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実技試験
14 トップチーム
しおりを挟むアルフレッドとユーリのチームメンバーが森の近くにやってきた時、すでに二人の教師が大型の黒い魔物と戦っていた。教師はそれぞれ騎士クラスと魔法クラスの教師だ。
「あの魔物、見覚えがありませんわ。北エリアの魔物ガイドにも載っていません」
一番最後に合流したレティシアがそう言う。彼女は魔物オタクで、さらに鑑定の呪文を保有していたので他の生徒より魔物に詳しい。
魔法クラスの教師ジオが、駆けつけたチームメンバーを見て声をかけた。
「君たち、すぐに避難しろと言いたいところだが……Aクラストップのチームだね。正直助かるよ」
アルフレッドが見た所、騎士クラスの教師一人が直接魔物と戦って魔法クラスの教師は援護に回っているようだ。アルフレッドとワルターとカイルはすぐに剣を抜いて前線に加わった。
「君たち二人は騎士三人の防御と援護してくれ」
「ジオ先生、鑑定の呪文を唱えてもいいでしょうか?」
「してもいいが無駄だ。あれはほとんどの呪文を無力化する。騎士に倒してもらうのが一番だな」
「呪文を無力化……?」
「無力化して吸収する。魔力を取られないように気をつけるんだ」
「ジオ先生、あれはもしかして……」
ユーリは五つ星の魔物の身体が白と黒の配色になっている事実に気づいた。だが、翼を生やし長い首と角を持つその姿は学校で飼われている時の状態と違いすぎる。すぐには信じられなかったが、ジオは頷いた。
「そう。獏の突然変異体だ」
ユーリとレティシアは顔を見合わせた。それなら魔法使いが攻撃の役にたつのは難しい。足手まといにならないよう援護にまわるしかない。
***
五つ星と聞いて警戒していたアルフレッドだったが、目の前の魔物の攻撃は単調で動きはよみやすかった。だが、全身から放たれる炎の魔法がとてもやっかいだ。威力が強くて、魔法使い達の防御がなければとっくに黒焦げになっている。周辺の森や草むらはすでに焼け野原と化していた。
「魔法攻撃を喰らうな! 俺が囮になるから、お前達は三人で背後から狙え」
教師の言う通り、魔物の死角から繰り返し攻撃を加えれば、じわじわと魔物のスピードも炎の威力も衰えはじめた。だが、なかなか致命傷を与えることができない。魔物は傷ついてもすぐに魔法で回復してしまう。
「魔法使い達何してんだよ!」
カイルが叫ぶ。
アルフレッドにもその気持ちは分かった。普段なら魔法使いの攻撃呪文があるためもっと楽に戦える。だが、魔法使い達は遠巻きに回復と防御呪文を唱えているだけだ。そのうえいつもより威力が弱い。
「魔法攻撃はあてにするな! この魔物は魔法使いの魔力を吸い取って戦う。魔力を大量に吸われると魔法使い生命にかかわるからな」
「そんな魔物がいるのかよ」
「しかも五つ星……」
普段クールなワルターでさえ、声に怖れを滲ませている。
死角から近づいて剣を振るい、魔物の突進を避けて体制を立て直す。だが予告なしに上がる爆発のような炎は全て避けきれず、じわじわと魔法で回復するものの、痛みと熱が騎士たちの体力を奪っていった。それでも誰も倒れないのは、候補生の中でも精鋭揃いのチームだからだ。
灼熱の炎の中で戦い続け、魔物が炎を使えなくなった時には騎士達は全員極度の疲労に襲われていた。
地面に倒れ、血を流して動かなくなる魔物を見た時には、アルフレッドは声も出なかった。実戦でこれほどキツいと思ったのは初めてだった。
ゆっくりと剣を下ろし自分の姿を見下ろせば、制服は焼け焦げていて、剣は魔物の血でべっとりと汚れ、あちこち刃こぼれしている。髪も顔もひどいことになっている気がした。力を入れすぎていたのか、うまく指に力が入らない。
「素晴らしい。さすがはトップチームだ。誰一人深手を負うことなく五つ星を倒すとは。お前たち、胸をはっていいぞ」
倒れた魔物を見て、教師は彼らを褒め称えた。
「こんなものか……俺の実力は」
アルフレッドの呟きは誰の耳にも入らなかった。
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