【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第三十八話 王都での日々②ー1

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 身の回りの事が人並みとはいかないまでも、ある程度困らないくらいには出来る様になった頃、私は次のステップへ進む事にした。
 
「ノア、私そろそろ街に出て一人で買い物をしてみたいわ」
「……そうだな、確かに最近のアリアは随分身の回りの事が出来る様になってきたし、そろそろ次の段階に進んでもいい頃だな。でも心配だから一応姿を隠して俺も着いて行くから、何か困った事があれば遠慮なく声をかけてくれ」
「ええ、分かったわ。その時はよろしくね」

 正直一人で外へ出て買い物に行くのには、自分から提案しておいて何だけど少し不安があったから、ノアが着いてきてくれると言ってくれたのは正直とても嬉しかった。
 少しずつ慣れてきた身支度を済ませ、ノアの待つ玄関へ足早で向かう。
 普段必要なものは全てノアが揃えてくれているから、この家に来てから自分で外に出た事は一度もなかった。
 それに貴族令嬢だった頃も、基本的に移動は馬車だったし、歩くと言っても長距離移動はなかった。
 
 初めて自分の足で歩いて買い物に行ける。
 それもノアと一緒に。

 その事に自分でも驚くくらい心が浮き足立っていた。
 ゆっくり階段を降りながら玄関ロビーで待つノアの姿が確認出来る。
 ノアの姿を確認しただけなのに自然と口元が緩んできた。
 それと同時にノアの服装が目に留まった私は、思わずその場で固まってしまった。
 
 普段のノアは黒色で少し光沢のある標準的なシャツに、彼の瞳の色である赤い石が使われているループタイを組み合わせている。そして同色ではあるが、こちらは光沢のないタイプのジャケットとスラックスを着ている事が多い。
 時折シャツの生地やループタイに使われている石の色が違う事があるが、纏う色はいつも同じ黒色だった。
 
 それなのに今日のノアは白色の襟腰のないシャツに濃いめの茶色のパンツと、同じく茶色のサスペンダーを合わせていた。
 その普段とは全く違う服装に私の心臓は激しく鼓動していた。

「……ノア?」

 私が思わず小さく呟くと、まるでその声が届いたかのようにこちらを振り返った。そして私と目が合うと、ノアはふわりと微笑んだ。

「支度、出来たみたいだな。そのワンピースも良く似合ってる」

 (どうして私はこんなにも胸が締め付けられるように苦しいのかしら)

 目の前で優しく微笑むノアに、思わずどこにも行かないでと縋ってしまいそうな自分がいる。

 (……縋る?)

 無意識に浮かんだその言葉に思考が追い付かない。
 思わず泣きそうになった私の顔をノアは不思議そうに覗き込む。

「どうした?体調が悪いのか?」
「ち、違うわ。一人で上手く出来るのか不安になっただけよ。心配してくれてありがとう」

 そう言って私はノアに出来るだけ自然な笑顔を向ける。
 でも私の返答に納得のいっていないノアは何か言いたそうにしていたけれど、私はこれ以上聞かれたくなくて彼の背中を両手で押しながら声をかけた。
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