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本編
第三十七話 王都での日々①ー2
しおりを挟むノアと家の中を探索してみて思った事が一つある。
それはこの家はやはり広すぎるのではないかという事。この家に来た当初ノアから私の知識が間違っている事を指摘されたけれど、改めて見てみても王族の私的な空間と言っても差し支えないくらいの広さと豪華さだった。
クレイン侯爵邸しか知らない私でもこの数え切れない程の部屋数と三階建でもワンフロアの隅から隅まで目視で確認出来ない程の広さが異常な事くらいは分かる。
全ての部屋を見る事は時間的に難しいのは理解しているので、その中でも重要な部屋だけ案内してもらった。中でも一般的な家に王家主催の夜会で使用される程の大広間は必要なのだろうか?、
更に調度品一つとっても、とてもではないがクレイン侯爵家ですら手が出ない物ばかりだった。
茶会で公爵家に招待された事も何度かあったが、王族の次に位置する我が国の公爵家でさえもここまで立派な調度品は置いていなかった。
私は王族の私的な空間に入った事はなかったけれど、少なくとも高位貴族の屋敷ですらここまで立派な造りはしていない。
明らかにおかしいと思った私は再びノアにこの疑問を投げかけてみる事にした。
「ねぇ、ノア。私やっぱりこの家が王都の方達が暮らす家だとは思えないわ」
「みんなこんな感じの家に住んでるけどな。他の家が気になるのか?」
「ノアを疑っているわけではないのよ。ただこんなに立派な造りなのに、外観はもっと小さい佇まいの家だったでしょう?それにこの部屋数では小さな家には入りきらないのではないかしら?」
「そりゃ見かけが立派だったら、犯罪に巻き込まれる事もあるからだろ。アリア、そんなに気になるなら他の家も見に行ってみるか?」
「見る事が出来るの?」
「あぁ、簡単だ。人が住んでない空き家とかを覗けばいい」
「……でも勝手に人様の家を覗いたりしていいのかしら?」
「そこは俺がどうにかするから心配しなくていい。だからアリアはただやりたい事を素直に教えてくれ。アリアの望む事は俺が全部叶えてやるから」
「っ!?」
「アリアは俺の主人だろ?その主人の望みを叶えるのが召喚された俺の仕事だ」
そう言って口角を上げ笑ったノアが、何故だか私にはとても幸せそうに映った。
……人間である私の言う事を聞くなんて悪魔にとっては屈辱ではないの?
どうして、いつもいつも私の本当に欲しいものを与えてくれるのがノアなんだろう。
そして、どうしてノアの幸せそうな顔を見て私はこんなにも胸がときめくんだろう。
きっとその答えはもう、本当にすぐそこまで出かかっている気がする。
でもいつかこの気持ちに合う名前を知ったら私は後戻り出来るのだろうか?
でも認めてしまった先にある私の未来は絶望しかない。
だから今はまだこの気持ちに厳重に鍵をかけて蓋をする。
これ以上を望むなんてきっとバチが当たる気がするから。
そしてノアに連れられ王都にある数軒の空き家を見て回ると、どの家も私が住んでいる家と遜色がない程の豪華さだった。
確かにノアが言っていた様に家の外観は質素だったが、一歩足を踏み入れるとそこには全く違う景色が広がっていた。
どの家も調度品から間取りまで息を呑む程の煌びやかな光景だった。
これだけ華やかだったら、確かに家の外観まで同じ様に煌びやかな造りにしていたら、悪い人間に目を付けられてもおかしくはない。
私はようやく納得し、ノアにお礼を言った。
「確かにノアの言う通りだったわ。私、自分の勉強不足が恥ずかしいわ」
「別に恥じる事はないだろ。アリアは何も知らなかったわけだし、現にこうやって自分の目で確かめて一つ学んだんだ。偉いなアリア」
そう言って優しく頭を撫でてくれるノアに、私は自分の心に着実に芽吹き始めているこの名前も分からない想いに目を背け、目を瞑りその場を素直に身を任せた。
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