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志摩×齋藤
【齋藤の一日】志摩×齋藤/ほのぼの
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朝七時、起床。
また人のベッドに入ってきてはすやすやと眠っている阿佐美に布団をかけ直してやる。
洗面台で身支度を整え、そろそろ着慣れてきた制服の袖に腕を通した。
また、一日が始まる。
「おはよう、齋籐」
穏やかな寝息を立てる阿佐美を部屋に残したまま廊下へ出れば、そこには例のごとく志摩が待ち伏せしていた。
多少ビックリしたが、いつものことだ。動揺を悟られないよう「おはよう」と挨拶を返す。
その手には、ラウンジの自販機で買ってきたらしい緑茶の空き缶が握られていた。
もしかしたら、長い時間ここにいたのかもしれない。
そんな考えが頭を過ったが、流石に志摩もそこまで暇ではないだろう。
咄嗟に俺は思考を振り払った。
それから、いつものように志摩と昨日あったテレビの話で盛り上がりながら寮一階へと向かう。
――学生寮、一階。
一緒に朝食を取ろうという志摩の要望により、ショッピングモールまで来ていた俺たちはコンビニに入った。
大体の生徒は食堂で朝食を取っているので、朝のコンビニは人が少ない。
「なに食べようか」
「……俺はこれにする」
「じゃあ俺もそれにする」
弁当売り場にて。
俺が手に取ったものと同じものを選ぶ志摩に、なんとも言えない気分になる。
「別に、無理して同じのにしなくてもいいよ」
「無理してないよ。俺は齋籐が食べたいやつが食べたいだけ」
なんと主体性のない。遠慮がちに言う俺に対し、志摩はそう笑いながら答える。
なんとなくスッキリしなかったが、どれを食べたいという相手の朝食に口出ししても仕方ない。
俺と志摩はレジで精算を済ませた。
ショッピングモール内に設置してあるラウンジで朝食を済ませ、俺と志摩は他愛ない話をしながら校舎へと移動する。
時間帯が時間帯なだけ、昇降口には多数の生徒がいた。
「佑樹、おはよーさん!」
不意に背後から背中を叩かる。
聞き覚えのある元気な声。咄嗟に振り返れば、そこには十勝が立っていた。
「ああ……おはよう、十勝君」
いきなり現れた十勝にビックリしながらも、俺は笑いながらそれに応えた。
「……っと、なんだ亮太も一緒か」
俺の横にいた志摩に目を向け、十勝はあからさまに嫌そうな顔をする。
「なに、俺が齋籐と一緒にいちゃ悪いわけ?」あまりにもわかりやすい十勝に気を悪くした志摩は、不愉快そうに顔を引きつらせた。
「はあ? 別になんもいってねーじゃん」
指摘され、動揺する十勝は「朝っぱらから被害妄想やめろ!」と吠える。
なんかややこしいことになりそうだったので、俺は「じゃあ、俺たちはこれで」と適当にその場を切り上げることにした。
志摩の腕を引っ張り強引に十勝から離した俺は、そのまま二年の教室の方に続く階段の前まで移動する。
「あ、ご、ごめん……」
一発触発な場から逃げるためとはいえ、長い間志摩を引っ張っていることに気付いた俺は慌てて手を離す。
邪魔をされ、むっとしていた志摩だったが俺の顔を見ればすぐに「別にいいよ」といつもの笑みを浮かべた。
「教室まで手、繋いで行こうか」
「……」
「……」
「……」
「……冗談だよ」
俺たちは教室に向かった。
教室に入り、時間になればいつものように授業が始まる。
どうやら今朝の十勝とのことがまだ残っているようだ。隣の席の志摩から機嫌が悪いオーラが漂ってくる。かなり居心地が悪い。
休み時間になり、また授業が始まる。時間割通りのそれを繰り返せば、いつの間にか時間は昼過ぎになっていた。
――昼休み。
午前の授業最後の終了のチャイムが校内に響き渡る。
「齋籐、一緒にご飯食べようよ」
授業が終わり、昼食を取りに行くクラスメイトたちで賑わう教室内。
教材を片付けていると、ふと隣の席から志摩が声を掛けてきた。
特に断る理由もなかったので、俺は「いいよ」と頷く。
――学生寮一階、食堂。
昼休みを利用して寮まで戻ってきた俺たちは、しょうもない会話を交わしながら席についた。
殆どの生徒は校舎内に設置してある売店を利用しているせいか、人が少ない。
柄の悪いグループで固まっている食堂の客層に内心ビクビクしながら、俺は志摩に手渡されたメニュー表を受け取る。
「齋籐、なに食べる?」
「俺はなんでもいいよ。志摩は?」
「俺? ……うーん、そうだなぁ」
聞き返せば、志摩は僅かに目を丸くし、すぐに難しい顔をした。
そう考え込む志摩は、今朝に比べて大分機嫌が戻っているように感じる。
「じゃあ、とんかつ定食」
「なら俺はぶっかけうどんで」
「えっ、俺もそっちがいい」
「え? とんかつ定食食べたいんじゃなかったの?」
「……齋籐って結構冷たいよね」
「なんで……」
結局、俺はぶっかけうどん、志摩はとんかつ定食を頼むことにする。
数分後。
先に運ばれてきた冷水で渇いた喉を潤していると、不意に隣の椅子が引かれた。
こんな広い食堂内でわざわざ俺の隣に座ってくる人間に心当たりがなかった俺は、恐る恐る隣に目を向ける。
と、同時にテーブルの上に大皿のカレーライスが置かれた。
「お前らっていっつも一緒だよな。一人じゃなにも出来ないわけ?」
安久だ。
相変わらず小馬鹿にしたような口調で続ける安久は、言いながら俺の隣に腰を下ろす。
当たり前のように隣に座ってくる安久にビビりつつ、俺は敢えて聞き流そうとした。
「あはは、羨ましいんだ」
「んなわけないじゃん」
「なら他に行きなよ。俺は齋籐と二人で食べたいんだけど」
ああ、また嫌な空気が。
なんでそんなにお互い突っ慳貪な態度を取るんだ。
食事の時ぐらい仲良くしよう。
思いながらも極力争い事に関わりたくない俺は、紛らすようにグラスに注がれた冷水をイッキ飲みした。
「ここは食堂だよ。あんたこそ二人きりで食べたいなら購買で弁当買って人気のない場所行きなよ」
「じゃあそうしてもらうね」
安久の言葉を真に受けたのか、椅子から立ち上がる志摩は「じゃあ行こうか」と俺に笑いかけてくる。
注文したものまだ届いてないのに。
あまりにもいきなりすぎる志摩の行動に俺は素で狼狽える。
「齋籐」
名前を呼ばれた。
つられるように慌てて席を立とうとすれば、横に座る安久に腕を引っ張られ、それを制される。
「あんた冗談通じないわけ? 僕が食べてる前でガタガタガタガタ音立てないでよ」
俺の腕を引く安久は、言いながら俺を無理矢理座らせた。
もしかしたら安久はただ一緒に昼食を取りたかっただけのようだ。
他にも言い方があっただろうに。
ふんと鼻を鳴らし、むっとした顔で食事を始める安久。
「……取り敢えず、来るの待ってようよ」あまりにも相性が悪い二人に苦笑しながら俺は志摩に声をかける。
「齋籐はいいの?」
「別に、俺は」
「ああそう、わかった」
志摩が怒った。
曖昧に頷く俺に、不愉快そうな顔をする志摩は渋々席につく。
暫くして、頼んでいた料理が運ばれてきた。
食べたかったはずなのに、口に入れても味がしなかったのは周りを取り巻く空気の悪さと無言でこちらをガン見してくる志摩がいたからだろう。
――食後。
食堂で安久と別れ、俺たちは校舎へと戻った。
今朝の分と昼食の分が重なったおかげで、いつもに増して志摩の機嫌がすこぶる悪い。
話すのは話すが、なんとなく目が笑ってなかった。
そんな志摩とともに教室入りをし、チャイムとともに午後の授業が始まる。
放課後までに志摩の機嫌が直っているといいのだけれど。
そう願いつつ、授業を受ける。
授業中。
不意に、隣の席から机の上になにか飛んできた。折り畳まれた紙だ。
俺は隣の席の志摩をちらりと見れば、志摩は顔を逸らすようにして窓の外を見る。
どうやらまだ機嫌が直ってないようだ。
なんとなく良い予感がしなかったが、取り敢えず渡された紙を開いてみる。
『俺ってそんなにサイトウにべったりしてる?』
どうやら俺の名字が漢字がわからなかったようだ。
ハサミかなんかでノートを切ったような用紙にはそう一文だけが書かれていた。
よっぽど安久に言われたことが気になっているようだ。
……返事した方がいいのだろうか。
あまり手紙に慣れていなかった俺はいきなり渡された手紙に戸惑いつつ、文の下に返事を書くことにする。
まあぶっちゃけ結構べったりしてるが、ここはあまり強く言わない方が良いだろう。
『普通だと思うよ』
そう返事を書いていると、返事を出す前にまた隣の席から手紙が飛んできた。
書き終わるまで待てないのか。
思いながら新しく飛んできた手紙を開こうとすれば、また二通目がやってくる。
机から落としそうになるのを手で押さえながら志摩の方に目を向ければ、志摩は十通以上ある紙を一気に机の上に置いてきた。
もさもさと机の上に出来る紙の山にギョッとする俺は、教師に見つからないよう慌てて机の中に突っ込む。
『今日面白いテレビあるよ』
『うどん美味しかった?』
『トンカツ美味しかったよ』
『俺ってうざい?』
『この先生ヅラ』
『齋籐 ←これ上手く書けた』
くだらない内容に混ざって、ネガティブな内容の手紙を見つける。
気にしすぎなんじゃないのか。
以外と繊細なのかと内心呆れつつ、俺は返事を書いた一通目の手紙だけを志摩の机に置いた。
カサリと隣の席から紙を開く音が聞こえる。俺は教科書を読むフリをしながら隣の席に目を向ける。
また手紙が飛んできた。速筆にもほどがあるだろ。
思いながら、俺は手紙を開いた。
『じゃあ、これからはもっとべったりしていくね』
どうやら変に遠慮したのが裏目に出てしまったようだ。
文面からは冗談かわからなくて、慌てて隣の席に顔を向けたと同時に顔に紙が当たる。
結構痛い。
顔を押さえながら机の上に落ちる紙を拾い上げる。
『これからもよろしくね』
志摩の方に目を向ければ、丁度俺を見ていた志摩と目が合った。
にこりと笑いかけてくる志摩に、俺は背中に嫌な汗が滲むのを感じる。
……早まったかもしれない。
◆ ◆ ◆
――朝七時、起床。
阿佐美がいなくなった後の部屋は広い。
重い体を無理矢理動かしながらベッドから起き上がる。
「齋籐、おはよう」
いつの間にかにベッドの側に立っていた志摩は、俺の顔を覗き込み笑いかけてきた。
「朝食、買ってきといたよ。顔洗ったら一緒に食べよう」
言われて、テーブルの上に目を向ける。そこにはコンビニの買い物袋が置かれていた。
中身まで見えなかったが、恐らく俺がよく食べている弁当だろう。なんとなくそう感じた。
再びベッドに寝転んだ俺は、頭まで布団を被り体を丸めた。
「齋籐、どうしたの? 起きないと遅刻しちゃうよ」
布団越しにゆさゆさと体を揺すられる。
優しく宥めるような志摩の声が、微睡んでいた俺の思考を徐々に覚醒させた。
「齋籐」
「……志摩」
「うん? どうしたの?」
「今度はどこの鍵壊して部屋に入ってきたわけ?」
また、一日が始まる。
おしまい
また人のベッドに入ってきてはすやすやと眠っている阿佐美に布団をかけ直してやる。
洗面台で身支度を整え、そろそろ着慣れてきた制服の袖に腕を通した。
また、一日が始まる。
「おはよう、齋籐」
穏やかな寝息を立てる阿佐美を部屋に残したまま廊下へ出れば、そこには例のごとく志摩が待ち伏せしていた。
多少ビックリしたが、いつものことだ。動揺を悟られないよう「おはよう」と挨拶を返す。
その手には、ラウンジの自販機で買ってきたらしい緑茶の空き缶が握られていた。
もしかしたら、長い時間ここにいたのかもしれない。
そんな考えが頭を過ったが、流石に志摩もそこまで暇ではないだろう。
咄嗟に俺は思考を振り払った。
それから、いつものように志摩と昨日あったテレビの話で盛り上がりながら寮一階へと向かう。
――学生寮、一階。
一緒に朝食を取ろうという志摩の要望により、ショッピングモールまで来ていた俺たちはコンビニに入った。
大体の生徒は食堂で朝食を取っているので、朝のコンビニは人が少ない。
「なに食べようか」
「……俺はこれにする」
「じゃあ俺もそれにする」
弁当売り場にて。
俺が手に取ったものと同じものを選ぶ志摩に、なんとも言えない気分になる。
「別に、無理して同じのにしなくてもいいよ」
「無理してないよ。俺は齋籐が食べたいやつが食べたいだけ」
なんと主体性のない。遠慮がちに言う俺に対し、志摩はそう笑いながら答える。
なんとなくスッキリしなかったが、どれを食べたいという相手の朝食に口出ししても仕方ない。
俺と志摩はレジで精算を済ませた。
ショッピングモール内に設置してあるラウンジで朝食を済ませ、俺と志摩は他愛ない話をしながら校舎へと移動する。
時間帯が時間帯なだけ、昇降口には多数の生徒がいた。
「佑樹、おはよーさん!」
不意に背後から背中を叩かる。
聞き覚えのある元気な声。咄嗟に振り返れば、そこには十勝が立っていた。
「ああ……おはよう、十勝君」
いきなり現れた十勝にビックリしながらも、俺は笑いながらそれに応えた。
「……っと、なんだ亮太も一緒か」
俺の横にいた志摩に目を向け、十勝はあからさまに嫌そうな顔をする。
「なに、俺が齋籐と一緒にいちゃ悪いわけ?」あまりにもわかりやすい十勝に気を悪くした志摩は、不愉快そうに顔を引きつらせた。
「はあ? 別になんもいってねーじゃん」
指摘され、動揺する十勝は「朝っぱらから被害妄想やめろ!」と吠える。
なんかややこしいことになりそうだったので、俺は「じゃあ、俺たちはこれで」と適当にその場を切り上げることにした。
志摩の腕を引っ張り強引に十勝から離した俺は、そのまま二年の教室の方に続く階段の前まで移動する。
「あ、ご、ごめん……」
一発触発な場から逃げるためとはいえ、長い間志摩を引っ張っていることに気付いた俺は慌てて手を離す。
邪魔をされ、むっとしていた志摩だったが俺の顔を見ればすぐに「別にいいよ」といつもの笑みを浮かべた。
「教室まで手、繋いで行こうか」
「……」
「……」
「……」
「……冗談だよ」
俺たちは教室に向かった。
教室に入り、時間になればいつものように授業が始まる。
どうやら今朝の十勝とのことがまだ残っているようだ。隣の席の志摩から機嫌が悪いオーラが漂ってくる。かなり居心地が悪い。
休み時間になり、また授業が始まる。時間割通りのそれを繰り返せば、いつの間にか時間は昼過ぎになっていた。
――昼休み。
午前の授業最後の終了のチャイムが校内に響き渡る。
「齋籐、一緒にご飯食べようよ」
授業が終わり、昼食を取りに行くクラスメイトたちで賑わう教室内。
教材を片付けていると、ふと隣の席から志摩が声を掛けてきた。
特に断る理由もなかったので、俺は「いいよ」と頷く。
――学生寮一階、食堂。
昼休みを利用して寮まで戻ってきた俺たちは、しょうもない会話を交わしながら席についた。
殆どの生徒は校舎内に設置してある売店を利用しているせいか、人が少ない。
柄の悪いグループで固まっている食堂の客層に内心ビクビクしながら、俺は志摩に手渡されたメニュー表を受け取る。
「齋籐、なに食べる?」
「俺はなんでもいいよ。志摩は?」
「俺? ……うーん、そうだなぁ」
聞き返せば、志摩は僅かに目を丸くし、すぐに難しい顔をした。
そう考え込む志摩は、今朝に比べて大分機嫌が戻っているように感じる。
「じゃあ、とんかつ定食」
「なら俺はぶっかけうどんで」
「えっ、俺もそっちがいい」
「え? とんかつ定食食べたいんじゃなかったの?」
「……齋籐って結構冷たいよね」
「なんで……」
結局、俺はぶっかけうどん、志摩はとんかつ定食を頼むことにする。
数分後。
先に運ばれてきた冷水で渇いた喉を潤していると、不意に隣の椅子が引かれた。
こんな広い食堂内でわざわざ俺の隣に座ってくる人間に心当たりがなかった俺は、恐る恐る隣に目を向ける。
と、同時にテーブルの上に大皿のカレーライスが置かれた。
「お前らっていっつも一緒だよな。一人じゃなにも出来ないわけ?」
安久だ。
相変わらず小馬鹿にしたような口調で続ける安久は、言いながら俺の隣に腰を下ろす。
当たり前のように隣に座ってくる安久にビビりつつ、俺は敢えて聞き流そうとした。
「あはは、羨ましいんだ」
「んなわけないじゃん」
「なら他に行きなよ。俺は齋籐と二人で食べたいんだけど」
ああ、また嫌な空気が。
なんでそんなにお互い突っ慳貪な態度を取るんだ。
食事の時ぐらい仲良くしよう。
思いながらも極力争い事に関わりたくない俺は、紛らすようにグラスに注がれた冷水をイッキ飲みした。
「ここは食堂だよ。あんたこそ二人きりで食べたいなら購買で弁当買って人気のない場所行きなよ」
「じゃあそうしてもらうね」
安久の言葉を真に受けたのか、椅子から立ち上がる志摩は「じゃあ行こうか」と俺に笑いかけてくる。
注文したものまだ届いてないのに。
あまりにもいきなりすぎる志摩の行動に俺は素で狼狽える。
「齋籐」
名前を呼ばれた。
つられるように慌てて席を立とうとすれば、横に座る安久に腕を引っ張られ、それを制される。
「あんた冗談通じないわけ? 僕が食べてる前でガタガタガタガタ音立てないでよ」
俺の腕を引く安久は、言いながら俺を無理矢理座らせた。
もしかしたら安久はただ一緒に昼食を取りたかっただけのようだ。
他にも言い方があっただろうに。
ふんと鼻を鳴らし、むっとした顔で食事を始める安久。
「……取り敢えず、来るの待ってようよ」あまりにも相性が悪い二人に苦笑しながら俺は志摩に声をかける。
「齋籐はいいの?」
「別に、俺は」
「ああそう、わかった」
志摩が怒った。
曖昧に頷く俺に、不愉快そうな顔をする志摩は渋々席につく。
暫くして、頼んでいた料理が運ばれてきた。
食べたかったはずなのに、口に入れても味がしなかったのは周りを取り巻く空気の悪さと無言でこちらをガン見してくる志摩がいたからだろう。
――食後。
食堂で安久と別れ、俺たちは校舎へと戻った。
今朝の分と昼食の分が重なったおかげで、いつもに増して志摩の機嫌がすこぶる悪い。
話すのは話すが、なんとなく目が笑ってなかった。
そんな志摩とともに教室入りをし、チャイムとともに午後の授業が始まる。
放課後までに志摩の機嫌が直っているといいのだけれど。
そう願いつつ、授業を受ける。
授業中。
不意に、隣の席から机の上になにか飛んできた。折り畳まれた紙だ。
俺は隣の席の志摩をちらりと見れば、志摩は顔を逸らすようにして窓の外を見る。
どうやらまだ機嫌が直ってないようだ。
なんとなく良い予感がしなかったが、取り敢えず渡された紙を開いてみる。
『俺ってそんなにサイトウにべったりしてる?』
どうやら俺の名字が漢字がわからなかったようだ。
ハサミかなんかでノートを切ったような用紙にはそう一文だけが書かれていた。
よっぽど安久に言われたことが気になっているようだ。
……返事した方がいいのだろうか。
あまり手紙に慣れていなかった俺はいきなり渡された手紙に戸惑いつつ、文の下に返事を書くことにする。
まあぶっちゃけ結構べったりしてるが、ここはあまり強く言わない方が良いだろう。
『普通だと思うよ』
そう返事を書いていると、返事を出す前にまた隣の席から手紙が飛んできた。
書き終わるまで待てないのか。
思いながら新しく飛んできた手紙を開こうとすれば、また二通目がやってくる。
机から落としそうになるのを手で押さえながら志摩の方に目を向ければ、志摩は十通以上ある紙を一気に机の上に置いてきた。
もさもさと机の上に出来る紙の山にギョッとする俺は、教師に見つからないよう慌てて机の中に突っ込む。
『今日面白いテレビあるよ』
『うどん美味しかった?』
『トンカツ美味しかったよ』
『俺ってうざい?』
『この先生ヅラ』
『齋籐 ←これ上手く書けた』
くだらない内容に混ざって、ネガティブな内容の手紙を見つける。
気にしすぎなんじゃないのか。
以外と繊細なのかと内心呆れつつ、俺は返事を書いた一通目の手紙だけを志摩の机に置いた。
カサリと隣の席から紙を開く音が聞こえる。俺は教科書を読むフリをしながら隣の席に目を向ける。
また手紙が飛んできた。速筆にもほどがあるだろ。
思いながら、俺は手紙を開いた。
『じゃあ、これからはもっとべったりしていくね』
どうやら変に遠慮したのが裏目に出てしまったようだ。
文面からは冗談かわからなくて、慌てて隣の席に顔を向けたと同時に顔に紙が当たる。
結構痛い。
顔を押さえながら机の上に落ちる紙を拾い上げる。
『これからもよろしくね』
志摩の方に目を向ければ、丁度俺を見ていた志摩と目が合った。
にこりと笑いかけてくる志摩に、俺は背中に嫌な汗が滲むのを感じる。
……早まったかもしれない。
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――朝七時、起床。
阿佐美がいなくなった後の部屋は広い。
重い体を無理矢理動かしながらベッドから起き上がる。
「齋籐、おはよう」
いつの間にかにベッドの側に立っていた志摩は、俺の顔を覗き込み笑いかけてきた。
「朝食、買ってきといたよ。顔洗ったら一緒に食べよう」
言われて、テーブルの上に目を向ける。そこにはコンビニの買い物袋が置かれていた。
中身まで見えなかったが、恐らく俺がよく食べている弁当だろう。なんとなくそう感じた。
再びベッドに寝転んだ俺は、頭まで布団を被り体を丸めた。
「齋籐、どうしたの? 起きないと遅刻しちゃうよ」
布団越しにゆさゆさと体を揺すられる。
優しく宥めるような志摩の声が、微睡んでいた俺の思考を徐々に覚醒させた。
「齋籐」
「……志摩」
「うん? どうしたの?」
「今度はどこの鍵壊して部屋に入ってきたわけ?」
また、一日が始まる。
おしまい
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