上 下
3 / 6

レイシア王妃のお願い

しおりを挟む
防音の魔法を起動させ、私側の従者をすべて退出させた。​

少女の従者はそのままにしている。​



「で、あなた、誰なの?」​

と私が単刀直入に聞くと。​



「私はボルクス。光の精霊さ。」​

とアイリスと同じ顔でフランクに答えた。​



「アイリスちゃんは無事なの?」​

と聞くとボルクスと名乗った精霊はちょっと困った顔になる。​



「無事と言えば無事だけど・・・。」​

と言葉を濁す。​



私は思わず、ボルクスの襟首を掴みそうになる・・・が、グッと我慢した。​



「まぁ、うん。意外だけど、アイリスのこと考えてくれている人間もいたんだなー。意外だ。」​

と嬉しそうに笑った。​

そして、一つの封筒を私に渡してきた。​



「血族以外の人間が気付いたら、これを渡せって言われているんだ。」​

とボルクスは言って、早く開けるように催促した。​



おずおずと受け取り、青い蝋で封されている手紙をペーパーナイフで開ける。​



そこには絶望的なことばかりが書かれていた。​



アイリスが、既に人間界にいないこと。​

アイリスの親がまるでアイリスに関心がなく、いろいろ訴えたが、なしの飛礫だったこと。​

アイリスが使用人によって、虐待されていたこと。​

それは性的な虐待も含まれていた。​

一歩間違えば、処女を奪われる寸前までいったことが書かれている。​

アイリスの私物を盗まれていることも書かれていた。​

それを親に言ったら、信じてもらえず、折檻されたことなども書かれている。​

王太子の婚約者になったとこで兄からの八つ当たりの内容も刻々と書かれていた。​



(なんで、私は気付いてあげれなかったんだろう。)​

と物凄く悲しくて悔しい気分になった。​



そして、最後に書かれていた文言に何とも言えない気分になる。​



この手紙を受け取ってくれた方へ。​

気付いてくれてありがとうございます。​



と。​



涙が、ボロボロと零れた。​



堪えようとしても涙が止まらず、ボルクスたちを混乱させてしまった。​



どのくらい泣いたかわからないが、ようやく涙が止まったころ、ボルクスが少し嬉しそうに私に言った。​



「アイリス、ちゃんと見てくれる人がいたんだね。私は10年経ってもアイリスがいなくなったの気付く人いないって思ってたけど、私節穴だったなー。」​

と。​



10年。​



10年経てば、16歳になり、アイリスが王家に入ってくる。​

思わず、ボルクスを睨む。​



「いやいや、王家に入って、いろいろしようって話じゃないよ?!落ち着いて!」​

とボルクスが慌てる。​



ふと、彼女の従者が一枚の紙を渡してきた。​



「預言書のようなもん。10年後に、アイリスが婚約破棄されて、国外追放になる。​

そして、その道中で暗殺されるということが書かれているんだ。​

ちなみに、暗殺指示者は、王太子だよ。」​



と事も無げに言った。​



思わず目を見開き、その紙をひったくって、読む。​



その予言書には聖女召喚のことや学園での出来事などいろいろと書かれていた。そして、アイリスが行っていない事件なのに、彼女のせいにされる旨も記されている。​



「ちなみに、この予言書のことはアイリスも知らない。アイリス・・・これ以上悲しませなくていいと思って。」​

とボルクスが悲しそうに言う。​



「もし、これが本当なら・・・私は一体・・・どうすればいいの?」​

と思わず、私がつぶやいてしまった。​



「どうもしなくていいよ。調べてみたら、王妃様、頑張ってるのに報われてないじゃん。​

今、従者が調べているんだけど、この国の王も側近も腐ってるね。どうしようもないよ?​

どう頑張っても、王妃様じゃ、王子様の教育どころか、会うことも難しいだろうし、更生は無理だ。​

いくら帝国の姫だからって、正妃なのに、なんでこんなことになってんだか。​



・・・人間ってよくわかんないよね。」​



とボルクスは心底理解できないという顔でいる。​



「私はね。10年経ってもアイリスの周りの人間が、誰一人アイリスがいなくなったことに気付かなかったら、この国を滅ぼして、精霊の国にしちゃおうとの命令を私の主にされていたんだ。」​

と言って、続けて、こう言った。​

「ちょっと残念だったなー。一日で気付かれるんだもの。」​

と言った。でも、その顔は残念そうと言う割に、少し嬉しそうだった。​



私は少し考える。​

そして、改めて、アイリスの最後の手紙を読み返す。​



少し読み返す度、目つきが悪くなっている気がする。​

「あ、待って待って、そこに出ている人間。アイリスに危害を加えていた人間は親兄弟以外はもう、交換しているから、虐めないでね!」​



私がやろうとしたことを察したのか、ボルクスは慌ててそう言った。​



私がやろうとしていたこと。​

それは、使用人たちへの復讐だった。​



「こ、交換?」​

と恐る恐る聞く。​



「もう、交換済みだよ。」​

とボルクスは繰り返した。​



そうだ。今日、アイリスと共に来た従者は突然質が上がっていた。​

侯爵家の従者はいつだって質が悪いのに。​



(10人ほど来ているアイリスの従者が全員交換されたということか?)​

と思っていたら、その心を読んだかのようにボルクスは​



「全員交換したから、安心していいよ。」​

とにこやかに笑った。​



(全員?全員ってなんだろう?)​

「侯爵家の従者、全員総入れ替えしているから、安心していいよ?って意味。あれ?違った?」​

とボルクスは不安そうに言った。​



「詠み間違えた?」​

と不安そうに聞く。​



「いえ、合ってるわ。ありがとう。」​

と答えると​

「どういたしまして!」​

とボルクスは答える。​



「ねぇ、ボルクス。お願いがあるの。」​

「うん!何でも言ってみて!アイリスのこと気づいてくれたあなたのお願いなら、ある程度聞くよ!」​

ボルクスはにこやかに笑って答えた。​



そして、私は一つの決断をした。​

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪
ファンタジー
 悪役令嬢を断罪し、運命の恋の相手に膝をついて愛を告げる麗しい王太子。 お約束の展開ですか? いえいえ、現実は甘くないのです。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

お城で愛玩動物を飼う方法

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約を解消してほしい、ですか? まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか? まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。 それで、わたくしへ婚約解消ですのね。 ええ。宜しいですわ。わたくしは。 ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。 いいえ? 説得などするつもりはなど、ございませんわ。……もう、無駄なことですので。 では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか? 『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。 設定はふわっと。 ※読む人に拠っては胸くそ。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

滅びの大聖女は国を滅ぼす

ひよこ1号
恋愛
妹の為に訪れた卒業パーティーで、突然第三王子に婚約破棄される大聖女マヤリス。更には「大聖女を騙る魔女!」と続く断罪。王子の傍らには真の大聖女だという、光魔法の癒しを使える男爵令嬢が。大した事の無い婚約破棄と断罪が、国を滅ぼしてしまうまで。 ※残酷な描写が多少有り(処刑有り)念の為R15です。表現は控えめ。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

処理中です...