天ノ弱と月下美人

丸園 縁

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「浅黄は佐々木さんを助けた…?」

なぜ佐々木さんは、浅黄を問い詰めようとする俺をそんなに止めようとするのかと聞いた。

すると、返ってきた答えは意外なものだった。

あのとき、男四人組が急に佐々木さんを襲いかかり、ササワズの花を荒らし、金を無理やり奪い取ろうとしたらしい。

四人組の一人が佐々木さんの頬を殴ったとき、浅黄が割って入り、佐々木さんを守るように一人で四人を相手にしたとのこと。

俺はてっきり、浅黄が佐々木さんに危害を加えたのだと思っていた。

…勘違いしていた。

佐々木さんを助けた浅黄に対しての先程の態度は、反省するべきだと思った。

「和くん、あの人と知り合いなの?もしそうなら、今度ウチに来れないか聞いてくれないかしら?お礼をしたいのよ。」

お、俺が、あいつを誘う…。

お願い、と手を合わせる佐々木さんの望みを断るわけにもいかず、了承してしまった。

しつこいと言っていいほどに感謝を伝えてくる佐々木さんを見て、まあいいかと思えた。

けれど、それからの約二時間は仕事に全く身が入らず、ずっとあいつのことを考えていた。

佐々木さんはお礼をするけど、俺はお詫びをしなくてはいけないな…とは思いつつ、何をしてやれば良いかわからない。

思わずため息が出るが、もう暗くなった空だ。

誰にも見られていないから安心する。

俺の家が見えてくる。

至って普通の家だが、二階建て一軒家のそれは周りに比べ、一層暗く見えた。

「…ただいま。」

俺の声は静けさに溶ける。

俺は一人暮らしだ。
もう慣れている。

…慣れているつもりだ。

今日は始業式だったり、浅黄との例のこともあり少し疲労感がたまったから、シャワーをすぐ浴びた。

新しい出会いというのは、疲れるものだな。

滅多にしない失敗。
勘違いの怒りをぶつけてしまったこと。

あのときのあいつの顔を思い出す。

"…てめえには、関係ねえよ。"

俺は浅黄に巻き込むなと言ったが、浅黄は逆に俺を突き放していたんだ。

これは、浅黄の優しさなんだろうか。
不良だけど、優しさを持っているのか?

浅黄はミステリアスなやつで、謎が多いな。

明日ちゃんと、ササワズに来るよう誘おう。
サボらずに学校来るかな。

俺は、あいつの前でいつも通り猫を被れるだろうか。

なぜだか不安に思った。

あのときは憎らしかったあの顔はもう、ただただ整った顔という印象にまた戻った。

知りたいと思った。

なんだか興味が湧いた。

朝に他人には興味がない、と言ったばかりだがそうでもないかもしれない。

不安の正体は、それのせいかな。

浅黄夕。

明日になっても、決してこの名前は忘れないよ。






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