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9.俺が怖い?

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 途中の見張りも全て取り払ったため、ここに辿り着くことは容易だろう。

 そんなサフィアの読み通り、現れたのは槍を構えた者、魔力を有する者、そして剣を持つ者。

 圧倒的な魔力圧を前にしても逃げ出さない気力は褒めてやってもいい。

 

 しかし不届き者たちを無傷で帰すつもりなど、もちろんこれっぽっちもなかった。

 しかも、

「魔族の娘、勇者様を返してもらおうか」

 そんなことを言うものだからサフィアはぴくりと眉を上げた。

 

「誰に向かって口を聞いている。クレイは私のものよ。どうして大切な宝物をお前たちにあげないといけないの?」

 

 腹立たしい下等生物に手加減など必要ない。話しながらもサフィアは指先に魔力を集中させる。

 それに気づいた男が斬りかかろうとしたその時、サフィアの横を駆け抜けた影があった。

 

 続いてヒュッと風を切る音。

 予想外の乱入者に訝しげな視線を向けたサフィアの瞳が大きく見開かれる。

 そこには崩れ落ちた人間たちと、顔にかかった返り血を雑に拭うクレイがいたからだ。

 

「レイ……?」

 

 聖剣を握る彼の腕に手枷はない。呆然と呟いた小さな声に反応した弟はサファイアを振り返る。

 

「危ないことしちゃダメだよ、姉さん。ケガはない?」

 

 そう言って笑う顔は久しぶりに見る懐かしい表情。

 侵入者たちはおそらくわけもわからないうちに息絶えたのだろう。断末魔の叫びさえなかったのだから。



 赤く濡れた刀身は一振りするだけで清廉な白を取り戻した。鞘に戻したクレイはまっすぐにサフィアの元へ足を進める。

 

「レイ、どうしてここに……。手枷は?」



 あれはサフィアの魔力で鍵をした強固な枷だ。決して誰にも外せないはずなのに。

 なにが起きているのかわからないサフィアの手を取ったクレイは、うっとりと自分の頬に押し当てる。

 

「せっかく姉さんがくれたのにごめんね。この剣を持ってから日に日に魔力も強くなってくみたいで、実はあの手枷も簡単に外せるんだ」



 それはすなわちサフィアに匹敵する魔力を持つということ。恩恵を惜しまない女神はよほど弟を気に入ったらしい。

 無意識に後ずさったサフィアの腰をクレイの腕が引き寄せる。

 

「どうしたの、姉さん。俺が怖い?」



 腰が引けたのは単純に恐怖を覚えたせいだ。だけど自由を得た彼を引き留める術がないと思えば、それ以上に怖くなった。

 どうしてまだここにいるのだろう。サフィアの揺れる瞳をクレイはじっと見つめ返している。
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