ジェフリーの小さな細長い目がこれ以上ないくらいに見開く。




「な、なんですと!?なぜハルナ様が、お付きの方と同じ部屋に泊まらなければならないのですか!身分も違うのですぞ、わきまえた方がよろしいのではないか?」




顔を真っ赤にしてそう言い返すジェフリーに対して、涼しい顔をしてソフィーネは返す。




「その理由ですが、安全上の問題のためです。私はハルナ様の世話も任されておりますし、相談相手としても王国から申しつけられておりますので。部屋が別れていては、何かあった場合に"大切な"お身体を御守りすることができません。そうなれば、あなたも王国から責任を問われる立場にあると思いますが?」




「――っぐ!!」




ソフィーネのその言葉に、ジェフリーは言葉を全て飲み込んでしまった。




「で……では、お付きの方もお部屋へ」


「いえ、私の部屋と同室とさせていただきますので」




さらにジェフリーの顔が引き攣る。




「そ、それもナニカ理由がおありですかな?」




顔を作り過ぎて、口元が強張り上手く発語できていなかった。




「そんなに高価な装飾が並んでますと、狙われたり壊してしまったり大変でしよ?万が一襲われてしまったときにはその高価なものも壊してしまうことにもなりそうです。ですので、シンプルな作りの私の部屋でよろしいです。ハルナ様も、それでよろしいですか?」


「あ、はい。それでよろしいです!」




ハルナはソフィーネが何か考えがあってのことだと思い、その意見に賛同をする意思を示した。




「ということですので、私の部屋で今後は活動させて頂きます。必要なものがあればこちらからご相談させて頂きますので、それまでは現状のままで結構です」




ジェフリーはもう、怒りを通り越して何が何だか分からなくなってきていた。
その様子を横目に、ソフィーネはこの場を切り上げようとする。




「さ、ハルナ様。それでは部屋の中へ……」




そう言って、ハルナを先に部屋の中へ通した。
ソフィーネもジェフリーとエレーナたち挨拶をし、中に入ろうとしたその時。




「お、お待ちください!」



ソフィーネが、閉めかけたドアを再び開ける。




「何でしょう、まだ何か?」




自分のペースに持っていけなかったジェフリーは焦って、呼び止めはしたが何とか自分のペースに持ち込もうと努力した。




「お付きの方のお名前を追うかがしておりませんでしたな。お伺いしてもよろしいか?」




そう言われ、まずはアルベルトが名乗った。
次に、ソフィーネが自分の名を名乗る。




「アルベルト様とソフィーネ様ですね。ところで、ソフィーネ様これを……」




ジェフリーはお金の入った小袋を、ソフィーナの手の中に握らせた。




「これは一体?」




ソフィーネはその中身をわかり切っていたが、相手の口から確認をしようとした。




「これは……ほんのお気持ちです。私も王子様とお近づきになりたく、どうかよろしくお願いします」




ソフィーネは、冷たい目線でジェフリーに笑い掛けながら告げた。





「これはお預かりしておきます……それでは」



そう言いつつ、ソフィーネは部屋の扉を閉めた。






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