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最終章 笑顔の絶えない世界

新たな姿

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 七人の一斉攻撃で、エジタスを追い詰めたと思った矢先、いつの間にか背後を取られていた。



 「何だあの姿は……」



 「全身骨だけの姿……エジタスの奴、アルシアさんと同じ種族のスケルトンだったのか?」



 「わ、私が知っている限りでは、人間の筈です……」



 「だよな…………」





 七人は酷く動揺していた。背後を取られたのもそうだが、それよりもエジタスの姿の異様な変化に酷く動揺した。



 「それに……スケルトンだったら、目や心臓があるのは不自然だ」



 「ぞれを言っだら、目や心臓以外何も無いのは人間どじで不自然だぁ」



 その姿は一見すると、スケルトンその者だが、スケルトンにはある筈の無い目玉や心臓が確認出来た。



 「…………ふっ」



 「「「「「「「!!?」」」」」」」



 エジタスが、七人の動揺振りを鼻で笑ったその瞬間、エジタスは足に力を込めて瞬く間に七人の目と鼻の先に跳んで来た。



 「マオ!!危ない!!」



 「マオウサマ!!」



 咄嗟にフォルスとゴルガの二人が、真緒とサタニアの前に飛び出し、身を呈して守ろうとする。



 「安心しろ…………全員まとめて殺してやるよ」



 するとエジタスは、七人の目の前から一瞬にして消えてしまった。



 「き、消えた!?」



 「い、いったい何処に!?」



 「…………上だ!!」



 辺りを見回しながらエジタスを捜す中、シーラが空を見上げ指差しながら大声で叫んだ。その声に続き、残りの六人も一斉に空を見上げると、そこにエジタスはいた。右手と左手を組み合わせ、大きな拳を作り出し振り上げていた。そして放物線を描く様に、重力に身を任せて地上にいる七人目掛けて勢い良く振り下ろした。



 「ゴルガ、受け止めろ!!」



 「ウォオオオオオ!!!」



 シーラは迫り来るエジタスの拳を受け止める様、ゴルガに指示。ゴルガはシーラに言われた通り、自身の両腕を重ね合わせて真上に掲げ、エジタスの拳を受け止めた。



 「シーラノイッタトオリ……パワーダウンシテイル……コレナラ……」



 「これなら“勝てる”って?……それはあまりにも早計な考えじゃないか?」



 「!!?」



 その瞬間、両腕で受け止めていた筈のエジタスの姿が忽然と消えてしまった。



 「キ、キエタ!?」



 「はぁ!?まさか、“転移”!?」



 「それはあり得ません!!骨肉魔法を扱っている間、他の魔法を扱う事は出来ない筈です!!」



 「その通り」



 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 七人は慌てて、声のした方向に顔を向ける。すると七人の中、まるで溶け込む様にエジタスが立っていた。



 「い、いつの間に!!」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 「こいつ!!スキル“ヒュドラ”!!」



 突然、七人の間に割って入る形でエジタスが現れた。そんな中、ハナコとシーラが咄嗟にスキルを両脇から、エジタス目掛けて放った。



 「「ぐげばぁ!!?」」



 しかし、放ったその時にはエジタスの姿は無かった。エジタスが突如消え去った事でハナコのスキルがシーラ、シーラのスキルがハナコに直撃してしまった。



 「ハナちゃん!!大丈夫!?」



 「ハナコさん!!しっかりして下さい!!」



 「シーラ!!怪我は無い!?」



 「キヲ、シッカリタモツンダ!!」



 「……ちょ、ちょっと待てよ……さっきまでここにいたエジタスさんは、いったい何処に行ったんだ!?」



 ハナコとシーラの安否を心配する中、フォルスが辺りを見回して消えたエジタスを捜し始める。



 「…………い、いた!!」



 フォルスが指差す方向。そこは七人のいる場所から500メートル程、離れた場所に立っていた。



 「…………」



 するとエジタスは、フォルスが指差したのを確認するや否や、両足に力を込めて強く地面を蹴り上げた。その瞬間、瞬く間にエジタスの姿は消えて無くなってしまった。



 「ま、まただ……また一瞬の内に消えてしまった!!」



 「骨肉魔法を扱っている現状、少なくとも“転移”じゃない……それまで普通だった師匠の動きが、あの異様な姿になってから劇的に変化した……」



 「…………マオ?」



 エジタスが目の前で消えた事に、フォルスが大声で叫ぶ中、真緒だけが顎に指を当てて真剣に考察し始める。



 「姿を消す……“転移”じゃない……異様な姿により劇的な変化……もしかして、もしかして師匠の姿が一瞬の内に消えて無くなるのって……「おっと、その答えは胸の内にしまっておくんだな」…………!!?」



 何かに感付いた真緒。しかしその直後、真緒の背後にエジタスが突然現れた。そしてエジタスは、その勢いのまま真緒の顎に強烈な拳を食らわした。



 「ぶっ!!!」



 「マオ!!」



 「マオさん!!」



 「しっかりしろ!!マオ!!マオ!!」



 真緒は顎に強烈な一撃を貰い、仰向けに倒れて気を失ってしまった。仰向けに倒れた真緒に対して、安否を心配して必死に声を掛け続けるサタニア達。そんな中、フォルスは倒れた真緒の両肩を揺さぶって、意識を取り戻させようとする。



 「…………んっ……んん……」



 両肩を激しく揺さぶられた事で、真緒の意識が回復した。しかし顎を強く殴られた事で、口の中は出血していた。



 「マオ!!良かった……無事で本当に良かった……」



 「み、みんナ……」



 口の中が出血している為か、上手く言葉を発する事が出来なかった。



 「……やはりこの姿では力不足なのが否めないな……」



 真緒の意識が回復し、心の底から喜ぶサタニア達に対して、エジタスは真緒の顎を殴った自身の右手を見つめて、力不足を嘆いていた。



 「みんナ……分かったヨ。一瞬の内に姿を消す師匠の秘密……」



 「本当ですか!?」



 「だけどそれは、秘密と言える程の秘密では無かった。単純明快……あの姿の師匠は異常なまでに速かった……只それだけだよ……」



 「な、何……それだけなのか?」



 速い。それがエジタスの姿が消え去る真相であった。



 「つまり……消えた様に見えたのも、単に肉眼では捉えきれない速さで動いていたから……」



 「どうやら……私達は深読みしていたようですね……」



 これまで、エジタスの行動は全て常識を超越していた。その超越した行動の数々がいつの間にか頭に刷り込まれ、今回も常識を超越した行動を取っているに違いないと、勝手な深読みをしていたのだ。また、エジタスの姿が異様な変化を遂げた事で、深読みが更に際立ってしまった。



 「……流石だな……こんな短時間で俺の形態の一つを見破るとは……」



 「それより前に、師匠はヒントをくれていました……」



 「…………ヒントだと?」



 「はい、師匠は言っていました。“お前達の言う通り、俺はパワーダウンしている……だが、そんなのは些細な事だ。他の箇所で補えば済む話だ”……と、そのヒントが秘密を解く鍵になりました」



 「…………」



 真緒の言葉に、黙って耳を傾けるエジタス。その様子に、真緒は一気に話始める。



 「パワーダウンしている……それなら他の箇所で補えば済む……パワー以外の箇所で考えられるのは、防御面か速さ面の二択……後は、一瞬の内に姿を消し去ってしまう光景を見て確信しました。師匠は速さで補ったのだと……」



 「…………」



 削ぎ落とせる全ての肉を削ぎ落とし、完全軽量化したその姿は、速さに特化した姿であった。その為、真緒達とサタニア達の肉眼では捉えきれなかったのだ。



 「…………」



           パチパチ



 するとエジタスは、秘密を見抜いた真緒に対して拍手を送り始めた。



 「素晴らしい……俺の何気無い話から、ここまで推測するとは……」



 「師匠…………」



 「……だがそれもここまで……例えこの姿の秘密を理解したとしても、お前達にそれを対策する術は存在しない」



 そう言うとエジタスは、一瞬の内に姿を消し去ってしまった。



 「く、くそっ!!悔しいが、エジタスの言う通り全く何も見えない……これじゃあ何も対策する事が出来ない!!」



 「このままじゃ、殺られてしまいます!!何とかしないと……でも、いったいどうしたら……」



 エジタスが姿を消した事で、七人は慌てふためき始めた。肉眼では捉えきれない速さに、各々は言い知れぬ恐怖を抱き始めていた。



 「落ち着いて皆。肉眼で追うのも大切だけど、本当に大切なのは心の目で見つめる事だ……意識を集中させて……」



 そんな中、サタニアが意識を集中させて心の目で見つめる様に助言した。それに従い、七人全員が目を瞑った。

 「「「「「「「…………」」」」」」」



 静寂。まるで時が止まったかの様に、風の音すら感じられなかった。そう思った矢先、微かに風を切る音が聞こえた。何者かが凄まじい速度で歩き、近づいていた。



 「そこだ!!」



 そんな音に敏感に反応し、音のした方向目掛けて躊躇無く、持っていた槍を突き刺したシーラ。



 「…………がはぁ!!」



 「やったぞ!!命中した!!」



 目を開けると、突き刺した槍の先にはエジタスが立っていた。シーラの槍がエジタスの心臓に突き刺さっていたのだ。



 「これで終わりだな……エジタス!!」



 「…………」



 勝利を確信したシーラ。しかし次の瞬間、心臓を槍に貫かれ苦痛の表情を浮かべていた筈のエジタスの顔が、次第に歪み始める。



 「な、何だこれ!!?」



 「シーラ!!後ろ!!」



 「!!?」



 サタニアの叫び声に、慌てて振り返るシーラ。その背後には、心臓を突き刺した筈のエジタスが、余裕の雰囲気を醸し出しながら立っていた。



 「お、おまっ……どうし……!!?」



 その瞬間、背後に立っていたエジタスは振り返ったシーラの顔面を、勢い良く殴り飛ばした。



 「ぐべっ!!!」



 「シーラ!!」



 「…………」



 顔面を殴られ、後方へと吹き飛ばされて行くシーラ。そんなシーラを見ながらエジタスは、指の骨を右手の親指から順番に鳴らして行くのであった。
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