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旅行編 お墓参り〜赤砂の街
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異世界に来て数ヶ月の間に、仕事やこっちの言葉を習い、ルーシェンとも何度か会ってご飯を食べた。
もう遠い昔の出来事みたいだ。ルーシェンは俺とずっと一緒にいたいと言ってくれたのに、隣国のお姫様との婚約話や身分の違いに気後れして、結局友達のままでいようと断った。だけど今となっては友達としてすらなんの力にもなれなかったと思う。
「あ、アニキ帰ってきた」
王宮での暮らしを思い出していると、アニキが牛と呼ぶには凶暴すぎる外見の動物を引いて戻ってきた。牛もどきの背中には大量の荷物が乗せられてる。
『すごい動物ですね……』
「肉食じゃないないから安心しろ」
蹴られただけで大怪我しそうですけど……。
アニキは俺の見ていた婚約セールの広告を取り上げて、ちらりと俺を見た。
「王都に戻りたいのか?」
戻りたいって言ったら戻してくれるんだろうか。俺の返事は決まってるけど。
『戻らなくて大丈夫です。パレードとか、あるならお祭りみたいで楽しそうだって思っただけで……』
「パレードなら王都じゃなくてもある。婚約旅行で三都市くらいまわるらしいからな」
『え? じゃあ赤砂の街にも来ますか?』
もしルーシェンに会えるのなら、遠くからでいいから少しだけ姿を見たい。もしかしたら如月にも会えるかもしれないし、異世界担当課のみんなにも。ルーシェンの幸せを遠くから願うくらいならアニキも許してくれると思う。
「こんな地方の都市に用もないのに来るわけないだろうが」
なんだ……。やっぱり赤砂の街には来ないのか。
「隣国に行けばパレードが見られるかもな」
『え⁉︎ 見たいです。隣国行きたいです』
アニキが俺の首に腕を回す。
「いいぜ。お前が逃げなかったらな」
『逃げません。あの時はルイーズさんの事で怒ってただけです』
ふてくされてそう言うと、アニキが口付けを落としてきた。
「いいなぁ」っていうスグリさんのぼやきが聞こえる。
「アニキ、俺も、俺も」
『出発するぞ』
目を閉じたスグリさんを無視して、アニキは荷物を荷台に乗せる。
「アニキ冷たい」
『蹴られたくなかったらさっさとしろ』
「蹴られたい。イテッ。アニキー! もっと!」
『スグリさん、かわりに俺がキスしましょうか?』
「ミサキ、殺すぞ」
『俺のこと好きなくせに』
「仲良しだなー。いいなぁ」
嫉妬深いところも鬼畜で変態っぽいところもエロいところも含めてアニキなんだよな。そんなアニキが好きなんだから、もうしょうがない。少しくらい胸が切なくても、好きだって言ってもらえなくてもアニキを信じてついて行くしかないんだ。
それに辛い事ばかりでもなくて、楽しかったり嬉しかったりする事もたくさんある。
『さよなら、赤砂の街』
心の中でルイーズさんと、それからルーシェンやみんなに別れを告げて、俺たちは赤砂の街を出発した。
赤砂編おわり
もう遠い昔の出来事みたいだ。ルーシェンは俺とずっと一緒にいたいと言ってくれたのに、隣国のお姫様との婚約話や身分の違いに気後れして、結局友達のままでいようと断った。だけど今となっては友達としてすらなんの力にもなれなかったと思う。
「あ、アニキ帰ってきた」
王宮での暮らしを思い出していると、アニキが牛と呼ぶには凶暴すぎる外見の動物を引いて戻ってきた。牛もどきの背中には大量の荷物が乗せられてる。
『すごい動物ですね……』
「肉食じゃないないから安心しろ」
蹴られただけで大怪我しそうですけど……。
アニキは俺の見ていた婚約セールの広告を取り上げて、ちらりと俺を見た。
「王都に戻りたいのか?」
戻りたいって言ったら戻してくれるんだろうか。俺の返事は決まってるけど。
『戻らなくて大丈夫です。パレードとか、あるならお祭りみたいで楽しそうだって思っただけで……』
「パレードなら王都じゃなくてもある。婚約旅行で三都市くらいまわるらしいからな」
『え? じゃあ赤砂の街にも来ますか?』
もしルーシェンに会えるのなら、遠くからでいいから少しだけ姿を見たい。もしかしたら如月にも会えるかもしれないし、異世界担当課のみんなにも。ルーシェンの幸せを遠くから願うくらいならアニキも許してくれると思う。
「こんな地方の都市に用もないのに来るわけないだろうが」
なんだ……。やっぱり赤砂の街には来ないのか。
「隣国に行けばパレードが見られるかもな」
『え⁉︎ 見たいです。隣国行きたいです』
アニキが俺の首に腕を回す。
「いいぜ。お前が逃げなかったらな」
『逃げません。あの時はルイーズさんの事で怒ってただけです』
ふてくされてそう言うと、アニキが口付けを落としてきた。
「いいなぁ」っていうスグリさんのぼやきが聞こえる。
「アニキ、俺も、俺も」
『出発するぞ』
目を閉じたスグリさんを無視して、アニキは荷物を荷台に乗せる。
「アニキ冷たい」
『蹴られたくなかったらさっさとしろ』
「蹴られたい。イテッ。アニキー! もっと!」
『スグリさん、かわりに俺がキスしましょうか?』
「ミサキ、殺すぞ」
『俺のこと好きなくせに』
「仲良しだなー。いいなぁ」
嫉妬深いところも鬼畜で変態っぽいところもエロいところも含めてアニキなんだよな。そんなアニキが好きなんだから、もうしょうがない。少しくらい胸が切なくても、好きだって言ってもらえなくてもアニキを信じてついて行くしかないんだ。
それに辛い事ばかりでもなくて、楽しかったり嬉しかったりする事もたくさんある。
『さよなら、赤砂の街』
心の中でルイーズさんと、それからルーシェンやみんなに別れを告げて、俺たちは赤砂の街を出発した。
赤砂編おわり
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