【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第7章 平穏は遥か遠く

243話 接触 其の3

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「神託が使用された記録は今のところありません。ですから使用後に我々がどうなるか、逆らった際にどのような影響を及ぼすか何も分からないのです」

「故に、その前に何としても君に接触したかった。時間が無い我らに残された選択肢は君だけなのだ」

 ガブリエルとミカエルがそれぞれ接触を試みた理由を語る。神託の効果を知らずとも、スサノヲを縛る"鎖"から類推する事は出来る。半年前に発動した鎖の様子から強制的に自由意思を奪われると結論した彼等は、新総帥に恭順する振りをしながら隙を見て伊佐凪竜一と接触した。敵も味方も判然としない現状にあって、何者かに狙われ、追い詰められる英雄が敵である可能性は無いと踏んだ。そう考えれば辻褄は合う。

 ……但し、既に神託が発動していなければの話だが。

 ズシン――

 直後、思考を寸断する地響きを伴いながら残る2機のセラフ達が降り立った。静かに降り立った人型とは対照的な巨躯のセラフが着地すると同時に周囲は大きく振動、静かで寂れた工場は瓦解、崩落し、荒れ放題の道路はひび割れ、埃とゴミが舞い上がる。

「そうか、君は我らに関する情報を何も持っていないのか」

 ミカエルはフム、と何かに納得しながら伊佐凪竜一へと視線を落とす。セラフ4機の内3機は多少身長にばらつきはあるが所詮は人型、だから最後に登場したラファエルが黒雷型とほぼ同じ姿形をしているのに驚くのは当然。

「驚かせて済まない。彼は黒雷ではないし、我らの誰も君と交戦するつもりは無い。ただ、君を知りたいだけなのだ」

 故に黒雷と誤認した伊佐凪竜一が反射的に刀を構えるのは致し方なく、その態度に彼の置かれた環境を察したミカエルは謝罪と共に敵意を否定した。本心は語る通り、彼の人となりを知りたい……信用に値するか判断したいというそれだけ。ソレが証拠に異変を告げる警報は全く作動しない。ガブリエルの支配下にある周辺の警報システムは、何らも問題も起こっていない信号を当該区域の監視システムに送る。

「我らの置かれた状況は今しがた話した通り。その上で改めて問いたい。協力頂けるだろうか?」

 前総帥殺害に関する情報、神託に伴う彼等の窮状。セラフが彼等が持つ情報を晒した上で再度協力するか否かを問いかけると……

「分かった」

 無機質だが真っ直ぐな視線から伊佐凪竜一はセラフの真意を察し、即答で応えた。時間が無いのは彼も同じで、更にセラフと協力関係が成立すれば戦力増強は確実、大幅に有利となる。しかし彼の目にそんな打算の色は無く。

「感謝する。では可能な限り協力を行おう、ガブリエル」

「はい、既に。伊佐凪竜一、信頼の証として幾つかデータを貴方の端末にインストールします。旗艦内の監視レベルの判定、介入可能なシステムなど有益な情報が表示されます。現状を変えることは出来ませんが、今後の指針にはなるでしょう」

「この後だが、私とウリエルがなるべく派手に戦い可能な限り増援を惹きつける。君はその間にガブリエルとこの区域を離れてくれ」

 時間と信頼に相関関係は成立しないようで、彼の目を見たセラフ達は信用に値すると判断、着々と準備を進め始める。一方、彼は無言でその様子を見つめるばかり。何もかもが手際よく進む状況に口を挟む事さえままならない現状は、ツクヨミに振り回された過去と重なる。

「え?あぁ、でも4人揃っていないと疑われるんじゃ?」

 流されっぱなしの彼が漸く口を口を開いたかと思えばセラフへの配慮。如何にも彼らしい台詞だが、しかし機械に機微を理解するのは困難なようで。

「何も問題はない。本来言うべきではないが、新総帥は深慮遠謀とは無縁のようでな」

「そうですね。だからこそ我々も疑っているのですよ。それより、泥くらいは払っておいて下さい」

 と、彼の心配などどこ吹く風とばかりに淡々と、あるいは無関心に準備を進める。彼はそんな状況に相も変わらず流されるばかりで、言われるままに泥を落とす姿は正直言えば少々格好が悪い。

 しかし、旗艦の常識に疎い伊佐凪竜一が単独で艦内を逃げ回るという事自体がそもそも想定外。半年前、今の彼と全く同じ状況となったルミナと共に清雅の追手から逃げ回っていた過去を経験している彼はよく理解している。常識も知識も無く異文化の中を正しく逃げ続ける事など不可能だし、1人では逃げるばかりに気を取られてしまいがちだ。

「インストール完了。私の準備も出来ましたし、参りましょうか」

 背後からガブリエルが伊佐凪竜一にそう促す。その姿は鎧騎士の様な外観から完全な人型へと変わっており、身形や外見は完璧に人間を模倣している。セラフらしく一部の隙も無い。が、原型を正しく反映したその姿は抜きんでて美しく、端的に逃亡には不向きすぎる程に目立つ。恐らくワザとでは無いだろうが。

「彼女が一番適任だ。もし興味があれば道すがら我らの事を聞いてみても良いだろう」

「え、付いて来るんだ?でも1人離れて大丈夫なのか?」

「当然です大丈夫です。寧ろ、何を理由についてこないと思ったのです?」

「え、いや……まぁ、ヨロシク」

「はい、どうぞよろしくお願いします。それでは、丁度車も来たようですし私達は失礼します」

「頼むぞ。定期の連絡は行わなくて良い。それから……」

「委細承知しています。ここから先は独自判断、状況如何によっては守護者……いえ、我々同士で戦う可能性もあるでしょう。それでは」

 ガブリエルは去り際に全てを悟ったかの様な台詞を呟きながら、同時にまごつく伊佐凪竜一の手を引っ張る。何から何まで為すがままに車へと引き摺られていくその様は流石にちょっと情けない。

「え、いや大丈夫なのか!?」

 が、去り際の言葉にハッと我を取り戻した伊佐凪竜一は態度を一点、相も変わらず無表情なセラフ達に叫んだ。

「質問の意図が理解出来ない。我らの事ならば心配無用、君が心配する道理はない」

「そんな事言うな、同じ目的の為に協力するならばそれはもう仲間だろ。それに……」

「それに?」

「誰であれ無駄に傷ついて欲しくないし、死ぬなんてもっと御免だ」

 その真っすぐな言葉に、それまで淀みなく動いていたミカエルの口が初めて止まる。

「そう、そうか。君は我らをそう見ているのか」

「不思議だ、我らと初対面にも関わらずその様に考えるとは」

「嘘ではないのか?」

「そんな生体反応は検出されていない。君が何を心配しているか不明だが、これでも連合最強の一角と言われる程度の性能は持ち合わせている」

「違う、そうじゃなくて仲間同士で戦うって……」

「ソレこそ心配の必要はない。だがその好意、有り難く受け取っておこう」

 伊佐凪竜一の言葉にミカエルは誠意を示すが、しかし残念ながら届かず。無意味な話で時間を浪費する彼の態度に幾分か腹を立てた(と思われる)ガブリエルが強引に彼を車内に押し込むと、そのまま車を発進させた。セラフ達は彼の乗る車が夕暮れに消失するその瞬間まで見つめ続ける。

 最初はタナトスの罠と疑った。事実、この区域に降り立つや戦闘になったのだから。しかし蓋を開けてみれば伊佐凪竜一と協力関係を結びたいセラフの仕業だった。

 彼らが新総帥の意向に反する理由は至極単純、劣悪な人間性だ。セラフの予想した通り、アクィラ総帥を殺害したのは新総帥に就いたフェルム。だがその事実を知るのは犯人を除けば今この時点では私だけ。本当はこの情報をぶちまけたいという衝動に駆られる事が何度かあったのだが、その度にあの女の顔がチラつき、結局行動に移せなかった。タナトス。あの女がこんな程度を想定していないとは思えないという恐怖が私を縛る。

 ※※※

「不思議な男だ」

「あの男、我らを人でないと知りながら"4人"、"1人"と数えたな」

「我らと人は似て非なる存在。しかし彼は歴代の総帥と同じく我らを人と認めるか」

 伊佐凪竜一とガブリエルを乗せた車が夕闇に消え去るその姿を見送りながら、3機はそれぞれが感慨深げに伊佐凪竜一への印象を語った。彼らからしてみれば旗艦を救った英雄程度であり、財団とは縁の無いただの一個人程度にしか認識していなかった筈。

 だが終わってみれば不思議な位に誰もが伊佐凪竜一を気に留める。そうこうしている内に1人と1機を乗せた車は視界から完全に消え去り、第23区画内は一旦平穏を取り戻した。気が付けば上空を照らす人工太陽の光は落ち、黄昏時を超え夜が間近に迫ろうとしていた。

「では始めよう……出て来い、先程からずっと見ているのは知っている」

 その言葉に私は息を吞んだ。ミカエルは突如として夜の闇の中に向けてそう叫んだ。見ている?しかしミカエルの視線は監視カメラから完全に外れている。私じゃない?では一体誰がセラフを監視しているのだ。

「近頃のガラクタは随分と不遜な物言いをするものだ」

 高鳴る鼓動が破裂しそうな程に脈打つ中、聞き覚えのある声が映像の向こうから聞こえた。何かがいる。いやこの声は地球で聞いた……

「まさかアナタだとお」

 ミカエルが闇から歩み寄る何者かの姿に反応した刹那、23区域の裏寂れた一角に存在する無数の監視カメラが同時に、全て機能停止した。私を越える権限で、強引に落とされた。一体何が、どうなっている。混乱しながら、それでも復旧に勤めること十数分。

 23区域内の工場地帯跡地で戦闘の痕跡と共にを発見、守護者は伊佐凪竜一の仕業と断定、捜査を進める――
 
 そんな通信を傍受した。一部。式守。その単語だけで何があったかは想像に容易い。セラフが、負けた。しかも完膚なきまでに。連合最強の一角に数えられるセラフ3機が、ガブリエル不在のハンデを抱えた状態とは言え、ものの数分で破壊された。何かが居る。残虐で、桁違いに強い何かが。
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