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エピローグ
398話 見舞い 其の4
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「おはよう。元気そうで何よりだ」
唐突な連絡。耳を掠める声に寝転がっていた伊佐凪竜一は起き上がった。対するツクヨミは露骨に不機嫌そうな顔。が、直ぐに驚き目を丸くした。
「博士!?」
連絡主はカイン。朗らかな笑みを浮かべる男は今より100億年以上前に滅びた原初銀河文明の生き残り。現行銀河に遍く人類と文明に関与した原初銀河を基としている関係上、ある意味では創造主と呼んで差し支えない存在。
「僕からすれば大したことないが、君達からすれば随分と長かっただろうね。ところで、時間はあるかい?」
「何かあったのか?」
カインの問いに重なる聞き慣れた声に、今度は伊佐凪竜一が驚いた。周囲を見回せば、直ぐ傍に浮かぶディスプレイにルミナの顔が映る。どうやら彼女にも連絡を入れていたようだ。
「君達に知って欲しい事がある」
「それは、まだ早すぎます!!」
「承知している。だが、残された時間が分からないんだ。僕も仲間達もその時が何時か分からず怯え続け、監視者の何人かを強引な手段に走らせた。アルヘナも少なからず影響を受けていただろう」
「お待ち下さい!!」
「済まない。だが、希望と呼べるのは君達だけなんだ。だから聞いて欲しい。次の"女王"が来る」
進退窮まった末の決断。カインの告白に伊佐凪竜一とルミナは言葉を失った。呆然。しかし視線は自然とカインを追い、憂いを帯びた目を見た。また、ツクヨミも俯き口を固く閉ざす。悲壮な空気に2人は全てを察した。次の女王は慈悲も容赦も持ち合わせていない。
2人に力を貸した女王は何を理由にしてか、滅ぼすべき人類に強く有れと道を示した。それは紛う事なき慈愛。また、偽りない証拠も既にある。マガツヒなど比肩しようのない程に強大な女王が直ぐ近くにいるというのに、誰も何らの影響を受けていない。
しかし次の女王はそうではない。確実に敵で、今度こそ宇宙を滅ぼす。全てを語らずとも、カインの顔が雄弁に語る。
「次、か」
「君達に力を与え、道を示した女王は8つの大罪のうち"拒絶"を司る邪神。女王と呼称される存在はまだ存在する」
「大罪をなぞるなら残りは7体か」
「いや。彼女曰く、傲慢は不在だそうだ。過去に何かあって、他と力を合わせて女王の座から追い落としたと語っていた。つまり傲慢を除く怠惰、憤怒、暴食、強欲、色欲、嫉妬の6体。その何れかが、何時かこの宇宙に来る。誰が来るにせよ、戦いは避けられない」
「誤差だな」
堪えきれず零したルミナの本音に、カインは苦虫を嚙み潰した。確かに、と伊佐凪竜一もごちる。宇宙創世に関わる程に超絶的な力を持つ女王など1体でさえ手に余るというのに、それが6体もいれば尚の事。
「だが、それでも仲間達も僕も希望を探した。明日か、僕が死んだ後か、あるいは宇宙滅亡が先かと時間に怯えながら」
カインが重い口を開いた。対照的に伊佐凪竜一とルミナは押し黙る。超絶的な力を持つ女王が、何時襲来するか分からない。余りにも暗く、想像以上に絶望的な現実が重く伸し掛かる。
「僕はこれから対女王用の切り札の調整に取り掛かる」
「そんな物が?」
「付け焼き刃で、仲間の協力も不可欠だけどね。だが、現状では難しいだろう。誰も僕の考えを受け入れてくれなかった。当然か。共に育ち、苦境を乗り越えようと誓った仲間の大半を殺した敵と手を組むと言ったんだ。理解を求めたけれど、僕の言葉は最後まで届かなかった」
「つまり俺達はその、仲間達を説得しろって事か?」
「君達という希望を見れば、少なくとも話し合いのテーブルについてくれると信じている」
「そしてその後、次の女王と戦うのが私達の役目か」
「そう。だが容易ではない。女王の視点から見れば君達2人と原初人類が辛うじて視界に入る程度で、残りの全人類など足元に蠢く虫けらに付着した雑菌程度にすら認識されない。しかも女王達は惰弱な意志を消滅させ、宇宙を安定させる以外に存在する理由を見出していないそうだ。だから君達という力と意志が必要だ。その力で女王に自らが対等だと認めさせ、その上で君達の輝きで女王の闇を照らして欲しい。拒絶の大罪が人と手を取りあえたのだから、それ以外もきっと……」
消え入る言葉の最期、カインは悲壮な笑みを浮かべた。焦燥。恐怖。映像を通して伝わる感情に、伊佐凪竜一とルミナは突き動かされる。まだ何も知らないというのに、聞きたい事など腐るほどにあるというのに、動いた。動いていた。
「「世話になったと伝えてくれ」」
ベッドから飛び起き、サクヤを飛び出す伊佐凪竜一とルミナ。その勢いに、眼差しにツクヨミも、セラフ達も、医療関係者達も唖然呆然と見送る以外に何も出来なかった。
「ですが、それは余りにも」
消え入る伊佐凪竜一の背中に、ツクヨミが心情を吐き出した。
「余りにも分が悪いのは分かっているよ。でも、唯一の希望なんだ。マガツヒと合一した2人ならば、もしかしたら女王の闇に届くかもしれない」
「届かなければ?」
「その時は、2体の女王という桁違いの力に膨張する宇宙が引き込まれビッグクランチを起こす。宇宙の終焉だ」
「そんな!?では出現した時点でこの宇宙の破滅は確定していると?」
伊佐凪竜一とルミナの身を案じるツクヨミだったが、カインが告げた事実に耐えきれず、ベッドに腰を下ろした。心が、起こり得る未来に押し潰される。しかし同時に理解した。カインを含めた原初人類はこの絶望にずっと耐えながら希望を探していたのだ、と。
やがて、何かを思い立った彼女は2人の後を追うように部屋を後にした。
「頼もしいな」
無人の部屋に、カインの独白が木霊した。
『そうだろう?』
直後、少女の声が重なる。刹那、闇を纏いながら拒絶を司る女王が静かに転移した。少女の姿をした女王は、伊佐凪竜一の熱が残るベッドの端に腰を下ろす。
「君にも感謝するよ。僕が眠っている間に随分と手を回してくれたようだ。寿命さえ無ければと思う。少し、羨ましいよ」
『今はどうでも良い。耳障りのよくない話も聞いている筈だが、そちらはどうする?』
「星霊を使用した文明抹消プログラムも問題だが、神代三剣を解析複製した次世代兵器の雛型"天下五剣計画"か。済まない、君に迷惑を掛けた」
『さした被害はない。今は過去の話だし、直接手を下したのはタナトスと名乗った女だ。それより』
「分かっている。準備を急ぐが、良いのかい?」
急かされたカインは視線を彼の周囲を舞う映像へと移した。映像が映すのは暗黒の宇宙に浮かぶ超巨大なレンズ状の構造物。恒星間を巡る神道を操作し、銀河中のカグツチを集積する機能を持つ超巨大構造物は、更に複数銀河に設置する事で莫大なカグツチを一点照射する事も可能となる。カインが開発した、対女王用の切り札。
『その程度で消滅させられるならもっと気を楽に持てただろう?』
「そう、そうだね。計画は順調だが」
『かつての仲間か。発端となった私が言える台詞ではないが、もう少し加減してやれば良かったのではないか?』
「ハハ、もう手遅れだよ。そもそも追いつかれてしまったらソレこそ殺し合いだ。選択肢なんて無かったよ」
『意志と言うのはつくづく御し難いな』
「あぁ。だが、同時にあらゆる可能性を秘めている。伊佐凪竜一とルミナならば、無数に重なる可能性の中から共存と言う道を掴み取ってくれる筈だ」
可能性。カインの言葉の中に含まれるその言葉を聞いた女王は温もりの残るベッドの中央部を手でなぞりながら、繰り返し同じ単語を呟いた。
呟く度、女王の顔に一抹の寂しさを含んだ優しそうな微笑みが浮かぶ。その様子を無言で見つめるカインを他所に、女王は物憂げな視線を窓の外へと滑らせた。空を見上げれば人工の恒星が煌々と照らし、眼下を眺めれば無数の人だかりが英雄を追いかける光景。
『少しくらい休んでも罰は当たらないだろうに』
今すぐに何かをする意味はないと知っていながら、それでも動く英雄の姿に女王は顔を綻ばせた。
「心づもりだけ持っておいてほしかったのだが、今はその行動力に感謝したい」
『今は己に出来る事をしてやれ』
そう語った女王の顔はどこか呆れがちだった。直接的ではないが、確かに感じる圧にカインは瞼を閉じ、再び苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。その顔が心中を雄弁に語る。やはり性急だった。そんな後悔に支配されている。
「済まない。伝えておく」
『気持ちは理解するが、思慮が足らないな』
「そう思うのならなんとかしてくれ」
『可能性が無いわけではない。こういう事態を想定してた訳ではないが、私の言葉が届いていたら怠けず働いてくれるさ。断定は出来ないがね』
「その言葉、初めて聞くけど信用していいのかい?」
『断定は出来ないと言った』
焦るカインの言葉の端々に、絶望への苦慮が滲む。が、そんなカインの言を女王は無下に切り捨てると病室から姿を消した。程なく、カインも溜息と共に通信を切断した。
開け放たれた窓から差し込む光が、再びもぬけの殻となった部屋を静かに照らす。唯一つ、ベッド正面に据え付けられた巨大ディスプレイから流される報道番組の音声だけが其処に人が居た事実を物語る。
聞こえる声は低い男の声。その声が、連合全体に向け一つの事実を公表する。
「我々に残された時間は不明です。明日か、あるいは100年後か、もしかしたら1億年以上先かもしれません。しかし、確実にその時が訪れる事だけは疑いようのない事実なのであります。次の絶望が来ます。我々はその為に備えなければなりません。記憶に新しい数日前の凄絶な戦いの比ではない、神話に語られる古き宇宙を破壊した戦い。我々人類は"何時来るか分からない"脅威に備え、迎撃しなければなりません……」
唐突な連絡。耳を掠める声に寝転がっていた伊佐凪竜一は起き上がった。対するツクヨミは露骨に不機嫌そうな顔。が、直ぐに驚き目を丸くした。
「博士!?」
連絡主はカイン。朗らかな笑みを浮かべる男は今より100億年以上前に滅びた原初銀河文明の生き残り。現行銀河に遍く人類と文明に関与した原初銀河を基としている関係上、ある意味では創造主と呼んで差し支えない存在。
「僕からすれば大したことないが、君達からすれば随分と長かっただろうね。ところで、時間はあるかい?」
「何かあったのか?」
カインの問いに重なる聞き慣れた声に、今度は伊佐凪竜一が驚いた。周囲を見回せば、直ぐ傍に浮かぶディスプレイにルミナの顔が映る。どうやら彼女にも連絡を入れていたようだ。
「君達に知って欲しい事がある」
「それは、まだ早すぎます!!」
「承知している。だが、残された時間が分からないんだ。僕も仲間達もその時が何時か分からず怯え続け、監視者の何人かを強引な手段に走らせた。アルヘナも少なからず影響を受けていただろう」
「お待ち下さい!!」
「済まない。だが、希望と呼べるのは君達だけなんだ。だから聞いて欲しい。次の"女王"が来る」
進退窮まった末の決断。カインの告白に伊佐凪竜一とルミナは言葉を失った。呆然。しかし視線は自然とカインを追い、憂いを帯びた目を見た。また、ツクヨミも俯き口を固く閉ざす。悲壮な空気に2人は全てを察した。次の女王は慈悲も容赦も持ち合わせていない。
2人に力を貸した女王は何を理由にしてか、滅ぼすべき人類に強く有れと道を示した。それは紛う事なき慈愛。また、偽りない証拠も既にある。マガツヒなど比肩しようのない程に強大な女王が直ぐ近くにいるというのに、誰も何らの影響を受けていない。
しかし次の女王はそうではない。確実に敵で、今度こそ宇宙を滅ぼす。全てを語らずとも、カインの顔が雄弁に語る。
「次、か」
「君達に力を与え、道を示した女王は8つの大罪のうち"拒絶"を司る邪神。女王と呼称される存在はまだ存在する」
「大罪をなぞるなら残りは7体か」
「いや。彼女曰く、傲慢は不在だそうだ。過去に何かあって、他と力を合わせて女王の座から追い落としたと語っていた。つまり傲慢を除く怠惰、憤怒、暴食、強欲、色欲、嫉妬の6体。その何れかが、何時かこの宇宙に来る。誰が来るにせよ、戦いは避けられない」
「誤差だな」
堪えきれず零したルミナの本音に、カインは苦虫を嚙み潰した。確かに、と伊佐凪竜一もごちる。宇宙創世に関わる程に超絶的な力を持つ女王など1体でさえ手に余るというのに、それが6体もいれば尚の事。
「だが、それでも仲間達も僕も希望を探した。明日か、僕が死んだ後か、あるいは宇宙滅亡が先かと時間に怯えながら」
カインが重い口を開いた。対照的に伊佐凪竜一とルミナは押し黙る。超絶的な力を持つ女王が、何時襲来するか分からない。余りにも暗く、想像以上に絶望的な現実が重く伸し掛かる。
「僕はこれから対女王用の切り札の調整に取り掛かる」
「そんな物が?」
「付け焼き刃で、仲間の協力も不可欠だけどね。だが、現状では難しいだろう。誰も僕の考えを受け入れてくれなかった。当然か。共に育ち、苦境を乗り越えようと誓った仲間の大半を殺した敵と手を組むと言ったんだ。理解を求めたけれど、僕の言葉は最後まで届かなかった」
「つまり俺達はその、仲間達を説得しろって事か?」
「君達という希望を見れば、少なくとも話し合いのテーブルについてくれると信じている」
「そしてその後、次の女王と戦うのが私達の役目か」
「そう。だが容易ではない。女王の視点から見れば君達2人と原初人類が辛うじて視界に入る程度で、残りの全人類など足元に蠢く虫けらに付着した雑菌程度にすら認識されない。しかも女王達は惰弱な意志を消滅させ、宇宙を安定させる以外に存在する理由を見出していないそうだ。だから君達という力と意志が必要だ。その力で女王に自らが対等だと認めさせ、その上で君達の輝きで女王の闇を照らして欲しい。拒絶の大罪が人と手を取りあえたのだから、それ以外もきっと……」
消え入る言葉の最期、カインは悲壮な笑みを浮かべた。焦燥。恐怖。映像を通して伝わる感情に、伊佐凪竜一とルミナは突き動かされる。まだ何も知らないというのに、聞きたい事など腐るほどにあるというのに、動いた。動いていた。
「「世話になったと伝えてくれ」」
ベッドから飛び起き、サクヤを飛び出す伊佐凪竜一とルミナ。その勢いに、眼差しにツクヨミも、セラフ達も、医療関係者達も唖然呆然と見送る以外に何も出来なかった。
「ですが、それは余りにも」
消え入る伊佐凪竜一の背中に、ツクヨミが心情を吐き出した。
「余りにも分が悪いのは分かっているよ。でも、唯一の希望なんだ。マガツヒと合一した2人ならば、もしかしたら女王の闇に届くかもしれない」
「届かなければ?」
「その時は、2体の女王という桁違いの力に膨張する宇宙が引き込まれビッグクランチを起こす。宇宙の終焉だ」
「そんな!?では出現した時点でこの宇宙の破滅は確定していると?」
伊佐凪竜一とルミナの身を案じるツクヨミだったが、カインが告げた事実に耐えきれず、ベッドに腰を下ろした。心が、起こり得る未来に押し潰される。しかし同時に理解した。カインを含めた原初人類はこの絶望にずっと耐えながら希望を探していたのだ、と。
やがて、何かを思い立った彼女は2人の後を追うように部屋を後にした。
「頼もしいな」
無人の部屋に、カインの独白が木霊した。
『そうだろう?』
直後、少女の声が重なる。刹那、闇を纏いながら拒絶を司る女王が静かに転移した。少女の姿をした女王は、伊佐凪竜一の熱が残るベッドの端に腰を下ろす。
「君にも感謝するよ。僕が眠っている間に随分と手を回してくれたようだ。寿命さえ無ければと思う。少し、羨ましいよ」
『今はどうでも良い。耳障りのよくない話も聞いている筈だが、そちらはどうする?』
「星霊を使用した文明抹消プログラムも問題だが、神代三剣を解析複製した次世代兵器の雛型"天下五剣計画"か。済まない、君に迷惑を掛けた」
『さした被害はない。今は過去の話だし、直接手を下したのはタナトスと名乗った女だ。それより』
「分かっている。準備を急ぐが、良いのかい?」
急かされたカインは視線を彼の周囲を舞う映像へと移した。映像が映すのは暗黒の宇宙に浮かぶ超巨大なレンズ状の構造物。恒星間を巡る神道を操作し、銀河中のカグツチを集積する機能を持つ超巨大構造物は、更に複数銀河に設置する事で莫大なカグツチを一点照射する事も可能となる。カインが開発した、対女王用の切り札。
『その程度で消滅させられるならもっと気を楽に持てただろう?』
「そう、そうだね。計画は順調だが」
『かつての仲間か。発端となった私が言える台詞ではないが、もう少し加減してやれば良かったのではないか?』
「ハハ、もう手遅れだよ。そもそも追いつかれてしまったらソレこそ殺し合いだ。選択肢なんて無かったよ」
『意志と言うのはつくづく御し難いな』
「あぁ。だが、同時にあらゆる可能性を秘めている。伊佐凪竜一とルミナならば、無数に重なる可能性の中から共存と言う道を掴み取ってくれる筈だ」
可能性。カインの言葉の中に含まれるその言葉を聞いた女王は温もりの残るベッドの中央部を手でなぞりながら、繰り返し同じ単語を呟いた。
呟く度、女王の顔に一抹の寂しさを含んだ優しそうな微笑みが浮かぶ。その様子を無言で見つめるカインを他所に、女王は物憂げな視線を窓の外へと滑らせた。空を見上げれば人工の恒星が煌々と照らし、眼下を眺めれば無数の人だかりが英雄を追いかける光景。
『少しくらい休んでも罰は当たらないだろうに』
今すぐに何かをする意味はないと知っていながら、それでも動く英雄の姿に女王は顔を綻ばせた。
「心づもりだけ持っておいてほしかったのだが、今はその行動力に感謝したい」
『今は己に出来る事をしてやれ』
そう語った女王の顔はどこか呆れがちだった。直接的ではないが、確かに感じる圧にカインは瞼を閉じ、再び苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。その顔が心中を雄弁に語る。やはり性急だった。そんな後悔に支配されている。
「済まない。伝えておく」
『気持ちは理解するが、思慮が足らないな』
「そう思うのならなんとかしてくれ」
『可能性が無いわけではない。こういう事態を想定してた訳ではないが、私の言葉が届いていたら怠けず働いてくれるさ。断定は出来ないがね』
「その言葉、初めて聞くけど信用していいのかい?」
『断定は出来ないと言った』
焦るカインの言葉の端々に、絶望への苦慮が滲む。が、そんなカインの言を女王は無下に切り捨てると病室から姿を消した。程なく、カインも溜息と共に通信を切断した。
開け放たれた窓から差し込む光が、再びもぬけの殻となった部屋を静かに照らす。唯一つ、ベッド正面に据え付けられた巨大ディスプレイから流される報道番組の音声だけが其処に人が居た事実を物語る。
聞こえる声は低い男の声。その声が、連合全体に向け一つの事実を公表する。
「我々に残された時間は不明です。明日か、あるいは100年後か、もしかしたら1億年以上先かもしれません。しかし、確実にその時が訪れる事だけは疑いようのない事実なのであります。次の絶望が来ます。我々はその為に備えなければなりません。記憶に新しい数日前の凄絶な戦いの比ではない、神話に語られる古き宇宙を破壊した戦い。我々人類は"何時来るか分からない"脅威に備え、迎撃しなければなりません……」
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