赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

文字の大きさ
66 / 92
実技試験

13 黒い炎

しおりを挟む
「どうした? 私に逆らうつもりなのか」

 顔を上げたシンに、理事長は氷のような微笑みを浮かべて問う。
 ふいにシンの頭の中に見知らぬ呪文が浮かんだ。習ったことも、魔法書のページの中にもない呪文だ。だが頭の中の鮮明な呪文は、それまで知らなかった事が嘘のようにシンの口から紡ぎ出された。両手に集めた魔力を最大限に使う。シンを中心として地面に黒い模様が円のように浮かび、それはすぐに黒い炎となった。
 警戒した理事長が別の呪文を唱える。追加で魔法をかけるつもりだ。

「‼︎」

 シンが力を振り絞って唱えた真っ黒な炎は、あっという間に理事長を飲み込んだ。
 理事長は炎に包まれたように見えたが、すぐに白い光がそれをさえぎる。防御と回復の呪文だ。

 シンは自分の放った黒い炎の呪文に恐怖を覚えた。理事長に大怪我を負わせてしまうかもしれない、自分が魔法で誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖心が、急速に黒い炎の威力を弱めてしまう。
 
 炎が途切れた時、理事長は無事だった。元のような白銀の髪に白い肌、少しも焼けただれた所はない。ほっとしたシンは、理事長の表情を見てすぐに後悔した。相手は宮廷魔法使いだ。力を緩めるべきではなかった。
 
 シンを目に見えない理事長の魔法が襲った。シンの喉は締め付けられ、声が出せない。かろうじて息は出来るが、手も足も先ほどよりさらに強い力で押さえつけられ、自分の意思では動かせなくなった。
 この魔法には覚えがある。昔、囚われの身だった時にシンの身体にいつもかけられていた魔法だ。だが、今回は一つだけ違う点があった。目の前が真っ暗になってしまって何も見えない。かろうじて声は聞こえるが、それはおそらく理事長がわざと聴力を奪わなかったからに違いない。

 声を出せずにその場に倒れたシンに、理事長が近づく。シンからは見えなかったが、理事長は火傷の跡を完全に回復させると、焼け焦げた上着と手袋をその場に捨てた。

「魔法防御に優れた衣装にこれほどダメージを与えるとは、さすがは黒竜の血をひいているだけの事はある。君が完全に私の言う事を聞いてくれるならこのような魔法をかけなくてもすむのだが」


「……」

「これ以上逆らおうなどと考えない事だ。君の行動次第では君を育ててくれた両親も、お兄さんも反逆者として罪に問われる事になる。この国で反逆者がどうなるか、知らない訳ではないだろう? 君もそんな後味の悪い事はしたくないと思うがね」

 自分が理事長に逆らったら、家族が反逆者として罪に問われる……その言葉がシンを打ちのめし、理事長に逆らう気力を失わせた。
 ぐったりと力を無くしたシンを見て、理事長は目を細めた。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...