鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十六章

第274話 二柱の始祖

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 たった一杯の珈琲を飲む時間で、アフラの街へ帰還した火の神アフラ・マーズ
 恐ろしいほどのスピードだった。

「はあ、はあ」

 以前乗った時は、ヴェルギウスと戦っている最中だったから俺は興奮していた。
 感覚も麻痺していたのだろう。
 だが今は冷静だ。
 恐ろしいなんてものじゃなかった。

「ア、火の神アフラ・マーズ! ゆっくりって言っただろう!」
「ブルウゥゥ」
「わ、笑ってるな! わざとだろ! わざとスピードを上げただろう!」
「ブルウゥゥゥゥ」

 火の神アフラ・マーズは絶対に笑っている。

「全く……。もう人を乗せることはないと思うけど、俺以外の人は振り落とされるからな。絶対にやっちゃダメだぞ」

 俺の力でも何度か落ちそうになったほどだ。
 生物の頂点である始祖に注意するのもおかしいが、しっかりと伝えた。

 そのまま火の神アフラ・マーズの背に乗りながらアフラの門に到着すると、作業中のシドとジョージに遭遇。
 火の神アフラ・マーズに乗っているところを見られてしまった。

「ア、アルよ。なぜ君が火の神アフラ・マーズに乗っているんだ?」
「や、やあシド。俺にも……分からないんだ」

 ふとジョージの顔を見ると、見たこともないような表情で目を輝かせている。

「ししししし始祖じゃないか! 始祖じゃ! 始祖じゃ! でかしたぞアル!」

 大興奮しているジョージ。
 年齢が年齢だけに、あまりにも興奮する姿を見て心配してしまった。

 レイとオルフェリアまで出てくる始末。
 大事になってしまった。

 ――

「さて、アルよ。説明してもらおうか?」
「いや、違うんだシド。俺はただ火の神アフラ・マーズにお礼を伝えに行っただけなんだ」
「それは知ってる」
「突然火の神アフラ・マーズが目の前に現れた。で、一緒に弁当を食べて、帰ろうとしたら送ってくれるって」

 俺はすでに火の神アフラ・マーズの背中から下り、一緒に並んでいる。
 全員、無表情で俺たちに視線を向けていた。

 俺は緊張しながら、右手で火の神アフラ・マーズの顔をさする。
 火の神アフラ・マーズもまた、おとなしく従っている。

「あ、火の神アフラ・マーズがオルフェリアの料理を美味しいって」
「……そうですか」

 オルフェリアさえ無表情だ。
 そこへエルウッドが駆け寄ってきた。

「ウォウウォウ!」
「ブルウゥゥゥ!」

 エルウッドと火の神アフラ・マーズの会話だ。
 話の内容は分からないが、楽しそうに話している。
 それを見たシドが吹き出した。

「この世に始祖と弁当を食うやつなどがいるか。本当にアルは信じられん。ハッハッハ」

 シドが笑うと同時に、全員が声を出して笑った。

「アルって動物に好かれるわよね?」
「人間にも好かれますよ?」
「アルよ! 始祖を研究させて欲しいのじゃ!」

 皆好き勝手なことを言っている。
 だが、確かにこの状況は信じられないと思う。

火の神アフラ・マーズありがとう。さあもうお帰り」

 俺は火の神アフラ・マーズにお礼を伝え、帰るように促す。

「ブフゥ」

 火の神アフラ・マーズが首を横に振った。

「え? 帰らない? どういうこと? ここにいるのかい?」
「ブルウゥゥ」

 今度は首を縦に振る。

「い、いやダメだよ! 始祖が街に住むなんてあり得ない!」
「ブフゥ! ブフゥ!」

 頑なに首を横に振る火の神アフラ・マーズ
 さらに俺に向かって、荒い鼻息を吹きかける。

「ウォウ! ウォウ!」

 すると、エルウッドが俺に向かって主張を始めた。
 その内容は想像できる。

「なあシド。火の神アフラ・マーズがここに残りたくて、エルウッドも賛成してる。どうする?」
「ふむ。火の神アフラ・マーズが残ると言っているのだから、まあいいだろう。そもそも我々よりも知能は高いのだ。我々の考えが及ぶ相手ではない」

 俺は火の神アフラ・マーズの顔をさすった。

「ふうう、分かった。火の神アフラ・マーズ。始祖といえども、この国では働いてもらうよ? 特別対応はなしだ」
「ブルウゥゥ」

 嬉しそうに笑う火の神アフラ・マーズだった。

 ――

 結局、数日が経過しても火の神アフラ・マーズは帰らず、本当にこの街に留まっていた。
 そのため、本格的に俺の乗馬としてラルシュ王国で採用が決定。
 だが、困惑の表情を浮かべるシド。

「ふーむ、火の神アフラ・マーズは報酬が必要なのだろうか?」
「アハハ。オルフェリアの料理が好きみたいだし、うちのメイドの料理も喜んで食べてる。それでいいんじゃないかな?」
「始祖が人間の手料理を食べて働くのか。申し訳ないな」

 俺は火の神アフラ・マーズの顔を両手で擦る。

火の神アフラ・マーズ。報酬は美味しい料理でいいだろう?」
「ヒヒィィィン!」
 
 どうやら条件を飲んでくれたようだ。

「シド、火の神アフラ・マーズと呼び続けるのもどうかと思う。種族の名前なわけだし」
「うむ、そうだな」
「名前をつけよう。何か良い名前はないかな」

 シドは少し考えながら、恐る恐る火の神アフラ・マーズの頬を撫でた。

「君の名前はヴァルディだ。古代語で炎の矢という意味でな。君にピッタリだと思う。どうだ?」
「ヒヒィィィン!」

 火の神アフラ・マーズは気に入ったようだ。

 そして、ローザが残っていたヴェルギウスの素材で真紅の馬具一式を製作。
 鞍の装着も問題なく受け入れたヴァルディ。
 俺は時間を見つけてはヴァルディと草原やアフラ火山を走ることで、スピードに慣れていった。

 アフラ火山には、頂上から地上までまるでスプーンで削ったような断崖絶壁、通称『アフラの西壁』がある。
 今ではこの崖を駆け下りても平気なほどだ。

 遠乗りはエルウッドもついてきていた。
 むしろ、エルウッドがヴァルディの速度についてくることに驚く。
 俺と一緒にいたことで、エルウッドは本気を出したことがないのかもしれない。

 俺はアフラ火山の頂上に腰を下ろし、眼下に広がる広大な岩石地帯を眺めていた。

「エルウッドもヴァルディも凄いな。二柱と一緒にいると、過酷な登山すら散歩のようだ」
「ウォン!」
「ヒヒィン!」
「アハハ。さあ、帰ろう」

 俺たちはアフラの西壁を一気に駆け下りる。

「エルウッド! 競争だ!」
「ウォン!」
「ヒヒィン!」

 ――

 ヴァルディが街に来て一週間も経つと、当初大興奮していたジョージはヴァルディの存在に慣れたようだった。
 騎士たちやラルシュ工業の職人たちも、ヴァルディに会うと気軽に挨拶する。

 始祖が普通にうろついている街なんてない。
 しかも、俺とシドしか知らないがエルウッドも始祖だ。

 アフラは二柱の始祖がいる街となった。
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