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魔女の条件の章

56:マリーズへの執着

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 6歳の子供が殺人を犯した。
 誰が予想する?誰が信じる?
 感情が無く冷静に状況判断が出来る俺は、残念な事に頭も良かった。
 魔法使いが事故で死んだように見せかけるのなど、造作も無い事だった。

 それから俺は、事ある毎に微笑みを浮かべる事にした。
 何も言わないが、微笑みを返すだけで勝手に都合が良いように誤解してくれた。


 ある日、マリーズの日記が見つかった。
 動けるうちに書いていたものなのだろう。
 あのクズと結婚した初日のワクワクした幸せな気持ちは、黒いインクで塗りつぶされていた。
 そこからはずっと怨み辛みが綴られている。

 俺の事も書かれていた。
 膨らんで行く腹が気持ち悪い。
 死んでくれれば良いのに。
 一緒に死ぬ事も許されない。
 中で動くのが気持ち悪い。
 頼むから、コレットの中に戻ってくれ。

 背中がゾクゾクした。
 何て強い思いだろうと。
 これはある意味強い執着と言えるのではないか。
 どうして俺は生きているマリーズに会えなかったのだろう。


 簡単な事だ。
 父親と愛人が邪魔をしたからだ。


 更に、メイド達がキチンと世話をしていれば、まだ生きていたかもしれない。
 そうすれば、俺はマリーズと会えたはずだ。
 メイド達は、1日に1度しかないマリーズの食事すら、まともに出さなかった。
「3回に1度は私達で食べちゃいましょうよ」
 1日に1度なので、それなりの食事が出されていた。
 メイド達は自分の食事より豪華なソレを盗んで食べる事にした。

 三人のうちの一人のメイドは、簡単な算数も出来ない馬鹿だった。
 なぜ公爵家で雇われたのか不思議なレベルの知能だ。
 二人は、自分の番のうち、3回に1回食事を盗んで食べた。
 その馬鹿は、3日に1度回ってくる自分の順番の時に食べて良いのだと、毎回食事を盗んで食べたのだ。

 段々とマリーズが痩せていっても、世話をするのはそのメイド達であり、部屋には鍵が掛かっている。
 食事に手がつけられなくなっても、誰も気にしなかった。
 厨房も、半分以上の日数は完食しているからいいかと、深く考えなかった。

 殺される前に、命乞いをしたメイド達は罪のなすり合いをして、全てを俺に話した。
 どれだけ言い訳しようと、今、この屋敷の中で動いている人間が俺だけだという事実が、全てを物語っている。

 最初から、誰も残すつもりは無かったからな。



「あらあら、あの後も随分と酷い人生だったのね、マリーズってば」
 魔女は俺の話を聞き終わり、そんな言葉を口にした。
「あの後?」
 魔女はマリーズを知っているようだった。
「貴方をマリーズから取り上げたのは私よ」
 魔女は赤ん坊を抱く仕草をした。
 俺をマリーズから離したって事か!?
「若い男の子にこの言い方は通じなかったか。出産の手伝いをしたって事よ」

 俺は殺気を引っ込めた。
 魔女は見た目通りの年齢では無いのだろう。

「これだけ殺していれば、たとえ公爵様でも死刑確実よね」
 魔女が笑う。
 気持ちのこもっていない笑顔というのは、こんなにも気持ち悪いのか。
「ねぇ、生きているマリーズに会いたくない?」
 魔女の言葉に、俺は無言で頷いた。


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