祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第2章 夢からさめても

2-14.第13の願い ラーヴァ・ディスティニー

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 ローマに住む女性、ラーヴァ・ディスティニーは恋を夢見る少女だった。
 
 彼女は既に結婚適齢期を逸した女性であったが、夢見る心だけは失っていなかった。
 いつか素敵な王子様に出逢いたい。
 彼女は少女だったころから毎日神様にそう祈っていた。
 そして、彼女は今こう思っている。
 こんなはずじゃないと。

 ローマの町で羽振りの良さそうなフィレンツェのなまり男に声をかけられ、素敵なエスコートと素敵なお酒に酔い、その勢いでホテルまで行こうとした時、彼女は思った。
 なんだ”祝福”なんて使わなくても、あたしは十分幸せになれるじゃないと。
 だが、そんなことはなかった。

「ひっひっひっ、お前が悪いんでゲス。こんなとこにノコノコ付いて来て」

 フィレンツェなまりの男は路地裏で豹変した。
 硬い石畳の上にラーヴァを押し倒し、手にしたシルクのハンカチを無理やり彼女の口に押し込む。

「ふぁめて、おかねもはーどもあげるから」

 バッグの口をあけて彼女はその中身を見せるが、いかにもチンピラ風の男はそんなもには目もくれない。

「金なんていらねゲス! 俺が欲しいのは愛と幸せでゲス! 窒息している女のXXXピーの中にだけ、それはあるんでゲス!」

 外したネクタイをラーヴァの首に巻き付け、右手でナイフを取り出すと、男は腰を振ってズボンとベルトをズリ下ろそうとする。
 その変態的な行動にラーヴァは恐怖した。
 
「ふぁめて、たふけて! ふぁれか!」
「誰も来やしねぇゲス! ああ、でも神様なら聞いていらっしゃるかもしれないでゲスなぁ! お前のあえぎ声をでゲスが!」

 彼女は悩んだ。
 この手には”祝福”がある。
 これを使えば、この男を地獄に落とすことも、警察に来てもらうことも出来るだろう。
 だけど、そんなことに”祝福”を使うなんてイヤ!
 これはあたしが幸せな恋をして、幸せな結婚をして、幸せになるために使いたいのだもの!
 でも、こんな男に凌辱されるのはもっとイヤ!
 ラーヴァの決意は決まった。
 そして神に祈った、ふたつのことを。
 
『あたしを絶対に幸せにしてくれる運命の人と出会いたい! 今、すぐに!』

 ひとつはあの座で”祝福”を授けてくれた神様に。

『お願いです。この変態が運命の人でありませんように』

 もうひとつは、いつも祈りを捧げている、父なる神に。

 ゴンッ

 その願いは両方とも叶えられた。
 鈍い音が響いたかと思うと、目の前の変態男が白目をむく。

「君、大丈夫!?」

 覆いかぶさる変態男を押しのけてくれたのは、ラーヴァにとって理想の王子様だった。
 すらりと伸びた鼻筋、シャープな顎、黒曜石のような瞳の男がラーヴァをまっすぐ見つめている。
 彼の手を取り立ち上がると、

「うつくしい……」

 王子様がそう小声で呟くのが彼女の耳に入ってきた。

「え? いまなんと?」
「いや、なんでもありません。あの、その、あなたがとても素敵好ぎたので……」

 そうはにかむ顔もラーヴァの好みだった。
 まさに理想の王子様が彼女の前に立っていた。
 ありがとう神様! あたしの願いを叶えてくれて!
 彼女がそう思った時、地に伏していた変態男が「ぐふっ」と笑った声を彼女は聞いた。
 ラーヴァが男の左手に”11”の文字を見た時、男の能力ちからが、神から手に入れたタイムリープの能力ちからが発動した。

 ラーヴァの運命の出逢いは、起きなかったことになり、その左手の聖痕スティグマも消えた。
 ”祝福”で運命の人と出会って幸せになりたいという彼女の願いは叶えられた。
 だが、それは時の彼方。
 唯一、彼女にとって慰めとなることがあるとすれば、彼女は全部夢だと思うことにしたことだった。
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