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第十八章

第298話 アルの威厳

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 前回の会議から一ヶ月が経過。
 これまでに判明した情報の確認や裏取りに時間を費やす。
 さらにイーセ王国、フォルド帝国、エマレパ皇国の同盟国からも情報を提供してもらっていた。

 それでも不明点が多いため、俺たちは実際に調査へ出ることにした。
 まずはカル・ド・イスクの住処があったフォルド帝国の北部へ向かう。
 情報によると竜種も住んでいるようだ。
 危険は承知だがやるしかない。

「調査に出る人員を選抜する」

 俺は会議室に主要幹部を集めた。

「俺、レイ、シド、オルフェリア、ローザ、リマ、アガスだ。皆重要な業務に携わっているが、今は国家の危機だ。こちらを優先してくれ」

 全員頷いてくれた。
 
「ユリア、また負担をかけてしまう」
「うふふふ、何を仰るのやら。陛下についてきて心から良かったと思っております。本当に毎日が楽しいですわ。後のことはお任せください」
「ああ、心強いよ。ユリアがいるから俺は好きなように動けるんだ。感謝してる」
「もったいなきお言葉。陛下、王妃のことをよろしくお願いいたします」
「もちろんだよ」

 ユリアはレイが十五歳の時からつき合いがある。
 そのため、レイを娘のように思っていた。

「ユリア、もし何かあったら大鋭爪鷹ハーストで知らせてくれ。旅する宮殿ヴェルーユなら数日で帰還できる」
「承知いたしました」

 出発は一週間後とした。

「全員業務に滞りがないよう、しっかり引き継ぎを頼むよ」
「もちろんです。むしろ我々は陛下が一番心配なのです」
「な! 何言ってるんだよシド!」
「未だに一人でふらふらとクエストに出たり、気付いたら街の工事を手伝ってたり、飛空船工場で働いていたり……」

 しまった。
 シドの小言が始まってしまった。

「ま、まあ、それはまた今度聞くからさ。しし、支度しなきゃ。レイ、行こう!」
「ふふふ、はいはい。行きましょう」
「皆解散だ! 各自準備してくれ」

 俺は逃げるように自室へ戻った。

 ――

 夕食後、リビングでくつろぎながら資料に目を通す。

「アル様、珈琲はいかがですか?」
「ありがとう」

 メイドのマリンが珈琲を淹れてくれた。
 マリンは現在王室メイド部長で、俺とレイの担当だ。
 外遊の際も同行する。

「マリン、しばらく調査に出る。留守を頼むよ」
「アル様、私も行きますわよ? 今回は旅する宮殿ヴェルーユですから使用人が必要です。エルザも一緒に行きますわ」
「え? だめに決まってるだろ。危険なんだよ」
「では誰がアル様とレイ様のお世話をするのですか?」
「いやいや、自分たちでできるから」
「もちろんレイ様はお一人でもできますわ。あれほどしっかりした方はおりませんから。でもアル様はねえ……」
「俺だってできるっての!」
「本当ですか? 即位されてから一度もやったことないじゃないですか」
「できる!」
「無理です!」

 俺とマリンは年齢が近いこともあり、非常に仲が良い。
 友人のようにつき合っている。

「こらこら。なに喧嘩してるの」

 ちょうど部屋に入ってきたレイが仲裁に入った。

「レイ様。聞いてください! アル様が連れていってくれないんです」
「あのねマリン。今回は本当に危険なのよ」
「あのー、レイ様。お言葉ですが、危険じゃなかったことなんて一度もありませんよ? 私たちがいる時だってアル様は勝手に竜種と戦ってしまうんですよ? アル様と一緒にいるってそういうことですよね?」

 その言葉にレイが吹き出した。

「ふふふ、そうね。そうよね。マリンはよく分かってるわね」
「何年お二人を見ていると思ってるんですか!」
「そうね。ごめんなさい。アルの負けよ。でもマリン、本当に危険なのよ?」
「ご心配ありがとうございます。私とエルザは、アル様に守っていただきます!」
「ふふふ。だそうよ、アル」

 俺はマリンと言い争って一度も勝ったことがない。

「分かったよ。全く……。本当にマリンは遠慮しないよな」
「遠慮するなって言ったのはアル様ですよ?」
「はいはい、俺が言いました!」

 確かに数年前、俺がマリンたちに言った言葉だ。
 それに正直なところ、エルザとマリンの同行は助かる。
 マリンはそのことを知っていて、同行すると言ってくれたのだろう。
 こういったマリンの優しさが俺はとても好きだった。

「じゃあ、マリン。俺も遠慮なく頼るからな。移動中の炊事洗濯、その他の雑務は全部任せたよ?」
「もちろんです! っていうか、今とやってること変わりませんよ?」
「いちいちうるさいな!」
「全くもう、アル様ってすぐにムキになるんだから。本当に子供ですね」
「マリンだってそうだろ!」

 レイが笑っていた。

「アルの威厳ってどこにあるのかしら?」
「レ、レイまで……」

 俺はよく威厳がないと言われるが、それでも構わない。
 皆俺よりも年上だし、時と場所はしっかりとわきまえている。
 何より立場が変わっても、今も昔も変わらないこの仲間たちが心から大切だった。
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