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第十八章

第305話 洞窟へ

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 翌日、俺たちはリジュール追伐のため旅する宮殿ヴェルーユを出発。
 ヴァルディの背に乗る俺とレイ。
 エルウッドが後ろを歩く。

 吹雪は収まり雲の隙間からは時折晴れ間が見える。
 ヴァルディは積もった雪を物ともせず進む。

「レイ、ポイントまでは一キデルトほどだ。体調は平気かい?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 シドとオルフェリアが、徹夜でリジュールの声の発生源を特定してくれた。
 旅する宮殿ヴェルーユはポイントに可能な限り近付き待機している。

 リジュールの討伐は、まず情報収集のための調査から開始。
 これはクエストの基本だ。
 そしてリジュールの住処、身体的特徴を確認する。
 可能であれば攻撃方法も把握したい。
 そして、一旦帰還し作戦を立てる。
 そもそも我々で討伐可能な存在なのか、そういった点も考えなければいけない。

 シドたちが特定したポイントは雪山の麓。
 そのポイントに到着すると、巨大な洞窟が口を広げていた。 
 入口は高さ五十メデルト、幅八十メデルトほどだ。

 俺は地図を広げる。

「ここがポイントだけど……。この洞窟がリジュールの住処かな」
「その可能性は高いわね」
「ウォンウォン」
「ブフゥゥ」

 俺たちの会話を聞いた始祖二柱が訴えかけてきた。

「この先にリジュールがいるのは間違いないってこと?」
「ウォン」

 エルウッドが頷いた。
 竜種と敵対している始祖が言うのだから間違いないだろう。

 俺とレイはヴァルディの背中から飛び降り、ヴァルディの鞍に括りつけたバッグからランプを取り出す。

「レイ、暗闇だけど大丈夫?」
「大丈夫よ。だけど……私から離れないでね」
「もちろんだよ。絶対離れないから安心して。それにエルウッドもヴァルディもいるよ」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 レイが極度に暗闇を怖がるのは、幼少期に体験したカル・ド・イスクの襲撃が原因だった。
 始祖二柱と一緒になってレイを励ます。

 ランプの燃石に火をつけ、徒歩で洞窟を進む。
 数百メデルトほど進むと洞窟の様子が変化。
 突然、目の前の洞窟の天井の色が変わったのだ。

凍蝙蝠竜ラヴィトゥル!」
「こ、こんなにたくさんのラヴィトゥルは初めて見たわ」
「ご、五十頭はいるぞ。さすがに気持ち悪いな」

 天井に無数のラヴィトゥルがぶら下がっている。
 幸いにも目を閉じ寝ているようだ。
 
 ラヴィトゥルはBランクの竜骨型翼類モンスターで、体長は約三メデルト。
 二枚の大きな翼を持ち、翼はマントのように身体を覆うために使われる。
 また、細長い尻尾は麻痺性と防腐性の毒を持つ。

「これがナブム氷原の村を襲ったラヴィトゥルじゃないか?」
「ええ、間違いないでしょう」

 これほどの群れのラヴィトゥルに襲われたら、村レベルなら壊滅は免れないだろう。

「どうする? ラヴィトゥルは寝てるようだけど」
「確実に討伐したいけど、この数のラヴィトゥルですもの。多勢に無勢よ。それに、ここで戦うとリジュールに気付かれるでしょう」 

 レイも小声で答えた。

「だけど、このままだと先に進むことはできないぞ。リジュールに気付かれようと、やるしかないんじゃないか?」
「……確かにそうね。背後にこれほどのラヴィトゥルがいるとなると、退路もなくなってしまうものね」
「ウォウ」

 エルウッドが会話に入ってきた。

「え? エルウッドがやる?」
「ウォン」
「そうか。雷の道ログレッシヴか」
「ウォウ」

 雷の道ログレッシヴは光と轟音が発生するが、大量のモンスターを仕留めるには最も適している攻撃だ。

「いいわね。エルウッドに頼もうかしら」
「ウォウ」

 レイに頼られて嬉しそうなエルウッドは、ヴァルディの背に乗った。
 ヴァルディは一度身体を屈伸させ、その場でジャンプ。
 四十メデルトほどの高さまで到達すると、エルウッドが背中から飛び出し、天井に向かって広範囲に雷の道ログレッシヴを放出。

 洞窟内の全てを照らすかのような閃光が発生し、耳をつんざく轟音が鳴り響く。
 すると、天井にいたラヴィトゥルが一斉に地上へ落下。
 雷の道ログレッシヴの威力がまた上がったようで、全頭即死だった。

「た、たった一撃で五十頭ものラヴィトゥルを全滅させるなんて……。信じられない。エルウッド凄いわ!」
「ウォン!」

 レイの言葉にエルウッドが嬉しそうに尻尾を振っている。

「ヴァルディも、その場でジャンプして四十メデルトも飛ぶって凄いぞ!」
「ヒヒィィン!」

 俺もヴァルディを褒め称えた。

「アル、ラヴィトゥルの毒は防腐剤として使われるのよ。これだけの量があれば国家の大きな収入になるわよ」
「そうだね。ラヴィトゥルの素材も有効活用できるからローザも喜ぶはずだ。旅する宮殿ヴェルーユに帰ったらまた取りに来よう」
「そうね。そうしましょう」

 俺たちはその場所を後にし、洞窟を進む。

「今の音でリジュールが気付いてないといいんだけど」
「そうね。でも、エルウッドは考えがあってやったのでしょうから大丈夫でしょう」
「そうだよなあ。エルウッドは始祖だもんな。それにしても、まさか家族だと思っていたエルウッドが始祖だったと聞いた時は正直驚いたよ。遠い存在になってしまった」

 すると、エルウッドが俺に体当りしてきた。

「ウォウ!」
「ご、ごめんよエルウッド。今でも俺の家族だよ」
「ウォン!」

 嬉しそうな表情を浮かべているエルウッド。
 今度はヴァルディが鼻で俺の背中を小突いてきた。

「ヴァルディもだよ!」
「ヒヒィィン!」

 嬉しそうなヴァルディ。
 今や始祖二柱が家族となっていた。
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