3 / 22
3.盗賊からの依頼
しおりを挟む
※
俺たちが魔王を倒したという知らせは、直後に世界中に行き渡った。あっという間に俺たちは「世界を救った英雄」とみなされ、どこにいっても丁重にもてなされるようになった。
しかし、こうした扱いを嫌ったのは、何を隠そう俺たち自身だった。俺たちはそんなご立派な人間ではない。それに闘いを終えた今、平穏な生活を送りたい。ミネルヴァもマチルダも同じ考えだった。
だから、魔王を倒してから数ヶ月が経った今、俺たちは喧騒から離れた山奥に居を構え、便利屋を営んでいる。仕事内容はシンプル。依頼を通して人びとの悩みを解決するだけ。収入は大したものではないが、やりがいのある仕事になっていた。
※
「アレン、あの三下盗賊から依頼が来ているぞ。いや…これは依頼というより脅迫文だな」
「何だって!?」
そんなある日、俺たちの元にただならぬ依頼が届いた。依頼主はヤーザム。俺たちが魔王退治の旅を始めたばかりの時、コテンパンにした三下の盗賊だ。秀でているのは筋骨隆々の巨体のみ。頭は悪く、知恵も回らない。体格はいいが剣術の心得がないため、力任せに武器を振り回すだけ。だから、あっという間に俺たちにやられてしまい、牢屋送りになった男だ。
「依頼内容は、『俺をコテンパンに痛めつけたあの女魔道士に復讐してやる!例のアジトで待っているから魔道士一人で来やがれ!こっちには人質がいるから言う通りにしろよ』だそうだ」
「あいつ、捕まったんじゃないのか!?」
どうやら、ヤーザムはミネルヴァへの復讐を果たしたいようだ。そういえばヤーザムの下衆な所業に一番腹を立てていたのはミネルヴァだった。必要以上にヤーザムを痛めつけて、「もうしません」と何度も泣いて謝らせていたな…
「どんな細工をしたのか知らんが、あのバカはどうやら脱獄をしたようだ。その上でこんな手紙を送りつけるとは…相変わらず救えないな」
「そ、そうだな…」
「望み通り、私一人で乗り込んでやろうじゃないか」
ミネルヴァは淡々とした口調で話を続ける。しかしその瞳には怒りの炎がメラメラと込み上げているのが分かった。
俺は震え上がっていた。こういう時のミネルヴァは本当に怖い。ミネルヴァは冷静沈着な素振りと神秘的な外見からは想像もつかぬほど、心には熱い情熱を秘めているのだ。
とはいえ、いくら相手があの三下盗賊だろうと、こんな手紙を送ってきたのだ。何か勝つ算段があるのだろう。
「魔道士、気をつけるんだ。きっと…」
「分かっている。罠が張り巡らされているのだろう。だから油断はしない。その上で二度と悪さができないよう、徹底的にお灸を据えるつもり」
すでにミネルヴァは支度を済ませていたのだろう。俺の話を遮ると荷物を取り、移動魔法の詠唱を始めた。
するとあっという間に、俺たちの前に六芒星が出現した。この六芒星の上になれば空間を自由に行き来できるというわけだ。実はかなり高度な魔法なのだが、ミネルヴァはいとも簡単に唱えてしまう。
「状況は逐次報告する。危ないと思った時にはすぐに助けに来ればいい。マチルダにもそう伝えておいて」
「ああ、分かったよ」
「それじゃあ行ってくる。すぐに戻るようにする」
そう言い終えるとミネルヴァは六芒星に足を踏み入れた。六芒星が光り輝き、その光がミネルヴァの体を纏ってていく。そしてひときわ強烈な光を放つと、ミネルヴァの姿は消えていた。ヤーザムのアジトに向かったのだ。
「ミネルヴァ…無事に帰ってきてくれ」
残された俺はミネルヴァの無事を祈るようにぽつりと呟いた。
俺たちが魔王を倒したという知らせは、直後に世界中に行き渡った。あっという間に俺たちは「世界を救った英雄」とみなされ、どこにいっても丁重にもてなされるようになった。
しかし、こうした扱いを嫌ったのは、何を隠そう俺たち自身だった。俺たちはそんなご立派な人間ではない。それに闘いを終えた今、平穏な生活を送りたい。ミネルヴァもマチルダも同じ考えだった。
だから、魔王を倒してから数ヶ月が経った今、俺たちは喧騒から離れた山奥に居を構え、便利屋を営んでいる。仕事内容はシンプル。依頼を通して人びとの悩みを解決するだけ。収入は大したものではないが、やりがいのある仕事になっていた。
※
「アレン、あの三下盗賊から依頼が来ているぞ。いや…これは依頼というより脅迫文だな」
「何だって!?」
そんなある日、俺たちの元にただならぬ依頼が届いた。依頼主はヤーザム。俺たちが魔王退治の旅を始めたばかりの時、コテンパンにした三下の盗賊だ。秀でているのは筋骨隆々の巨体のみ。頭は悪く、知恵も回らない。体格はいいが剣術の心得がないため、力任せに武器を振り回すだけ。だから、あっという間に俺たちにやられてしまい、牢屋送りになった男だ。
「依頼内容は、『俺をコテンパンに痛めつけたあの女魔道士に復讐してやる!例のアジトで待っているから魔道士一人で来やがれ!こっちには人質がいるから言う通りにしろよ』だそうだ」
「あいつ、捕まったんじゃないのか!?」
どうやら、ヤーザムはミネルヴァへの復讐を果たしたいようだ。そういえばヤーザムの下衆な所業に一番腹を立てていたのはミネルヴァだった。必要以上にヤーザムを痛めつけて、「もうしません」と何度も泣いて謝らせていたな…
「どんな細工をしたのか知らんが、あのバカはどうやら脱獄をしたようだ。その上でこんな手紙を送りつけるとは…相変わらず救えないな」
「そ、そうだな…」
「望み通り、私一人で乗り込んでやろうじゃないか」
ミネルヴァは淡々とした口調で話を続ける。しかしその瞳には怒りの炎がメラメラと込み上げているのが分かった。
俺は震え上がっていた。こういう時のミネルヴァは本当に怖い。ミネルヴァは冷静沈着な素振りと神秘的な外見からは想像もつかぬほど、心には熱い情熱を秘めているのだ。
とはいえ、いくら相手があの三下盗賊だろうと、こんな手紙を送ってきたのだ。何か勝つ算段があるのだろう。
「魔道士、気をつけるんだ。きっと…」
「分かっている。罠が張り巡らされているのだろう。だから油断はしない。その上で二度と悪さができないよう、徹底的にお灸を据えるつもり」
すでにミネルヴァは支度を済ませていたのだろう。俺の話を遮ると荷物を取り、移動魔法の詠唱を始めた。
するとあっという間に、俺たちの前に六芒星が出現した。この六芒星の上になれば空間を自由に行き来できるというわけだ。実はかなり高度な魔法なのだが、ミネルヴァはいとも簡単に唱えてしまう。
「状況は逐次報告する。危ないと思った時にはすぐに助けに来ればいい。マチルダにもそう伝えておいて」
「ああ、分かったよ」
「それじゃあ行ってくる。すぐに戻るようにする」
そう言い終えるとミネルヴァは六芒星に足を踏み入れた。六芒星が光り輝き、その光がミネルヴァの体を纏ってていく。そしてひときわ強烈な光を放つと、ミネルヴァの姿は消えていた。ヤーザムのアジトに向かったのだ。
「ミネルヴァ…無事に帰ってきてくれ」
残された俺はミネルヴァの無事を祈るようにぽつりと呟いた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる