鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十六章

第275話 出航

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 ついに飛空船旅する宮殿ヴェルーユが完成。

 何度か試運転に乗せてもらったが、本当に信じられなかった。
 全長百メデルトもの巨大な建造物が宙に浮くのだ。
 そして、旅する宮殿ヴェルーユの名の通り優雅に空を飛ぶ。
 これを他国の人たちが見たら、驚くどころの騒ぎじゃないだろう。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユの初飛行当日を迎えた。
 世界会議ログ・フェス出席のために、エマレパ皇国へ出発する。

「レイ、行くよ」
「ええ、楽しみね」
「ウォウウォウ!」

 俺とレイとエルウッドは、ラルシュ工業内の一番ドックに向かった。

 初飛行の搭乗者は俺、レイ、シド、オルフェリア、ローザ、リマ、アガス、エルザ、マリンの九名。
 さらにエルウッドとヴァルディの二柱だ。
 ヴァルディはついてくると言って聞かなかった。

 ユリア、ジョージ、マルコ、ステム、ミックはアフラに残っている。

 ユリアとジョージは建国関連で膨大な仕事を担当。
 ステムは執事の仕事や執筆作業、ミックはアフラにいる馬の世話を受け持ってくれた。

 トーマス兄弟の兄マルコは、弟のアガスに経験をさせたいということで、アフラでトーマス工房の代表として膨大な注文を指揮。
 弟思いであるのだが、アガスによると実は年上のユリアの存在が気になるそうだ。

 アフラの護衛に関しては、クロトエ騎士団が駐留しているので問題ないだろう。
 もしアフラへ攻め入るには、イーセ王国のサルガを経由する必要がある。
 イーセ王国経由で軍隊を派遣することは不可能だ。
 それにラルシュ工業の職人はほとんどが元騎士なので、防衛面は安心できる。

「さあ、そろそろ出発するぞ。君たち準備はいいか?」

 シドの計算によると、エマレパ皇国の皇都タルーカスは東へ約二千五百キデルトの距離にある。
 だがそれは直線距離で、あくまでも地図上の話だ。
 それにマルソル内海を挟む。
 通常なら陸上を大きく迂回する。

 しかし、旅する宮殿ヴェルーユは、マルソル内海の上をそのまま通過が可能だ。
 文字通り直線距離で進むことができるため、約二千五百キデルトをたったの一日で進むことができる。
 今まではクラップ山脈を迂回し街道を進む必要があったので、二ヶ月近くかかっていた。

 旅する宮殿ヴェルーユに搭乗し、四階の操縦室に入る。
 さすがにヴァルディは入れないので、一階フロアで待機していた。

 操縦室は、大きな強化ガラスの窓で囲まれており周囲の景色が見渡せる。
 先頭にある操縦桿を握るのは操縦士のアガス。
 アガスは機体のメンテナンスから操縦まで全てを行う。

 アガスに並び立つシドが全員を見渡す。

「諸君、旅する宮殿ヴェルーユはこれからエマレパ皇国へ飛行する。船体が安定するまでは立ち上がらないように。私が合図を出すまで、そのソファーに座っていてくれ」

 操縦桿の後ろにあるソファーは、進行方向に向かって二列になっている。
 一列十人は座れる長さだ。
 俺たちは各々好きな場所に座った。

「アガスよ。振臓アンプを起動させるのだ」
「はい!」

 振臓アンプが稼働すると旅する宮殿ヴェルーユ周囲の空気が揺らめく。
 この時、気流というものが発生するそうだ。
 この気流に乗ることで船体が浮くという仕組みらしい。
 ヴェルギウスの巨体が浮遊できたのも、この振臓アンプの能力だった。

 振臓アンプの動力はエルウッド雷の道ログレッシヴだ。
 エルウッドが振臓アンプに最大威力の雷の道ログレッシヴを放出したことで、すでに一年分の動力を貯めているとのこと。

振臓アンプ起動! 計器類は正常です!」
「よし! アガス上昇させろ!」
「はい! 船体上昇開始!」

 アガスが大きなレバーを動かす。
 徐々に浮く船体。

「お、おい! 浮いてるぞ! だ、大丈夫か!」
「飛空船だもの。浮くわよ? リマ怖いの?」
「こ、怖くなんかない!」

 どう見ても怖がっているリマと冷静なレイ。

「凄いな。これほどの巨体が浮くとは。未だに信じられん」

 ローザは驚きつつも、腕を組んで落ち着いている。

「エルザ! 空を飛ぶのよ! 楽しみだなー」
「わ、私は少し怖いわ」

 メイドの二人が手を握り合っていた。
 俺は怖がるエルザに声をかける。

「エルザ、大丈夫かい? 空の仕事が辛かったら、次回は地上勤務にするよ?」
「ア、アル様。大丈夫です。初めてなので驚いてしまいました。お気遣いありがとうございます」
「うん、無理しないで」

 その横で手を挙げるマリン。

「はい! はい! アル様! 私には?」
「え? マリンは楽しんでるじゃん?」
「もう! 私だって怖いですよ!」
「嘘だ!」

 俺たちのやり取りを聞いて、レイが笑っていた。

 オルフェリアは窓の外をずっと眺めている。
 その表情は喜びで満ち溢れていた。
 俺はオルフェリアの肩に手を置く。

「オルフェリア、ついに君の夢が叶う時が来たよ」
「ええ、これもアルとレイのおかげです。本当にありがとうございます」
「ウォン!」
「フフ、もちろんエルウッドもですよ」

 オルフェリアがエルウッドの頭を撫でる。

 俺たちが話をしている間も、垂直に上昇していく船体。
 窓に目を向けると、もう地上は見えなくなっていた。

「アガス、振臓アンプの振動を切り替えろ!」
「はい! 振臓アンプ切替! これより前進します!」

 飛空船がゆっくり前進を始めた。
 振臓アンプの振動を推進力へ変えるそうだ。
 シドが後ろを振り返る。

「船体が安定した。ここから本格的に飛行に入る。君たちは自由に行動していいぞ。基本的には自宅と同じように過ごして構わない。私とアガスは操縦室にいるから、何かあったら来てくれ。もしくは伝声管があるので使ってくれ」

 そうは言っても皆初めての空の旅だ。
 しばらくは操縦室から離れたくないだろう。
 外の景色を見ていたいし、皆と感動を共有したい。

「それでは皆、良き空の旅を! 出航!」
「出航!」

 シドの号令に全員が答え、アガスが飛行スピードを上げた。
 オルフェリアの夢を乗せ、俺たちはついに大空へ羽ばたく。
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