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プロローグ
しおりを挟む『VRMMO』
それは仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略称である。
まぁ、簡単に言うと、全身フルダイブ型オンラインゲームである。
もっと噛み砕いて言うとだ。
…小説投稿サイトなどで、異世界の物語が描かれ、その物語を読み、こんな世界に行ってみたい、自分も冒険してみたい、魔法を使いたいっ…など思ったことがある人はたくさんいると思う。
そんな叶うはずもない願望を叶えたのが、『VRMMO』という訳だ。
その技術が発表されたのは2235年の夏であった。
『VRMMO』の技術が搭載された始まりの作品である『Potential of the story』は5感である「聴覚」「視覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」そして、第六感をリアルと同等、それ以上に感じることができるということをキャッチフレーズに、多くの人の心揺さぶり爆発的な人気を出した。
実際に体験した人は皆言うのだ。
「まるで違う世界にいるようだ…」
と。
『Potential of the story』が発売されてから約1年と2ヶ月たった今でも、その熱はまだ覚めていない。
そして、今日は『VRMMO』の二次作品『Live Online』の世界45カ国同時リリースの日である。
キャッチフレーズは『Potential of the story』と同じであるが、それにプラスしてタイトルに『Live』とあるようにゲームの中にある広場で、生中継で多くのプレイヤー達の勇姿を見ることが出来るそうなのだ。
何より、サブタイトルである、「君が輝く場所がある」という言葉が、初回作で有名になれなかったり、まだ『VRMMO』を始めていなかった人の心に火をつけたのだった…。
ーーーーーーーーーーーーーーー
~主人公side①~
私、黒川 柚もまだ始めていない人の中の1人である。
何故始めなかったのか?
それにはちゃんとした理由がある。
時は約1年と二か月前に遡る。
当時、私は近くにある大きなゲーム屋さんに『Potential of the story』を買いに行った。
テレビのCMで、「リアルと同等、いや、それ以上に」や、「五感をフルに感じられる」、などとよく取り上げられていたため、発売日を心の底から待っていたのだ。
ちゃんと発売5時間も前から並び、場所も確保していた。
「今から販売を開始しまーす!」
その言葉と同時に私より先に並んでいた人達から歓喜の悲鳴が上がった。
私も心が高鳴り、ドキドキとワクワクで心臓がはち切れそうだった。
『Potential of the story』が入った箱を手渡された時、天にも登るような心地になった。
そして、それを早くプレイしたいがために、信号が赤にも関わらず、横断歩道を突っ切ろうとした。
後はご想像通り、車に轢かれて重傷を負い、入院していた訳だ。
私を轢いた人はどうなったのかって?
そう焦らずとも、大丈夫だったさ。
防犯カメラにきっちりと、私が飛び出してたのが映っていたので、その人は少ない罰金だけですぐ家に返してもらえたそうだ。
幸いにも、この時代は医療が発展しており、事故で重症を負っても、殆どがに1ヶ月以内に傷が完治出来るようになった。
退院後は、受験勉強に追われ、ゲームに手をつけるところではなかった。
…なんやかんやで受験という大きな壁も乗り越えて、こうして自分の部屋でニヤニヤしながら新作の『VRMMO』のゲームを手にしている訳だ。
何時間並んだのかって?そりゃぁ、前回よりも長い時間ですよ。
ふっふっふっ。
長時間並んだかいあって、初回特典のやつをgetしたぜ。
凄いだろう?そうだ。凄いのだ!
むふふふふ。
これが受験を乗り越えた者の力。
そういえば、あとで知ったんだけど、車に轢かれた時に、せっかく買った『Potential of the story』が見るも無残な姿になっていたという…。
はぁ、思い出したらなんか悲しくなってきた。
あれ、結構高かったんだよね。
あの話を聞いた時、大粒の涙を流したもんだ。
今となってはいい思い出だけどね。
私はあの事故で学んだ。
テンションが上がっている時ほど視野を広く、と。
今もテンションが上がっているから、目をつぶってゆっくりと息を吸って吐いて、深呼吸をして落ち着こう、そうしよう。
チラリと手元の新作のゲームが入っている箱に視線を落とす。
『Live Online』
「君が輝く場所がある」
って書いてあった。
うおおおおおおおおおおおおおおおお。
遂に私はVRMMOデビューを果たす時が来たんだァ!!
正直、ゲームにこんなに心を揺り動かされるなんて思わなかったよ。
ゴロゴロと床で悶える。
嗚呼、この1年と2ヶ月のことを思うと…
ガンっ
「っ~~~~!!!」
足に鋭い痛みがっ!
小指を机の角にぶつけたぁぁぁぁ。
さっき気をつけたばかりなのにぃ…
「不運だぁ…」
涙が溢れてくる…ような気がする。
……いやぁ、長かったなぁ…うんうん。
感傷に浸ること数十秒、足を介抱しながら箱のテープを剥がし始める。
この際に箱がビリっと言っちゃったのは、内緒である。
これが普通だよね?ね?
説明書を取り出し、それを読んでから、ヘッドギアを被ろうとすると、中からまた説明書のようなものが落ちてきた。
「いたっ」
別に痛くないんだけど、こういうのって何か声が出ちゃうんだよね。
捲ると、そこには…。
「プレイする方へ。
『Live Online』をプレイするに当たって、注意事項があります。1つ、これから起こることは全て貴方の責任です。2つ、『Live Online』の世界の住人は、我々運営の手を離れて、独自の人格を有しています。よって、命あるものとします。それをお忘れなきように。3つ、我々運営は、『Live Online』の世界において、一切の責任を負いません。それでもやるというのなら、貴方に最大の敬意を。」
ん?
要するに、自分のことは自分で守れ的な感じですな?
了解であります。
ベッドにダイブし、ゲームを始めるために必要なヘッドギアを被り、スッと目を閉じ、いざゆかん。
「さて、始めるとしますかっ!!」
待ってろよ、まだ見ぬ世界よ。
[[Live Start!]]
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