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―楽園編―
僕らの決意
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そう決心したものの、雪音さんの衝撃的な発言については驚きを隠せなかった。
『それにしても、衝撃の新事実だった。驚いた!』
僕は、その驚きをみんなと共有しておきたかった。
『ミコも、ちょっと驚きました! まさか、ユキネがあんなデタラメなことを言うなんて!』
相変わらず、ミィコは雪音さんのことを疑っている。
『え、ええ!? ミコちゃん! 雪音さんは本当のことしか言ってないと思うよ!』
逆に藍里は、雪音さんの言葉を疑うミィコの考え方が信じられない、といった感じだ。
『アイリまで……ユキネの、あんな突拍子もないデタラメな話を信じちゃっているのですか!? 確かに海風博士には読めないところもありますが、そんな嘘をつくような人には見えませんでした』
雪音さんの衝撃的な発言を受け入れがたいのだろうか? ミィコは、雪音さんよりも海風博士のことを信じようとしている。
『そっか、ミコちゃんが私の父を信じてくれているっていうだけでなんだか嬉しいな~』
藍里は嬉しそうだ。見方によっては、海風博士がこの異常事態の元凶ともいえる。そんな彼の言葉をミィコは心から信じているのだ。自分の父親を悪人呼ばわりされるよりは信じてもらえている方がいいに決まっている。
しかし、ミィコの純真無垢なところは逆に怖い――
『ミィコ、世の中には怖い人も多いからね……知らない人について行っちゃダメだよ?』
『サトリ、何なんですか、それは! ミコのことを馬鹿にしないでください!』
『だって、ミィコは簡単に人を信じ込んでしまいそうで――』
『安心してください。それはないです!』
ミィコは僕の言葉に反論した――が、本当に騙されたりしないか、ミィコのことがちょっと心配になる。
『でもね、ミコちゃん。雪音さんの話は信じてもいいんじゃないかなあ? 突拍子もない発言に思えるのかもしれないけど、私たちに見えていないもの、それが雪音さんにはちゃんと見えている、そんな気がするもの……』
藍里がなんだか意味深な発言をしている。
確かに、雪音さんは、僕らとはまた違った視点から物事を捉えている。
それは、ジオメトリック・エデンを構築する雪音さんだからこそ、その能力から得ることができる知識もあるといえる――まあ、もともとの雪音さん直感が鋭いからなのかもしれないが、それについては謎だ。
とにかく、アカシックレコードとか、ゴースト世界とか、そんなもの僕らでは到底思いつかない。
だが、それについては、雪音さん的に解釈しているアカシックレコードの仕組みが、僕的にはどうしても非効率すぎるような気もしてくる。
書き込み時にキャッシュを全クリアして、そこから”現在”を再キャッシュし直すだなんて。
それも、無数に存在する宇宙のすべてを……そんなことあり得ない。
でも、アカシックレコードには時間の概念がないわけで、非効率だろうとそんなこと関係ないとすると――まあ、あり得なくもない。
でも、僕らの概念で理解できるものではないと雪音さんも言っていたし、僕らが、なんとなくニュアンスで解釈する分には、それでいいのかもしれない。
そう考えれば、なんとなくしっくりとくる、のかもしれない……。
まあ、深く考えたところで答えは出ないということなのだろう。
それに、次元破壊兵器――キューブの影響で、この世界は無限ループしている。
キューブのようなものが並行世界に存在していない前提で考えれば、これ以上悪影響を及ぼす可能性は低いといえる――なぜなら、キューブのコアは藍里が持っているからだ。不幸中の幸い、といったところだろう……海風博士は、それすらも計算に入れて行動していたのかもしれない。
だが、僕の考えに反して、キューブが複数存在していたなら――
とにかく、僕らの宇宙は、僕らで何とかするしかない。
たとえ、他の宇宙でキューブが存在していたとしても、僕らがこのループを止めることで、他の宇宙でも僕らと同じようにループを止める何者かが現れることだろう。
それに、海風博士の話からも、キューブのコアは、藍里が今身に付けているもの以外、他の次元にも存在することのない、唯一無二のユニークなものだという解釈をしてもいいはずだ。
――だから、僕らは、次のループを阻止することだけを考えていればいいのだ。
そして、今までのループの中で、僕らはループを止めるための答えを見つけているはずだ……。
必ず、今回、このループ内で、僕はその兆しに気付くことだろう。そのタイミングを絶対に逃してはならない――
僕がそんなことを考えていると、ミィコから僕らに向けて念話が届く。
『アイリがそういうのなら……分かりました。ユキネの話を信じてみます』
『そういう素直なミィコはすごく可愛いな』
『サトリ、そういうの、いらないですから』
『ミコちゃん、ありがとう。それと、ミコちゃん可愛い!』
『アイリまで!』
藍里に説得され、ミィコは素直に雪音さんの話を受け入れたようだ。
まさか、ここにきて、雪音さんからこれほどまでに重要な話を聞かされるだなんて、僕は思いもしなかった。
僕が、唐突に幾何学的楽園のことを雪音さんに聞いてみたのは正解だったのかもしれない。
ちょっとした衝突もあったけど、それでも聞いてよかったのだと僕は思いたい……。
――しばしの沈黙……各々に思うところでもあったのだろうか。
藍里は黙々と薬草をすりつぶす作業に戻っている。
ミィコはドラゴンの島まで行ける船を手配してもらえたのだろうか?
そんな中、僕は雪音さんの言葉がどうしても気になってしまう……黒幕、火星、キューブ。
海風博士はいったい何を隠しているのだろう? 海風博士が黒幕と繋がっている……? まさか、藍里も黒幕と繋がりがあるとか? いや、そんなはずは――
やめよう、憶測で誰かを疑っていても仕方がない! 僕の、みんなを信じたい、というこの気持ちは紛れもなく本物であり、メメント・デブリによって深層心理に焼き付いている大切な感情なのかもしれない。
疑心暗鬼になった僕が原因で、ループの阻止に失敗してしまう、だなんて……そんなのは冗談でも笑えない。
僕は、僕にできることをする、それだけだ。僕に残されたメメント・デブリ、きっと、ループを止める手掛かりになるはずだ。
現実世界に戻ったら、藍里、ミィコ、雪音さん、この3人に打ち明けよう――そして、未来を変えるんだ。
いきなり、何の前触れもなく部屋のドアが開いたと思うと――
「サトリ、アイリ! 船の準備が整いました! すぐに出発です!」
ミィコがそう言いながら、勢いよく部屋の中に飛び込んできた。
「さすがミコちゃん! いざ、ドラゴンの島へ!」
「ミィコ、やっぱり、頼りになるな!」
「エヘヘ……それほどでもないです! さあ、出発なのです! ドラゴンの島へ!」
ミィコは照れながらも、くるりと後ろを向いて足早に部屋を後にした。
僕らは荷物を持ち、忘れ物がないかをよく確認してからミィコの後を追う。
部屋を出て、宿屋の外まで出ると、港方面に向かうミィコの姿――やや遠くにいるせいか、小さいミィコが、いつもよりもさらに小さく見える。
小さいミィコがふと立ち止まったかと思うと、こちらを振り向き――飛び跳ねながら僕たちに手を振っている。
――メーメニア港。
「見てください! この町の貿易商を訪ねて、ミィコが丁寧にお願いしたら、こんなにも立派な船を手配してもらえました!」
港に着くやいなや、ミィコはそう言いながら、自信ありげな表情で沖の方を指さした。
――そこには、やや大きめの立派な帆船が一隻。
いや、やや大きめどころではない……あれは、巨大な戦艦だ!
ドラゴンの島へと向かう航海だけだというのに、これはちょっと大げさすぎないだろうか?
『それにしても、衝撃の新事実だった。驚いた!』
僕は、その驚きをみんなと共有しておきたかった。
『ミコも、ちょっと驚きました! まさか、ユキネがあんなデタラメなことを言うなんて!』
相変わらず、ミィコは雪音さんのことを疑っている。
『え、ええ!? ミコちゃん! 雪音さんは本当のことしか言ってないと思うよ!』
逆に藍里は、雪音さんの言葉を疑うミィコの考え方が信じられない、といった感じだ。
『アイリまで……ユキネの、あんな突拍子もないデタラメな話を信じちゃっているのですか!? 確かに海風博士には読めないところもありますが、そんな嘘をつくような人には見えませんでした』
雪音さんの衝撃的な発言を受け入れがたいのだろうか? ミィコは、雪音さんよりも海風博士のことを信じようとしている。
『そっか、ミコちゃんが私の父を信じてくれているっていうだけでなんだか嬉しいな~』
藍里は嬉しそうだ。見方によっては、海風博士がこの異常事態の元凶ともいえる。そんな彼の言葉をミィコは心から信じているのだ。自分の父親を悪人呼ばわりされるよりは信じてもらえている方がいいに決まっている。
しかし、ミィコの純真無垢なところは逆に怖い――
『ミィコ、世の中には怖い人も多いからね……知らない人について行っちゃダメだよ?』
『サトリ、何なんですか、それは! ミコのことを馬鹿にしないでください!』
『だって、ミィコは簡単に人を信じ込んでしまいそうで――』
『安心してください。それはないです!』
ミィコは僕の言葉に反論した――が、本当に騙されたりしないか、ミィコのことがちょっと心配になる。
『でもね、ミコちゃん。雪音さんの話は信じてもいいんじゃないかなあ? 突拍子もない発言に思えるのかもしれないけど、私たちに見えていないもの、それが雪音さんにはちゃんと見えている、そんな気がするもの……』
藍里がなんだか意味深な発言をしている。
確かに、雪音さんは、僕らとはまた違った視点から物事を捉えている。
それは、ジオメトリック・エデンを構築する雪音さんだからこそ、その能力から得ることができる知識もあるといえる――まあ、もともとの雪音さん直感が鋭いからなのかもしれないが、それについては謎だ。
とにかく、アカシックレコードとか、ゴースト世界とか、そんなもの僕らでは到底思いつかない。
だが、それについては、雪音さん的に解釈しているアカシックレコードの仕組みが、僕的にはどうしても非効率すぎるような気もしてくる。
書き込み時にキャッシュを全クリアして、そこから”現在”を再キャッシュし直すだなんて。
それも、無数に存在する宇宙のすべてを……そんなことあり得ない。
でも、アカシックレコードには時間の概念がないわけで、非効率だろうとそんなこと関係ないとすると――まあ、あり得なくもない。
でも、僕らの概念で理解できるものではないと雪音さんも言っていたし、僕らが、なんとなくニュアンスで解釈する分には、それでいいのかもしれない。
そう考えれば、なんとなくしっくりとくる、のかもしれない……。
まあ、深く考えたところで答えは出ないということなのだろう。
それに、次元破壊兵器――キューブの影響で、この世界は無限ループしている。
キューブのようなものが並行世界に存在していない前提で考えれば、これ以上悪影響を及ぼす可能性は低いといえる――なぜなら、キューブのコアは藍里が持っているからだ。不幸中の幸い、といったところだろう……海風博士は、それすらも計算に入れて行動していたのかもしれない。
だが、僕の考えに反して、キューブが複数存在していたなら――
とにかく、僕らの宇宙は、僕らで何とかするしかない。
たとえ、他の宇宙でキューブが存在していたとしても、僕らがこのループを止めることで、他の宇宙でも僕らと同じようにループを止める何者かが現れることだろう。
それに、海風博士の話からも、キューブのコアは、藍里が今身に付けているもの以外、他の次元にも存在することのない、唯一無二のユニークなものだという解釈をしてもいいはずだ。
――だから、僕らは、次のループを阻止することだけを考えていればいいのだ。
そして、今までのループの中で、僕らはループを止めるための答えを見つけているはずだ……。
必ず、今回、このループ内で、僕はその兆しに気付くことだろう。そのタイミングを絶対に逃してはならない――
僕がそんなことを考えていると、ミィコから僕らに向けて念話が届く。
『アイリがそういうのなら……分かりました。ユキネの話を信じてみます』
『そういう素直なミィコはすごく可愛いな』
『サトリ、そういうの、いらないですから』
『ミコちゃん、ありがとう。それと、ミコちゃん可愛い!』
『アイリまで!』
藍里に説得され、ミィコは素直に雪音さんの話を受け入れたようだ。
まさか、ここにきて、雪音さんからこれほどまでに重要な話を聞かされるだなんて、僕は思いもしなかった。
僕が、唐突に幾何学的楽園のことを雪音さんに聞いてみたのは正解だったのかもしれない。
ちょっとした衝突もあったけど、それでも聞いてよかったのだと僕は思いたい……。
――しばしの沈黙……各々に思うところでもあったのだろうか。
藍里は黙々と薬草をすりつぶす作業に戻っている。
ミィコはドラゴンの島まで行ける船を手配してもらえたのだろうか?
そんな中、僕は雪音さんの言葉がどうしても気になってしまう……黒幕、火星、キューブ。
海風博士はいったい何を隠しているのだろう? 海風博士が黒幕と繋がっている……? まさか、藍里も黒幕と繋がりがあるとか? いや、そんなはずは――
やめよう、憶測で誰かを疑っていても仕方がない! 僕の、みんなを信じたい、というこの気持ちは紛れもなく本物であり、メメント・デブリによって深層心理に焼き付いている大切な感情なのかもしれない。
疑心暗鬼になった僕が原因で、ループの阻止に失敗してしまう、だなんて……そんなのは冗談でも笑えない。
僕は、僕にできることをする、それだけだ。僕に残されたメメント・デブリ、きっと、ループを止める手掛かりになるはずだ。
現実世界に戻ったら、藍里、ミィコ、雪音さん、この3人に打ち明けよう――そして、未来を変えるんだ。
いきなり、何の前触れもなく部屋のドアが開いたと思うと――
「サトリ、アイリ! 船の準備が整いました! すぐに出発です!」
ミィコがそう言いながら、勢いよく部屋の中に飛び込んできた。
「さすがミコちゃん! いざ、ドラゴンの島へ!」
「ミィコ、やっぱり、頼りになるな!」
「エヘヘ……それほどでもないです! さあ、出発なのです! ドラゴンの島へ!」
ミィコは照れながらも、くるりと後ろを向いて足早に部屋を後にした。
僕らは荷物を持ち、忘れ物がないかをよく確認してからミィコの後を追う。
部屋を出て、宿屋の外まで出ると、港方面に向かうミィコの姿――やや遠くにいるせいか、小さいミィコが、いつもよりもさらに小さく見える。
小さいミィコがふと立ち止まったかと思うと、こちらを振り向き――飛び跳ねながら僕たちに手を振っている。
――メーメニア港。
「見てください! この町の貿易商を訪ねて、ミィコが丁寧にお願いしたら、こんなにも立派な船を手配してもらえました!」
港に着くやいなや、ミィコはそう言いながら、自信ありげな表情で沖の方を指さした。
――そこには、やや大きめの立派な帆船が一隻。
いや、やや大きめどころではない……あれは、巨大な戦艦だ!
ドラゴンの島へと向かう航海だけだというのに、これはちょっと大げさすぎないだろうか?
応援ありがとうございます!
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