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第6章 運命の時は近い
235話 運命の日
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夜の帳が降り、満天の星空が上空から街を照らす真夜中。時間は刻一刻と進み、もう少しで運命の日を迎えようという頃、漸くルミナ達はサクヤから帰還した。
疲労困憊の白川水希は自室に戻り、アックスは黙々と禅を熟し、残ったルミナとタケルはコノハナの部屋から回収した情報を精査する。しかし、幾つもの要素が重なり、進捗は思わしくない。大量の情報、医療関係の知識不足、そして……
『医療機関で発生した忌むべき事件に対し進展がありました。皆さん、驚かないでください。なんとッ、旗艦の英雄ルミナ=AZ1ことルクセリア=アルゼンタム・ザルヴァートルとタケミカヅチ弐号機が犯人でした。医療機関サクヤで働く復元医コノハナを殺害したのは、彼女に救われた英雄その人だったのですッ。ココに至ればもう疑いようはありません。英雄は、もはや悪魔へと堕ちてしまったのです。そして、その牙は明日も必ず誰かの命を奪うでしょう……』
最たる問題はほぼ全ての報道番組が報じるニュース。悪意に満ちた追い打ちにより、2人の手が、精神が鈍る。
結果を先導したのは言うまでもなく守護者。彼等は現場を一瞥しただけでルミナを犯人と断定、ほぼ同時に現着したスサノヲの反対を押し切り全報道機関に伝達した。その決め手をアクィラ=ザルヴァートル前総帥の殺害に使用された銃と全く同じ物がコノハナ殺害に使用されたと尤もらしく説明したが、調査も何も行っていないどころか武器はルミナが回収しており現場には無い。もはや証拠の有無さえどうでも良いらしい。
しかし真に問題なのは守護者に従う、あるいは従わされる報道機関。彼等は英雄の凋落をセンセーショナルに報道するに止まらず、偏向報道まで行う。英雄らしからぬ行動への疑問や擁護の声は未だ根強いのだが、報道はその声を完全に無視した。反論を完全に封殺、更に何らの裏付けを取らないまま守護者から与えられた情報をそのまま伝える姿勢は全く褒められず、報道関係者としてあるべき姿からはほど遠い。
ザルヴァートル財団前総帥アクィラ=ザルヴァートルに続き自らの担当医コノハナをも殺害したルミナ。フォルトゥナ=デウス・マキナ誘拐犯の疑いが晴れたかと思えば、地球唯一の転移施設、羽田宇宙空港を爆破して旗艦アマテラスに不法侵入を果たしたテロリスト伊佐凪竜一。
コレが報道が流す偽りの真実であり、事情を知らない者も絶えず流される偽りの情報に何時の間にか意識を侵食される。時を経る毎に1人また1人と英雄を憎む人間が生まれ、憎悪を他人に伝え、その果てに完成した憎悪の鎖が旗艦全域を飲み込むのは時間の問題だろう。
不満が爆発した理由はもう1つある。婚姻の儀を明日に控えた旗艦は、本来ならばこの一大イベントに湧き上がり、それに伴う特需で盛り上がる筈だった。遠のく復興の足掛かりとして期待する声も大きかった。しかし、度重なる情報操作と偏向報道により市民達の多くは英雄が復興に水を差したと誤認した。何処を監視しても同じ光景が広がる。目出度いイベントを明日に控えたとは思えない程に、誰も彼もがピリピリしている。
だが、やがてそんな暗い空気を押し流すかのように婚姻の儀に関する情報が流され出した。今、映像は守護者達が厳重に警護するホテルの中で独身最後の夜を過ごす婚約者の様子を捉えている。
遠望からの映像にはルミナ達と散々敵対したオレステスの姿が映る。完全な報道規制により姫の姿は確認できないが、男の様子を見れば結婚を明日に控えた極普通の青年然としており、シャットアウトされた映像の向こうにいるであろう姫と談笑する仲睦まじい様子は、"明日、本当に何か起こるのか"なんて陳腐な疑問が浮かぶ程に幸せそうに見えた。
正しく先程までと対照的な雰囲気と番組構成に、私はある意図を感じ取った。堕ちた英雄を悪魔、フォルトゥナ=デウス・マキナとオレステス含む守護者を光や神に見立てる事で、旗艦で起きた様々な事象を安易な二元論で纏めようとしている。英雄は悪、神とソレに仕える守護者こそ正義。報道番組の姿勢はとても忌々しい程に終始一貫していた。
「済まなイ、やはり見るべきでは無かった」
タケルはそう言うと恣意的な報道に終始するディスプレイの電源を落とした。
「言い出したのは私だから気にしなくて良いよ。解析は?」
「まだ相当に時間が掛かる。俺が纏めておくからもう休んでくれ。結果は後で確認すれば良イ」
「そうか。済まない、そうさせて貰う」
タケルは優しい微笑みを浮かべながら対面に座るルミナに声を掛ける。彼がそう声を掛けるのは実は2度目。一度は大丈夫と言い切った彼女の様子を精査の合間に確認していた彼は、隠し切れないほどの疲労が彼女の顔に浮かぶ瞬間を見逃さなかった。
ルミナは"じゃあ少しだけ"と提案を受け入れると足早に姿を消した。古めかしいホテルに手を加えたこの場所は、内装や小物に至るまで落ち着いた色合いで統一されている。暖色系の色合いやゴテゴテした派手な装飾は使用されておらず、寒色系を避けた青や紺色が使用されている。こう言った色は心理的に作用し落ち着かせる効果があるなんて話を聞いた事がある。色彩心理学やカラーセラピーといった類のものだが、流石に現状では焼け石に水だ。
「駄目だな、私は……」
自室に戻ったルミナは、心中の複雑な感情を強引な一言に纏めた。色々な事を考えながら彼女が最終的に辿り着いた結論は何とも自虐的で悲観的。しかし、彼女は心を許した人物を立て続けに目の前で殺害される事態に直面しているのだから無理も無い。恐らく今も否定的な思考の渦に囚われているであろうルミナは鈍い足取りで自室へと辿り着くやベッドに体重を預け、程なく意識を手放した。その最後にもう1人の英雄の名を呟きながら――
こんな状況で、果たして明日に起こるであろう何かを食い止めることが出来るのだろうか。カグツチという粒子を扱う戦闘技術は、ソレを扱う者の意志の強さがダイレクトに反映される。彼女の、英雄達の意志は桁違いに強い。ソレは半年前の神魔戦役を奇跡的な力でもって終結に導いた事実が物語っている。だからタナトスは徹底してその意志を削ぐ。あらゆる奸計を巡らせ、耗弱させ、然るべき場所で止めを刺す為に憎悪の鎖の影で牙を研ぐ。
そう。全ては明日――と、時計を見れば日付は0時を僅かに過ぎ、運命の日を迎えていた。慌ただしく、あるいは静かに、各々が運命の日を迎えた。
今日だ。今日、何かが起こる。
疲労困憊の白川水希は自室に戻り、アックスは黙々と禅を熟し、残ったルミナとタケルはコノハナの部屋から回収した情報を精査する。しかし、幾つもの要素が重なり、進捗は思わしくない。大量の情報、医療関係の知識不足、そして……
『医療機関で発生した忌むべき事件に対し進展がありました。皆さん、驚かないでください。なんとッ、旗艦の英雄ルミナ=AZ1ことルクセリア=アルゼンタム・ザルヴァートルとタケミカヅチ弐号機が犯人でした。医療機関サクヤで働く復元医コノハナを殺害したのは、彼女に救われた英雄その人だったのですッ。ココに至ればもう疑いようはありません。英雄は、もはや悪魔へと堕ちてしまったのです。そして、その牙は明日も必ず誰かの命を奪うでしょう……』
最たる問題はほぼ全ての報道番組が報じるニュース。悪意に満ちた追い打ちにより、2人の手が、精神が鈍る。
結果を先導したのは言うまでもなく守護者。彼等は現場を一瞥しただけでルミナを犯人と断定、ほぼ同時に現着したスサノヲの反対を押し切り全報道機関に伝達した。その決め手をアクィラ=ザルヴァートル前総帥の殺害に使用された銃と全く同じ物がコノハナ殺害に使用されたと尤もらしく説明したが、調査も何も行っていないどころか武器はルミナが回収しており現場には無い。もはや証拠の有無さえどうでも良いらしい。
しかし真に問題なのは守護者に従う、あるいは従わされる報道機関。彼等は英雄の凋落をセンセーショナルに報道するに止まらず、偏向報道まで行う。英雄らしからぬ行動への疑問や擁護の声は未だ根強いのだが、報道はその声を完全に無視した。反論を完全に封殺、更に何らの裏付けを取らないまま守護者から与えられた情報をそのまま伝える姿勢は全く褒められず、報道関係者としてあるべき姿からはほど遠い。
ザルヴァートル財団前総帥アクィラ=ザルヴァートルに続き自らの担当医コノハナをも殺害したルミナ。フォルトゥナ=デウス・マキナ誘拐犯の疑いが晴れたかと思えば、地球唯一の転移施設、羽田宇宙空港を爆破して旗艦アマテラスに不法侵入を果たしたテロリスト伊佐凪竜一。
コレが報道が流す偽りの真実であり、事情を知らない者も絶えず流される偽りの情報に何時の間にか意識を侵食される。時を経る毎に1人また1人と英雄を憎む人間が生まれ、憎悪を他人に伝え、その果てに完成した憎悪の鎖が旗艦全域を飲み込むのは時間の問題だろう。
不満が爆発した理由はもう1つある。婚姻の儀を明日に控えた旗艦は、本来ならばこの一大イベントに湧き上がり、それに伴う特需で盛り上がる筈だった。遠のく復興の足掛かりとして期待する声も大きかった。しかし、度重なる情報操作と偏向報道により市民達の多くは英雄が復興に水を差したと誤認した。何処を監視しても同じ光景が広がる。目出度いイベントを明日に控えたとは思えない程に、誰も彼もがピリピリしている。
だが、やがてそんな暗い空気を押し流すかのように婚姻の儀に関する情報が流され出した。今、映像は守護者達が厳重に警護するホテルの中で独身最後の夜を過ごす婚約者の様子を捉えている。
遠望からの映像にはルミナ達と散々敵対したオレステスの姿が映る。完全な報道規制により姫の姿は確認できないが、男の様子を見れば結婚を明日に控えた極普通の青年然としており、シャットアウトされた映像の向こうにいるであろう姫と談笑する仲睦まじい様子は、"明日、本当に何か起こるのか"なんて陳腐な疑問が浮かぶ程に幸せそうに見えた。
正しく先程までと対照的な雰囲気と番組構成に、私はある意図を感じ取った。堕ちた英雄を悪魔、フォルトゥナ=デウス・マキナとオレステス含む守護者を光や神に見立てる事で、旗艦で起きた様々な事象を安易な二元論で纏めようとしている。英雄は悪、神とソレに仕える守護者こそ正義。報道番組の姿勢はとても忌々しい程に終始一貫していた。
「済まなイ、やはり見るべきでは無かった」
タケルはそう言うと恣意的な報道に終始するディスプレイの電源を落とした。
「言い出したのは私だから気にしなくて良いよ。解析は?」
「まだ相当に時間が掛かる。俺が纏めておくからもう休んでくれ。結果は後で確認すれば良イ」
「そうか。済まない、そうさせて貰う」
タケルは優しい微笑みを浮かべながら対面に座るルミナに声を掛ける。彼がそう声を掛けるのは実は2度目。一度は大丈夫と言い切った彼女の様子を精査の合間に確認していた彼は、隠し切れないほどの疲労が彼女の顔に浮かぶ瞬間を見逃さなかった。
ルミナは"じゃあ少しだけ"と提案を受け入れると足早に姿を消した。古めかしいホテルに手を加えたこの場所は、内装や小物に至るまで落ち着いた色合いで統一されている。暖色系の色合いやゴテゴテした派手な装飾は使用されておらず、寒色系を避けた青や紺色が使用されている。こう言った色は心理的に作用し落ち着かせる効果があるなんて話を聞いた事がある。色彩心理学やカラーセラピーといった類のものだが、流石に現状では焼け石に水だ。
「駄目だな、私は……」
自室に戻ったルミナは、心中の複雑な感情を強引な一言に纏めた。色々な事を考えながら彼女が最終的に辿り着いた結論は何とも自虐的で悲観的。しかし、彼女は心を許した人物を立て続けに目の前で殺害される事態に直面しているのだから無理も無い。恐らく今も否定的な思考の渦に囚われているであろうルミナは鈍い足取りで自室へと辿り着くやベッドに体重を預け、程なく意識を手放した。その最後にもう1人の英雄の名を呟きながら――
こんな状況で、果たして明日に起こるであろう何かを食い止めることが出来るのだろうか。カグツチという粒子を扱う戦闘技術は、ソレを扱う者の意志の強さがダイレクトに反映される。彼女の、英雄達の意志は桁違いに強い。ソレは半年前の神魔戦役を奇跡的な力でもって終結に導いた事実が物語っている。だからタナトスは徹底してその意志を削ぐ。あらゆる奸計を巡らせ、耗弱させ、然るべき場所で止めを刺す為に憎悪の鎖の影で牙を研ぐ。
そう。全ては明日――と、時計を見れば日付は0時を僅かに過ぎ、運命の日を迎えていた。慌ただしく、あるいは静かに、各々が運命の日を迎えた。
今日だ。今日、何かが起こる。
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