CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

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―楽園編―

ブレイカブルワールド

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 雪音さんがとんでもないことを言い出したので、僕はさらに困惑してしまう。
『ユキネ、そんな重要なこと、なんで今まで黙っていたのですか!』
 ミィコもきっと、困惑しているに違いない。
『え、だって、聞かれなかったから?』
『雪音さん、それ、海風博士に伝えた方がいいんじゃないですか?』
 僕は、海風博士の意見も聞いてみたいと思ったので、それとなく雪音さんに聞いてみる。
『うーん、そだね。でも、海風博士はもっと何かとても重要なことを隠しているような感じもしたし、私も、手の内を簡単に明かしちゃダメかなって思うから……今はまだ、彼には話さないでおいて』
 なるほど、雪音さんは雪音さんなりに、色々と考えていたようだ。

『そうですね……残念ながら、父が何かを隠しているのは間違いないです。私、分かります』
『それって、どんなことなんだろう?』
『どことなく――父が、まるで別人になってしまったような……そんな感じがしました』
 藍里の曖昧な表現は、父親の変化を認めたくないことへの裏返しなのだろうか……僕はそんな印象を受けた。
『藍里ちゃんがそういうなら、そうなのかもしれない。私の推測だとね――キューブを起動するために必要な知識って、何者かが海風博士に“与えた”ものなんじゃないかな?』
『え!? 雪音さん、それってどういう――』
 僕は雪音さんのその発言に驚いた。
『【今までの研究成果で運よくキューブを起動できました】というのは、いくらなんでも話が出来すぎかなって……長年研究してきたというのに、今になってコアが見つかるっていうのも不自然でしょ? ずっとキューブの研究を続けていたっていう、ハワード・クロイツ博士が、海風博士よりも前にコアを観測していたっていいわけじゃない?』
『ユキネ、それは、海風博士が偶然見つけたって言っていたじゃないですか……』
 ミィコの不安そうな気持ちは念話からでも伝わってくる。
『そう、その偶然。なぜ、海風博士が観測できたのか? なぜ、海風博士だったのか? なぜ、海風博士がキューブを起動することができたのか? 不思議だと思わない?』
『ユキネ、それは、海風博士が優秀だったからに他ならないです』
『いいえ、ミィコ。唯一、海風博士だけが、人知を超えたオーバーテクノロジーのコアを観測し、狙ったタイミングでキューブを発動させた――これを、優秀の一言で片づけてしまうわけにはいかないの。おそらく、キューブを扱える何者かが海風博士と繋がっているはずよ――要は黒幕ね。そして、その黒幕には“火星”との繋がりが――』
『雪音さん、ちょっと怖い……』
 僕は、雪音さんの、何かに取り憑かれているような、そんな執着心に満ちた発言の数々から恐怖すらも抱くようになっていた。
『あのね、さとりちゃん、君が最初に聞いてきたことでしょ?』
『あ、ええと、そう、なのですけど……』
 僕は、雪音さんに怒られて恐縮してしまった――だが、さすがの雪音さんでも、これではまるで……陰謀論じみた話になってきているではないか。
『ミコも、さとりの意見に賛成です。ユキネ、ちょっと怖いです』
 ミィコは僕に共感してくれている。
『まさか、藍里ちゃんまで私のこと怖がって……ないよね?』
『あの、雪音さん、雪音さんのいう黒幕って、いったい何者なのでしょうか? それに、“火星“っていうのは――』
 藍里は雪音さんの話を疑ってはいないようだ。それどころか、詳細を知りたがっている。
『残念ながら、それは私にも、分からない。おそらくだけど――キューブが月で見つかったのなら、月の民だったり、火星が関係しているとするなら……火星の悪魔だったり!? もしくは、キューブを撫でたら出てきた魔神とかかな~? なんてね!』
 前半は深刻そうな口調だった雪音さんだが、なんだかいつもの適当な感じの口調に戻ってきている――この人の性格、本当に謎だ。
『あ! それなら父が別人に思えたのも納得です! 父は何者かに取り憑かれているということですね! 悪魔憑きって聞いたことあります!』
 まあ、そういう適当さで言うなら、藍里も負けていないのだが……彼女の場合はあざとい可能性も否定できない!
『え、ええ、まあ、そうかもね』
 雪音さんは、あざとい感じの藍里に、適当な返事をしているように思える。
『え、雪音さん、それでいいんですか?』
 さっき雪音さんに怒られたことを、ほんのちょっとだけ根に持っていた僕は、意地悪な感じで雪音さんを問いただす。
『そうですよ、ユキネ、こんなにも根拠のないことを並べ立てた挙句、藍里に適当なことまで言って――本当に、見損ないました……』
 僕の発言によって、ミィコが抱えていた爆弾が爆発したように思えた。
 それは、ミィコが抱いていた雪音さんへの尊敬の念が、泡沫の如く一瞬にして消え去っていく、というような、そんな瞬間だった。
『待って、ミィコ! 藍里ちゃんの解釈、あながち間違いではないのかも? それに、海風博士のこと、あくまで私の推測に過ぎないのだから、解釈もいくつかあったほうがいいのよ!』
『そういうものなんですかね?』
 僕は疑いの眼差しで雪音さんに問いかける。
『そういうもの! ちょっと長居しちゃったから私は戻るよ! またね~』
 雪音さんは相変わらず、コネクションロストだけは最速だ。

 念話での話が終了すると――藍里が僕を見る。僕も藍里を見る。
 ――無言で見つめ合う二人。
「あの、さとりくん……私、さとりくんのこと、前から知っているような気がするんです。『さとりくんを失ってしまう』、そんな夢を何度も、何度も見ているような気がするんです。私たち、前世とか、ずっと前から、さとりくんとは繋がりが合って、何か、大切な絆のようなものがあるんじゃないかって、そんな気がして――あ、私、何を言ってるんだろう? ごめんなさい、今の、忘れてください!」
 藍里は前世からの因縁のように思ってくれている。

 でもそれは、ループしている世界の記憶――メメント・デブリ。
 僕の最期を、藍里に伝えるべきなのだろうか? それを伝えることで、未来が変わるのならば……逆に、藍里に伝えてしまうから、僕はあの最期を迎えてしまうのではないだろうか? そう考えると、伝えていいものか不安になってくる。
「僕と藍里には、何か運命めいたものがあるのかもしれない、ね」
「そうですよね! さとりくんもそう思っていてくれて嬉しいです!」
 当たり障りのない答えを返した僕に、藍里はとても喜んでくれている。本当は、ちゃんと伝えるべきなのかもしれない……でも、伝える勇気がでない。

『サトリ、アイリ、二人でミコを差し置いて密談でもしていますか? ミコ、泣きますよ』
『いや、そんなじゃないよ……というか、泣くな!』
『ミコちゃん、泣いちゃダメです!』
『泣くわけがないです。冗談に決まっています』
 相変わらずミィコは可愛かったが、だが、その反面、可愛くもなかった。
 でも、ミィコは、さっきの雪音さんの話で心細くなっていたのかもしれない。
 確かに、僕も、あの雪音さんはちょっとだけ怖かった……。

 ――雪音さんの話には、何らかの意図や確証があるのだろう……今は、疑うよりも、信じることが大切なのかもしれない。
 藍里も、ミィコも、雪音さんも、ループする世界の中で僕と出会い――僕と共に、そのループを阻止する方法を探ってきたはずなんだ――ずっと、ずっと。
 だから、僕は、信じなければいけないんだ。

 よし、ドラゴンをさっさと倒して、みんなで現実世界に戻ろう。
 そして――藍里、ミィコ、雪音さん、この3人にはちゃんと伝えよう……これから起こるであろう、僕の最期を――
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