【R-18】魔王を倒したはずなのに〜勇者に待っていたのは洗脳悪堕ちNTR地獄でした〜

8.魔王降臨

※

「ヤーザムっ！貴様、一体何をした！？何を企んでいる！？」
「ははは。あれだけ痛めつけたというのに、まだ元気があるのか」
「っ！？お前…！？」

　心身ボロボロになった俺の目の前には、大男が立っている。この男は間違いなくヤーザムだ。いや…ヤーザムのはずなのだ。
　俺の目の前に立っている男はヤーザムであり、ヤーザムでなかった。筋骨隆々の巨漢、お世辞にも整っているとは言い難い顔…確かに外見はヤーザムその人である。
　しかし、口調や気配はまるで別人なのだ。何より驚くのはその気配だ。身の毛がよだつような粘度の高い邪気と殺気…ここまでのレベルのものは初めて経験する。様々な強敵を相手にしてきた俺の第六感が「今すぐ逃げろ」と命令を下している。

「お、お前…あのヤーザム、なのか…？」
「ほう、流石アレン君だ。話が早くて助かるよ」

　ヤーザム…いや、ヤーザムの外見をした「それ」は俺の反応を愉快そうに楽しんでいる。そんな俺たちのやり取りを見て、ヤーザムの隣にいるミネルヴァはクスクスと笑った。

「ふふふ。アレン、この男の『中身』は魔王なんだ」
「っ！？」

　ミネルヴァの言葉は、あまりにも衝撃的だった。言葉が何も出てこない。

「ふふふ。驚いたか？私も初めて知った時は驚いたよ」
「じゃ、じゃあっ…！半年前に俺たちが倒したのは…！」
「私たちが倒したのは、この男が作った紛い物だ。ここにいる『本物』の実力にははるかに及ばない」

　俺がやっとの思いで紡いだ言葉を、ミネルヴァは切り捨てるように遮った。

「そ、そんな…嘘だ…」
「嘘じゃないのはお前も分かっているはずだ。お前も感じ取ったはずだろう？この男の規格外の気を…」

　俺はそれでも嘘だと信じたかった。しかしミネルヴァの言葉はあまりにも残酷で…俺に現実を突きつけていた。

　ああ…魔王は、生きていた。目の前にいる男の「中身」は魔王…俺たちが力を合わせて、やっとの思いで倒したあの魔王は偽物だった。そして本物の魔王は偽物よりもはるかに強い…

　俺は状況整理をするかのように、ミネルヴァの言葉を何度も頭で唱えていた。そうでもしないと正気を保っていられないほどの衝撃と…そして絶望感が襲っていた。

「そういうことだ。私たちはまんまと魔王の策にハマり、偽物を倒してぬか喜びしていたんだ」

　ミネルヴァは冷たく言い放つ。まるで、これまでの俺たちの旅を否定するかのように。俺たちの努力と苦労を踏みにじるかのように。だけど…そう言い放つミネルヴァの表情はどこか恍惚としていた。
　ああ。ミネルヴァもマチルダも…この男に操られてしまったのだろう。
　心臓の鼓動が早くなる。絶望。底知れない深い絶望が、俺の心を襲っていた。