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閨の練習相手12

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 ぼうっとしたまま夜を明かし、窓の外が明るくなった。

(ちょっと……エロゲーにしては重すぎない?)

 そうだ、ゲームだ。
 ゲームのはずなのに……。

(っていうか、ゲームだよね? いつデータがセーブされてるんだろう……)

 寝ることでセーブになっているのだろうか。
 いや、それよりも今現実時間はいったい何時なのだろう。どうやってゲームを止めるのだろう。
 試しに「ゲームセーブ」と口に出してみる。しかし何も変わらない。今度は「ゲーム終了」と言ってみる。が、やはり何の変化も起きなかった。

(自分の意思ではやめられないってこと……?)

 もしそうなのだとしたら、ゲーム世界に閉じ込められた状態ということだろうか。

(設定された主要キャラクターが全員誰かと結ばれるか、もしくは王子に子どもができるまで続くってこと……?)

 でももしその前に戦争が起きたらどうなるのだろう。
 戦争――ニュースでしか見たことがない。もしそれを、たとえゲームといえ体感したら。
 想像するだけで怖かった。絶対に避けたい。
 現実に戻れないのも困る。このままだと、月曜からの出勤がどうなるかわからない。
 けれど、今すぐここから出ていく気にはなれなかった。

(……レオン……)

 レオンに死んでほしくない。あと数年で殉職なんて絶対にあってはならない。そんなふうに諦めてほしくない。

(つまり、戦争エンドは絶対回避しなきゃいけないってことよね)

 ということは、やはり王子にはセリーヌと結婚してもらい、無事に子どもを作ってもらわなければならないということだ。

(……え、あのルックスで童貞? え、やば、かわい……ん? ってことは、私がちゃんと王子にセックスを教えなきゃいけないってこと……?)

 ようやくこのゲームのシナリオが読めた。

(マジかぁああああああああああああ……!!)





 そうは言っても飯はうまい。
 今日の夕食はサイコロステーキににんじんのグラッセ、コーンポタージュに白米、バゲット、チョコレートプリン。クリエイターグッジョブ。まるで重いシナリオを少しでも軽く見せかけようとしているかのようだけれど。

「食いすぎるなよ」
「……わかってるわよ」

 どうして夕食になると背後の席に来るのだろうか。
 振り返り、レオンを見る。やはりレオンは背を向けたまま、アリスを見ることはない。

(学園ものの、隣の席みたいな感じなのかなぁ……)

 おそらく、夕食のときには必ず会える設定になっているということだろう。
 最後にとっておいたプリンを食べていると、通りすがりの給仕がアリスを見て目を丸くした。

「おかわりしないんですか?!」

 その声を聞いた他のメイドが声を上げる。

「ロイド先生をお呼びしましょうか!」

 それがいい、と答えたのはどこかの老爺。
 この二日間でいったいどんなイメージを持たせてしまったのか。

「これまでが食べすぎだっただけなんです。どうしてもおいしくて。でもこれからは少し控えめにしようかと」

 ふふ、と上品に笑ってみる。
 ぽかんとされてしまったので、逃げるように席を立つ。食器を片付けて部屋に入ると、ぐぅう……とお腹が悲鳴を上げた。

(素直すぎないか、私のお腹……)

 どうやらここに来てから胃が大きくなったらしい。こちらでの体形が現実世界に影響することはないだろうが、と考えて気付く。

(え、じゃあやっぱりこっちでたくさん食べた方がお得じゃない?)

 味覚はある。食感もある。食後の満腹感だってある。それなのにいくら食べても太らないのなら天国だ。

(あ、けど現実世界に戻ろうとしても戻れないんだよね……)

 こちらの世界で太れば、結局レオンにごちゃごちゃ言われる。それは避けたい。

 しばらく窓から外を眺めて、胃が落ち着いたところで入浴する。今日は、湯にも浸かった。体だってこれまでの三倍くらい丁寧に洗った。今はもう使っていない耳のピアスホールも。

 風呂から出ると、今度は着替え。前回のレオンの発言によってナイトランジェリーは素肌に着るらしいとわかったので、慎重に選ばなくてはならない。

(少しでも透けないやつ……)

 そして丈が長いやつ。
 いくつかめぼしいものを見比べていると、ノック音が鳴った。慌ててバスローブから服に着替え、ドアを開ける。
 レオン以外の誰かだろうと思ったのに、廊下にいたのは絶対にありえないはずのレオンだった。

「……今誰かここにいた?」
「俺だけだが」
「……え、じゃあノックは空耳?」
「俺がした」

 レオンの眉間に寄ったしわ。怒りを抑えることを覚えたらしい。成長。

「え、もう時間だった?」
「風呂、まだなのか」
「や、入ったけど……何を着ようか迷ってて」

 今からこの男に見せるためのランジェリー。そう意識したら、ぶわっと頬が熱くなった。

「なんでもいい」
「なんでもって……まあ、レオンはそうかもしれないけど」

 別に性の対象でも何でもないのだ。ただ仕事で夜をともにするだけ。しかもメインは行為ではなく王子への解説だ。
 すぐ着替えるから待ってて、とドアを閉めようとしたとき、レオンが隙間からするりと室内に入った。
 ベッドに並んだランジェリーを見下ろす。

「これがいい」

 選ばれたのは、白いサテン生地のもの。さらりとした触り心地はいいけれど、身に着けたときに透けてしまわないか心配だった。

「さっさと着替えろ」
「……はいはい」

 どうやら趣味ではなく、一番手前にあったから選んだだけらしい。ドアに戻るレオンを追いかけて、背中にぶつける勢いでドアを閉める。

(こっちの気も知らないで!)

 ただの最低男だったらよかったのに。そうしたら、全クリ――を諦めることはないけれど、もう少し何か手を考えたのに。

(あの若さで殉職を覚悟してるなんて悲しいじゃない……)

 それに仕事で性行為をするのだって、とても寂しい。
 けれどそれは、この国に生きるレオンの覚悟のように思えた。
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