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第七章

第110話 女二人旅

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 アルと住んでいるウグマの街を出て、数日が経過した。
 街道を進む私の横にいるのは、リマ・ブロシオンとエルウッド。

「レイ。アル君と離れ離れで寂しくないかい?」
「エルウッドがいるから寂しくないわよ。リマもいるし」
「嬉しいこと言ってくれるね」

 リマはイーセ王国クロトエ騎士団の近衛隊隊長で、現在は団長代理も兼務している。
 そして、私がクロトエ騎士団を退団する際に発動された騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスを実行するため、私を迎えに来た。

 騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスの内容の一つに、騎士団や女王陛下の呼び出しには必ず応じるという項目がある。
 もし応じない場合は逮捕状が出るというもの。

 代理とはいえ、現騎士団のトップであるリマが私を迎えに来た理由は、冒険者カードを持っているから。
 帝国内では表立って騎士団の活動ができない。
 場合によっては国際問題になってしまう。

 リマは過去、私と一緒に冒険者パーティーを組んでいたことがあり、実はAランクの冒険者だった。
 帝国のウグマで活動していたので地理にも詳しい上に、私とリマの二人なら移動中何があっても対処できる。
 リマは最も最適な人物だった。
 それに、今はエルウッドもいる。

「ウォン」

 エルウッドを見つめていたら応えてくれた。

「エルウッドは本当にいい子ね」

 本来ならエルウッドはアルから離れない。
 しかし、今回はアルが気を使ってくれてエルウッドを同行させてくれた。

「エルウッド、あなたもアルから離れたくなかったでしょう? ごめんね。でもありがとう」
「ウォンウォン!」

 エルウッドが尻尾を振って、笑顔を見せてくれた。

 ◇◇◇

 街道を進むレイとリマを森の中から見つめる五人の男たち。
 その視線は卑しく、商品を見定めるようだった。

「おい、獲物がいるぞ!」
「女二人に狼牙か」
「しかも女は若いぞ」
「狼牙も高く売れる」
「久しぶりに簡単な仕事だ」

 女二人と舐めてかかっている男たち。
 ゆっくりと仕事の準備に取りかかる。
 仕事とは人身売買だ。
 簡単に終わると思っているのだろう。

 それがイーセ王国最高戦力の二人だと知らずに。

 ◇◇◇

「ひひひ、女二人でどこへ行くのかな?」
「おい! すげー上玉だぞ!」
「売る前に楽しんでもいいか。げへへへ」

 街道沿いの森の中から、五人の男がゆっくりと出てきた。
 風貌からして盗賊か人さらいの類だろう。
 エルウッドが唸り声を上げて構えるが、私はそれを制する。

「エルウッド、大丈夫よ。気にしないで」

 男たちと私たちの距離は約五メデルトほど離れている。

「金髪の方はすっげー美人じゃねえか。大人しくしてりゃ怪我はしねーよ。むしろ気持ちよくなれるぞ。げへへへ」
「私たちをどうするつもりなのかしら?」
「あ? さらって売り飛ばす。が、その前に楽しませてもらうことにした」

 この下衆な男の顔は見覚えがある。

「あら? あなたたち懸賞金がかかってるわよね?」
「ネエちゃんよく知ってるな。俺たちの懸賞金は金貨二枚だぞ?」
「へー、そんなに?」
「強がるなって。抵抗するとどうなっても知らねーぞ。お前ほどの美人なら腕が一本なくても価値は変わんねーだろ。ってかもうダメだ。興奮してきた。げへへへ」

 男たちが全員腰の剣を抜いた。

「リマ」

 私はリマに声をかけるも、すでにリマは剣を抜いて飛び出していた。

 五メデルトの距離を一瞬で詰める、凄まじい瞬発力。
 両手剣グレートソードで、次々と男たちを斬っていく。
 その剣は正確に急所を狙う。

 あっという間に三人の男を斬り倒した。
 四人目は対抗しようと剣を振りかぶるが、振り下ろす前にリマが喉を一突き。

 さすがはイーセ王国近衛隊隊長。
 そしてAランク冒険者。
 人さらいごときでは相手にならない。

「ひいいいいい」

 残った最後の男が叫び声を上げるが、リマはそのまま叩き斬った。

「レイ、全員斬ったよ」
「ご苦労様。正当防衛よ。それに賞金首だし」
「よく賞金首って分かったな」
「ギルドの掲示板に貼ってあったのよ」
「相変わらずの記憶力だな。で、これどうする?」
「賞金は別にいらないし、先を急ぎたいわね」
「そうか、仕方ないな。……暗部にやってもらおう」

 リマがそう言うと、二人の暗部が現れた。

「リマ様、お見事でした」
「すまないが、これの始末を頼めるか?」
「かしこまりました」

 私は暗部に指示を出す。

「少し戻ると街があるから、そこのギルドへ首を出すといいわ。賞金はあなたたちが受け取りなさい。団に申請は不要。そのままもらっていいわよ」
「もったいなきお言葉」

 暗部は国外で秘密裏に諜報活動を行うことから、全員がCランクの冒険者カードを持っている。
 Cランク以上の冒険者カードがあれば、国際的に活動ができるのだった。

 リマが暗部に声をかける。

「良かったなお前たち。団長様からのボーナスだ」
「元団長よ」
「じゃあ、お前たち。あとよろしくな」

 リマは暗部の直接の上司だ。
 私たちは暗部に処理を任せ出発。
 先程の人さらいの襲撃がなかったかのように、街道を進む私たち。

「なあ、レイ。アル君ってやっぱり凄い?」
「身体能力や感覚の全てが異常なのよ。人のそれを超えてるもの。ダーク・ゼム・イクリプスのスピードについていける人間なんていないわ。そしてウォール・エレ・シャットの鉱石でできた尻尾ですら切り落とす力もある。さらには標高三千メデルトで一晩中戦う心肺機能も持っている。そもそも、標高九千メデルトで身体を鍛えてたしね。そうそう、五百メデルト先で監視してる人の気配も感じ取るわよ」
「な、なんだよそれ? ネームドなんか相手にならないくらいの化け物じゃねーか」
「そうよ。アルについていくのは私でも大変なのよ」
「レイも苦労してるんだな」
「最近は特に無理するから、いつか死んじゃうんじゃないかと心配ばかりよ」
「アタシが見てきた中では、レイが全てにおいて最強の剣士で、最高の冒険者だったけどな」
「ふふふ、ありがとう。でも、アルは私なんかもう軽く超えてるもの。だって、初めて剣を握った日にいきなり私と引き分けよ? そんな人間いる?」
「そうだったな。アル君ならネームドどころか、竜種でさえ倒してしまいそうだ」
「竜種なんて倒したら、それこそ世界が変わるわよ」
「いいなー。いつかアタシもパーティーに入れてくれよ?」
「ふふふ、いつかね」

 アルのことだから、次に会う時はまた成長しているはず。
 その姿を楽しみにしながら、私はイーセ王国を目指し街道を西へ向かう。
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