上 下
4 / 22

4.失踪

しおりを挟む



「ミネルヴァのやつ、遅いな…」
「ああ…」

 いつも能天気で豪快なマチルダが、この時ばかりは心配そうに呟いた。俺もマチルダもミネルヴァの安否が気になり、不安な気持ちになっているのだ。
 ミネルヴァが三下盗賊ヤーザムの退治に向かってから数日が経った。いつものミネルヴァなら、そろそろ帰ってくるころだ。少なくとも状況報告の連絡がくれるのだが…珍しいことに何の音沙汰もないのだ。

「無事だといいんだが…」
「んー…あと少しして何の連絡もなかったら、アタシとアレンで様子を見に行こう」
「そうだな。もしも危険な目に遭っていたのだとしたら、すぐに助けに行かないとな」

 マチルダと今後の方針について話し合っていたまさにその時だった。突如空間に六芒星が出現したのだ。それを見て俺たちは安堵した。

「どうやら、取り越し苦労に終わったみたいだな」

 そして間もなく、六芒星から一人の女性が現れた。言うまでもなく、ミネルヴァだった。傷ひとつない身体で何事もなく帰ってきたようだ。

「ただいま。どうやら心配させてしまったようだな」



 ミネルヴァは俺たちに何があったのか経緯を説明してくれた。

「ヤーザムが罠を張り巡らせていると思って、かなり慎重に行動したんだ。しかし結局取り越し苦労に終わってな。あのバカにもちゃんとお灸を据えておいた」
「なんだぁ、アタシ心配したんだぞ」
「連絡が遅れてしまったな。2人には申し訳ないことをした」

 ミネルヴァは申し訳なさそうに頭を下げた。そんなミネルヴァの姿を見て、改めて思う。ミネルヴァは淡々としていて、ぶっきらぼうに見えるけど、実は感情豊かだ。

「ところで、新しい依頼があるんだ」

 俺がそんなことを考えていると、ミネルヴァはいつの間にか頭を上げていた。そしてどうやら、別の話題を切り出したようだった。

「あの三下バカ盗賊が近隣の村を随分と荒し回ったみたいなんだ。それで、復興の手伝いを依頼されたんだ」
「ヤーザムのやつ、相変わらずゲスだな」

 俺は思わずため息をついてしまう。世界に平和が訪れたのに、あいつは生き方を変えられずにいる。あいつだけが、いまだに混沌とした時代を生きているのだ。

「それで、マチルダの力を借りたいんだ」
「アタシの力かい?」
「ああ、私一人では手が回らなくてな。アレンはしばらく一人で他の依頼をこなすことになるが…問題ないか」

 そういうことならば問題ない。確かに負担は大きくなるが、最近は依頼も数件しかない。俺一人でもこなせる量だ。何より、マチルダがいけば力仕事もこなせるはずだ。百人力だろう。

「ああ、大丈夫だよ」
「ありがとう。それでは一休みしたらまた出発することにする。マチルダも準備をしておいてくれ」
「もちろん!腕がなるね!」



 数時間後、身支度を済ませたミネルヴァとマチルダは村の復興のために出発しようとしていた。

「二人とも、気をつけてな」
「おう、ありがとう。だけど心配すんな。戦いに行くわけじゃないんだ。さっさと依頼を済ませて、元気に帰ってくるからさ」
「アレンの方こそ、一人で大変だったらすぐに連絡をしてくれ」

 二人で行動するなら安心だ。むしろ俺の方こそ、依頼が大量に舞い込んでしまったらてんてこまいになってしまうかもしれないな。
 
「じゃあ、アタシたち行ってくるわ。すぐ戻るからよ」
「それじゃあ呪文を唱えるぞ」

 そしてミネルヴァが移動魔法を唱えて、二人の姿は消えてしまった。

「さてと…俺も仕事に取り掛かるか」

 二人の姿が見えなくなり、俺はぽつりと呟いた。三人で分担していた仕事を一人でやるのだから負担も大きくなる。できることを今のうちに早く済ませよう。

「そうだ。せっかくなのだから、二人が帰ってきた時には依頼を完璧にこなした状態にしておくか」

 そんなことを考えながら俺は仕事に取り掛かった。

………
……


 しかし、その時は訪れなかった。この日を境に、ミネルヴァとマチルダは行方不明になってしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰ってきたら彼女がNTRされてたんだけど、二人の女の子からプロポーズされた件

ケイティBr
恋愛
感情の矛先をどこに向けたらいいのか分からないよ!と言う物語を貴方に ある日、俺が日本に帰ると唐突に二人の女性からプロポーズされた。 二人共、俺と結婚したいと言うが、それにはそれぞれの事情があって、、、、 で始まる三角関係ストーリー ※NTRだけど結末が胸糞にならない。そんな物語だといいな? ※それにしても初期設定が酷すぎる。事に改めて気づく。さてどうしたもんか。でもこの物語の元ネタを作者なりに救いたい。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

俺の彼女が『寝取られてきました!!』と満面の笑みで言った件について

ねんごろ
恋愛
佐伯梨太郎(さえきなしたろう)は困っている。 何に困っているって? それは…… もう、たった一人の愛する彼女にだよ。 青木ヒナにだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

趣味繋がりで出来た彼女がマッチングアプリで遊びまくっていた件について。もう寝取られたとかそういう次元の話じゃなくて鬱。

ねんごろ
恋愛
大学生の僕は講義中に出会った真理と付き合うことになる。しかし付き合い始めた矢先、見知らぬ男から衝撃の事実を告げられる。真理は僕と付き合いながら、マッチングアプリで他の男性とも関係を持っているというのだ。写真付きの証拠を突きつけられ、僕は言葉を失ってしまう。真理の裏の顔を知ってしまった僕に、これから何が待ち受けているのか。僕と真理の恋の行方は――

寝取られ異世界オンライン ~幼馴染が淫らに性長(レベルアップ)していく姿をモニター越しに見せつけられる屈辱と破滅の調教日誌~

HEproject
ファンタジー
幼馴染が異世界転移!? 大人気MMORPG「トリニティ・ワールド・オンライン」を一緒に楽しむことを趣味としている俺ことタクヤと幼馴染のカナミ。 今日もいつもと同じように冒険へと出かけたのだが、突如画面がブラックアウトし、なんと彼女がゲームの世界に取り込まれてしまった! 突然の出来事に混乱する俺たち。その矢先、カナミの背後から現れた謎の怪しい男。 帰還方法を知っていると言う男の話にホッと安心したのも束の間、その一縷の望みは俺を絶望へと追いやる幼馴染性長調教日誌の開始を意味していた――。 ※「レベルアップノベルシステム」採用! 読み進めるたびに、カナミの性格やステータスが淫らに変化していく性長システムを導入し、臨場感あふれる展開を演出! ※ストーリーパートと濡れ場パートを完全分離! 読みやすい見つけやすい分かりやすい構成を実現。エッチシーンのあるパートには、タイトルに「Ⓗ」と表記し、主なプレイ内容も併せて記載しています。物語の関係上、レイプやアナルセックス、洗脳や監禁など、ハードなセックスシーンしかありません。 ※ふたつのエンディングを用意! 最高のバッドエンドと、最低のトゥルーエンドを用意しました。あなたの望む結末は……? ※連載期間 2020年5月1日~5月6日(予定)。 この作品はすでに予約投稿が完了し、完結済みです。ゴールデンウィークのおともに是非どうぞ。 感想・考察などもお気軽に。作者の今後の作品の参考となります。 誤字・脱字・ルビの打ち間違いなどもありましたらご報告よろしくお願いします。 ※なお、今作は他サイトでも掲載しています。他サイトの仕様により、一部表現や表示が異なる場合があります。

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

処理中です...