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閨の練習相手13

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 今日も強引なキスから始まるかと思ったのに、大きなベッドに入れられた。頭の下にはレオンのたくましい二の腕。二メートルほど離れたところに座る王子の視線と、吐息が触れそうなほど近いレオンから顔を逸らす。

「寒くないか」
「……ええ」

 初心者なのは、王子だけではない。たしかにエロゲーのおかげで知識だけは王子よりも豊富かもしれないけれど、アリスとて実践経験はゼロだ。

(獣人とのもふもふ肉球マッサージプレイならばっちりなんだけど)

 しかし、とにかく覚悟を決めなければいけない。
 体を右に傾け、レオンの胸に顔をうずめる。
 もしかしたら「拾い食いでもしたのか」なんてからかわれるかもしれないと覚悟したのに、レオンは静かにアリスの後頭部を撫でた。

「怖くない」
「レオン……?」
「怖いことはしない」
「……ん」

 今、レオンはどんな気持ちでそれを言ったのだろう。自分は毎日、生きるか死ぬかという恐怖のなかで過ごしているのだろうに。
 そして王子も、いったいどんなことを考えているのだろう。ただ義務的に、国のためにうまく行為ができればいいと、淡々と見学しているのだろうか。
 なぜか、レオンが体を起こした。アリスの頭の下から腕が抜けて行く。

(レオン……?)

 レオンは足元に畳まれていた毛布を広げ、アリスの体を隠すように肩が隠れるほどしっかりと掛けた。それからもう一度ベッドに横になり、毛布ごとアリスを抱きしめる。

(寒いわけじゃないのに……あったかい……)

 レオンの本心が読めない。けれど自分の趣味でもなければ好きな相手でもないはずなのに、わずかに触れた肌から優しさが伝わってくるような気がした。

(……たぶん、ペースを合わせてくれてる)

 異世界から呼び出すのは純潔だと言っていた。だから一昨日すぐにやめたのも、アリスが処女であることを気遣ったのだろう。

「……レオン」

 返事はなかった。けれど、アリスを抱く腕の力がわずかに弱まる。

「もう、大丈夫だから。その……」

 やはり返事はなかった。けれど背中を包んでいた腕が毛布越しに脇腹を撫で、そこから脇に向かって上がり、再び背中に回った。それから後頭部を包むように撫でられる。

(愛撫……?)

 よく、わからない。
 でも気を遣われているのなら――自分といるときくらいは何も考えずにいてほしかった。

「……レオン、入って」

 毛布を持ち上げ、中に誘う。服を着たままのレオンは、断ることなくアリスと一枚の毛布に入った。

「寒いか」
「ううん」

 でも、初めてゆったりと感じる男性の体温は温かかった。緊張しているはずなのに、手を出される雰囲気がないせいか落ち着く。

「怖かったら言え。一昨日のように、体を押し返してもいい」
「ん……」

 いよいよ始まる。
 目を閉じると、後頭部の手が耳の後ろを撫でて首筋を通り、頬を包んだ。
 とても目を開けていられる状況ではなく、ぎゅっと閉じたまま感覚だけでレオンの動きを追う。
 レオンの親指が、アリスの唇に触れた。思わず目を開ける。ピントも合わないほど近くにレオンの顔があった。

(あ……)

 キスをされる。そう思ったのに、レオンの唇が触れたのは指だった。レオンの親指越しのキス。

(したくない……? それとも気を遣った……?)

 もしくは、あくまでセックスの講義だから本当にキスをする必要がないのか。
 どこか残念に思ってしまいそうな心に蓋をして、目を閉じて気にしていないふうを装う。

 レオンは続いてアリスの顔じゅうにキスを降らせ、それからようやく肩に触れた。
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