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10年後、卒業パーティーにて

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10年後。​



学園の卒業パーティー。​

艶やかなドレスを身にまとった生徒たちが、それぞれのパートナーを手に入場する。​

各国の爵位持ちもこのパーティーに出席している。​



そんな中、しばらくして、王太子である王子が壇上に上がり、そして、預言書通りの言葉をアイリスに言い放つ。​

一人で入場してきたアイリスに、暴言を吐き、時には、騎士団長の子息に髪の毛を引っ張られ、床に倒れさせられた。​

無実の罪を、公の場で追及される。​



何か反論しようとするが、それは許されない。​

一言話そうとするたびに罵倒と張り手で止めさせられる。​



王が王妃に無断で召喚した聖女を虐めただとか殺そうとしただとか。​

そんなことを言っている。​



それらのことは、王太子の自作自演である。​

王太子が令嬢に依頼して、聖女を虐めさせていた。アイリスはこれに関わっていない。​

令嬢たちは嬉々として、聖女とアイリスを虐めていた。​

暗殺未遂も王太子がならず者に依頼して、手引きした。​



でなければ、王の造った学園にならず者が入場できるはずがない。​



もちろん、ならず者は用が済んだと同時に王太子の側近に殺されている。​

親であるはずのレミリア侯爵もアイリスを罵倒している。​



私は、ため息をつきながら、スッと立ち上がる。​

王太子が​

「アイリスとの婚約を破棄し、国外追放とする!」​

と言ったところで、私は手を挙げて、合図した。​



急激に世界が暗転した。​



暗転した会場からどよどよとざわめく声が聞こえる。​



私は感情を抑えた声で、でも、皆に聞こえる声でこう言った。​



「諸外国の皆々様方、この国の恥部を見せてしまい、大変申し訳ございません。本日はお越しくださり、誠にありがとうございます。​

今宵でこの国最後の瞬間に、一緒に参加してもらうのは、いささか、申し訳なく思いますので、大変申し訳ないとは思いますが、国境まで今からお送りいたします。」​



パチンと指を鳴らす。​



どよどよの総数が減った気がするが、別のどよめきが増える。​

薄暗がりで人物の確認ができていない模様。​



「聖女 清瀬彼方さま。あなたには、わが国が大変ご迷惑をおかけして申し訳なく思います。」​

「いえ、私は・・・。」​

「もし良ければ、元の世界に戻しましょうか?」​

「え?!できるのですか!!お願いします!陛下にも王子にもお願いしたのに、出来ないの一点張りで!!」​

聖女は誰が、そう言っているのか、気付かないまま、そう答えた。​



「誰だ!そんな絵空事を言うのは!異世界から召喚した聖女を愚弄するのか!?」​

王太子もこちらに気付いていないようだ。​

私は無視して続ける。​

「なら、召喚される直前に戻してあげます。」​

と私は答え、パチンと指を鳴らす。​



聖女の声が聞こえなくなり、王太子が慌てる声が聞こえる。​

「か、彼方!彼方はどこだ!!!貴様!彼方をどこにやった!姿を現せ!!!」​



別に姿を消しているわけではないのに、王太子が暴れている音が聞こえる。​

王太子の側近も同じように暴れている模様。​



何の関係もない人間が殴れている気配もある。​



「さて、この国の最後に、お伝えしたいことがございます。」​

と言うと、私はゆっくりと壇上に向かった。​



王太子と側近は魔法で拘束した。​

足元でフガフガ言っている。​



「ここにいる、アイリス・レミリアは、精霊です。」​

と言って、アイリスに手を差し伸べる。​



私の周りに精霊が集まり、辺りを照らす。​

頭から血を出して、髪がぼさぼさにされ、ドレスも汚されている少女が私の横で羽を広げて飛んだ。​

その背には、精霊の羽が6枚あった。​



彼女は昇級して、大精霊になったらしい。​



「「「「は?」」」」​

王太子や側近は声が出せないから、態度で、その他の者は、そのまま、驚いた顔でこちらを見ている。​



「せ、精霊?しかも、大精霊?!・・・それに・・・お、王妃様?!!」​

誰かがそう言った。​



しかも、誰がが王太子の口の拘束を外したらしい。​

「母上、あなたは黙っていてください!あなたは、帝国からの人質でしかないと何度言ったらわかるのですか!!」​

と王太子が私を罵倒した。​



「まぁ、本当に・・・陛下そっくりにお育ちになりましたね。」​

と私はとことん感情が無くなりそうになる。​



結局、私は息子であるはずの王太子にあれから会うことができなかった。​

側近や従者を通じて、多少会話したが、それもほぼ一方的なもので、何を言っても無駄だった。馬耳東風。暖簾に腕押し状態。​

結局、変えることなど出来はしなかった。​



「レミリア侯爵。本物のアイリスからの手紙です。」​

と言って、レミリア侯爵に10年前の赤い蝋で封された手紙を渡す。​



激怒した様子のレミリア侯爵はそのまま受け取った手紙を破こうとするが、精霊たちがそれを許さなかった。​



「10年前のものです。いい加減、気付きなさい。」​

と私が言うと、レミリア侯爵が固まる。​



そして、恐る恐る手紙を読み始めた。​

侯爵は読み進めるたびに、体を震わせ、そして、膝をついて、泣き始めた。​



「そ、そんな・・・。アイリス・・・。」​



(レミリア侯爵は、手紙を受け取るまで全く気付きもしなかった。​

本当にアイリスは・・・。)​



「泣き真似は上手ですわね。」​

と思わず口に出てしまった。​



レミリア侯爵は、キッと私を睨んだが​

「私が仕組んだことではありませんよ。あなたの自業自得です。恥を知りなさい。」​

と返した。​



「さて、アイリスを虐めた方々。聖女を虐めた方々。そして、おのれの欲に他者を虐げ続けている王族を含めた貴族の皆々様。​

あなた方は、新しいこの国には不要のものとなりました。」​

パチンと指を鳴らすと王太子や側近、貴族たちの声が無くなる。​



ここにいる人間は、侯爵と一部の平民と私だけ。​

後は全員精霊だ。​



まぁ、家畜となった貴族たちは、ブヒブヒとかモーとか言っているが。​



「そこの平民のものには選択肢があります。精霊になるか、他国に移住するか。」​

私の問いに、すぐさま、真剣な顔で皆が即回答した。​



「精霊になりたいです。貴族社会はもう、まっぴらです。」​



すると、青い光を放っていた精霊たちがそう答えたものを精霊に変換した。​

なお、この国の民は強制的に精霊、もしくは妖精に変換されるらしい。​



・・・一部、相応しくないものは魔獣になるが。​



「さて、レミリア侯爵。これで最後です。アイリスに、伝えたいことはありますか?」​



「わたしは、*********************。」​

侯爵は泣きながら、そう答えた。​



そして、私は、その言葉に答えることなく、パチンと指を鳴らした。

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