鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十八章

第299話 ナタリーへの報告

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 予定通り旅する宮殿ヴェルーユは出航した。
 イーセ王国からフォルド帝国の上空を通る飛行ルートだ。

 飛空船の運行に関して、航空連盟に加盟している国家の上空は通行可能と定めている。
 航空連盟は現状全ての国家が加盟しているため、国家間の定められた定期運行であれば申請なく常に飛行が可能。
 だが、今回のような特殊な航路に関しては、予め告知が必要となる。
 そのため、運輸大臣のマルコが全ての手続きを行ってくれた。

 アフラから目的地のフォルド帝国の北部にあるナブム氷原まで、距離は約四千キデルト。
 これを馬車で移動すると二ヶ月以上かかるが、旅する宮殿ヴェルーユなら三日で飛行可能だ。

 航空は順調で、出航から三日が経過。
 頭上から太陽の光が降り注ぐ中、現在はフォルド帝国上空を飛行している。
 計測器が示す高度は五千メデルト。
 地上から見えないよう配慮し、超上空を飛んでいた。
 飛空船の飛行高度は百メデルトが限度だが、旅する宮殿ヴェルーユは規格外のため超上空でも飛行可能となる。

 今は自由時間で各自自室で待機。
 だが俺はレイと操縦室にいた。
 操縦室から見る景色が最も綺麗だからだ。

「凄いな。これほどの雪原は初めてだ」
「この辺は特に豪雪地帯なのよ」

 目の前に広がる雪原。
 太陽の光を反射し、白銀に輝く地表は地平線の彼方まで続いていた。

 旅する宮殿ヴェルーユは竜種ヴェルギウスの素材を使用しているため、船内の気温は一定に保たれている。
 これはヴェルギウスの特殊能力の一つだった。
 焼けるような砂漠でも、凍えるような雪原でも、船内には一切の影響がなく快適だ。

 さらに旅する宮殿ヴェルーユは、竜種ルシウスの素材も使用している。
 ルシウスを調査研究した結果、竜種らしく驚くほどの能力を持っていた。
 その一つが水中で活動できるというもの。
 シドが言うには、ルシウスの鱗は水中からでも空気を取り入れることができるそうだ。
 そして、水中深く潜っても全く問題ない能力も備わっていた。
 水圧と呼ぶらしいのだが、どれほどの水圧でも打ち消す能力を持っている。
 さらに気圧というものの影響も受けないそうだ。
 これで超上空の飛行も問題ない。 
 だが正直俺には、シドの説明が凄すぎてよく分からなかった。

 操縦桿を握るシドが伝声管の蓋を開ける。

「さて、そろそろナブム氷原に到着する。外は極寒の雪原だ。下船は竜種の鎧を持つ者たちだけになる。準備せよ」

 俺とレイはヴェルギウス素材を使用している鎧、紅炎鎧ファラム蒼炎鎧エリオルを着るので気温は関係ない。
 なお、これにもルシウスの素材を追加で使用し、改良してある。
 シドとオルフェリアも同じ素材で軽鎧ライトアーマーを持っているので問題ない。

 旅する宮殿ヴェルーユが徐々に高度を下げる。

「アガス、着陸地点はあるか?」

 冒険鏡を覗きながら、アガスが指を差す。

「はい、シド船長。一キデルト前方の雪原に着陸可能です」
「分かった」

 旅する宮殿ヴェルーユは無事に着陸。
 雪が積もっているが、ヴェルギウスの素材でコーティングされている旅する宮殿ヴェルーユに影響はない。
 俺は操縦室に集まった全員を見渡す。

「下船は俺、レイ、シド、オルフェリア、リマだ。四人は留守を頼むよ」
「かしこまりました」

 代表してローザが答えた。
 ローザは旅する宮殿ヴェルーユ内の研究室で、素材の研究開発を行う。
 アガスは船体のメンテナンスだ。
 エルザとマリンは全ての雑務をこなす。

「じゃあ行ってくる」

 旅する宮殿ヴェルーユを下船。
 俺たちは調査の前にナタリーの墓へ向かうことにした。
 リマはヴェルギウスの鎧を持たないが、ナタリーの墓参りを希望したので許可。

「うう、やっぱここは寒いなあ」
「リマ、無理するなよ。君はヴェルギウスの鎧を持たないんだから」

 とはいえリマも、牙獅獣ラーヴェの亜種である雪鬣獅獣スラーヴェのコートを着ていた。
 Aランクモンスターであるスラーヴェは、防寒着として最高級の暖かさを誇る。
 さらに討伐難度の高さから、スラーヴェのコートを持つことはステータスでもあった。

「いやいや、アル君が討伐したスラーヴェのコートが暖かいから大丈夫。下船を許してくれてありがとう」
「ナタリーへの挨拶は久しぶりだろう?」
「そうだね。久しぶりに会えるから楽しみだよ」

 リマがレイの顔を見た。

「レイ、大丈夫かい?」
「ええリマ、ありがとう」
「レイもナタリーの墓は久しぶり?」
「私は騎士団を辞めた時以来よ……。もっと来たいのだけど、なかなか難しくて……」
「大丈夫さ。ナタリーも分かってくれる」

 歩きながら話す二人。

 隊列の先頭は始祖火の神アフラ・マーズのヴァルディだ。
 黒風馬ルドフィンの希少種であるヴァルディは、雪をものともせず進む。
 ヴァルディが進むと、横幅一メデルトほどの道ができる。
 雪の高さは俺の肩ほどあるため、もしヴァルディがいなかったら進めなかっただろう。
 ヴァルディの後ろを俺たちが一列になって続く。

「ヴァルディ凄いぞ!」
「ヒヒィィン!」

 しばらくして、小高い丘の上に立つナタリーの墓に到着。
 全員で祈りを捧げた。
 リマも懐かしそうだ。

「ナタリー、久しぶりだね。アンタの好きな葡萄酒を持ってきたよ。楽しんでくれ」

 リマが雪をかき分け、墓を綺麗にしてくれた。
 そして葡萄酒を備える。

「さて、レイとアル君以外は少し離れよう」
「そうだな。君たちは母親にゆっくりと挨拶するがいい」

 俺とレイ、始祖二柱を残し三人は離れた。

「ナタリーお母さん。こんな寒いところでごめんなさい。報告があるの。私、結婚したのよ。お母さんが言ってくれた素敵なお嫁さんになれたかな」
「アルと申します。レイと結婚しました。ナタリーお養母さん。俺はレイを一生幸せにすると誓います」
 
 その後もしばらくナタリーに報告を行った。
 そして、シドたちの元へ戻ると天候が急変。
 吹雪いてきた。

「シド。これは荒れるんじゃないか? 一旦旅する宮殿ヴェルーユに帰ろう」
「そうだな。カル・ド・イスク討伐地に近いこの周辺から調査を行いたかったが、これでは無理か」

 俺たちは旅する宮殿ヴェルーユに戻った。
 この吹雪では旅する宮殿ヴェルーユも飛べないため着陸している。
 だが船内は快適だ。
 ヴェルギウスの能力がなければ、ここで全員凍死していただろう。

 俺とレイとリマは、食堂で温かい紅茶を飲んでいた。
 食堂は一度に三十人が食事を取ることができるが、今はたった三人のため、その広さがさらに強調されている。

「レイ、挨拶はできたかい?」
「……ええそうね。リマは?」
「ああ、久しぶりに挨拶できたよ。身寄りのないアタシにとっても、ナタリーは家族だからな」

 旅する宮殿ヴェルーユ内では、吹雪の音は聞こえない。
 とても静かだ。
 リマがレイの顔を見つめていた。 

「レイ、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ。でも、ちょっと思い出しちゃうけどね」
「レ、レイ。……確かにこの吹雪はカル・ド・イスクを思い出すな」

 レイの顔色が少し悪いように見える。
 椅子に座りながら、窓の外を眺めているレイ。

「もしかして……」
「ん? どうしたレイ?」
「ねえ、リマ。私たちがカル・ド・イスクを討伐した時も吹雪だったわね」
「そうだ。カル・ド・イスクは吹雪を発生させるからな」
「違うわよ。確かにカル・ド・イスクは強烈な凍気を吐き出したり、翼で吹雪を巻き起こし人間を凍らせていたけど、自然災害となるような規模の吹雪は出してなかったわ」
「そ、そう言われれば」
「これほどの吹雪だったら、私たちでも討伐は不可能だったわよ」
「確かに」

 そこへシドがやってきた。
 何やら不思議そうな表情を浮かべている。
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