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受け入れてくれるだろうか-ジークフリート視点-

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 「随分としっかりした子だったな。」

 そう話しかけて来たのは、ジークフリートの側近として幼い頃から苦楽を共にしたアーサーだった。

 野営とはいえ久しぶりに穏やかな食事の時間を過ごしていると、自然と先程見送った次代の魔女の話となるのは必然だろう。

 彼女との出会いは唐突だった。

 結界の内側で何やら小さな生き物が木の幹に何かをしている様子を見つけ、近づくとそれはそれはまだ成人を迎えているようには見えない少女だった。

 私たちの存在を確認した途端に逃げ出された時には慌てたが、引き止める声を振り切って逃げることもなく、結界の中にまで招き入れてくれた時には流石に警戒心が薄いのではないかと心配になったが、大森林に跋扈する巨大な魔獣の姿を見たことがあれば、相手がどうであれ安全な場所へと気を遣った結果だろう。
 
 私たちが来訪した理由に心当たりはなかったようだが、それについては屋敷に戻り確認してくると言う。

 次代の魔女は、見たところ10歳前後の少女のようだが、話し方は随分と大人びていた。

 「確かに子どもらしさはなかったが、次代の魔女としてリーナ様が選ばれたのだから、相応の能力があるのだろうな。」

 「まぁねぇ。ちょっと身近にはいないタイプだよね。それにしてもさ、ジークの喋り方、魔女様に対して固いと言うか、おじさんくさいというか…。まだ23歳なんだからさ、もう少し砕けた感じの方が親しみやすくなるんじゃない?」

 「そうだろうか…。ただ、固いと言われるのは慣れているが、おじさんくさいはひどいんじゃないか?」

 「いや、そこは否定できないね。俺たちの中ではそれほど違和感のない喋り方も、彼女くらいの子ども相手だと威圧感があるというか…。ちょっとは意識した方が良いかもね。」

 「言われてみれば確かにそうかもしれないな。お前のいう通り意識してみるが…。それよりも、お前のしゃべり方は砕けすぎじゃないか?」

 「ははは。確かにね。でも、お前が相手だからっていうことも分かってるんだろ?」

 ジークフリートは、ふっと小さく笑うと少し冷えてしまったスープを口に運ぶ。

 「ところでさ、ジーク。彼女、俺らを受け入れてくれると思うか?」

 「どうだろうな…。こうして結界の中にまで入れてくれたところをみると、早々に追い返すようなことはされないと思うが、しばらく一緒に生活するとなるとどうだろうな。」

 「そうは言っても、お前だけは後見人として、彼女の側にいなくちゃいけないんだろ?俺たちは、ここで追い返されたって構わないし、そのつもりでお前の護衛としてここまで来た。俺たちは国に帰っても居場所がある。だが、お前は違うだろ?」

 「そうだな。騎士団長になったばかりだったし、公爵家の人間として兄たちを支えていくと思っていたからな。それを全て捨てての後見人だと知って、最初は戸惑ったが、誰もが選ばれるわけじゃないと思えば、案外、素直に受け入れることができたよ。だから、もし受け入れられないと言われるのであれば、魔女殿の気持ちが変わるまで、結界の外であっても留まるだろうな。」

 「ふっ、お前らしいな。じゃ、もしもの時には俺も一緒に留まってやるよ」

 「あぁ。頼りにしてる」

 ゆっくりとした時間が流れる中、2人は食事を楽しむ。

 さくらは、後見人のことを確認次第、迎え入れる準備をするとこの場を後にしたが、必ず戻って来るかは分からない。

 多少の不安を抱える中、世は更けていく。

 彼等たちは、まだ知らない。さくらがあっさりと受け入れる判断をしていることを。そして、そのために住居の準備までしていることを…。

 

 
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