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最終章
第344話 黒竜ウェスタード
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「ヴァルディ、鞍を乗せるよ」
「ヒヒィィン!」
ヴァルディの背中に鞍を装着し、俺は飛び乗った。
「さあ行こうか」
鞍にいくつかの荷物をくくり、俺は大きなリュックを背負う。
エルザとマリンが、数週間分の保存食を用意してくれた。
この地は気温が低いので、食材の保存も問題ないだろう。
最も深き洞窟は奥に進むほど、感じる風が強くなる。
周囲の壁は、風の影響で凍っていた。
俺の鎧は火竜ヴェルギウスの素材で作られた紅炎鎧だ。
しかも水竜ルシウスと、氷竜リジュールの素材で強化されており、いくつもの特殊効果が付与されている。
もし、これらの特殊効果がなければ、この風で俺は凍っていたかもしれない。
風切り音に、咆哮のようなものが混ざっているように感じる。
「これってウェスタードの声?」
「ウォウ」
「ブルゥゥ」
エルウッドもヴァルディも分らないようだ。
「二柱はウェスタードに遭遇したことはあるかい?」
二柱とも首を横に振った。
「そうか、ないのか。始祖といえども住処があるもんなあ。でも、エルウッドは住処を離れてシドと世界を旅してたけどね。アハハ」
「ウォウォウォ」
「ブルゥゥ」
始祖たちと会話していると、またしても凄まじい咆哮が轟く。
地面が揺れ、天井から無数の小石が落下。
希少鉱石まで崩れて落ちてくるほどだ。
「凄いな。紅炎鎧じゃなかったら、この音で死んでいたかもしれない。二柱ともこの轟音は大丈夫かい?」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
始祖の二柱も大丈夫なようだ。
竜種の装備を装着している俺と、竜種と対をなす生物の頂点たる始祖だから耐えられるが、もしあのまま皆が洞窟に残っていたら危険だった。
俺たちは、入り口からすでに七キデルトほどの深さにいる。
だが洞窟は驚くほど真っ直ぐで、未だに出口の光が見えていた。
ここでまたしても咆哮だ。
奥に進むにつれ、咆哮の頻度が上がってきたような気がする。
「この空間で咆哮を繰り返すって……。何か意図があるのか?」
誰に聞かせるというわけでもなく、ただただ反響するだけの咆哮。
そういえば、狂戦士毒は特殊な音に反応すると聞いた。
「も、もしかして……。咆哮を反響させて自分に聞かせているのか?」
ウェスタードは自らの咆哮で、自らに命令しているのかもしれない。
「もしそうなら、解除は近いかもしれない」
反響音と振動で感じていた咆哮が、徐々にはっきりと聞き取れるようになってきた。
間違いなく生物の声だ。
「近いぞ。いいかい二柱とも。今回の目的はウェスタードの狂戦士解除だ」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
これまでの俺だったら、竜種は悪とみなし討伐を試みただろう。
だが、ノルンの竜種と始祖の本を読み、それは間違いだったことに気付いた。
「初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し」
竜種と始祖に関する本の一節を口にする。
互いに敵対している竜種と始祖だが、世界の地形を作っていくという役割は同じだ。
俺は竜種を討伐している。
過ちを戻すことはできないし、許されないかもしれないが、これから新しい関係を築き上げていきたいと考えていた。
少し進むと約五百メデルトほど先に、黒い巨大な物体が見える。
「ウェスタードだ! 二柱とも警戒を」
「ウォウ」
「ブルゥゥ」
百メデルトまで近付くと、その全容が確認できた。
体長は約三十メデルト。
黒竜の名にふさわしく、全身は漆黒の鱗で覆われている。
顎下から腹部全体は真紅の鱗だ。
二枚の巨大な翼。
広げると全長五十メデルトはあるだろう。
二本の長い腕、二本の巨大な脚、二十メデルトの長い尻尾、頭部には五メデルトほどの長細い角が、真っ直ぐ二本生えている。
竜種の眼球は漆黒に金色の瞳孔なのだが、ウェスタードの眼球は真っ白だった。
狂戦士毒によって、狂戦士化した証拠だ。
姿としてはヴェルギウスに似ている。
だが、ヴェルギウスよりも遥かに巨体だ。
ノルンは竜種最強格と言っていたが、この姿を見れば納得できる。
「こ、このウェスタードを捕獲して使役したのか。凄い……」
ウェスタードを捕獲し使役したノルンとデ・スタル連合国の兵士たち。
俺は純粋に感心してしまった。
いくら狂戦士とはいえ、この最強の竜種に挑むなんて考えられない。
それこそ死にに行くようなものだ。
「グルゥゥゥ」
ウェスタードが俺たちの存在に気付いた。
白色の眼球で俺たちを睨みつける。
まるで上空で輝く満月のようだ。
「グガアァァァァアアァァァァ!」
それと同時に強烈な咆哮を上げた。
空気が割れるほどの咆哮だ。
だが、紅炎鎧を着る俺に影響はない。
壁が崩れ、天井から無数の岩が降ってくる。
俺は両手を上げ頭を守った。
「まさか……これほどとは……」
俺は正直、今までと同じ竜種なら何とかなると思っていた。
だが、このウェスタードは明らかにレベルが違う。
俺はシドとの別れ際の言葉を思い出す。
「アルよ。ウェスタードは古代語で絶望という意味だ。死ぬんじゃないぞ」
シドの言う通りだ。
俺は三体の竜種を討伐して、知らずに気が大きくなっていたのかもしれない。
だけど……。
「やるしかない! やるんだ!」
額から流れる冷たい汗を感じながら、俺は紅竜の剣を抜く。
ウェスタードという絶望に向かって。
「ヒヒィィン!」
ヴァルディの背中に鞍を装着し、俺は飛び乗った。
「さあ行こうか」
鞍にいくつかの荷物をくくり、俺は大きなリュックを背負う。
エルザとマリンが、数週間分の保存食を用意してくれた。
この地は気温が低いので、食材の保存も問題ないだろう。
最も深き洞窟は奥に進むほど、感じる風が強くなる。
周囲の壁は、風の影響で凍っていた。
俺の鎧は火竜ヴェルギウスの素材で作られた紅炎鎧だ。
しかも水竜ルシウスと、氷竜リジュールの素材で強化されており、いくつもの特殊効果が付与されている。
もし、これらの特殊効果がなければ、この風で俺は凍っていたかもしれない。
風切り音に、咆哮のようなものが混ざっているように感じる。
「これってウェスタードの声?」
「ウォウ」
「ブルゥゥ」
エルウッドもヴァルディも分らないようだ。
「二柱はウェスタードに遭遇したことはあるかい?」
二柱とも首を横に振った。
「そうか、ないのか。始祖といえども住処があるもんなあ。でも、エルウッドは住処を離れてシドと世界を旅してたけどね。アハハ」
「ウォウォウォ」
「ブルゥゥ」
始祖たちと会話していると、またしても凄まじい咆哮が轟く。
地面が揺れ、天井から無数の小石が落下。
希少鉱石まで崩れて落ちてくるほどだ。
「凄いな。紅炎鎧じゃなかったら、この音で死んでいたかもしれない。二柱ともこの轟音は大丈夫かい?」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
始祖の二柱も大丈夫なようだ。
竜種の装備を装着している俺と、竜種と対をなす生物の頂点たる始祖だから耐えられるが、もしあのまま皆が洞窟に残っていたら危険だった。
俺たちは、入り口からすでに七キデルトほどの深さにいる。
だが洞窟は驚くほど真っ直ぐで、未だに出口の光が見えていた。
ここでまたしても咆哮だ。
奥に進むにつれ、咆哮の頻度が上がってきたような気がする。
「この空間で咆哮を繰り返すって……。何か意図があるのか?」
誰に聞かせるというわけでもなく、ただただ反響するだけの咆哮。
そういえば、狂戦士毒は特殊な音に反応すると聞いた。
「も、もしかして……。咆哮を反響させて自分に聞かせているのか?」
ウェスタードは自らの咆哮で、自らに命令しているのかもしれない。
「もしそうなら、解除は近いかもしれない」
反響音と振動で感じていた咆哮が、徐々にはっきりと聞き取れるようになってきた。
間違いなく生物の声だ。
「近いぞ。いいかい二柱とも。今回の目的はウェスタードの狂戦士解除だ」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
これまでの俺だったら、竜種は悪とみなし討伐を試みただろう。
だが、ノルンの竜種と始祖の本を読み、それは間違いだったことに気付いた。
「初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し」
竜種と始祖に関する本の一節を口にする。
互いに敵対している竜種と始祖だが、世界の地形を作っていくという役割は同じだ。
俺は竜種を討伐している。
過ちを戻すことはできないし、許されないかもしれないが、これから新しい関係を築き上げていきたいと考えていた。
少し進むと約五百メデルトほど先に、黒い巨大な物体が見える。
「ウェスタードだ! 二柱とも警戒を」
「ウォウ」
「ブルゥゥ」
百メデルトまで近付くと、その全容が確認できた。
体長は約三十メデルト。
黒竜の名にふさわしく、全身は漆黒の鱗で覆われている。
顎下から腹部全体は真紅の鱗だ。
二枚の巨大な翼。
広げると全長五十メデルトはあるだろう。
二本の長い腕、二本の巨大な脚、二十メデルトの長い尻尾、頭部には五メデルトほどの長細い角が、真っ直ぐ二本生えている。
竜種の眼球は漆黒に金色の瞳孔なのだが、ウェスタードの眼球は真っ白だった。
狂戦士毒によって、狂戦士化した証拠だ。
姿としてはヴェルギウスに似ている。
だが、ヴェルギウスよりも遥かに巨体だ。
ノルンは竜種最強格と言っていたが、この姿を見れば納得できる。
「こ、このウェスタードを捕獲して使役したのか。凄い……」
ウェスタードを捕獲し使役したノルンとデ・スタル連合国の兵士たち。
俺は純粋に感心してしまった。
いくら狂戦士とはいえ、この最強の竜種に挑むなんて考えられない。
それこそ死にに行くようなものだ。
「グルゥゥゥ」
ウェスタードが俺たちの存在に気付いた。
白色の眼球で俺たちを睨みつける。
まるで上空で輝く満月のようだ。
「グガアァァァァアアァァァァ!」
それと同時に強烈な咆哮を上げた。
空気が割れるほどの咆哮だ。
だが、紅炎鎧を着る俺に影響はない。
壁が崩れ、天井から無数の岩が降ってくる。
俺は両手を上げ頭を守った。
「まさか……これほどとは……」
俺は正直、今までと同じ竜種なら何とかなると思っていた。
だが、このウェスタードは明らかにレベルが違う。
俺はシドとの別れ際の言葉を思い出す。
「アルよ。ウェスタードは古代語で絶望という意味だ。死ぬんじゃないぞ」
シドの言う通りだ。
俺は三体の竜種を討伐して、知らずに気が大きくなっていたのかもしれない。
だけど……。
「やるしかない! やるんだ!」
額から流れる冷たい汗を感じながら、俺は紅竜の剣を抜く。
ウェスタードという絶望に向かって。
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