【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第6章 運命の時は近い

177話 ただ、君の身を案じる

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「ふぅん」

「へぇ」

 守護者になる。堂々と自らの夢を語ったタガミに対するクシナダと伊佐凪竜一は仲良く同じ反応を返す。

「アレ?なんだお前等笑わねぇのな。知り合いには無謀だ無茶だと良く笑われたモンだがなぁ、ありがテェし嬉しいが何か調子狂うな……」

 酷く淡泊だが、嘲笑も侮蔑も含まない2人の様子にタガミは少々困惑した。その反応を見れば今の今まで夢を語らなかった理由がよく分かる。

 旗艦ココで生まれたならばスサノヲを目指すのが当たり前。スサノヲと守護者、何れも苛烈な程に厳しい試験を潜らねばならないが、別の惑星に向かう準備には時間も資金も労力も掛かり、当然ながらその分だけ難易度が上がる。嘲笑まではいかないにせよ、否定的な反応が返ってくるのは当然の話。

「笑う理由、あった?」

「無いな」

「あぁ、そうかよ。だけど今更だが……」

 タガミの困惑は未だ消えない。揺れ動く感情の源泉は夢とは別のところにあったようだ。が……

「大丈夫よ、別にアンタが守護者とどうこうなんて誰も考えやしないわよ」

 話の続きを遮るように重ねられたクシナダの言葉に彼は目を丸くした。そう。彼の語る夢はハードルが高いとかそれ以前、余りにも状況が悪いのだ。端的に守護者達を目指すタガミの立ち位置は非常に危うく、ともすればスサノヲを追われかねない。裏切者か、さもなくば内通者の嫌疑が掛かってしまうからだ。

「そうかい。俺、実は結構信用されてたんだなァ」

 そう語るやタガミの頬は大いに緩んだ。柄にもなく照れていると言うか、なんともむずがゆいといった様子だ。雑でいい加減で適当な性格を責めるばかりではなく、努力と成果を正しく評価されていたのだと感激している。

「は?違うわよ。守護者に推薦って話、一度上にしたでしょ?」

 が、即座に水を差された。

「え?お、おう」

「だからソレ以後ずーっと神様アマテラスオオカミの監視対象になってるのよ、アンタ」

「な、何ィ!?」

「当然でしょ?で、ずーっとアンタ監視してた元神様ヒルメが問題ないって太鼓判押したからだよ?」

「あれぇ……」

 信用されていると思っていたら全然そんな事はなく、夢の一件から神の監視対象に選ばれた事実が図らずも身の潔白の証明に繋がっただけだと知ったタガミは大きく肩を落とした。

 成程。確かに神が潔白を証明したならクシナダの態度にも納得がいく。それに神魔戦役以前にまで遡れば、封印から逃れたヒルメが彼を頼った理由にも説明がつく。土壇場の精神力と言う計測しがたい内面などではなく、守護者を目指す胆力と実力に加え、神から推薦されたい打算という2つの要素を理由に彼は補佐役に抜擢されたのだ。

「ま、まぁまぁ。俺は信用してるから、な?」

 知りたくもなかった事実に酷く落胆するタガミに堪らず伊佐凪竜一がフォローを入れるが……

「はぁ。おまえじゃなぁァ。ま、いいや。じゃ、今度メシでも頼むよ」

 と、好意を無下にした挙句に奢らせに掛かる。人の好い彼は"世話になってるから"と快諾するが……

「は?彼の予定は私で埋まってんのよ!!」

 今度は隣のクシナダが即断で却下すると、更にドサクサ紛れに自分との約束にすり替える。仲良いね、君達。

「お前さぁ……」

「また、約束が増えた……」

 タガミは呆れ、増え続ける約束に首が絞まる遠い未来の己を幻視した伊佐凪竜一の顔は真っ青になり、そんな2人を他所にクシナダは1人上機嫌に予定を確認し始める。ホントに仲良いね、君達は。

「オホン。えー、話を戻すぞ?婚姻の儀は毎年特定の日に行う習わしなんだよ。だから日を改めるって事は出来ない。もし明日が駄目になったら来年の同じ日になる」

 下降するエレベーターから目的地が少しずつ鮮明になる光景に我を取り戻したタガミは婚姻の儀に関する情報の続きを語り始めた。

「へー」

「ナギは知らねぇかもしれないがよ、恒星と恒星の間にカグツチの通り道があるんだよ。その目には見えねぇ粒子の通り道を遮るように建つのが神殿、つまり神殿内の濃度はかなり高いみたいなんだな。代々の姫が継承する幸運の星はその制御の為に莫大な力を使うって噂みたいな話があるから、だからパルテノン神殿にはカグツチを貯蔵する機能があって、婚姻の儀を通して力を補充しているんじゃないかって旗艦ウチの研究者は推測してるのさ」

「推測って事はまだわかってないのか?」

「そりゃ当然だろ?特別な儀式ってだけでも問題なのに、それが婚姻って人生で最も重要な儀式だぜ?興味あるから調査させて下さいなんて許可下りねぇし下ろさねぇよ普通」

「そうか、それもそうだな」

「そうでなくても結構微妙だからなぁ。この辺は俺よりも……」

 一通り知識を披露したタガミは視線をクシナダに送ると、次の話題を振られた当人はため息交じりに"そうね"と零した。

「俺、その辺は何も知らないんだけど?」

「目の前のたん瘤、一番近い表現だとそうなるかな」

 両者の関係をストレートに表現した諺を聞いた伊佐凪竜一は驚いた。連合という枠組みの中で、双方共に神という強固な存在を持つ共通点があるならば相応に仲が良い筈、漠然とそう考えていた考えは脆くも崩れた。守護者の専横は極一部の暴走ではないと察した彼の表情はやがて曇り始める。

「邪見にされてるのか?」

「良くは思ってねぇだろうな」

「どうして?」

「私達って互いを監視してる訳なのよ。私達が主星を、主星が私達をってな具合で。何方かが暴走すればそれをもう片方が制止、あるいは制圧する。お互いに神と呼べる強力な存在を抱えているからこそ、暴走しない様に互いを監視する。その均衡が平和を生み、平和が繁栄を生み、繁栄が豊かさを生み、豊かさが人を幸福にする。そんな訳だから自然と競い合う土壌が出来た訳なんだけど、ねぇ?」

「あ、そうか」

 漸く彼は察した。クシナダの説明通り、守護者とスサノヲは良い意味で対立する関係にあった。が、半年前に崩れた。

「そう、そう言う訳だから元々ライバル意識みたいなのがあったんだけど、半年前のアレが原因でね。互いを監視する使命を負った筈の守護者は私達……っても極一部だけどさ、ともかく暴走を止められなかった。勿論、私達が一番悪いんだけど」

「連中も本来の役目を果たせなかったって理由で連合中から大いに叩かれたって話だし、他にも諸々見えないところで色々譲歩させられたってぇ話も聞いた。姫も同じく、だ。その絶対的な力で連合を保護している筈なのに、監視範囲外でバカやっちまった俺達の尻拭いをさせられたんだ」

「加えてウチの神様がその座を退いたってのが問題になって、駄目押しで未開惑星に喧嘩売って負けかけたって事実に余計な尾ひれが沢山ついちゃって。だから私達、完全に厄介者として見られちゃってるのよね。今までも蛮族だとか散々に評価されてたんだけど、ちょっと堪えるよねコレは」

 悪化する現状に自分の決断が関与している。正しい決断であったとしても、その余波が各所に暗い影を落とす。その事実は回りまわって伊佐凪竜一の心にも暗い影を落とそうと忍び寄る……

「落ち込まないでよ。寧ろ君がいなかったら私達もっと悲惨な状況になってたんだからさ」

 が、その影はクシナダの声に霧散した。

「そうだぜ、少なくとも俺達の恩人だからもっと胸を張って良いぜ?」

 立て続けにタガミも援護する。

「実際、ナギ君がいなかったら全滅してたって分析結果もあるのよ。いなくても勝てた可能性はあったんだけど、なりふり構わず地上戦力を完全に見捨てて主星まで逃走、守護者含む連合の全戦力を引き連れて即座に再戦を挑めば、って無茶な条件だけどね。ただ、それでも信じ難いけど"勝てた"じゃなくて"勝てた可能性"ね。しかも仮にソレで勝ってたとしてもその後の状況はもぅ最悪」

「先ず旗艦の面目は丸つぶれ。神が不在とは言え未開惑星に戦い挑んで負けそうになったんで逃げました、なんて連合の笑い者になる程度じゃ済まねぇ。連合頂点の座から引き摺り降ろされるのは確定で、その後はザルヴァートル財団監視下で組織再編されただろう。要は旗艦が丸ごと財団に組み込まれるって話だが、下手すりゃあ連合勢力図が激変してた」

「ザルヴァートル……って何だっけ?」

「あぁ、要は連合最大のお金持ち一族ね。それから……」

 話がなし崩しにザルヴァートル財団にまで広がるや饒舌だったクシナダの口が止まる。何かを言い淀む彼女の表情は余計な一言を口走ったと自戒するタガミと同じく非常に険しい。

「まぁ何時か知る事になるし、だからどうだって君は言いそうだけど。実はルミナがそのザルヴァートル直系の血縁なの」

 暫く考えた後、タガミの視線を受け取ったクシナダは伊佐凪竜一が知らない彼女の出生を暴露した。知る者が知れば大いに驚くであろう事実。想像してみれば当然だ、ある日突然仲の良い知り合いが途轍もない金持ちだと判明すれば誰だって目の色を変える。

 自分が金を持っている訳では無いのに、まるで自分の物になったかの様に勘違いしてしまう。仲が良いからというたったそれだけで自らもその恩恵に与れるという幻覚を見てしまう。深い仲であればある程そうだ、人がより良い生活と安定した社会基盤の維持の為に生み出した金という物は容易く人を狂わせる化け物へと変貌した。

 だが私の視線の先に映る伊佐凪竜一という男にそう言った感情は全くなかった。彼はクシナダから教えられたルミナの出生に対しあっけらかんと"あぁ、そうなのか"と言い捨てた。

 何とも適当に聞こえるが、しかしその表情には困惑も羨望も下劣さも打算も何も浮かんでいなかった。他者と己の境目を明確に理解しており、また同時に金という化け物に流されない意志を持っている。だから彼女の出自など気にも留めないし気にする必要も無い……

 が、本心はもっと別の場所にあるようだ。その名を聞いた瞬間、ほんの僅かの間だけ曇った表情が何よりの証拠。彼は、心底からルミナが心配なのだ。金よりも、名声よりも、ただ苦楽を共にした彼女の身を案じている。
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