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10.ずっと愛してる
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「どうして逃げなかったの? 私はレイをさらって、監禁して、だからお人形みたいになっちゃったんだよね?」
素直にサフィアを受け入れる彼が愛しくて仕方なかった。サフィアがいないとなにもできない人形でいてほしかった。
そうじゃないと真っ直ぐで正義感の強いクレイは、すぐにでも国に帰ってしまう気がしていたから。
無邪気な笑顔が見れなくなったのは心の一部が壊れてしまった証だと思っていたのに、目の前の弟はサフィアのよく知った顔で微笑んでいる。
「俺が姉さんから逃げるわけないよ。それに、人形の俺を望んだのは姉さんでしょ」
「そうだけど、だってだって……レイ、本当のことを思い出してすごくびっくりしてたし、無理やり手ごめにしたし……」
理解の追いつかないサフィアはうまく言葉を紡ぐことも出来なかった。今まで強気でいられたのはクレイが逃げ出せない自信があったから。
「姉さんが嬉しそうだからあのままでいるつもりだったけど、やっぱりやめるよ」
混乱するサフィアをあたたかな腕が包みこむ。こんなに強く抱きしめられることなど初めてだった。
かすかに鼻をかすめる彼の匂いが、昔から好き。
「姉さん」と低く呼びかける声はサフィアの背中をぞくりと震わせる。
「俺、ちょっと怒ってるんだよね。ずっと一緒って言うくせに、自分は俺から離れるし。本当は少しの間でも姉さんが部屋から出るの、すごく嫌だった。離れたら許さないんじゃなかったの?」
責めるような内容とは裏腹に声音はやたらと甘くサフィアの耳朶を掠める。
初めて聞いたクレイの強い独占欲は、思考を奪うほど情熱的で鮮烈だった。
ぴくんと震える細腰を硬い指が艶めかしい所作でなで上げる。
「だから今度は俺が姉さんを飼ってあげる。どうしても姉さんが出ないといけない時は代わりに俺が行ってあげるよ。だから姉さんはあの部屋から出ないで」
その提案にサフィアは首を傾げた。
「レイは、部屋から出ちゃうの?」
それなら離れる時間は同じなのに。不服なサフィアが上目遣いで見上げるとクレイは当然とばかりの顔をしている。
「だって俺のほうが強いよ、きっと。それに姉さんの綺麗な肌に傷がつくの嫌だし、俺以外の誰かに見せたくない。姉弟じゃないなら気持ちを押し殺す必要ないもんね」
くすりと笑うクレイはサフィアの髪を掬い、艶のある銀糸に口づける。
「禁忌に巻き込みたくなかったからずっと我慢してたのに、まさか姉さんに襲われるとは思わなかったな。あれもいいけど、これからは俺が愛してあげるから。姉さんによく似合う枷も用意しないとね」
「……愛してくれるの? 本当に?」
素のままのクレイで。姉としてじゃなく一人の女として。
おそるおそる尋ねるサフィアに最愛の弟は嬉しそうな顔で頷いた。
「ずっと愛してるよ、俺だけの可愛い姉さん。姉さんは一生、俺とあの部屋で過ごすんだ。姉さんが見るのは俺だけで、耳にするのも俺の声だけ。幸せでしょ?」
なんて素敵な提案だろう。幸せすぎて夢のようだ。
感激で声が詰まって、サフィアは何度も頷いた。あふれる涙が赤い瞳を潤ませる。
「嬉しい……。幸せ。ずっと一緒にいてね」
「もちろんだよ。姉さんの不安も、手を煩わせるものも全部俺が取り除いて、たくさん愛してあげる」
まっすぐな視線はどこまでも甘い。サフィアのくちびるを指で撫で、吐息の触れる距離でクレイは囁く。
「だから、俺だけのために生きて」
それはサフィアにとってめまいがするほどの甘美な願い。
クレイがいれば何もいらない。
彼を見つけたあの日からほかのことなど興味がなくなってしまった。それは時を経ても変わらないどころか、更に強い執着となっている。
返事の代わりにサフィアは背伸びをする。重なるくちびるは誓いの口づけ。
囚えたはずが囚われてしまった。
だけどこれでいい。サフィアの毎日は、至福と喜びに満ちあふれているのだから。
素直にサフィアを受け入れる彼が愛しくて仕方なかった。サフィアがいないとなにもできない人形でいてほしかった。
そうじゃないと真っ直ぐで正義感の強いクレイは、すぐにでも国に帰ってしまう気がしていたから。
無邪気な笑顔が見れなくなったのは心の一部が壊れてしまった証だと思っていたのに、目の前の弟はサフィアのよく知った顔で微笑んでいる。
「俺が姉さんから逃げるわけないよ。それに、人形の俺を望んだのは姉さんでしょ」
「そうだけど、だってだって……レイ、本当のことを思い出してすごくびっくりしてたし、無理やり手ごめにしたし……」
理解の追いつかないサフィアはうまく言葉を紡ぐことも出来なかった。今まで強気でいられたのはクレイが逃げ出せない自信があったから。
「姉さんが嬉しそうだからあのままでいるつもりだったけど、やっぱりやめるよ」
混乱するサフィアをあたたかな腕が包みこむ。こんなに強く抱きしめられることなど初めてだった。
かすかに鼻をかすめる彼の匂いが、昔から好き。
「姉さん」と低く呼びかける声はサフィアの背中をぞくりと震わせる。
「俺、ちょっと怒ってるんだよね。ずっと一緒って言うくせに、自分は俺から離れるし。本当は少しの間でも姉さんが部屋から出るの、すごく嫌だった。離れたら許さないんじゃなかったの?」
責めるような内容とは裏腹に声音はやたらと甘くサフィアの耳朶を掠める。
初めて聞いたクレイの強い独占欲は、思考を奪うほど情熱的で鮮烈だった。
ぴくんと震える細腰を硬い指が艶めかしい所作でなで上げる。
「だから今度は俺が姉さんを飼ってあげる。どうしても姉さんが出ないといけない時は代わりに俺が行ってあげるよ。だから姉さんはあの部屋から出ないで」
その提案にサフィアは首を傾げた。
「レイは、部屋から出ちゃうの?」
それなら離れる時間は同じなのに。不服なサフィアが上目遣いで見上げるとクレイは当然とばかりの顔をしている。
「だって俺のほうが強いよ、きっと。それに姉さんの綺麗な肌に傷がつくの嫌だし、俺以外の誰かに見せたくない。姉弟じゃないなら気持ちを押し殺す必要ないもんね」
くすりと笑うクレイはサフィアの髪を掬い、艶のある銀糸に口づける。
「禁忌に巻き込みたくなかったからずっと我慢してたのに、まさか姉さんに襲われるとは思わなかったな。あれもいいけど、これからは俺が愛してあげるから。姉さんによく似合う枷も用意しないとね」
「……愛してくれるの? 本当に?」
素のままのクレイで。姉としてじゃなく一人の女として。
おそるおそる尋ねるサフィアに最愛の弟は嬉しそうな顔で頷いた。
「ずっと愛してるよ、俺だけの可愛い姉さん。姉さんは一生、俺とあの部屋で過ごすんだ。姉さんが見るのは俺だけで、耳にするのも俺の声だけ。幸せでしょ?」
なんて素敵な提案だろう。幸せすぎて夢のようだ。
感激で声が詰まって、サフィアは何度も頷いた。あふれる涙が赤い瞳を潤ませる。
「嬉しい……。幸せ。ずっと一緒にいてね」
「もちろんだよ。姉さんの不安も、手を煩わせるものも全部俺が取り除いて、たくさん愛してあげる」
まっすぐな視線はどこまでも甘い。サフィアのくちびるを指で撫で、吐息の触れる距離でクレイは囁く。
「だから、俺だけのために生きて」
それはサフィアにとってめまいがするほどの甘美な願い。
クレイがいれば何もいらない。
彼を見つけたあの日からほかのことなど興味がなくなってしまった。それは時を経ても変わらないどころか、更に強い執着となっている。
返事の代わりにサフィアは背伸びをする。重なるくちびるは誓いの口づけ。
囚えたはずが囚われてしまった。
だけどこれでいい。サフィアの毎日は、至福と喜びに満ちあふれているのだから。
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