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旅行編 お墓参り〜赤砂の街
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今日は赤砂の街で必要な物を買って、それから国境に向かって出発する日だ。
俺とスグリさんは街外れの広場で、テントや荷物を積んだ荷台の上にいて、アニキが動物を借りてくるのを待ってる。お金が少し貯まったので、角馬ではなくて牛みたいな動物に引っ張ってもらって移動する事になった。 こういうの、キャラバンみたいだよな。人数は少ないけど。アニキが子どもの頃いたっていう商人達のキャラバンってこんな感じだったのかな。
俺は結局ルイーズさんに何も言わずに赤砂の街を出ることにした。手紙の返事とお礼は書いたけど、直接会って話す勇気が出なかったのもあるし、そもそも……。
「これじゃあなー……」
足首にはまった枷とそこから伸びる鎖を眺める。あれからアニキは全然これを外してくれない。片足だけだし、いつも鎖がどこかに繋がっているわけじゃないけど、これを引きずってルイーズさんに会うとか、街を散策とかできる気がしない。アニキはまだ俺が逃げると思っているらしい。もうさすがに逃げる気はないんだけどな。
『スグリさんからも頼んでください。これ、不便なんで』
「無理。アニキ怖いから。それに似合ってる」
こんなのが似合っても嬉しくない。
仕方なくルイーズさんへの手紙はスグリさんに頼んで出してもらった。この世界では、庶民の手紙は街の役所みたいな所や情報屋さん、大きな店や酒場で受け付けてくれる。ポストや郵便局みたいな物はない。偉い人の手紙は専属で配達してくれる人や動物がいるみたいだけど。そして何日で届くかはまったく分からない。場所によっては数ヶ月から年単位かかるという事もあるらしい。異世界の人はみんなその点はおおらかだ。
これから向かう国境の村の近くには低空飛行で飛ぶ鳥たちが住む森がある。その話を聞いたときは嬉しかった。アニキはまだ俺と世界旅行を続けてくれるみたいだし、空飛ぶ鳥に乗せてくれる約束を覚えてくれてる。
予想外だったのは、世界旅行にスグリさんも付いてくる事だ。
スグリさんは微量だけど魔力持ちで、お金になる資源や狩りの獲物の場所をすぐに特定するから資金集めにちょうどいいとアニキが黒い笑みで言っていた。利用する気満々だな。
邪険にされてるのに、スグリさんもアニキにくっついているのが嬉しそうだ。俺も旅を一緒にしてくれるメンバーが増えて楽しい。スグリさんはいつもニコニコしているし、アニキと違って話しやすいしなんでも教えてくれる。おまけに力持ちで器用だ。腰が痛いといえばマッサージしてくれるし、ご飯や薬も作ってくれる。この優しさがアニキにもあればいいのに。
『今日の赤砂の街は賑やかですね』
アニキが貸し動物屋に行っている間、スグリさんと荷台でカードゲームをして遊ぶ。街外れだけど、いつもより街が活気にあふれているような気がした。
紙を手にはしゃいでる人達が何人も通り過ぎる。この世界では紙は貴重だから、チラシとか滅多にみたことがない。
『何かのセールでしょうか? それともイベントがあるんでしょうか?』
「聞いてくる」
スグリさんが街の人にチラシをもらいに行ってくれた。俺は足枷つきだから荷台で留守番だ。
『何が書いてあるんですか?』
スグリさんの文字を読む能力は、俺とそこまで変わらないらしい。時間がかかるので、俺も紙を覗き込む。
「王子様、結婚するらしい」
スグリさんがそれだけ読んでくれた。予想外の言葉に息が止まりそうになる。
『王子様って……ルーシェン、王子様ですか?』
「そう。だからこの街も婚約記念セールが結婚式までずっと続く。みんなそれで喜んでる」
ルーシェン……。
俺をこの世界に呼び戻してくれた王子様。優しくてかっこよくて、俺に守りの指輪をくれていつも守ってくれた。
だけど、ルーシェンや異世界担当課のみんなを裏切って地下の魔法陣を使ったあの日から、俺はもうみんなに会うことが出来なくなってしまった。悪魔の契約で、きっと俺の存在も忘れてしまってる。ルーシェン、今幸せなのかな。
今日は赤砂の街で必要な物を買って、それから国境に向かって出発する日だ。
俺とスグリさんは街外れの広場で、テントや荷物を積んだ荷台の上にいて、アニキが動物を借りてくるのを待ってる。お金が少し貯まったので、角馬ではなくて牛みたいな動物に引っ張ってもらって移動する事になった。 こういうの、キャラバンみたいだよな。人数は少ないけど。アニキが子どもの頃いたっていう商人達のキャラバンってこんな感じだったのかな。
俺は結局ルイーズさんに何も言わずに赤砂の街を出ることにした。手紙の返事とお礼は書いたけど、直接会って話す勇気が出なかったのもあるし、そもそも……。
「これじゃあなー……」
足首にはまった枷とそこから伸びる鎖を眺める。あれからアニキは全然これを外してくれない。片足だけだし、いつも鎖がどこかに繋がっているわけじゃないけど、これを引きずってルイーズさんに会うとか、街を散策とかできる気がしない。アニキはまだ俺が逃げると思っているらしい。もうさすがに逃げる気はないんだけどな。
『スグリさんからも頼んでください。これ、不便なんで』
「無理。アニキ怖いから。それに似合ってる」
こんなのが似合っても嬉しくない。
仕方なくルイーズさんへの手紙はスグリさんに頼んで出してもらった。この世界では、庶民の手紙は街の役所みたいな所や情報屋さん、大きな店や酒場で受け付けてくれる。ポストや郵便局みたいな物はない。偉い人の手紙は専属で配達してくれる人や動物がいるみたいだけど。そして何日で届くかはまったく分からない。場所によっては数ヶ月から年単位かかるという事もあるらしい。異世界の人はみんなその点はおおらかだ。
これから向かう国境の村の近くには低空飛行で飛ぶ鳥たちが住む森がある。その話を聞いたときは嬉しかった。アニキはまだ俺と世界旅行を続けてくれるみたいだし、空飛ぶ鳥に乗せてくれる約束を覚えてくれてる。
予想外だったのは、世界旅行にスグリさんも付いてくる事だ。
スグリさんは微量だけど魔力持ちで、お金になる資源や狩りの獲物の場所をすぐに特定するから資金集めにちょうどいいとアニキが黒い笑みで言っていた。利用する気満々だな。
邪険にされてるのに、スグリさんもアニキにくっついているのが嬉しそうだ。俺も旅を一緒にしてくれるメンバーが増えて楽しい。スグリさんはいつもニコニコしているし、アニキと違って話しやすいしなんでも教えてくれる。おまけに力持ちで器用だ。腰が痛いといえばマッサージしてくれるし、ご飯や薬も作ってくれる。この優しさがアニキにもあればいいのに。
『今日の赤砂の街は賑やかですね』
アニキが貸し動物屋に行っている間、スグリさんと荷台でカードゲームをして遊ぶ。街外れだけど、いつもより街が活気にあふれているような気がした。
紙を手にはしゃいでる人達が何人も通り過ぎる。この世界では紙は貴重だから、チラシとか滅多にみたことがない。
『何かのセールでしょうか? それともイベントがあるんでしょうか?』
「聞いてくる」
スグリさんが街の人にチラシをもらいに行ってくれた。俺は足枷つきだから荷台で留守番だ。
『何が書いてあるんですか?』
スグリさんの文字を読む能力は、俺とそこまで変わらないらしい。時間がかかるので、俺も紙を覗き込む。
「王子様、結婚するらしい」
スグリさんがそれだけ読んでくれた。予想外の言葉に息が止まりそうになる。
『王子様って……ルーシェン、王子様ですか?』
「そう。だからこの街も婚約記念セールが結婚式までずっと続く。みんなそれで喜んでる」
ルーシェン……。
俺をこの世界に呼び戻してくれた王子様。優しくてかっこよくて、俺に守りの指輪をくれていつも守ってくれた。
だけど、ルーシェンや異世界担当課のみんなを裏切って地下の魔法陣を使ったあの日から、俺はもうみんなに会うことが出来なくなってしまった。悪魔の契約で、きっと俺の存在も忘れてしまってる。ルーシェン、今幸せなのかな。
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