僕の好きな人

たいら

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「今日のことは忘れて?」
 どういう意味だ? それは告白したことも初めてしたキスもそのあとのことも全部含めて?
 ……帰らないでって言ったくせに。
 結局あのあと先にシャワーを浴びた高比良さんに強引にシャワーに促され、家に帰らされてしまった。ショックで言葉の真意を聞くことができなかった。
『高比良さんて本当はどんな人? 俺が知るかよ』
 残業帰りの木島は、これからジムに行くらしい。どういう体力をしているんだ。
「お前にはどう見える?」
『さぁな。ただ仕事の方は昔の人たらしの高比良さんが戻ってきたぞ。あれは完全に客を人間だと思ってないな』
「そんな人じゃないよ」
『フラれたのに庇うなよ』
「庇ってないよ」
 少なくとも俺の前では優しい人だったんだ。
 あれからもこまめに連絡をくれるし、休日にも会っている。でもキスどころか手すら握ってくれない。
 ……まさか付き合ってないとか? あそこまでしたのに? だから忘れろってことか?
 いや、でも高比良さんならあり得るかもしれない。好きでもない相手と結婚できる人だから。
『最近お前漫画サボってるだろ。ちゃんと描けよ』
「もう描けない」
『なんで?』
 だって本当のキスを知ってしまったから。嘘のキスなんてもう描けない。だから知りたいんだ、もっと。
『お前の長所はエロい漫画を描けることだけなのに?』
「…………」
 推しでいてくれさえすれば良いと思っていたころとは違うんだ。
 俺はもう後戻りできないんだよ、高比良さん。







「へぇ。餃子ってそうやって作るんだ」
 高比良さんが餃子の餡を皮で包む俺の手元を不思議そうな顔で見ている。
 休日や仕事終わりに外で食事はしてくれるけど、なかなか家には呼んでくれない。だから料理を作ると言って無理矢理家に来てしまった。
 包み終わった餃子を油を引いたフライパンに乗せて焼いているうちに、高比良さんの美容のためにトマトのサラダを作り、そこに一度も使われていない炊飯器で作ったピラフも添えた。
「美味しいね」
「デヘ」
 初めて作る餃子は形は悪いけどレシピ通りにできたし、トマトのサラダもピラフも高比良さんが美味しいと言って食べてくれている。
 こうやって休日のたびに二人でご飯を食べられるのは幸せだ。一人の食事に慣れきっていたからなおさら。
 でもやっぱりそれだけじゃ足りないんだ。
「今日は帰らなくてもいいですか?」
「…………」
 餃子を食べる高比良さんの手が止まった。餃子をじっと見ている。
「高比良さん?」
「帰った方がいいよ。僕も仕事があるから」
 高比良さんが俺から目をそらしながら言った。
 ……嫌だ。絶対に帰りたくない。今日こそはここに泊まってやる。
 高比良さんはいつも門限のように八時には俺と別れようとするから、タイムリミットは八時だ。
 食事が終わり、皿を洗っている高比良さんに声をかけた。
「やっぱり今日は帰りたくないです」
「…………」
 返事のない高比良さんの顔を見ると、高比良さんは蛇口から流れる水を見ていた。
「高比良さん?」
「あ、ごめんね。緊張するとボーッとしちゃうんだ」
 ……変な人。高比良さんはやっぱり変な人だ。
「もっと一緒にいたいです」
 思い切って高比良さんの首に手を回したけど、高比良さんは俺を見てくれない。
「嬉しいけど久我山くんにだけは嫌われたくないんだ」
「絶対に高比良さんを嫌ったりしません」
「でもなんかかわいそうで」
 ……かわいそう? 高比良さんに俺はどう見えているんだ?
「高比良さん」
 こうなったら俺から誘うしかないのか。本当の俺は一人で妄想でエロ漫画を描いてるドスケベだってバレるのは怖いけど。
 抱きついて肩に顔をうずめながら言った。
「……高比良さんとしたいです」
 でもどうしても我慢できないんだ。







「……んっ……んっ……」
 高比良さんと後ろから繋がっていた。
 後ろからの方が入りやすいと言われたけど、さんざん解してもらったのに、どうしても奥まで高比良さんを受け入れることができないでいた。
 ……挿入がこんなに難しいとは思わなかった。
「久我山くん、もう止めようか?」
「……いやです」
 首を横に振って嫌がったけど、高比良さんは動くのをやめてしまった。
「……ごめんなさい」
 自分から誘ったのに情けない。
「謝らないで」
 後ろから覆いかぶされ、キスをされ、乳首をつままれた。
「……んっ……あっ……!」
 キスをされながら乳首をいじられると、自然と腰が動いていた。
 舌を絡ませながら、乳首をいじる高比良さんの手に手を重ねて腰を揺らしていると、突然高比良さんに背中を押された。
「えっ」
 上半身をシーツに倒され、腰を持たれると、高比良さんがさらに奥へと俺を貫いた。
「……あっ!! ……」
 すぐに高比良さんは動き出して、何度も俺を突き刺した。
「……あっ! あっ! あっ! あっ! ……」
 ローションで潤っているそこが高比良さんの形に広がっていくのを感じた。激しく腰を打ち付けられ、シーツを握ることしかできなかった。
「……あっ! あっ! あっ! あっ! ……」
「……あっ! ……」
 高比良さんの動きが止まり、高比良さんの体重で押し潰されながら、引き抜かれた。
 ようやく訪れた解放感に、体はぐったりとしていた。
「ごめんね」
 目を開けると、後ろから俺を抱きしめる高比良さんに心配そうに顔を覗き込まれていた。
「…………」
「こうなってしまうと思ったから怖かったんだ」
 ……この人は本当に。この見た目だから許されていることがたくさんあるんじゃないだろうか。こんな顔で謝られたら許すしかないじゃないか。
「……次はちゃんと優しくしてくれたら許してあげます」
 そう言って高比良さんにキスをすると、キスをしながら仰向けに押し倒された。
 高比良さんが上に乗り、足を開かれて、また俺の中に高比良さんが入ってきた。
「……あ……」
 すぐに奥まで入ってしまった。
 キスをしながら高比良さんが動き出した。
「…………」
 ゆっくり動く高比良さんに体を貫かれながら、全身に高比良さんを感じていた。
「……ん……ん……ん…………」
 高比良さんを抱きしながら、ようやく全ての魔法が解けていく気がした。



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