【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第4章 凶兆

100話 出発 其の3

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「ぐぅぉおおッ!!」

 襲撃者のくぐもった声が木霊した。胸元から溢れる血を手で必死に抑えながらも必死で何かをしようと足掻くが、やがて限界が来ると土埃を舞い上げながら列車の床にドサリと倒れ込んだ。

 混乱に支配された虚ろな目の襲撃者が呆然と見つめる先にはあふれた血だまりの上に立つアックスの姿。彼は敵を倒した。が、漸く1人だ。

 スサノヲではないから当然それ用に改良された武器を十全に扱えず、故に引き金を引く度に痛みに襲われ、そんな有様で攻撃しても防壁を貫くには足りない。カグツチを扱うという技術は一朝一夕で身につく訳ではない。

 ならば彼はどうしたか。"同じ場所に何発でもぶち込む、痛みはムリヤリ耐える"という単純明快な手段で防壁を撃ち抜いた。

 所謂いわゆるワンホールショット。並大抵の腕前では出来ない技術と度胸と根性その他諸々を駆使し、彼は単独で防壁を装備した襲撃者を討伐した。

「大丈夫か?」

 後ろから声を掛けられたアックスは振り返ると満面の笑みでその男を見た。

「アン?おう、何とかな。そっちは?」

「取りあえずここに来るまでいたヤツは全員片づけた」

 が、戦果の違いを知るや笑顔は瞬く間に渋い表情へと変わった。目の前にいる彼はスサノヲだから張り合うだけ無駄なのだが……

「やっぱりお前強いなぁ。全くそうは見えないのに」

「褒めるかけなすかどっちかにしてくれ」

「ハハ、悪か……ちょい待ち」

 直後、アックスの態度が豹変した。伊佐凪竜一と共に前方車両へと移動しようとした彼は何かに気付くと倒した襲撃者の元に駆け寄り、胸元から血を流す男の支離滅裂な呻き声を後目に血塗れのシャツを思い切り引き裂いた。

「オイ、何だこりゃあ?」

「俺も知らない」

 ソコにあった物に私は驚いた。あぁ何と言う事だ、気が付けばそんな言葉を漏らしていた。目の当たりにした2人には皆目見当がつかない物、ソレは男の胸から腹部に掛けて埋めこまれた悍ましい物体。

「聞こえますか!!」

 直後、通信が入った。何か分からないが確実に禄でもない物体だと直感する2人の驚く表情の目の前に出現したディスプレイに映っているのはツクヨミ。

「良かった。コレが何か……」

「時限式の小型爆弾です。爆発すればこの列車が丸々吹き飛びます。敵は襲撃者と乗客諸共に私達を殺すつもりです」

「「なっ!!」」

 彼女の言葉はアックスとその周囲にいた乗客にも知れ渡り、更に波打つように各車両へと波及した。混乱、動転、恐怖した乗客達は他を押しのけ我先にとばかりに停止した列車から飛び降り始めた。

「いや、待て待て!!アンタ達が逃げるよりもコイツ等叩きだした方が早いって」

「信用できるかよ!!」

「嫌だ嫌だ死にたくねぇ!!」

 狭い出入口に人が殺到すれば逃亡などままならない。故にアックスの言葉通りに行動するのが無難であるのだが、しかしその言葉に耳を傾けなかった。予期しない戦いだけでも混乱するのに爆弾が埋め込まれているとなれば尚更だ。止めどない人の流れは前後の車両へと波及、窓から外を見れば逃げ出した乗客達が作る人の波が赤い地平線の向こうへと流れゆく光景。

 が、その中に別の赤色が混ざり始め、同時に発砲音が響き渡った。考えるまでも無い。まだ無傷の襲撃者が逃げ惑う乗客を後ろから銃撃しているのだ。

 私は正気を疑った。襲撃者ではなくソレを指示した何者かの方に、だ。その何者かは襲撃者達に爆弾を埋め込み、助かる条件として一定数以上の殺傷を提示したのだ。もし伊佐凪竜一達の殺害だけが目的ならば逃げ惑う乗客を背後から撃つ必要など無いし、寧ろ人質として利用する方が自然だ。

 しかし誰一人としてそんな真似をしなかった。襲撃者達は殺さねば自分が死ぬという最悪の天秤に乗せられており、ダメ押しでタイムリミットが近付いているのだ。故に彼らは恐怖し、錯乱していたと考えれば辻褄は合う。が、コレは悪魔の所業だ。おおよそ人が実行して良い手段ではない。

「恐らく襲撃者達は強制的に小型爆弾を埋め込まれたのでしょう。解放の条件に私達か乗客の殺害が含まれていると考えれば納得がいきます」

「滅茶苦茶過ぎるだろ!!幾ら何でも列車諸共なんてあの親父がクソでも実行しねぇよ」

「止める方法は?」

「無理です。こんな外法を躊躇いなく実行する位ですから、恐らく無理矢理外せば即座に爆発する程度の罠は仕掛けているとみて良いでしょう」

「なら乗客を助ける!!」

「あ、オイ!!俺も行くぜ」

 伊佐凪竜一は襲撃者を助けられないと知るや、躊躇いなく残った襲撃者の討伐に向かった。彼の揺ぎない意志は既に何方を助けるか決めている。颯爽と去る背中は、襲撃者を討伐し乗客を救うという決意と覚悟をこれ以上なく私に物語る。

 ※※※

 言葉が通じるのに会話が通じない。過去に発生した多くの軋轢を超え、互いの文化を理解し、文明が進む事で言語の壁を越えたとしても、その先の世界から争いは消えなかった。今、目の前の小さな出来事は連合が辿った歴史を如実に物語る。

「やぁぁろぉがァ!!」

「黙れッ。関係無い人を狙うな!!」

「ウルセェ、テメェ等が悪いんだ!!そうだお前等だッ、いいかよく聞けェ!!コイツ等が居なければ誰もこうはならなかったんだよォ!!」

 伊佐凪竜一の顔は怒りに歪んでいた。握り締めた拳を防壁に叩き込めば容易く破壊、貫通した拳は襲撃者の身体にめり込むと極限まで鍛えられたその身体を簡単にくの字に折り曲げたが、更に力いっぱい蹴り飛ばした。鈍重に見える程に分厚い筋肉で武装した襲撃者は拳と蹴りの連撃を真面に受けると運転席へと繋がる扉を破壊、無数の破片と共にその向こうに吹き飛ばされた。

 ピクピクと時折動く辺り多分生きてはいるが、起き上がる事は無理だろう。こう言う状態を破竹の勢い、電光石火と言うのだろう。私は改めて伊佐凪竜一の底力を見せつけられた。

 彼は列車を最前列目掛けて駆け抜けながら各車両に降り立った襲撃者を一撃で叩きのめし続けながら一直線に最前列まで駆け抜けた。この間、1分程度だろうか。アックスはその様子をただ見つめるしか無く、最後には湧き上がる意気を発散する場が無いと少しばかり落ち込んでいた位だ。

「ハァ……大したモンだ」

「急ごう」

「あぁ、そうだな。コイツ等には気の毒だが爆発に巻き込まれちゃかなわん」

 2人はもぬけの殻となった列車から飛び降り、不測の事態を告げる煙が濛々と立ち上がる先頭車両を後目に後部車両へと走り出した。ツクヨミからの連絡が途絶えた事実に敵の襲撃を予想した彼等が目撃したのは雷光と爆炎。予想通り彼女達も戦闘に巻き込まれていた。

 が、ソチラもツクヨミが粗方退けていたようだ。奇妙な形の杖を振り回しながら、同時にカグツチを引き寄せ別の力へと変換する紋様が刻まれたその杖は伊佐凪竜一の手助けをしたいと願う彼女が戦う際に使用する専用武装として開発された特製品。ソレは時に炎を生み出し、冷気を生み出し、雷を生み出し、暴風を生み出す。

「私達は反対側に逃げましょう」

 襲撃者を苦も無く退けたツクヨミは乗客と同じ場所に避難する事を避けた。彼らが集まる湖の反対にそびえる山岳側を提案した理由は巻き添えを防ぐという理由だけではない、襲撃を受けボロボロになった列車を眺める無数の目を見たからだ。

 その目は最初こそ恐怖に染まっていたが、やがて理不尽な襲撃への怒りへと変わった。呟くような声は次第に怒号を伴い始め、その矛先は襲撃者が"お前のせいだ"と叫んだ伊佐凪竜一達へと向かう。血気盛んな一部の乗客達が反対側に逃げようとする一向を捕まえろと声高に叫ぶと、ソレは狂気的な勢いで周囲に波及する。が、その矢先……

「少し落ち着かないか?」

 怒号をかき消す静かで力強い声が響いた。アックスだ。彼は乗客達を焚きつけるごく一部の連中の前に仁王立ちすると鋭い視線で睨みつけた。やはり彼は頼りになる。乗客の大半はごく一部の声に流されようとしているだけで、伊佐凪竜一に対し強い敵意を抱いていない。故に攻撃的なごく一部の連中さえ止めれば事が収まると理解していた。

「ア、アンタ……何の用だよ!!」

「お、お前みたいな奴が居るからッ!!」

「そうだそうだ!!どうせお前達を狙ったんだろう?」

 その言葉に彼は何も言い返さなかった。怒りに冷静さを失ってはいるが乗客の言葉に間違いは無いと確信しているからだ。より正確には自分では無く伊佐凪竜一かツクヨミかフォルトゥナ=デウス・マキナの誰かが狙われている。が、彼はそれを伝えず反論もせず、無言で何かを差し出した。

「何だ?何のつもりだ!!」

「治療薬だ、相棒から貰って来た。重症でも回復する程度には効果がある」

 アックスはそう言うと医療用ナノマシン入りのタブレットを血気盛んな男の手に握らせた。

「何のつもりだ!!」

「そのままだ、後はアンタが考えなよ。じゃあな」

 彼は多くを語る事無く急いでその場を後にした。掛けられる言葉は一つも無く、侮蔑と冷笑と怒りの籠った視線を背に受けながら列車を挟んだ反対側へと向かうアックス達を見送るのは幼い子供達だけだった。それが正しいか間違っているか分からないまま、少年少女達は感情のまま、見たままを受け入れ感謝の言葉を投げかけた。

 ※※※

 列車を襲撃した連中は一人残らず昏倒したまま立ち上がる事すら出来ず、時折呻き声やら声にならない嗚咽を漏らす。が、一方で爆発は未だ起きず不気味なまま沈黙を保っている。

「大丈夫か?」

 列車を見下ろす小高い丘へと一足先に上がったツクヨミとフォルトゥナ姫は無言でその様子を眺めていると、その背後から声が掛かった。振り向けば伊佐凪竜一とアックスの姿。2人の顔を見た姫は少しだけ安堵し、ツクヨミは笑顔で出迎えた。

「はい、君のお陰です。それからアックスの助力にも感謝します。ですが……」

「アイツ等か?」

「そうです。彼等に埋め込まれたのは時限式の爆弾で間違いない筈ですが、爆発する気配が一向にありません」

 いくつもの調査用端末を飛ばして中の様子を探るツクヨミの言葉に3人はジッと眼下を見つめる。確かに列車内を確認すれば、相も変わらず襲撃者達が呻いているだけでそれ以上の何かが起きる気配は見られない。

 ツクヨミの言葉は間違いで爆弾は偽物なのか、それともまだ時間に余裕があるのか。しかし、いずれにせよ体内に爆弾を埋め込まれた者達を助ける事は不可能に近い。

 一行の視界に映るのは、夕陽を反射する美しい湖面、地平線から動かない真っ赤な恒星に染まる赤く幻想的な世界、そして不気味な沈黙を保ち続ける列車……
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