371 / 432
終章 呪いの星に神は集う
350話 祈る神は既に亡く
しおりを挟む
オリンピア大聖堂――
主星での大勢は決した。星は悪辣な神の手に渡り、唯一阻止し得る可能性のあった伊佐凪竜一達は疲弊し、動く事さえままならない。現人神と呼ばれたフォルトゥナ姫と、自らを魔王と名乗ったカストールもまた夥しい血の海に沈んだまま動かない。
神を名乗るアルヘナはそんな連中を一瞥すらせず、星を手中に収めた余韻に浸るかの様に空を眺める。絶対的、圧倒的な勝者たる者の余裕がそこにある。
「ま、まだ」
その余韻が消えた。足元からの声にアルヘナは面倒臭いとばかりに見下ろす。冷めた視線が、伊佐凪竜一を捉えた。
「しぶといな。オイ、銀河の端の田舎者風情が俺の顔を見られただけでも光栄なんだぞ。ホラ、どうした。何も言えんのか?」
震えながら、立ち上がろうと必死にもがくその姿を嘲笑したアルヘナは伊佐凪竜一の元に転移するや腹部を思い切り蹴り上げた。呻き声と共に口から飛び散った鮮血が、神の足元を汚す。
「チッ。汚らわしいゴミが、もう死ね」
血で染まった靴に機嫌を損ねたアルヘナは、自分の行動を微塵も顧みず伊佐凪竜一を責めた。殺意を籠め、拳に力を籠め、ゆっくりと歩み寄る。が……
「貴様ぁ!!」
獣の様な叫びに足を止めた。声を見れば空を踊るオルフェウスの姿。目に、言葉に、憎悪が滾る。
「どいつもこいつもしつこい。オマケにまだ上手く制御が出来ん。全く、ままならん。あぁ、面倒だ実に面倒だ」
獣の如く飛び掛かるオルフェウスにアルヘナは動じない。呆れ交じりの溜息と共に渾身の一撃を再び人差し指で受け止めると、そのまま指先を弾き、吹き飛ばした。
滑り、転がるオルフェウスは刀を地面に付き刺し、持ち堪えると睨み返す。しかし、それだけ。身体は震え、足は一体化した様に地面から離れず、口からは血が滴る。満身創痍。未だ憎悪に滾る目は戦いを望んでいるが、疲弊した身体が立ち上がる事を拒絶する。
「そもそも貴様、何を怒っているんだ?あぁ、アレか?俺が元凶だと知ったからか?まさか自分自身、なんてつまらん事は言わんよな?だが、何方にせよ貴様に俺を批判する権利など無い。考えて見ろ、貴様が止まる機会など幾らでもあっただろうが」
「き、貴様あぁ」
「だがそうしなかった。誰かを憎むのは気持ちよかっただろう?楽だったろう?憎悪ってのはなァ、麻薬の様に心を蝕むんだよ。あるかも分からない真実を探すよりも、過ちを認めるよりも、偽りの真実を盲信し、怒りに身を任せた方が気持ち良いんだよ。それはこの世のどんな快楽よりも甘く甘美で、人の脳を蕩かし堕落させる。貴様の心は憎悪に蝕まれている。そうだろ?違うか?」
「ち、違う!!」
「ハハ、まぁそう言う事にしておいてやろう。が、手遅れだったな。愛する者を殺したところで気付くとは悲劇、いや喜劇だぞ。実に滑稽で、愚かで、救いようがない。苦しかろう?死にたかろう?叶えてやるぞ。計画に付き合ってくれたせめてもの礼に、その罪を浄化してやろう。神の慈悲、救済だ。直ぐにそのクソ女と同じ場所に送ってやる」
何処までも傲慢で、何処までも一方的。人間を極限まで軽んじるアルヘナはオルフェウスを殺すと宣言すると、瞬時に燃え盛る火炎を周囲に作り出し、掌に凝縮した。凄まじいエネルギーの奔流を感じる小さな火球の奥に揺らめく顔は、圧倒的なまでに上の立場から下を見下ろす愉悦に浸っている。
「や、め……」
焦熱に渦巻く風音に、伊佐凪竜一の声が吹き抜けた。ボロボロの身体を押しながら立ち上がる姿にアルヘナの表情が変貌した。抑える事が出来ない感情が直ぐに表出する様は、さながら未熟な子供を想起させる。
「お前は何なんだ!!端役は黙って俺を見上げていろ、余りイラつかせるなッ!!」
男の顔が怒りに歪む。掌に浮かぶ火球は感情と共鳴する様に燃え上がり、周辺を焦がし、水分を蒸発させ始める。
「あぁ、気分が悪い実に悪い。だから」
その顔が、また別の感情に歪んだ。怒りの代わりに下卑た笑みを浮かべたアルヘナの視線は伊佐凪竜一を外れ、見当違いの方向へと向かう。悍ましいと、誰もが同じ感想を抱いた。
「お前ッ!?」
「こうせねば収まらんよなぁッ!!」
何処までも腐り果てていた。いち早く標的に気付いた伊佐凪竜一が叫び、スクナとクシナダが臍を噛む。
直後、信じ難い光景が広がった。大聖堂から約3キロほど離れた避難場所のど真ん中に巨大な爆音が響き、立て続けに真っ赤な火柱が天を突き、熱風が全てを焼き焦がした。
婚姻の儀という連合最大級のイベントを間近で見ようと考え、英雄の姿を見るや罵詈雑言をぶつけ、真実を知るや思考を放棄した市民と観光客の大半は呆気なく死亡した。逃げる暇など無く、生き残ったのは中心地から外れた場所いて直撃を避けたごく少数のみ。しかし、襲い来る熱風に煽られ、爆風に投げ飛ばされ、やがては息絶えた。
「悲鳴、悲鳴だよ。良い響きだ。軽い魂が奏でる甲高い音色。心が潤うよなぁ。そう思わんか、なぁ?」
アルヘナはそう言いながら伊佐凪竜一へと向き直るが、その先に彼は居らず。
「なんで此処までするッ!!」
瞬きする間にアルヘナの側面へと移動した彼は激情と共に拳振り抜いた。が……
「クズが」
「グッ。な、何が……」
拳がアルヘナに触れようかというその瞬間、弾き飛ばされた。オルフェウスと同じく指一本で容易く攻撃を止められると、更に無防備な隙に不可視の追撃を受け、更に吹き飛ばされた。
「なんだ、この程度か?なら態々力を探る必要など無かったではないか。それともアレか?マガツヒの力……いや、あのクズは所詮この程度だったと言う事か。そうかッ、そうだ、そうに決まっている。ヒハハハハハハッ!!」
不意に、アルヘナはゲラゲラと下品に笑い始めた。伊佐凪竜一を見ながら、別の何かを嘲笑した。何故、何を笑ったのか、誰にも分からない。あるいは圧倒的な優越感か。
戦場に、神の声だけが響く。もう誰も止められないと、映像に映る神の力を見た連合の大半は口を固く閉ざした。余計な怒りを買わない様に、目立たない様に、静かにジッと息を殺す様に神を映す映像を見る。
実質的な敗北宣言。神は数多の視線に宿る感情に気付くと、殊更に笑った。もし神が戯れに力を振るえば、人など容易く滅ぼされる。現実としてあの男にはそれだけの力があり、更に"幸運の星"という超常の力までも手にした。
「ハハ……あぁ?まだ抵抗する気か貴様?」
が、まだ全員が諦めた訳ではない。一気に不機嫌な口調と表情へと変わったアルヘナと、無数の視線が見つめる先には伊佐凪竜一の姿。
「クズが調子に乗るな、と言いたいが丁度いい。星の力が制御できるようになるまでの僅かな時間、貴様の相手をしてやるよ。光栄に思うがいい、神が矮小なゴミクズに貴重な時間を割いてやるのだからなァ!!」
神を自称するアルヘナは真正面に左手をかざし、魔法陣を展開した。周囲のカグツチは瞬く間に吸い上げられ、周囲が仄かに赤色に染まり始める。同時に魔法陣から生み出された途轍もない熱量が局所的な空気の対流を引き起こし、周囲の景色が不自然に揺らぐ。
一撃目以上の威力の火球が、男の掌に生み出された。このまま攻撃を許せば、周辺一帯は跡形も残らない。そんな予感に伊佐凪竜一は弾かれる様に突撃した。が、幾ら攻撃を重ねようが当たらない。今度は伊佐凪竜一でさえ貫通出来ない程に強固な防壁が、攻撃を阻んだ。
万全の状態だったならばあるいは、と誰もがそう考える。しかし、全てが手遅れ。神と名乗った男に唯一勝てる可能性のあった伊佐凪竜一は散々に追い詰められ、疲弊し、抵抗する力を奪われた。
「ハハハハハハッ、そのザマでは時間稼ぎも出来んようだなぁオイ。詰まらん、実に詰まらんなぁ。もっと抵抗してみせろよ!!神たる俺を飽きさせるな。もっと踊れ、死ぬその瞬間まで俺を楽しませろ!!」
神は圧倒的優位から見下し、人を嘲笑う。圧倒的な実力に加え、幸運の星を手中に収めた余裕。揺ぎない勝利の確信が生む、驕り。事実、伊佐凪竜一は神を前に何も出来ない。どれだけ攻撃を繰り出しても防壁に阻まれ傷一つ付けられず、指一本分の攻撃に容易く吹き飛ばされる。
かつての英雄が手も足も出ない絶望的な状況に、誰もが懺悔をしようとしたが、やがて傍と気付く。自分達は一体何に祈れば良いのか。祈る神は既に亡く、人を救う為に奔走した英雄も神の前に膝を折ろうとしている。
「地に頭を擦りつけ詫びろ。人間と言うゴミクズの分際で神に逆らって申し訳ございませんでしたとなぁ。そうすれば苦しまない様に殺してやるぞ?どうだ?……何だァその目はッ!!」
尚も神は見下すが、対する伊佐凪竜一は息は絶え絶え、睨み付ける様な眼差を向けるのが精いっぱいでそれ以上の何も出来ない。
「オイ、聞こえているか?それとも軽く撫でてやった程度でイカれたのか?もう貴様に出来る事など何も無いんだよォ!!」
神は嘲りながら膝をつく彼の元まで近寄ると笑いながら足蹴にし、踏みつぶした。が、それでも睨み続ける。
「ならもういい、死ね。直にあの女も同じ場所に送ってやる」
「助け……る」
「誰をだ?ルミナとかいう女か?まさか、死んだガキではあるまいな?そもそも貴様に出来るのか?今にも死にそうなクズが!!大体、貴様も知っているだろうが。あのガキは自ら死を望んだ。その結果が今だ、もう手遅れなんだよ!!それとも何か?救う答えでも見つけたか?」
「お……そくないッ」
「チッ、本当に人をイラつかせるな!!ならば死んだガキの代わりに貴様の答えを聞いてやる。!!だがそれで終わりだ、貴様も、ルミナとか言う女も纏めて俺が断罪してやるッ!!」
神の言葉は冷酷だった。同時、左手に展開していた魔法陣が集束し、真っ赤な火球へと変化した。途轍もない熱量は更に強まり、周辺の草木を燃やし始めるに至る。
「……」
伊佐凪竜一が答えを語った。が、吹き荒ぶ熱風に……
「ハハハハハッ!!だが、そんなカビの生えた答えでは何も変えられんよ。ましてや今の貴様ではなァ!!」
神の声にかき消された。辛うじて届いた答えをアルヘナは一笑に付し、否定した。
主星での大勢は決した。星は悪辣な神の手に渡り、唯一阻止し得る可能性のあった伊佐凪竜一達は疲弊し、動く事さえままならない。現人神と呼ばれたフォルトゥナ姫と、自らを魔王と名乗ったカストールもまた夥しい血の海に沈んだまま動かない。
神を名乗るアルヘナはそんな連中を一瞥すらせず、星を手中に収めた余韻に浸るかの様に空を眺める。絶対的、圧倒的な勝者たる者の余裕がそこにある。
「ま、まだ」
その余韻が消えた。足元からの声にアルヘナは面倒臭いとばかりに見下ろす。冷めた視線が、伊佐凪竜一を捉えた。
「しぶといな。オイ、銀河の端の田舎者風情が俺の顔を見られただけでも光栄なんだぞ。ホラ、どうした。何も言えんのか?」
震えながら、立ち上がろうと必死にもがくその姿を嘲笑したアルヘナは伊佐凪竜一の元に転移するや腹部を思い切り蹴り上げた。呻き声と共に口から飛び散った鮮血が、神の足元を汚す。
「チッ。汚らわしいゴミが、もう死ね」
血で染まった靴に機嫌を損ねたアルヘナは、自分の行動を微塵も顧みず伊佐凪竜一を責めた。殺意を籠め、拳に力を籠め、ゆっくりと歩み寄る。が……
「貴様ぁ!!」
獣の様な叫びに足を止めた。声を見れば空を踊るオルフェウスの姿。目に、言葉に、憎悪が滾る。
「どいつもこいつもしつこい。オマケにまだ上手く制御が出来ん。全く、ままならん。あぁ、面倒だ実に面倒だ」
獣の如く飛び掛かるオルフェウスにアルヘナは動じない。呆れ交じりの溜息と共に渾身の一撃を再び人差し指で受け止めると、そのまま指先を弾き、吹き飛ばした。
滑り、転がるオルフェウスは刀を地面に付き刺し、持ち堪えると睨み返す。しかし、それだけ。身体は震え、足は一体化した様に地面から離れず、口からは血が滴る。満身創痍。未だ憎悪に滾る目は戦いを望んでいるが、疲弊した身体が立ち上がる事を拒絶する。
「そもそも貴様、何を怒っているんだ?あぁ、アレか?俺が元凶だと知ったからか?まさか自分自身、なんてつまらん事は言わんよな?だが、何方にせよ貴様に俺を批判する権利など無い。考えて見ろ、貴様が止まる機会など幾らでもあっただろうが」
「き、貴様あぁ」
「だがそうしなかった。誰かを憎むのは気持ちよかっただろう?楽だったろう?憎悪ってのはなァ、麻薬の様に心を蝕むんだよ。あるかも分からない真実を探すよりも、過ちを認めるよりも、偽りの真実を盲信し、怒りに身を任せた方が気持ち良いんだよ。それはこの世のどんな快楽よりも甘く甘美で、人の脳を蕩かし堕落させる。貴様の心は憎悪に蝕まれている。そうだろ?違うか?」
「ち、違う!!」
「ハハ、まぁそう言う事にしておいてやろう。が、手遅れだったな。愛する者を殺したところで気付くとは悲劇、いや喜劇だぞ。実に滑稽で、愚かで、救いようがない。苦しかろう?死にたかろう?叶えてやるぞ。計画に付き合ってくれたせめてもの礼に、その罪を浄化してやろう。神の慈悲、救済だ。直ぐにそのクソ女と同じ場所に送ってやる」
何処までも傲慢で、何処までも一方的。人間を極限まで軽んじるアルヘナはオルフェウスを殺すと宣言すると、瞬時に燃え盛る火炎を周囲に作り出し、掌に凝縮した。凄まじいエネルギーの奔流を感じる小さな火球の奥に揺らめく顔は、圧倒的なまでに上の立場から下を見下ろす愉悦に浸っている。
「や、め……」
焦熱に渦巻く風音に、伊佐凪竜一の声が吹き抜けた。ボロボロの身体を押しながら立ち上がる姿にアルヘナの表情が変貌した。抑える事が出来ない感情が直ぐに表出する様は、さながら未熟な子供を想起させる。
「お前は何なんだ!!端役は黙って俺を見上げていろ、余りイラつかせるなッ!!」
男の顔が怒りに歪む。掌に浮かぶ火球は感情と共鳴する様に燃え上がり、周辺を焦がし、水分を蒸発させ始める。
「あぁ、気分が悪い実に悪い。だから」
その顔が、また別の感情に歪んだ。怒りの代わりに下卑た笑みを浮かべたアルヘナの視線は伊佐凪竜一を外れ、見当違いの方向へと向かう。悍ましいと、誰もが同じ感想を抱いた。
「お前ッ!?」
「こうせねば収まらんよなぁッ!!」
何処までも腐り果てていた。いち早く標的に気付いた伊佐凪竜一が叫び、スクナとクシナダが臍を噛む。
直後、信じ難い光景が広がった。大聖堂から約3キロほど離れた避難場所のど真ん中に巨大な爆音が響き、立て続けに真っ赤な火柱が天を突き、熱風が全てを焼き焦がした。
婚姻の儀という連合最大級のイベントを間近で見ようと考え、英雄の姿を見るや罵詈雑言をぶつけ、真実を知るや思考を放棄した市民と観光客の大半は呆気なく死亡した。逃げる暇など無く、生き残ったのは中心地から外れた場所いて直撃を避けたごく少数のみ。しかし、襲い来る熱風に煽られ、爆風に投げ飛ばされ、やがては息絶えた。
「悲鳴、悲鳴だよ。良い響きだ。軽い魂が奏でる甲高い音色。心が潤うよなぁ。そう思わんか、なぁ?」
アルヘナはそう言いながら伊佐凪竜一へと向き直るが、その先に彼は居らず。
「なんで此処までするッ!!」
瞬きする間にアルヘナの側面へと移動した彼は激情と共に拳振り抜いた。が……
「クズが」
「グッ。な、何が……」
拳がアルヘナに触れようかというその瞬間、弾き飛ばされた。オルフェウスと同じく指一本で容易く攻撃を止められると、更に無防備な隙に不可視の追撃を受け、更に吹き飛ばされた。
「なんだ、この程度か?なら態々力を探る必要など無かったではないか。それともアレか?マガツヒの力……いや、あのクズは所詮この程度だったと言う事か。そうかッ、そうだ、そうに決まっている。ヒハハハハハハッ!!」
不意に、アルヘナはゲラゲラと下品に笑い始めた。伊佐凪竜一を見ながら、別の何かを嘲笑した。何故、何を笑ったのか、誰にも分からない。あるいは圧倒的な優越感か。
戦場に、神の声だけが響く。もう誰も止められないと、映像に映る神の力を見た連合の大半は口を固く閉ざした。余計な怒りを買わない様に、目立たない様に、静かにジッと息を殺す様に神を映す映像を見る。
実質的な敗北宣言。神は数多の視線に宿る感情に気付くと、殊更に笑った。もし神が戯れに力を振るえば、人など容易く滅ぼされる。現実としてあの男にはそれだけの力があり、更に"幸運の星"という超常の力までも手にした。
「ハハ……あぁ?まだ抵抗する気か貴様?」
が、まだ全員が諦めた訳ではない。一気に不機嫌な口調と表情へと変わったアルヘナと、無数の視線が見つめる先には伊佐凪竜一の姿。
「クズが調子に乗るな、と言いたいが丁度いい。星の力が制御できるようになるまでの僅かな時間、貴様の相手をしてやるよ。光栄に思うがいい、神が矮小なゴミクズに貴重な時間を割いてやるのだからなァ!!」
神を自称するアルヘナは真正面に左手をかざし、魔法陣を展開した。周囲のカグツチは瞬く間に吸い上げられ、周囲が仄かに赤色に染まり始める。同時に魔法陣から生み出された途轍もない熱量が局所的な空気の対流を引き起こし、周囲の景色が不自然に揺らぐ。
一撃目以上の威力の火球が、男の掌に生み出された。このまま攻撃を許せば、周辺一帯は跡形も残らない。そんな予感に伊佐凪竜一は弾かれる様に突撃した。が、幾ら攻撃を重ねようが当たらない。今度は伊佐凪竜一でさえ貫通出来ない程に強固な防壁が、攻撃を阻んだ。
万全の状態だったならばあるいは、と誰もがそう考える。しかし、全てが手遅れ。神と名乗った男に唯一勝てる可能性のあった伊佐凪竜一は散々に追い詰められ、疲弊し、抵抗する力を奪われた。
「ハハハハハハッ、そのザマでは時間稼ぎも出来んようだなぁオイ。詰まらん、実に詰まらんなぁ。もっと抵抗してみせろよ!!神たる俺を飽きさせるな。もっと踊れ、死ぬその瞬間まで俺を楽しませろ!!」
神は圧倒的優位から見下し、人を嘲笑う。圧倒的な実力に加え、幸運の星を手中に収めた余裕。揺ぎない勝利の確信が生む、驕り。事実、伊佐凪竜一は神を前に何も出来ない。どれだけ攻撃を繰り出しても防壁に阻まれ傷一つ付けられず、指一本分の攻撃に容易く吹き飛ばされる。
かつての英雄が手も足も出ない絶望的な状況に、誰もが懺悔をしようとしたが、やがて傍と気付く。自分達は一体何に祈れば良いのか。祈る神は既に亡く、人を救う為に奔走した英雄も神の前に膝を折ろうとしている。
「地に頭を擦りつけ詫びろ。人間と言うゴミクズの分際で神に逆らって申し訳ございませんでしたとなぁ。そうすれば苦しまない様に殺してやるぞ?どうだ?……何だァその目はッ!!」
尚も神は見下すが、対する伊佐凪竜一は息は絶え絶え、睨み付ける様な眼差を向けるのが精いっぱいでそれ以上の何も出来ない。
「オイ、聞こえているか?それとも軽く撫でてやった程度でイカれたのか?もう貴様に出来る事など何も無いんだよォ!!」
神は嘲りながら膝をつく彼の元まで近寄ると笑いながら足蹴にし、踏みつぶした。が、それでも睨み続ける。
「ならもういい、死ね。直にあの女も同じ場所に送ってやる」
「助け……る」
「誰をだ?ルミナとかいう女か?まさか、死んだガキではあるまいな?そもそも貴様に出来るのか?今にも死にそうなクズが!!大体、貴様も知っているだろうが。あのガキは自ら死を望んだ。その結果が今だ、もう手遅れなんだよ!!それとも何か?救う答えでも見つけたか?」
「お……そくないッ」
「チッ、本当に人をイラつかせるな!!ならば死んだガキの代わりに貴様の答えを聞いてやる。!!だがそれで終わりだ、貴様も、ルミナとか言う女も纏めて俺が断罪してやるッ!!」
神の言葉は冷酷だった。同時、左手に展開していた魔法陣が集束し、真っ赤な火球へと変化した。途轍もない熱量は更に強まり、周辺の草木を燃やし始めるに至る。
「……」
伊佐凪竜一が答えを語った。が、吹き荒ぶ熱風に……
「ハハハハハッ!!だが、そんなカビの生えた答えでは何も変えられんよ。ましてや今の貴様ではなァ!!」
神の声にかき消された。辛うじて届いた答えをアルヘナは一笑に付し、否定した。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる