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第二部 高校生編

音フェチがASMRを知るとハマるのは自明の理

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 微は割と俺に依存している部分が在る。
 それは俺が極端に微とコミュニケーション出来てしまうために、彼女が同程度の疎通を他人に求めるからだ。

 しかしただでさえその心の開き方は異形。おまけにそれが極まっているとなれば、長年の付き合いでハウツーを構築した俺ぐらいにしか完全な開きは得られない。

 彼女を『こう』歪めた要因の一端は間違いなく幼少期の虐め経験であるので、憎むべきは実行犯の連中なのだが、今はもういない。
 再三いうが、俺が疎通出来過ぎるというのも問題だ。

 そこで多少荒療治であろうが、ここでは突き放した言い方をするべきだろうと思った。
 そもそも療治関係なく、本当に彼女がいるのでその想いにこたえることは出来ないのだが。

「知ってる」
「ゑ?」

 俺が彼女持ちあることを知ったうえで告白してきたの?
 なにその略奪愛。強いなオイ。

「バレてないとでも思ったの? 毎日、って程じゃないけど、頻繁にあんな喘ぎ声出しといて?」
「まあ、うん、そうだね」

 ぐうの音も出ないとはまさにこの事。
 一度や二度なら筋トレ中の事故で片づけられないこともないが、今の頻度では無理があろう。昨日とか十三回やったしな。
 多少は防音措置も施しちゃいるが後付けという事もあって効果はいま一つ。ないよりはマシだろうけども。

「あなたが彼女もちでもいいの。それでも、愛人みたいな形でも、予備の扱い、スペア同然でいいから。私を貴方の傍において。あなたの傍に、私の居場所を作って」

 言いながら微は両手を恋人の様につないでくる。
 少し冷たく、しっとりとした。そして柔らかい感触。

「微のことは・・・まあ、好き、ではある。しかしそれは友人に対するものだ、多分。友人じゃあダメか? わざわざスペアなんて不遇な立場にならなくても」
「ダメなのよ・・・友達止まりじゃ、不安でしょうがない。友達なんて、すぐ切れる様な縁じゃ不安なのよ」
「そうか・・・」

 しかしここで受け入れても良い事なんてないだろう。
 俺は友人、微は恋人。認識に齟齬のある関係など不安定でしょうがない。
 なじみとはそれで上手くいっていたが、アレは最初の距離感が既に恋人レベルだったからだ。

 それになじみに対して不義理であるというのも大きい。

「しかしだな、俺は浮気をするつもりはないし・・・微の想いはどうあれ、俺が彼女もちであることに変わりはない。今の彼女相手にそんな不貞行為をするわけにはいかん」
「・・・安心院君は、本当に彼女さんが好きなのね」
「そりゃ、まあ・・・そうでもないと付き合ってないし」

 両手を離して、ポスリと微が俺の胸に倒れこむ。
 大きな胸が邪魔にならないよう、体を横に捻って、俺の心臓に耳をくっつけるように。

「ズルいわ。私だって、あなたに愛されたいのに。彼女さんばっかり、ズルい」
「微、済まん」
「謝らないでよ・・・それに、もういいわ。この想いが無くなる気なんてしないけど、あなたを想う女がここに一人いること。それだけ知ってくれてるなら、私はもういい」
「そうか・・・ありがとう、俺を好いていてくれて」
「何よ、同情?」
「違うさ。誰からであれ、どんなものであれ、好意を抱かれるのはそれだけで礼を言うに相応しいだけの事なんだ」
「変わった持論ね」

 ふっと微が起き上がり、俺を解放してくれた。

「ごめんなさいね。いきなり」
「全くだ。ビックリしたぞ」
「あら、そこは『そんなことない』なんて言う場面じゃないかしら」

 他愛もない雑談に興じる俺と微。
 普段通りの様に見えて、決してそうではない。

 だって、微は口を開いてる。



 和やかな雑談の時間はすぐに終わりを迎えた。

 コン、コン。

 微のベランダから、ノック音が聞こえてきたのだ。
 聞いてみれば、心当たりはないとのこと。洗濯物なども既に取り込んだ後で、音がなるようなものはベランダに置いていないそうだ。

 コンコン。

 先ほどよりわずかに強く鳴らされる窓。
 それを見て、微が不安げに俺の後ろへ隠れる。

 コンコン。

 またわずかに強まる音。
 ここまでくれば偶然ではない。誰かが意図して鳴らしている。
 すわ変質者かと思い、自衛の意味も込めて肉体強化を強める。
 それに呼応するかのように微が俺の服の裾を握る。

 コンコンッ。

 手で微に下がるよう合図して、カーテンににじり寄る。
 次鳴った瞬間窓を開ける。犯人の顔を確認してやる。
 何、常人ならこの肉体強化についてこれないのは実証済みだ。

 コンコンッ!

 いよいよ強力に打ち鳴らされるガラス窓。
 同時にカーテンに手をかけ、一気に開く!

「ちーん」
「・・・・え、なじみ?」

 カーテンを開いた先にいたのは、鼻を噛むなじみだった。

「いや、ちょっ、何してんの君」

 思わず変な言葉が漏れ出るが、なじみはそんなこと気にも留めない。
 というか聞こえてないんじゃないのか?
 現に俺の発言を無視してジェスチャーで『窓を開けろ』と言ってくる。

 呆然自失状態の俺は思わず従って鍵を開けたが・・・。

「私は感動しました!」
「ゴメン、何に?」
「えーっと、安心院君、この人は・・・?」

 もはや何が起きているのか全く分からんな。
 全員が全員混乱状態だ。

「私は、蝶ヶ崎なじみというものでして、そこの安心院傾君の彼女です!」
「ああ、私は仁科微にしな かすかです」
「待て待てなんでいるんだ」
「私はッ!」

 聞けや。

「あなたの、仁科さんの一途な思いに感動しましたッ!」
「そ、それはありがとう」
「10年以上想い続けた相手。意中の人の隣にはもう自分じゃない人がいる。その辛さ、私にはわかりません」
「あ、分からないんだ」
「生まれてこのかたずっとケーくんが好きだったもので。しかし長く培われた恋情の重みなら私にもわかります!」

 そうだな、昨日俺も実感したところだよ。

「きっとあなたのその想いは、捨て去れば人生の全てがガラガラと音を立てて崩れる程大きいものでしょう」
「そうなの?」
「・・・言わない」

 おうこっち向けや。
 しかしなじみはその様子から何かを読み取ったようで、したり顔で語る。

「そこまで深くケーくんを愛しているなら私も同じ男を愛する女、その想いを捨てろなんてことは言いません」
「あなたの彼女随分と寛容なのね」
「これって寛容なのか?」
「仁科さん!」

 なじみが微にずずいと押し寄る。

「ケーくんにアプローチするのも、アピールするのも、私は容認します。奪いたいなら奪えばいい。ぜーったい、無理だけど」
「気のせいかしら、安心院君をダシに喧嘩を売られた気がするわ?」
「多分だが、なじみは煽ってる自覚微塵もないと思うぞ」
「ケーくん!」

 今度は俺の方にきた。

「なんだ?」
「私はケーくんと生まれてすぐから一緒に居た。でも私はいつも不安だった。私がケーくんに好きって言ってもらえるのは『一番初めにいたから』でしかなくて、私個人の魅力なんて無関係なんじゃないかと」
「・・・そんなことはないが、なじみが言いたいのはそういう事じゃなさそうだな」
「うん。だから一回、仁科さんと私を比べてみて? そのうえで私を選んでくれたら、私は自信を持ってケーくんに愛されてるって言えるから」
「微をダシにするのも気が引けるが、まあ良いだろう」
「あら、私が安心院君の心を奪っちゃう懸念はないのかしら?」

 後ろから微が抱き着いてきて、肩に顎を乗せてなじみを挑発する。
 それに応じてなじみも正面から抱き着き、反対側の肩に顎を乗せて回答する。

「無いよ。絶対ケーくんは私を選んでくれる」
「それは時間というアドバンテージありきでしょ? 地力を比較したら明白じゃないかしら」
「炊事洗濯掃除、女子力で言えば私の圧勝だね」
「一人暮らししてるんですもの、私だってそれぐらいできるわ」
「私は自分の分だけじゃなくケーくんの分もやってるもん」
「0と1の間には大きな壁があるけれど、1と2の間には大した壁はないのよ?」
「へーん、それじゃ私の方が上だね。だって私はよ、夜のお世話もしてるもの!」
「あなたしか相手が居なかっただけではなくて?」
「凄く気持ちいいって言ってくれたもん!」
「ええ、ええ。勿論あなたは一番でしょうね。同時に最下位でもあるけれど」
「比べてみればわかるよ!」
「知らない方が良い事実というのも往々にしてあるのよ?」
「じゃあ実際にやってみたら!?」
「ええそうするわ。じゃあとりあえず部屋から出て行ってくれるかしら」
「なんで!?」
「同条件じゃないと不公平じゃない。勿論あなたたち二人が初体験から隣人に行為を見せつけるプレイをしていたのなら話は別だけど」
「そんなことしてないもん!」
「じゃああなたも出ていくべきだわ。大丈夫よ、あなたの方が気持ちいいんだから、きっと最後にはあなたの方に帰ってくるわ」
「・・・わかった。じゃあ実際に試してみれば! ケーくん! 終わったら私ともしてね!」

 美少女二人の美声による自分を奪い合う口喧嘩をバイノーラルで聞かされるという至福の時間が終わったかと思えば、なじみが帰っていった。

「ゴメン、あんまり聞いてなかったんだけど、何がどうなった?」
「あなたは今から私と、その・・・セックス、して・・・蝶ヶ崎さんと具合を比べる、っていうか・・・」
「どうしてそうなった?」
「まさか私もあそこまでうまく言い包められるとは・・・」

 なじみはどうやら、結構チョロいらしい。
 三つ子の魂百まで、ってことか。
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