38 / 71
本編
第三十八話 王都での日々②ー1
しおりを挟む身の回りの事が人並みとはいかないまでも、ある程度困らないくらいには出来る様になった頃、私は次のステップへ進む事にした。
「ノア、私そろそろ街に出て一人で買い物をしてみたいわ」
「……そうだな、確かに最近のアリアは随分身の回りの事が出来る様になってきたし、そろそろ次の段階に進んでもいい頃だな。でも心配だから一応姿を隠して俺も着いて行くから、何か困った事があれば遠慮なく声をかけてくれ」
「ええ、分かったわ。その時はよろしくね」
正直一人で外へ出て買い物に行くのには、自分から提案しておいて何だけど少し不安があったから、ノアが着いてきてくれると言ってくれたのは正直とても嬉しかった。
少しずつ慣れてきた身支度を済ませ、ノアの待つ玄関へ足早で向かう。
普段必要なものは全てノアが揃えてくれているから、この家に来てから自分で外に出た事は一度もなかった。
それに貴族令嬢だった頃も、基本的に移動は馬車だったし、歩くと言っても長距離移動はなかった。
初めて自分の足で歩いて買い物に行ける。
それもノアと一緒に。
その事に自分でも驚くくらい心が浮き足立っていた。
ゆっくり階段を降りながら玄関ロビーで待つノアの姿が確認出来る。
ノアの姿を確認しただけなのに自然と口元が緩んできた。
それと同時にノアの服装が目に留まった私は、思わずその場で固まってしまった。
普段のノアは黒色で少し光沢のある標準的なシャツに、彼の瞳の色である赤い石が使われているループタイを組み合わせている。そして同色ではあるが、こちらは光沢のないタイプのジャケットとスラックスを着ている事が多い。
時折シャツの生地やループタイに使われている石の色が違う事があるが、纏う色はいつも同じ黒色だった。
それなのに今日のノアは白色の襟腰のないシャツに濃いめの茶色のパンツと、同じく茶色のサスペンダーを合わせていた。
その普段とは全く違う服装に私の心臓は激しく鼓動していた。
「……ノア?」
私が思わず小さく呟くと、まるでその声が届いたかのようにこちらを振り返った。そして私と目が合うと、ノアはふわりと微笑んだ。
「支度、出来たみたいだな。そのワンピースも良く似合ってる」
(どうして私はこんなにも胸が締め付けられるように苦しいのかしら)
目の前で優しく微笑むノアに、思わずどこにも行かないでと縋ってしまいそうな自分がいる。
(……縋る?)
無意識に浮かんだその言葉に思考が追い付かない。
思わず泣きそうになった私の顔をノアは不思議そうに覗き込む。
「どうした?体調が悪いのか?」
「ち、違うわ。一人で上手く出来るのか不安になっただけよ。心配してくれてありがとう」
そう言って私はノアに出来るだけ自然な笑顔を向ける。
でも私の返答に納得のいっていないノアは何か言いたそうにしていたけれど、私はこれ以上聞かれたくなくて彼の背中を両手で押しながら声をかけた。
50
お気に入りに追加
2,414
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方への愛は過去の夢
豆狸
恋愛
時間は過ぎる。人は変わる。
私も恋の夢から醒めるときが来たのだろう。
イスマエルへの愛を過去の記憶にして、未来へと──でも、この想いを失ってしまったら、私は私でなくなってしまう気がする。それなら、いっそ……
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる