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終章 呪いの星に神は集う

351話 邪神 降臨

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「こんばんは奥さま。お初にお目に掛かります、
ドニ=バチストと申します。
ご主人のガードナー卿にはいつもお世話になって
おります」

「はじめましてバチスト様。
こちらこそいつも主人がなっております。
ロイの妻のララです。よろしくお願いしますわね、ほほほほ……」

「いやだ何?このガチンコ対決っ」


今日は精霊騎士団でロイの副官を務めくれている
ドニ=バチスト様を招いてのささやかな夕食会だ。

ロイは突発的な魔物の発生で
急遽遠征となり、今日の夕食会には不参加となった。
前日に熱を出していたのに大丈夫なんだろうか。

王都にて諸々の仕事があったドニ=バチスト様は
2日遅れで遠征先に行く事に決まり、
それをロイから聞きつけたわたしが
無理を言って夕食会に来て貰ったのだ。

ロイは自分の副官とはいえ、
留守中に男を招いての夕食会に難色を示したので
(まぁ常識的にもそりゃそうだ)
急遽イザベラにも参加してもらった。

そして今の挨拶のシーンに至るわけだ。

わたしは今日のために腕を奮った。

どれも庶民の料理ばかりだが、
わたしの自信作ばかり。

カンサイ州名物のオクト焼きも
久々に作ったりもした。

一応は和やかな雰囲気のまま食事は進む。

会話を続けていく上で気づいたのだが
このドニ=バチストという人物、

嫌味や何か含みのあるような
もの言いをするタイプではないようだ。

良く言えば飄々として裏表のない大物タイプ、
悪く言えば感情の起伏があまりなく、
何考えてるのかわからない気持ち悪いタイプだ。


さて、ロイに扶養妻を充てがった経緯いきさつなどを知りたいが
どう切り出そうかと迷っていたら、
向こうから唐突に話し出して来た。

「ガードナー卿の扶養妻のセシルさんがこちらに来られたそうですね?そして奥さまがお知りになられたと聞きました」

「ええそうなんです。
セシルさんが話して下さいましてね、
わたし…もう本当に驚いてしまって……、
あ、オクト焼きのおかわり如何?」

「いただきます。
それで?奥様はなんの目的があってわざわざ
お食事に呼んで下さったんですか?」

わたしは極上のスマイルを貼り付けて言った。

「目的だなんてとんでもない。
ただ………この際、一旦ロイド=ガードナーの事は
置いといて、バチスト様に色々とお聞きしたい事がありましてね」

「なんでしょうか?」

「黒い目の子ども達の母親をロイドに紹介して、
その扶養枠に妻として縁付かせていったのは
貴方なんですよね?
なんでも3年前から斡旋を再開し出したと。
それは何故ですか?」

「何故?
3年前に各地で大量の魔物発生が起きて、
立て続けに父親を殺された黒い目の子どもが
見つかったからですが?」

「それはお気の毒でしたね。
黒い目の子どもが見つかったら精霊騎士団の方へ
連絡でも入るんですか?」

「はい、運良く見つかった場合は。
騎士にしたくないと隠す親もいますからね。
そして僕がその子どもと母親と面談して、
子どもの騎士としての適正と母親の年齢を
鑑みて、ガードナー卿に扶養枠に入れて頂けるように打診します」

「母親の年齢……ロイドの妻として釣り合いが取れるかという事ですか?」

「ええ、はい」

「……どうして一応“本妻”であるわたしには何の確認もないのでしょうか?」

わたしがそれを問うと、
バチスト様はきょとんとした顔をされた。


「?……なぜ奥様に確認を取らないといけないのでしょう?
法的にも戸籍主であるガードナー卿さえ認めれば
問題ないですし」

こいつ。


「……自分の知らない間に夫に妻がぽんぽん
出来てたと知った時の“本妻”の心理状況への配慮は?」

「すみません何を仰っているのか理解出来ません。
配慮?何故ですか?ただの手続き上だけの
関係ですよ?」


「男女の事がいつどうなるかなんて、
予測出来る事ではないでしょう?
もし、扶養妻の一人とロイドが本当に男女の関係になってしまうとか、そういう懸念は抱かれなかったんですか?」

「懸念?ますます仰ってる意味がわからない、
もしそうなれば、きちんとした正しい扶養妻と
なられて、不正でもなんでもなくなり良い事では
ありませんか。むしろ本当ならガードナー卿には
そうして頂きたいくらいでしたのに」


……………………は?


わたしの隣でイザベラが言った。


「あはは、ナニこいつ。
頭から食べちゃってもいい?」

「もう少しだけ待ってイザベラ」

わたしもイザベラも表情だけは
極上の笑顔だ。


「……ロイドはその事について最初に
何か言いませんでした?」

「ガードナー卿には最初断られたんです。一番目と二番目の扶養妻の打診の時は直ぐに受け入れて
下さったのに」

ふーん……。

まぁ一番目と二番目の妻は
わたしとどうこうなる前だもんね。

そうだ、コレも確認したかったんだ、


「すみません、唐突に質問を変えますが、
なぜ一番目のエルさんは妊娠中に扶養妻に
なられたんですか?黒い目の子が生まれるなんて
わからないのに」

「あぁ、彼女の最初の夫が黒い目の精霊騎士
だったんです。それで可能性は高いかと。
もちろん、出産後目の色を確認してから
扶養枠入りをしましたよ?
あ、二番目の扶養妻の方が亡くされた夫も
精霊騎士でした」


「はぁ……なるほど」

そこまでして
黒い目の子を確保したいのか。

わたしがその件についてそれ以上何も言わないのを
確認したバチスト様は先ほどの続きを語り出した。


「3年ぶりに扶養妻の打診をした時、
ガードナー卿は頑なに了承して下さらなかったんです。あの時は本当に困りました。
それで第二王子殿下からの秘密裏に命じて頂きました。
ガードナー卿は第二王子殿下を兄のように
慕っておられましたから。
なんでも庶子だったガードナー卿を
様々な軋轢から守ってくれただとかで……」

「はぁ……」

恩義をチラつかされたか、ロイよ。

「ガードナー卿は本当にこれで最後にしてくれと
言われながらも承諾して下さいました。
事が王子を絡めた不正受給なので
奥様にも事実を伝えてはならないと
王子殿下から命じて頂いたんです。
どこから機密が漏れるかなんてわかりません
からね。
その時ガードナー卿が5年間、妻を欺き続けるのか
と呟いておられたのが印象的でした。
今一番年少の子どもは12歳なので入団資格を
得られるまであと2年だったのに。
エル=ドナスの所為で台無しになったのが口惜しいです」

「………………」


「奥様」

唐突にバチスト様がわたしを呼んだ。


「……なんでしょう」

「今日お会いして、奥様の為人ひととなりを拝見して確信が持てました。
奥様は決して機密を漏らすような方ではないと。
なのでお願いです。
これからも黒い目の子どもが現れたら
扶養妻を取り続けるよう、
ガードナー卿にお願いしては頂けませんでしょうか?
そしてその母親たちと本当に夫婦の関係を結んで黒い目の子どもの出生を増やす努力をして頂けるように頼んで下さいませんか?」

「……………はい?」

「お兄様が精霊騎士であった貴女なら
わかって下さるはずだ。
魔物の相手など、普通の人間が出来るものではないと。
黒い目の精霊騎士ならただ精霊を使役するだけでなく、精霊に守られる。
黒い目の騎士をどんどん増やし、いずれは魔物の
討伐は黒い目の精霊騎士でないと出来ないような
仕組みを作り上げたいんです。
何年掛かろうともいい。
この国のため、この国の民のため、
僕らは…僕はそれを成し遂げたいんです。その為にはまずは産めよ育てよ、ですよ」


「……ララ」

イザベラが“男”の方の声色でわたしの名を呼んだ。

「……なぁに?」

「アタシ、随分我慢したと思わない?
ねぇ、もうこいつヤっちゃっていいよね?
アタシ、“攻め”もデキる子なのよ。
もう後ろからズドンといっちゃっていい?」

イザベラ……ありがとうね。

「ダメよ。
あなたを性犯罪者にしたくないもの。
わたしは大丈夫、大丈夫だから」

わたしはイザベラの方を見て、
感謝の気持ちを込めて微笑んだ。


イザベラにこんなヤツと関わらせたくない。

この目は………コイツの目は恐ろしい目だ。

自分の正義を信じて疑わない目。

きっとそれに異を唱える者を絶対悪とし、

正義の名の下に手段を選ばないような
そんな目だ。

自分は正義だと思っている者の正義感ほど恐ろしいものはない。

悪人にはまだ罪を犯しているという罪悪感が
砂粒ほどでも存在する(はず)。
まだそれの方がマシだ。

こういう正義の名の下に無自覚に他者を虐げる者に、まともに取り合ってはいけない。

無自覚に人を人とも思わない考え方をする人間と
関わってはいけないのだ。


わたしは改めてバチスト様をしっかりと
見据えた。


「バチスト様のそのお願い、お断り申し上げます」

「何故ですか?
そもそも貴女が子を産んで下さらないから他に妻を充てがおうとしているのですよ?」

「わたしに子を産んで欲しいなら、
子種ロイドをもっと頻繁に家に戻して下さい。
いつでもどこでも子どもが出来るわけじゃないんですよ?
タイミングが必要なんです。
わたし一人で子どもは出来ないんですよ?」

いけない、
無意識にバカにものを諭すような言い方に
なってしまったわ。

「ロイドが自ら望んで妻を増やして
よろしくヤってるならもう勝手にすればいいと
切り捨てるだけです。
でもそうでないのならどうしてわたしが
わたしをそういう状況になるように助力しないといけないんです?」

「それは国のために、民のために……」

「わたしもロイドもこの国の民です。
民の安寧な暮らしのためだと仰るなら、
わたし達の安寧な暮らしも守ってくださいよ」

「……?」

ダメだ、こちらの言っている意味すら
理解しようとしていない。

わたしはロイの寝顔を思い出していた。


「黒い目の精霊騎士なら魔物と平気で渡り合える
みたいな言い方をされていましたが、
そんなわけないでしょう。
わたしがなぜ、悪夢に侵される事なく眠れる
魔術を組み上げたと思います?
悪夢に魘されるロイドを見ていられなかった
からです。
黒い目の精霊騎士だって魔物の所為で
心を病むんです。
精霊は心までは守ってはくれないんです。
黒い目の騎士だって人間です。
魔物と戦うためだけに生まれて来たわけじゃない。
その事だけはどうか、絶っ対に覚えておいてくださいね」


「……どうやら奥様は精霊騎士の妻としては
相応しくないお方のようだ」

「そのようですね。
でもロイド=ガードナーの妻としては
もしかして相応しいのかもしれませんよ?」

「……まぁいいです。結局はガードナー卿、
ご本人が決められる事ですから。
僕は信じています。ガードナー卿も未来へと繋がる希望を選択してくださると。
あなたの考えより僕の意志の方を選んで下さると」

「ソウダトイイデスネー」

わたしはわかりやすいくらいに
棒読みで言ってやった。

結局そのまま微妙~な空気の中、
夕食会はお開きとなった。



片付けの手伝いも兼ねて残ってくれた
イザベラがわたしに言う。

「ねえ、さっきはどうして止めたの?
悔しいじゃない、あんなの人権無視も
甚だしわよっ。せめて一発くらい殴ってやらなきゃ気がすまないわっ!」

「イザベラ、わたしのために怒ってくれて
本当にありがとうね。
でもあんなのバカ正直に真正面からぶつかってもこちらが損をするだけよ」

「じゃあ泣き寝入りするっていうの!?」

「まさか」

「へ?」

「イザベラ、わたしは術式師よ。
新たな魔術を作るプロよ。
それこそ、簡単なものから複雑なものまでのね」

「………アンタ、何をする気?
イヤだ、ゾクゾクしちゃう!!」

「ふふふ。
イザベラ姐さん、確かご贔屓のお客さんに
王宮の侍従をしている方がいましたよネ?」

「いるわよ~~」


わたしはあの
無自覚な悪役野郎に嫌がらせという名の
復讐をする事を決意した。


でも……

その前にロイとちゃんと話合わなきゃね。























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