鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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最終章

第345話 死の願望

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 ◇◇◇

 アルの指示により、別行動を取ることになったラルシュ王国の面々。

 アルとエルウッドとヴァルディは、黒竜ウェスタードの対応。
 レイとオルフェルアは、狂戦士バーサーカーの対応。
 そして、シドとノルンは、狂戦士毒バーサルクの対応だ。

 シドはノルンと二人で、飛空船銀灰の鉄鎖スタル・ヨールに搭乗。
 首都メルデスにあるノルンの研究室へ向かう。

 シドにとって尊敬すべき先祖であるノルン。
 しかし、世界を相手に宣戦布告をした許されざる相手でもある。

 不老不死ということで、常人では理解できない考えもあるだろう。
 ましてや一万二千年も生きているノルンだ。
 世界の破滅を考えたとしても不思議ではない。
 不老不死の地獄を知っているシドも、破滅願望を持っている時期もあった。
 そのため、口には出さないが、心の奥底で一定の理解を示している。

 しかし、現在のシドは破滅願望を持ち合わせていない。
 死なない絶望から、生きる喜びへ意識が変わった。
 それはシドにとって国家の主で、親友でもあるアルの影響だ。
 シドはいつしか、アルのために生きたいと心から思っていた。

 ◇◇◇

 銀灰の鉄鎖スタル・ヨールの操縦室。
 広い操縦室には、シドとノルンの二人だけしかいない。
 気まずい雰囲気が流れる。
 だがそこは空気を読まないことで有名なシドだ。
 特に気にしない。

「ノルン、首都メルデスまでは銀灰の鉄鎖スタル・ヨールで何日だ?」
「貴様なら寝ずに操縦できるじゃろうし、深夜飛行も可能じゃろうて。二日もかからん」
「私一人に操縦させるのか?」
「儂は老人じゃ」
「おいおい、不老不死じゃないか」

 ノルンが操縦室のドアに向かって歩き出す。

「儂は自分の部屋におる。船内を勝手に移動して、飲み食いするがよい。メルデス到着頃に戻ってくる」
「……分かった」

 ノルンが操縦室から出ていった。
 気まずさから逃げたと言ってもいいだろう。

「まあ、馴れ合う必要はないか……」

 シドは操縦桿を握る。
 他国の飛空船とはいえ操縦方法は同じだ。
 それに、飛空船の操縦システムを考案したのはシドである。
 どんな飛空船でも操縦可能だった。

「ふむ、この航空路だと確かに二日もかからぬか」

 操縦桿の横にある地図に目を通す。

「この航空路は私も知らなかった」

 ノルンの知識に感心するシド。
 地図を見ながら、ノルンが書いたであろう航空路を進む。

 ――

 シドは飲まず食わずで操縦していた。
 操縦者が一人しかいないことに加え、操縦以外の時間は狂戦士毒バーサルクについて考えていたからだ。
 食事の時間すらもったいないと、操縦の傍ら、薬に関することをひたすらノートに書き記す。

狂戦士毒バーサルクを使って疫病の病原体を殺すところまでは行くのだが、どうしても狂戦士バーサーカー化してしまうな。かといって、狂戦士バーサーカーの血清が効くように効果を弱めると病原菌は死なない。厄介な病だ」

 シドは以前から狂戦士バーサーカーを研究していたため、脳内のイメージだけで実験することができる。
 天才のなせる技だ。

「儂もそこには辿り着いておる」
「ノルン!」

 間もなくメルデスに到着するため、ノルンが操縦室へ戻ってきた。

狂戦士毒バーサルクの毒性を高めれば、病原体は死ぬ。じゃが、通常よりも強力な狂戦士バーサーカーとなり、血清が効かない。かといって毒性を弱めると、病原体は死なない上に通常の狂戦士バーサーカーになるだけじゃ」

 アルの父親バディはレイの狂戦士バーサーカーを診療したことがある。
 その際、血清の作り方をシドに手紙で伝えていた。

「ノルン。狂戦士毒バーサルクの毒性を下げるのではなく、血清の効果を上げる方向はどうだろうか」
「そんな血清は作れんじゃろう。そもそも、カル・ド・イスクも竜種リジュールも貴様たちが討伐しておる。血清自体もう作れぬ」
「確かに……」

 納得しかけたシドだが、ここで諦めてはアルとの約束が守れない。

「いや……待てよ。狂戦士バーサーカーを生み出すモンスターよりも、さらに強力な同系統モンスターの血液を使えば、狂戦士毒バーサルクを抑制できるかもしれん」
「ふむ。着眼点は良いが、それは無理じゃな。そもそも、狂戦士バーサーカーの大元は竜種リジュールじゃ。竜種よりも上位のモンスターなぞおらぬ」
「そうだが……」

 シドは乱れた白髪を右手でかきあげる。

「いや、竜種といえども個体によって格があるはずだ。ノルンもウェスタードは竜種最強格と言っていただろう? リジュールよりも上位の竜種の血を使うのだ」
「それはもう狂戦士バーサーカーの血清ではなく、新薬じゃろうて。それに今から竜種を討伐するのか? どの竜種を? どうやって?」
「分かってる。しかし、ここで諦めたら何もできぬ」

 シドの言葉にノルンは目を閉じる。
 しばらく無言となり、小さな溜め息をつく。
 その溜め息には、諦めの悪い男に対しての呆れと、僅かな期待が込められていた。
 目を開けると同時に、シドの瞳を見つめるノルン。

「竜種の中でも上位の存在はおる。それが白竜クトゥルスと黒竜ウェスタードじゃ。そして、クトゥルスの血であれば……貴様の言う新薬の可能性はある」

 ノルンは小さな声で呟いた。

 シドは驚きながらも、一つの疑問が浮かぶ。
 薬の神様のようなノルンが、新薬開発の可能性にしっかりと気付いている点だ。

「そこまで分かっていて、なぜやらないんだ?」
「それは……儂らの不老不死に関係するのじゃ」
「不老不死に? ど、どういうことだ?」
「シドの小僧よ。貴様は死にたいと思ったことはないか」
「死にたい? ……もちろんある。むしろずっと死にたいと思っていた」
「そうじゃろう。不老不死を夢のように語る者たちは現実を知らぬ愚か者じゃ。本当の不老不死は地獄でしかない。貴様も当初は拷問されたじゃろう。それに、儂らには必ず別れが訪れる。必ず取り残される。いつも一人じゃ。いつも……。これが永遠に続くのだ」

 ノルンが僅かに浮かべた悲しげな表情を、シドは見逃さなかった。

「確かにそうだな。本当に辛かった。これからのことを考えるだけでも……正直辛い」

 ノルンもまた、シドの僅かな悲しげな表情に気付いた。

「それを……終わらせることができるのじゃ」
「な! まさか! そんなことが!」
「不老不死になるための不老不死の石パーマネント・ウェイヴスは、雷の神イル・ドーラから生まれる。その雷の神イル・ドーラと対になる竜種が白竜クトゥルスじゃ。竜種と始祖の関係は知っておろう。竜種が壊し、始祖が育む……とな」
「不老不死にも対があるというのか!」
「そうじゃ。クトゥルスの血は終焉の血じゃ」
「終焉の血! し、死ねる? この私が?」

 シドは信じられないといった表情を浮かべ、両手の手のひらを見つめた。
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