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志摩×齋藤
【好きって言わせたい志摩】いちゃいちゃ※
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志摩亮太は、気紛れだ。
「齋籐」
「なに?」
「今俺がなに考えてるか当ててみてよ」
突然そんな提案をしてくる志摩は「当たったらなんかあげるよ」と笑いかけてきた。
学生寮、303号室。
勉強会という名目で志摩の部屋にやってきていた俺は、テーブルを挟んで向かい側のソファーに腰を下ろす志摩に目を向ける。
さっきからテレビばっか見て肝心の教材には全く手をつけて
いないと思えば、今度はなんだ。
あまりにも不真面目な志摩に今さら文句はないが、その自由さに真面目に勉強しているこちらまで全部がバカバカしくなってくる。
「……なんかって?」
持っていたシャーペンをテーブルの上に置きながら、俺は志摩の遊びに乗ることにした。
「じゃあ、当たったら齋籐の言うことなんでも聞くとか」
「いいよ、別にそんな」
「当たったらだよ、当たったら。外れたら逆にしようか」
「逆?」
「齋籐が俺の言うことをなんでも聞く」
これはもしかしてあれか。
どう足掻いても俺が志摩の言うことを聞かなければいけないというそういう不条理ゲームか。
「……やらない」
「ええっ、なんで」
「だって、絶対当たんないって」
「じゃあヒントあげるよ」
「ヒント?」
「そう。そしたら大丈夫でしょ?」
素直に志摩がヒントを出すという確証もなかったが、少しだけ興味はあった。
志摩に言うことを聞かせる。
日頃からからかわれているからだろうか。
俺にとってこの条件はなかなか魅力的だった。
「いいけど……変なこととかないよね?」
たまにセクハラ染みた発言をしてくる志摩のことだ。
下品なことを考えているという可能性もなくはない。
恐る恐る尋ねる俺に、志摩は「変なこと?」と不思議そうな顔をし、すぐに苦笑を浮かべた。
「なに、俺そういうこと考えるようなやつに見える?」
心外だと言わんばかりの困ったような顔をする志摩に、俺は慌てて「ごめんなさい」と謝罪する。
それもそうだ。
例え日頃があれだとしても、志摩を変なことしか考えてないやつと決め付けるのは志摩に失礼なのかもしれない。
項垂れる俺に、志摩は「いいよ。別に」と小さく笑った。
「ヒントはね、『齋籐』と『セックス』と『したい』だよ」
前言撤回。
俺が思っている以上に酷かった。
「……やっぱやめていい?」
「いいけど、強制的に齋籐に言うこと聞いてもらうことになるよ?」
ニコニコと爽やかな笑みを浮かべながらさらりと脅迫紛いの言葉を口にする志摩に、背筋に嫌な汗が滲む。
「で、齋籐の答えは?」
押し黙る俺に、志摩は頬杖をつきながらそう促してきた。
狡いというか、横暴だ。
そんな脅迫が俺に通用すると思っているがなにより悔しかったが、ぶっちゃけ効果覿面である。
志摩からの命令を避けるには、俺には志摩の出したヒントを元に答えを当てるという一択しか残されていない。
ヒントというか普通に答え同然なのだが、なんで自ら俺に命令させるようなことを言うのだろうか。
わからない。
わからないが、世の中には様々な性癖の人間がいるということだろう。
「だっ……えっと……」
答えようとするが、あまりの内容の酷さに顔が熱くなった。
口ごもる俺を見てにやにや笑っている志摩の視線に気付き、ようやく俺は志摩の目的に気付く。
こいつ、あれか。
わざわざ俺にセクハラ染みた言葉を言わせるのが目的か。
恨めしげに志摩に視線を向ければ、目が合った志摩は「ん?」と微笑みかけてくる。
「どうしたの齋籐。早くいいなよ」
「……そんなこと言われても、こんな……」
「そんなんじゃいつまで経っても終わらないじゃん。じゃ、制限時間を設けようか」
「十五秒以内に言わなかったら齋籐の負けね」笑いながらそう追加提案をしてきた志摩は、戸惑う俺を他所に「はい、十五」とカウントを始めた。
横暴にもほどがある。
「ちょっ……ちょっと待ってよ!」
いきなりカウントを始める志摩を慌てて止めようとするが、志摩は構わず「十三」と続けた。
ちゃっかり十四を飛ばしている。
あざといとかいうレベルじゃない。
「十」
戸惑えば戸惑うほど数が減っていった。
このままではまじで志摩の言いなりになり兼ねない。
「九」
「あ、もう……ううっ」
「八」
言おうとするが、言葉が喉につっかかってそれ以上出なかった。
恥ずかしがっている場合ではないとわかっているが、急かされれば急かされるほど頭が真っ白になる。
こうもしている間に、志摩のカウントダウンは続いた。
固唾を飲み、自分を落ち着かせる。
「お……俺と、セックスしたい……?」
極力志摩と目を合わせないようにして、俺はそう答えた。
なんでこんなこと言わなきゃいけないんだ。
無意識に疑問形になってしまい、なんだかもう恥ずかしすぎて死にたい。
俺が答え、志摩はようやくカウントを止める。そして、笑った。
「ぶっぶー。正解は、『齋籐がセックスのときにしたいプレイはなんだろう』でしたー」
ここまで彼に対して怒りを覚えたことがあっただろうか。
楽しそうに笑いながらそう小馬鹿にしたような口調で続ける志摩に、俺は腸が煮え繰り返りそうになる。
「そんなの狡いって」
「狡くないよ。だってちゃんとヒント当たってたでしょ?」
「いやーまさか齋籐があんなはしたないこと言うなんて」言いながらこちらを見てくる志摩に、顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
最悪だ、嵌められた。そうだ、最初から志摩が普通にわかるようなヒントを出してくるわけがなかったんだ。
「じゃー齋籐になにやってもらおうかなー」
恥をかかされた上に言いなりなんてとんでもない。
楽しそうに笑いながらなんとなく含んだような視線を向けてくる志摩に、なんだかもう俺は生きた心地がしなかった。
「志摩、そんなことよりテレビ見ようよ。……ほら、志摩の好きなやつやってる」
然り気無く話題を変えようとするが、笑顔の志摩に「俺はテレビより齋籐の方が好きだよ」とかわされた上に口説かれる。
返事になってない。
「じゃあ齋籐、こっちに来てよ」
どうやら命令する内容を考え付いたようだ。
そう手招きしてくる志摩に、諦めた俺は渋々ソファーから立ち上がる。そのまま志摩の側まで歩いていけば、志摩は座ったまま俺の方に目を向けた。
「座って」
「……どこに?」
「俺の膝の上」
一瞬、志摩の言葉の意味が理解できなかった。
自分の膝を指す志摩に、俺は「はい?」と素っ頓狂な声を漏らす。
「座るだけでいいの?」
「うん。命令は一つだけだからね」
てっきりもっととんでもないことを強要してくるんじゃないかと逃げの構えを取っていた俺だったが、志摩の言葉を聞いて内心ほっとした。
が、内容自体は結構際どい。
男を膝に乗せてなにが楽しいのか全くもって理解出来なかったが、まあまだましな方だ。
渋々志摩の座るソファーに近付き、志摩の前に立つ。
目が合い、今さら恥ずかしくなってきた。
顔を逸らすように相手に背中を向けようとしたとき、「違う違う」と慌てて制止される。
「こっち向いて座るんだよ」
そう涼しい顔をして続ける志摩は、俺の腕を引っ張った。
「うわっ」力一杯手を引かれ、そのままバランスを崩した俺はそのままソファーに腰を下ろす志摩に飛び込む。
「そうそう、こんな感じ」
志摩の上に無理矢理座らせられる俺の背中に腕を回した志摩は、言いながらぎゅっと抱き締めてきた。
ただ座るだけじゃないのか。
肩に顎を乗せ、志摩は隙間がなくなるくらい強い力で抱き締めてくる。
いきなりの過剰なスキンシップに驚いた。
密着した体から流れ込んでくる志摩の心臓の音が、体温が、酷く生々しい。
「齋籐、好きって言ってよ」
抱き締めてくる志摩に戸惑っていると、不意に耳元で志摩の声が聞こえてくる。
「……命令って一つじゃなかったの?」
「うん。だからこれは俺からのお願いだよ」
「嫌なら言わなくてもいいよ」言いながら、背後に回された腕が強く抱き締めてきた。
どうやら、俺が言うまで離さないつもりなのだろう。
言葉とは裏腹にしっかりと抱き締めてくる志摩に、なんだか俺はこそばゆい気持ちになった。
言われた通り、無言で志摩の力が緩むのを待ってみることにする。
「……言ってくれないの?」
なにも言わない俺に不安になったのか、志摩は少しだけ寂しそうに尋ねてきた。
最初から強要してればいいものを、わざわざ長期戦に持ち込もうとしてくる志摩に苦笑が漏れる。
「すき焼きでもいいから言ってよ」と甘えてくる志摩は俺の肩口から顔を離し、顔を覗き込んできた。
すき焼きでもいいのか。
見詰められ、ちょっと狼狽える。
「……好きです」
甘えてくる志摩にほだされ、俺はそう口にした。
改まってしまったせいか、自然と敬語になってしまう。
それでも、志摩は嬉しそうに微笑んだ。
上半身を抱き寄せていた手が離れる。どうやらようやく解放してくれるようだ。と、ひと安心した矢先、志摩の顔が目先に迫る。
「俺も好きだよ」
軽く唇にキスをされ、目の前の志摩は小さく笑った。
いや、いやいやいや、なんだこの展開は。
志摩の言葉が甘く頭の中に浸透し、なんだかもう恥ずかしくて直視できなくなる。
「ちょ……っちょっと待って、座るだけじゃ……」
隙間なく背中を抱き寄せていた志摩の手が降り、裾から衣服の下へ手が入ってきた。
エスカレートする志摩の行為に、流石にやばいと悟った俺は慌てて志摩を止めようとする。
「……嫌?」
服の中をまさぐっていた志摩の手が止まった。
不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでくる志摩に、俺は口ごもる。
こいつ、俺が頼まれるのに弱いと知っていてやっているのか。
「……そういうの、聞かないでよ」
志摩のなにかを期待するような目に耐えられなくなった俺は、咄嗟に顔を逸らす。
「わかった。じゃあ聞かないね」
狼狽する俺に、志摩はいつもの笑みを浮かべた。
コロコロ変わる志摩の表情に、またやられたと心の中で呟く。
部屋の中に、バラエティー番組の笑い声に紛れて濡れた音が響いた。
「ん、ぅ……っ」
鎖骨辺りまでたくしあげられた胸元に顔を埋め、逃げようとする俺の背中を抱き寄せた志摩はそのまま胸元に唇を寄せる。
口に含んだ胸の突起を嬲るように舌先で刺激され、ぞくりと背筋が震えた。
「志摩、そこは、いいから」
頭の中が熱くなるような妙な感覚に耐えられなくなった俺は、言いながら志摩の肩を掴み胸元から離そうとする。
が、しっかりと背中に回された腕は離れない。
「志摩……ッ」
志摩の舌から逃げようと体を逸らせるが、背中に移動した志摩の手に上半身を支えられ更に愛撫される。
やわやわと刺激され続け勃ったそこを潰すように舌先で弄られ、ぞくりと全身が粟立った。
「っは、ぁ……ッ」
志摩の髪が肌に触れこそばゆい。
それ以上に、執拗にしゃぶられる胸元の感触に全身が熱くなった。
力が抜けそうになり志摩の腕を掴んでいると、不意に背中に回されていた手が離れ、空いた方の突起に触れる。
「齋籐のここって可愛いよね。舐めただけで勃つんだ」
舐めたから勃ったんだよ。
胸元から顔を離した志摩は、言いながら人の乳首を指で弄りながら笑う。
気持ち悪い褒め方をしてくる志摩にどう反応していいかわからず、俺は咄嗟に視線を逸らした。
顔が熱い。違う、全身が熱い。
「ねえ、こっち向いてよ齋籐」
不意に摘ままれた突起に小さな痛みが走る。
ビクリと震える俺に、志摩は「ねえ」と無理矢理俺を正面向かせた。
ぐにぐにと爪先で弄ってくる志摩に、「やめてよ」と手を離させようとすれば、無理矢理唇を重ねられる。
「っん、む……んん……ッ」
紛らすように深いキスをされ、胸元に向けられた意識は自然と目の前の志摩に向いた。
貪るように唇を舐められ、わずかに開いたそこから唾液で濡れた舌を捩じ込まれる。
志摩の舌に口内を掻き乱され、息苦しくなった俺は慌てて志摩の胸元を押そうとした。
同時に胸の突起を引っ張られ、もどかしい感覚に全身から力が抜け落ちる。
口内と胸元を同時に嬲られ、抵抗すればするほど酷く体力が消耗した。
「疲れちゃったの?」
あまりの熱に思考回路が麻痺し、ぐったりと志摩にもたれ掛かる俺に志摩は唇を離し可笑しそうに笑う。
舌舐めずりをし、志摩は「まだダメだよ」と笑いながら優しく俺の後頭部を撫でた。
「ね、挿れていい?」
言いながら志摩は軽く足を動かし、上に乗る俺の股下に腿を押し付けてくる。
腿で器用に足を開かされ、俺は慌てて志摩の上からずれようとした。
が、志摩はそれを許さない。
「なにも言わないってことは良いんだよね」
「まあ、反対されても挿れるけど」俺の尻に手をずらした志摩は、そう笑いながらズボンの中に手を入れる。
そろそろ俺に拒否権をくれても良い頃ではないのか。
思いつつ、俺としてはここまでされて今更抵抗するつもりもなかった。
寧ろ早くイカせてくれ。
先ほどの前戯のおかげでパンパンに勃起したそこに志摩も気付いているはずだ。
抱き締められ密着したおかげで、勃起した下腹部が志摩の腹に当たり変な感覚が襲ってくる。
息が荒い。丁度股座に当たる志摩の下半身の硬い膨らみに、自然と鼓動が早くなった。
下着の中に手が入り、臀部の割れ目をなぞるように動く指先に耳まで熱くなる。
「齋籐、顔真っ赤っ赤」
肛門を探り当てた志摩の指が、ぐりっとそこに捩じ込まれた。
徐々に深く体内に侵入してくる違和感に、無意識に息を飲む。
「っ、い……ッ」
体内に入り込む一本の指を堪えていると、問答無用で二本目が入ってきた。
ゾクゾクと背筋が震え、入り口を押し拡げるようにして動く指の感触がやけにハッキリと伝わってくる。
内側から外側へと解すように拡げられ、自然と下半身に熱が集まった。
指が二本の指が根本まで入ったとき、ようやくそれは抜かれる。
「齋籐」
下着ごとズボンを掴まれ、そのまま膝上までずらされた。
いつになっても、挿入前には慣れない。
思いながら、俺は目の前の志摩に目を向けた。逆上せたように頭が朦朧する。
「好きだよ」
なんでこのタイミングで言うんだ。いや、このタイミングだからだろうか。
軽く頬に唇を落とす志摩は、そう言って微笑んだ。朦朧とした頭の中に、志摩の声が甘く響く。
体の芯がじんと熱を増す。
「……俺も」
無自覚の本能か、志摩に見据えられた俺の口は無意識に動く。
「……俺も、志摩が好き」
自分が相手になにを求めているのか、相手が自分になにを求めているのか。
それを理解した上、自分が求めているそれをどうして得ることが出来るのか。それを理解した俺は、そう呟いた。
たまに、挿入前の異様な高揚感を恐ろしく感じるときがあった。
例えば、今。
志摩の熱に当てられた俺に、平常心諸々は存在していない。
◆ ◆ ◆
まただ。
またやってしまった。
「齋籐、ジュースいる? オレンジジュースあるよ。注ごうか?」
「……あ、うん」
いつもに増して上機嫌な志摩に気圧されつつ、俺はそう曖昧に頷いた。
事後。
いくらテンションが上がっていたとは言え、何度も好きと言った自分が恥ずかしくなってくる。
「はい、オレンジジュース」
「ありがとう」
目の前に置かれるペットボトルを受け取った俺は、このまま飲んで良いのか迷った末ありがたく頂戴することにした。
丁度喉が渇いていたのでありがたい。
向かい側のソファーに腰を下ろす志摩は、いつも以上にニコニコしながら「どういたしまして」と答えた。
「齋籐、好きだよ」
「…………」
「あれ、さっきみたいに『俺も志摩のことが好き! 大好き! 中に出して!』って言ってくれないの?」
「…………お願い、忘れて」
無言の俺に心配そうな顔をしながら人の真似をしてくる志摩に、なんだか俺はいたたまれなくなる。
「なんで?」
「なんででも」
「やだよ。ずっと忘れないよう日記に付けとく」
余計止めてくれ。てか日記ってなんだ。なんの日記だ。
「……冗談だよね?」
「……ふふっ」
さりげなくとんでもないことを口走る志摩に恐る恐る尋ねれば、志摩は小さく笑った。
なんだその含め笑いは。
「齋籐がもう一回好きってくれたらいいよ」
意味がわからない。
「いや、言わないから」
「いいの? 言い触らして」
「え? 日記の話じゃないの?」
いつの間にかに段々話がでかくなっている。
不思議そうに尋ねてくる志摩に、俺は背筋が凍るのを感じた。
「もしかしたら今週の校内新聞が俺の日記にすり変わってるかもしれないよ?」
それは新聞部が可哀想だ。
というかまじで有り得そうだから怖いんだけど。
「い……一回だけだからね? 絶対他の人に迷惑かけないでよ?」
「わかってるわかってる」
俺はともかくそれは新聞部があまりにも気の毒に感じた俺は、渋々志摩の気を済ませることにした。
本当にわかってるのかこいつ。
あまりにも悪びれた志摩を前に、そう疑わずには入れなかった。
「す……」
「あっ、ちょっと待って」
言いかけて、ふと思い出したように志摩がストップをかける。
今度はなんなんだ。なにかを取り出した志摩は、「はいどーぞ、続けて続けて」と笑いながら俺に声をかける。
志摩が取り出したものは、携帯だった。
「……いや、いやいやいや。なにやってんの、撮らないでよ」
「大丈夫大丈夫、声だけだから」
ああ、声だけね……ってなにも大丈夫じゃないだろ。
まず根本的な部分が解決出来ていない。
あまりにもすっとぼけたことを言い出す志摩に素でノリ突っ込みしそうになった。
「心配しないでよ、別にばら蒔いたりしないって。ただちょっと個人的に使わせてもらうだけだから」
寧ろそっちの方が心配で堪らないんだけど。
さらりと恐ろしいことを口走る志摩は「ほら、早く早く」と笑顔で急かしてくる。
記録に残されるのはかなり嫌だが、それを聞く人物が志摩のみということを考えれば、ここは素直に従っていた方がいいだろう。
「……わかったよ」
新聞部と自分のため、渋々俺は志摩の言う通りにすることにした。
ただ好きだと二文字口にすればいいだけなのに、録音されていると思うと躊躇ってしまう。
携帯片手ににやにやとこっちを見てくる志摩が腹立たしい。
先程までのことを思い出し、顔が熱くなるのを気付かないフリしながら俺は小さく咳払いをする。
「す……」
丁度、俺が口を開いたときだった。
「たっだいまー! 今帰ったよー!!」
言いかけたと同時に、勢いよく開いた玄関の扉から酒気を帯びた十勝が転がるように入ってくる。
ナイスタイミングで部屋に帰ってきた十勝にキレた志摩が携帯電話を壁に投げ付けるまで然程時間はかからなかった。
そして、翌日俺が改めて同じことを言わされるハメになるのは言うまでもない。
おしまい
「齋籐」
「なに?」
「今俺がなに考えてるか当ててみてよ」
突然そんな提案をしてくる志摩は「当たったらなんかあげるよ」と笑いかけてきた。
学生寮、303号室。
勉強会という名目で志摩の部屋にやってきていた俺は、テーブルを挟んで向かい側のソファーに腰を下ろす志摩に目を向ける。
さっきからテレビばっか見て肝心の教材には全く手をつけて
いないと思えば、今度はなんだ。
あまりにも不真面目な志摩に今さら文句はないが、その自由さに真面目に勉強しているこちらまで全部がバカバカしくなってくる。
「……なんかって?」
持っていたシャーペンをテーブルの上に置きながら、俺は志摩の遊びに乗ることにした。
「じゃあ、当たったら齋籐の言うことなんでも聞くとか」
「いいよ、別にそんな」
「当たったらだよ、当たったら。外れたら逆にしようか」
「逆?」
「齋籐が俺の言うことをなんでも聞く」
これはもしかしてあれか。
どう足掻いても俺が志摩の言うことを聞かなければいけないというそういう不条理ゲームか。
「……やらない」
「ええっ、なんで」
「だって、絶対当たんないって」
「じゃあヒントあげるよ」
「ヒント?」
「そう。そしたら大丈夫でしょ?」
素直に志摩がヒントを出すという確証もなかったが、少しだけ興味はあった。
志摩に言うことを聞かせる。
日頃からからかわれているからだろうか。
俺にとってこの条件はなかなか魅力的だった。
「いいけど……変なこととかないよね?」
たまにセクハラ染みた発言をしてくる志摩のことだ。
下品なことを考えているという可能性もなくはない。
恐る恐る尋ねる俺に、志摩は「変なこと?」と不思議そうな顔をし、すぐに苦笑を浮かべた。
「なに、俺そういうこと考えるようなやつに見える?」
心外だと言わんばかりの困ったような顔をする志摩に、俺は慌てて「ごめんなさい」と謝罪する。
それもそうだ。
例え日頃があれだとしても、志摩を変なことしか考えてないやつと決め付けるのは志摩に失礼なのかもしれない。
項垂れる俺に、志摩は「いいよ。別に」と小さく笑った。
「ヒントはね、『齋籐』と『セックス』と『したい』だよ」
前言撤回。
俺が思っている以上に酷かった。
「……やっぱやめていい?」
「いいけど、強制的に齋籐に言うこと聞いてもらうことになるよ?」
ニコニコと爽やかな笑みを浮かべながらさらりと脅迫紛いの言葉を口にする志摩に、背筋に嫌な汗が滲む。
「で、齋籐の答えは?」
押し黙る俺に、志摩は頬杖をつきながらそう促してきた。
狡いというか、横暴だ。
そんな脅迫が俺に通用すると思っているがなにより悔しかったが、ぶっちゃけ効果覿面である。
志摩からの命令を避けるには、俺には志摩の出したヒントを元に答えを当てるという一択しか残されていない。
ヒントというか普通に答え同然なのだが、なんで自ら俺に命令させるようなことを言うのだろうか。
わからない。
わからないが、世の中には様々な性癖の人間がいるということだろう。
「だっ……えっと……」
答えようとするが、あまりの内容の酷さに顔が熱くなった。
口ごもる俺を見てにやにや笑っている志摩の視線に気付き、ようやく俺は志摩の目的に気付く。
こいつ、あれか。
わざわざ俺にセクハラ染みた言葉を言わせるのが目的か。
恨めしげに志摩に視線を向ければ、目が合った志摩は「ん?」と微笑みかけてくる。
「どうしたの齋籐。早くいいなよ」
「……そんなこと言われても、こんな……」
「そんなんじゃいつまで経っても終わらないじゃん。じゃ、制限時間を設けようか」
「十五秒以内に言わなかったら齋籐の負けね」笑いながらそう追加提案をしてきた志摩は、戸惑う俺を他所に「はい、十五」とカウントを始めた。
横暴にもほどがある。
「ちょっ……ちょっと待ってよ!」
いきなりカウントを始める志摩を慌てて止めようとするが、志摩は構わず「十三」と続けた。
ちゃっかり十四を飛ばしている。
あざといとかいうレベルじゃない。
「十」
戸惑えば戸惑うほど数が減っていった。
このままではまじで志摩の言いなりになり兼ねない。
「九」
「あ、もう……ううっ」
「八」
言おうとするが、言葉が喉につっかかってそれ以上出なかった。
恥ずかしがっている場合ではないとわかっているが、急かされれば急かされるほど頭が真っ白になる。
こうもしている間に、志摩のカウントダウンは続いた。
固唾を飲み、自分を落ち着かせる。
「お……俺と、セックスしたい……?」
極力志摩と目を合わせないようにして、俺はそう答えた。
なんでこんなこと言わなきゃいけないんだ。
無意識に疑問形になってしまい、なんだかもう恥ずかしすぎて死にたい。
俺が答え、志摩はようやくカウントを止める。そして、笑った。
「ぶっぶー。正解は、『齋籐がセックスのときにしたいプレイはなんだろう』でしたー」
ここまで彼に対して怒りを覚えたことがあっただろうか。
楽しそうに笑いながらそう小馬鹿にしたような口調で続ける志摩に、俺は腸が煮え繰り返りそうになる。
「そんなの狡いって」
「狡くないよ。だってちゃんとヒント当たってたでしょ?」
「いやーまさか齋籐があんなはしたないこと言うなんて」言いながらこちらを見てくる志摩に、顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
最悪だ、嵌められた。そうだ、最初から志摩が普通にわかるようなヒントを出してくるわけがなかったんだ。
「じゃー齋籐になにやってもらおうかなー」
恥をかかされた上に言いなりなんてとんでもない。
楽しそうに笑いながらなんとなく含んだような視線を向けてくる志摩に、なんだかもう俺は生きた心地がしなかった。
「志摩、そんなことよりテレビ見ようよ。……ほら、志摩の好きなやつやってる」
然り気無く話題を変えようとするが、笑顔の志摩に「俺はテレビより齋籐の方が好きだよ」とかわされた上に口説かれる。
返事になってない。
「じゃあ齋籐、こっちに来てよ」
どうやら命令する内容を考え付いたようだ。
そう手招きしてくる志摩に、諦めた俺は渋々ソファーから立ち上がる。そのまま志摩の側まで歩いていけば、志摩は座ったまま俺の方に目を向けた。
「座って」
「……どこに?」
「俺の膝の上」
一瞬、志摩の言葉の意味が理解できなかった。
自分の膝を指す志摩に、俺は「はい?」と素っ頓狂な声を漏らす。
「座るだけでいいの?」
「うん。命令は一つだけだからね」
てっきりもっととんでもないことを強要してくるんじゃないかと逃げの構えを取っていた俺だったが、志摩の言葉を聞いて内心ほっとした。
が、内容自体は結構際どい。
男を膝に乗せてなにが楽しいのか全くもって理解出来なかったが、まあまだましな方だ。
渋々志摩の座るソファーに近付き、志摩の前に立つ。
目が合い、今さら恥ずかしくなってきた。
顔を逸らすように相手に背中を向けようとしたとき、「違う違う」と慌てて制止される。
「こっち向いて座るんだよ」
そう涼しい顔をして続ける志摩は、俺の腕を引っ張った。
「うわっ」力一杯手を引かれ、そのままバランスを崩した俺はそのままソファーに腰を下ろす志摩に飛び込む。
「そうそう、こんな感じ」
志摩の上に無理矢理座らせられる俺の背中に腕を回した志摩は、言いながらぎゅっと抱き締めてきた。
ただ座るだけじゃないのか。
肩に顎を乗せ、志摩は隙間がなくなるくらい強い力で抱き締めてくる。
いきなりの過剰なスキンシップに驚いた。
密着した体から流れ込んでくる志摩の心臓の音が、体温が、酷く生々しい。
「齋籐、好きって言ってよ」
抱き締めてくる志摩に戸惑っていると、不意に耳元で志摩の声が聞こえてくる。
「……命令って一つじゃなかったの?」
「うん。だからこれは俺からのお願いだよ」
「嫌なら言わなくてもいいよ」言いながら、背後に回された腕が強く抱き締めてきた。
どうやら、俺が言うまで離さないつもりなのだろう。
言葉とは裏腹にしっかりと抱き締めてくる志摩に、なんだか俺はこそばゆい気持ちになった。
言われた通り、無言で志摩の力が緩むのを待ってみることにする。
「……言ってくれないの?」
なにも言わない俺に不安になったのか、志摩は少しだけ寂しそうに尋ねてきた。
最初から強要してればいいものを、わざわざ長期戦に持ち込もうとしてくる志摩に苦笑が漏れる。
「すき焼きでもいいから言ってよ」と甘えてくる志摩は俺の肩口から顔を離し、顔を覗き込んできた。
すき焼きでもいいのか。
見詰められ、ちょっと狼狽える。
「……好きです」
甘えてくる志摩にほだされ、俺はそう口にした。
改まってしまったせいか、自然と敬語になってしまう。
それでも、志摩は嬉しそうに微笑んだ。
上半身を抱き寄せていた手が離れる。どうやらようやく解放してくれるようだ。と、ひと安心した矢先、志摩の顔が目先に迫る。
「俺も好きだよ」
軽く唇にキスをされ、目の前の志摩は小さく笑った。
いや、いやいやいや、なんだこの展開は。
志摩の言葉が甘く頭の中に浸透し、なんだかもう恥ずかしくて直視できなくなる。
「ちょ……っちょっと待って、座るだけじゃ……」
隙間なく背中を抱き寄せていた志摩の手が降り、裾から衣服の下へ手が入ってきた。
エスカレートする志摩の行為に、流石にやばいと悟った俺は慌てて志摩を止めようとする。
「……嫌?」
服の中をまさぐっていた志摩の手が止まった。
不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでくる志摩に、俺は口ごもる。
こいつ、俺が頼まれるのに弱いと知っていてやっているのか。
「……そういうの、聞かないでよ」
志摩のなにかを期待するような目に耐えられなくなった俺は、咄嗟に顔を逸らす。
「わかった。じゃあ聞かないね」
狼狽する俺に、志摩はいつもの笑みを浮かべた。
コロコロ変わる志摩の表情に、またやられたと心の中で呟く。
部屋の中に、バラエティー番組の笑い声に紛れて濡れた音が響いた。
「ん、ぅ……っ」
鎖骨辺りまでたくしあげられた胸元に顔を埋め、逃げようとする俺の背中を抱き寄せた志摩はそのまま胸元に唇を寄せる。
口に含んだ胸の突起を嬲るように舌先で刺激され、ぞくりと背筋が震えた。
「志摩、そこは、いいから」
頭の中が熱くなるような妙な感覚に耐えられなくなった俺は、言いながら志摩の肩を掴み胸元から離そうとする。
が、しっかりと背中に回された腕は離れない。
「志摩……ッ」
志摩の舌から逃げようと体を逸らせるが、背中に移動した志摩の手に上半身を支えられ更に愛撫される。
やわやわと刺激され続け勃ったそこを潰すように舌先で弄られ、ぞくりと全身が粟立った。
「っは、ぁ……ッ」
志摩の髪が肌に触れこそばゆい。
それ以上に、執拗にしゃぶられる胸元の感触に全身が熱くなった。
力が抜けそうになり志摩の腕を掴んでいると、不意に背中に回されていた手が離れ、空いた方の突起に触れる。
「齋籐のここって可愛いよね。舐めただけで勃つんだ」
舐めたから勃ったんだよ。
胸元から顔を離した志摩は、言いながら人の乳首を指で弄りながら笑う。
気持ち悪い褒め方をしてくる志摩にどう反応していいかわからず、俺は咄嗟に視線を逸らした。
顔が熱い。違う、全身が熱い。
「ねえ、こっち向いてよ齋籐」
不意に摘ままれた突起に小さな痛みが走る。
ビクリと震える俺に、志摩は「ねえ」と無理矢理俺を正面向かせた。
ぐにぐにと爪先で弄ってくる志摩に、「やめてよ」と手を離させようとすれば、無理矢理唇を重ねられる。
「っん、む……んん……ッ」
紛らすように深いキスをされ、胸元に向けられた意識は自然と目の前の志摩に向いた。
貪るように唇を舐められ、わずかに開いたそこから唾液で濡れた舌を捩じ込まれる。
志摩の舌に口内を掻き乱され、息苦しくなった俺は慌てて志摩の胸元を押そうとした。
同時に胸の突起を引っ張られ、もどかしい感覚に全身から力が抜け落ちる。
口内と胸元を同時に嬲られ、抵抗すればするほど酷く体力が消耗した。
「疲れちゃったの?」
あまりの熱に思考回路が麻痺し、ぐったりと志摩にもたれ掛かる俺に志摩は唇を離し可笑しそうに笑う。
舌舐めずりをし、志摩は「まだダメだよ」と笑いながら優しく俺の後頭部を撫でた。
「ね、挿れていい?」
言いながら志摩は軽く足を動かし、上に乗る俺の股下に腿を押し付けてくる。
腿で器用に足を開かされ、俺は慌てて志摩の上からずれようとした。
が、志摩はそれを許さない。
「なにも言わないってことは良いんだよね」
「まあ、反対されても挿れるけど」俺の尻に手をずらした志摩は、そう笑いながらズボンの中に手を入れる。
そろそろ俺に拒否権をくれても良い頃ではないのか。
思いつつ、俺としてはここまでされて今更抵抗するつもりもなかった。
寧ろ早くイカせてくれ。
先ほどの前戯のおかげでパンパンに勃起したそこに志摩も気付いているはずだ。
抱き締められ密着したおかげで、勃起した下腹部が志摩の腹に当たり変な感覚が襲ってくる。
息が荒い。丁度股座に当たる志摩の下半身の硬い膨らみに、自然と鼓動が早くなった。
下着の中に手が入り、臀部の割れ目をなぞるように動く指先に耳まで熱くなる。
「齋籐、顔真っ赤っ赤」
肛門を探り当てた志摩の指が、ぐりっとそこに捩じ込まれた。
徐々に深く体内に侵入してくる違和感に、無意識に息を飲む。
「っ、い……ッ」
体内に入り込む一本の指を堪えていると、問答無用で二本目が入ってきた。
ゾクゾクと背筋が震え、入り口を押し拡げるようにして動く指の感触がやけにハッキリと伝わってくる。
内側から外側へと解すように拡げられ、自然と下半身に熱が集まった。
指が二本の指が根本まで入ったとき、ようやくそれは抜かれる。
「齋籐」
下着ごとズボンを掴まれ、そのまま膝上までずらされた。
いつになっても、挿入前には慣れない。
思いながら、俺は目の前の志摩に目を向けた。逆上せたように頭が朦朧する。
「好きだよ」
なんでこのタイミングで言うんだ。いや、このタイミングだからだろうか。
軽く頬に唇を落とす志摩は、そう言って微笑んだ。朦朧とした頭の中に、志摩の声が甘く響く。
体の芯がじんと熱を増す。
「……俺も」
無自覚の本能か、志摩に見据えられた俺の口は無意識に動く。
「……俺も、志摩が好き」
自分が相手になにを求めているのか、相手が自分になにを求めているのか。
それを理解した上、自分が求めているそれをどうして得ることが出来るのか。それを理解した俺は、そう呟いた。
たまに、挿入前の異様な高揚感を恐ろしく感じるときがあった。
例えば、今。
志摩の熱に当てられた俺に、平常心諸々は存在していない。
◆ ◆ ◆
まただ。
またやってしまった。
「齋籐、ジュースいる? オレンジジュースあるよ。注ごうか?」
「……あ、うん」
いつもに増して上機嫌な志摩に気圧されつつ、俺はそう曖昧に頷いた。
事後。
いくらテンションが上がっていたとは言え、何度も好きと言った自分が恥ずかしくなってくる。
「はい、オレンジジュース」
「ありがとう」
目の前に置かれるペットボトルを受け取った俺は、このまま飲んで良いのか迷った末ありがたく頂戴することにした。
丁度喉が渇いていたのでありがたい。
向かい側のソファーに腰を下ろす志摩は、いつも以上にニコニコしながら「どういたしまして」と答えた。
「齋籐、好きだよ」
「…………」
「あれ、さっきみたいに『俺も志摩のことが好き! 大好き! 中に出して!』って言ってくれないの?」
「…………お願い、忘れて」
無言の俺に心配そうな顔をしながら人の真似をしてくる志摩に、なんだか俺はいたたまれなくなる。
「なんで?」
「なんででも」
「やだよ。ずっと忘れないよう日記に付けとく」
余計止めてくれ。てか日記ってなんだ。なんの日記だ。
「……冗談だよね?」
「……ふふっ」
さりげなくとんでもないことを口走る志摩に恐る恐る尋ねれば、志摩は小さく笑った。
なんだその含め笑いは。
「齋籐がもう一回好きってくれたらいいよ」
意味がわからない。
「いや、言わないから」
「いいの? 言い触らして」
「え? 日記の話じゃないの?」
いつの間にかに段々話がでかくなっている。
不思議そうに尋ねてくる志摩に、俺は背筋が凍るのを感じた。
「もしかしたら今週の校内新聞が俺の日記にすり変わってるかもしれないよ?」
それは新聞部が可哀想だ。
というかまじで有り得そうだから怖いんだけど。
「い……一回だけだからね? 絶対他の人に迷惑かけないでよ?」
「わかってるわかってる」
俺はともかくそれは新聞部があまりにも気の毒に感じた俺は、渋々志摩の気を済ませることにした。
本当にわかってるのかこいつ。
あまりにも悪びれた志摩を前に、そう疑わずには入れなかった。
「す……」
「あっ、ちょっと待って」
言いかけて、ふと思い出したように志摩がストップをかける。
今度はなんなんだ。なにかを取り出した志摩は、「はいどーぞ、続けて続けて」と笑いながら俺に声をかける。
志摩が取り出したものは、携帯だった。
「……いや、いやいやいや。なにやってんの、撮らないでよ」
「大丈夫大丈夫、声だけだから」
ああ、声だけね……ってなにも大丈夫じゃないだろ。
まず根本的な部分が解決出来ていない。
あまりにもすっとぼけたことを言い出す志摩に素でノリ突っ込みしそうになった。
「心配しないでよ、別にばら蒔いたりしないって。ただちょっと個人的に使わせてもらうだけだから」
寧ろそっちの方が心配で堪らないんだけど。
さらりと恐ろしいことを口走る志摩は「ほら、早く早く」と笑顔で急かしてくる。
記録に残されるのはかなり嫌だが、それを聞く人物が志摩のみということを考えれば、ここは素直に従っていた方がいいだろう。
「……わかったよ」
新聞部と自分のため、渋々俺は志摩の言う通りにすることにした。
ただ好きだと二文字口にすればいいだけなのに、録音されていると思うと躊躇ってしまう。
携帯片手ににやにやとこっちを見てくる志摩が腹立たしい。
先程までのことを思い出し、顔が熱くなるのを気付かないフリしながら俺は小さく咳払いをする。
「す……」
丁度、俺が口を開いたときだった。
「たっだいまー! 今帰ったよー!!」
言いかけたと同時に、勢いよく開いた玄関の扉から酒気を帯びた十勝が転がるように入ってくる。
ナイスタイミングで部屋に帰ってきた十勝にキレた志摩が携帯電話を壁に投げ付けるまで然程時間はかからなかった。
そして、翌日俺が改めて同じことを言わされるハメになるのは言うまでもない。
おしまい
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